ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
2部の2章がやってまいりました。自分はまだ進めていないので、感想欄でのネタバレなどはお控え下さい。
なお、水着ガチャへ蓄えているので記念ガチャは十連だけしか引いてません。当然ながら出ませんでした。
「……はぁ……船でのんびり海釣りかぁ……」
「命の危険が無い……安心します……」
俺はゆっくりと揺れる船の上にいる。波の音を聞きながら、辺りをぐるりと見渡した。
「そうはいうが、サーヴァントが増えないと動かないとはな……」
「別に動かす必要はないのでは? 他のサーヴァントが来たら私……殺されてしまうかもしれません」
そして、俺と同じ船の上にいるのは褐色肌で巨乳、アラビアンな衣装を着たサーヴァント、不夜城のキャスター。
長いので取り敢えず不夜キャスと略しておこう。
「釣らないでくれると、幸いです……」
「だけど、釣らないと悪夢の出口まで行けないし……」
今回の悪夢の内容はこれまた、ずいぶんとおかしな設定だ。
「俺達の船は水に見えるエーテルの海にポツリと放り出され、様々な問題を抱えている」
「まずは、碇ですね」
海の底で沈み船を現在位置で固定している。これを引き上げる装置は無く、船に丈夫な鎖で繋がっているから動かない。
これを解くには物理的な力ではなく、魔術的な能力がいる。
「そしてスクリューのモーター、壊れているから替えのパーツが必要だが……」
チラリと船から十数メートル先の場所を見る。
「それの入った箱はサメが3頭、泳ぎ回っている中心に置かれています……死にたく、ないです」
「魔獣の類だからそれなりに強いサーヴァントが必要だな。
それに加えて船の操作もサーヴァントじゃないと出来ないらしいし……」
そして最後に……
「帰還の扉……」
「私というサーヴァントがいれば、ステータスと引き換えに常に開放していられますが」
つまり、碇を放せるサーヴァントと鮫の集団を倒すサーヴァント、船を操作するサーヴァント、そして不夜キャスがいれば悪夢から抜け出せると言う訳だが、当然サーヴァントは全員ヤンデレだ。
「釣りは……しないで下さい」
「いや、流石に体感時間3日間の悪夢は嫌だ」
帰還の扉を通らなくても制限時間を待つ手もあるが、そんなのを待っている訳にも行かない。
「ただ、もしこの状況に合わないサーヴァントを釣ってしまえば、余計に苦しい状況になる、か……」
残念だが、1度サーヴァントを釣り上げるとクーリングオフは出来ないし、サーヴァントが愛欲に負けずに俺に従うのは1度だけ。
つまり、脱出の手助けはサーヴァント1騎につき1回、最低4騎の力を借りなければならない。
「で、釣り上げる為の竿には針と重り。金具で繋がっているから仕掛けは自由に変更できる。
餌は用意された中から俺が自由に付けて良いらしいが……」
用意された箱の中には俺の物だと思われる再臨や強化の為の素材や、今までやってきたイベントの交換アイテムなど様々な物が敷き詰められている。
「多いですね……」
「あのさ、いい加減指摘するけど……くっつき過ぎだ」
先から不夜キャスはその露出の高い体を俺にグイグイと押し付けているが、決して支えが必要な程に船が揺れている訳ではない。
寧ろこの太陽が眩しい船上では暑くて困る程だ。
「いえ……マスターに何かあったらサーヴァントである私は、死んでしまいますので……」
「いや、死なないから!」
なんとか彼女を押し剥がし、竿を手に取る。
「さて……まずは餌だな」
恐らく召喚の時に使用する触媒と同じ物だろう。何か英霊と縁が有れば何でも良さそうだ。
「先ずは……修理のパーツか……サメに勝てるサーヴァントか」
恐らく、戦闘能力のあるサーヴァントなら何でも良い筈だ。
「なら……これかな?」
俺は金のズダ袋を手に取ると、袋を閉める為の紐で釣り針に縛った。
青い海を眺め、不夜キャスの動きに注意しながらも投げ込んだ。
「っせーの!」
船から8m程の場所に落ちていった。
ズダ袋が思ったより軽かったのでスローをミスってしまったが、恐らくこれで釣れるだろう。
適当にリールを巻いて釣り糸を張った。
「よし」
「狙いは金星の女神ですか……強いお方ですね」
「まあ、サメ程度なら楽勝だと思うけど」
「ええ、飛べるでしょうし、遠距離なので一方的に攻撃できるでしょう」
欲を言えば宝石なら確実に釣れるだろうと思ったがまあ、金目の物だし文句は無いだろう。
「おっ!」
竿が海の方へ引っ張られる。すかさず竿を上へと立てた。
魚と同じ要領になったが、どうやら正しかった様だ。
針がしっかりと刺さった獲物は、更に抵抗が強くなる。
「逃がすか!」
リールを巻きながら、竿をなるべく垂直な角度で維持する。
「……! っ! もう少し……!」
距離が近いのもあって、もうすぐそこまで来ている。
「網を忘れてたな……! て言うかそもそも、魚みたいな手応えだけどこれは何だ?」
そんな疑問を早く解消しようと、更にリールを巻いていく。
そして、残す所1mの所で俺は力の限り竿を振り上げた。
「っしゃぁぁぁ………あれ?」
釣り針にはズタ袋が無いが、代わりに何か刺さっている。
「……これは」
俺が手に取ったそれは金色の英霊のカードだった。
「ライダーの絵柄……うぉ!?」
少しの間見つめていると、カードが輝き、目を開ければそこにはサーヴァントの姿があった。
「ぷはぁ……漸く出てこられた。
いくら夏で好き放題暴れたからって、こんな仕打ちは無いでしょ!?」
現れたのは黒髪を2つに縛った女神様、イシュタルだ。やはりというか、ライダーの方で現れた。
「まあまあ、取り敢えずあそこに修理パーツの入った箱があるから、サメを倒して取ってきてくれないか?」
「はぁ……分かったわよ」
ため息を吐きながらも攻撃準備に入るイシュタル。
しかし、くるりと俺の方に振り返った。
「報酬は、ちゃーんと頂くから」
そう言った後に舌で唇を舐め、空中に飛ぶと修理パーツを囲みながら泳ぎ続けるサメの魔獣に魔力の矢の攻撃を放ち、撃ち抜いた。
「まあ、簡単な仕事だったわ」
修理パーツの入った箱を持って帰って来たイシュタルはパーカーのポケットに手を入れながらなんでもなかったと言わんばかりの表情を浮かべている。
「ありがと――」
床に置かれた箱に手を伸ばそうとしたがイシュタルの手がそれを遮った。
「――それじゃあ、早速報酬をもらおうかしら?」
「宝石か? 生憎それらしいのは宝玉くらいしか……」
「ちがいまーす! 全く……私と言えど反省中にマスターから金目の物を要求するつもりは……まあ、なくわないわね。
それでもっ! そう言う報酬じゃなくて、マスターの愛が欲しいわ」
そんな曖昧な、なんてツッコミをさせるつもりは無いようで、俺の顎を掴んだ。
「唇が、欲しいわ」
「…………」
拒否する訳にも行かない俺は無言になった。
イシュタルの唇が近付いてくる。
しかし、その動きは後方から甲板を叩く音が聞こえて止まった。
「……何よ」
「いえ、ただ報酬が貰えると聞いたので……」
当然ながら、イシュタル以外に船に乗っていたサーヴァントは不夜キャスだけだ。
「あら、貴方はマスターの為に何かしたのかしら? 臆病な語り部さん?」
「一度働いたら終わりの貴女と違って、私は船にいる間は常に少量の魔力を使ってマスターの出口を維持しています。
その間、定期的に報酬を頂いてもいいと思ったのですが……」
あの不夜キャスがイシュタルに噛み付いている。
ヤンデレになった事で俺の命の価値を重視している様だ。
「……では、どうしますか? 貴女が1度キスをして私は定期的に頂いて良いですね?」
「駄目よ! ならまずは貴女を消してあげるわ!」
「やめた方がよろしいかと……貴女の役割は修理パーツの回収、その役目を終えた貴女が出口の鍵である私と戦おうとすれば自然とマスターからの寵愛を受けるのは私ですよ?」
口が上手いな。イシュタルも反省中なせいか不夜キャスの言葉に言い返せない様子だ。
「……いいわ、報酬のキスは貰わないであげるわ」
「残念ですね」
「で・も!」
イシュタルは俺を捕まえてマアンナで船の外へと飛び出した。
「こうしちゃえば出口まで一飛びよ!」
「ま、待て待て!」
脱出――出来るとは微塵も思えないイシュタルの強行策に身の危険を感じてストップをかけるが止まる気配は無い。
そして出口まで残り数mの所で突然マアンナは消滅し、空中に投げ出された俺達は船まで風で吹き飛ばされた。
「おっむ!」
柔らかい何かに頭を受け止められ、目を開くと褐色の肌が見えた。
「無事ですか、マスター」
「お、おう……なんとか」
胸に挟まっていた事実に顔を染めながらも、少し嬉しそうに微笑んだ不夜キャスに返事を返した。
「船でないと出口へは行けないようですね」
「イシュタルは……気絶したのか」
船に吹き飛ばされた際に頭を打ったらしく、目を回している。
「仕方ない、取り敢えず釣りを続行しよう」
「そうですね…………ああ、正直先程の口論は少々肝を冷やしましたので、少し暖を頂きたいです」
そう言って不夜キャスは釣り針に指す物を選んでいる俺の背中に抱き着いて来た。
「お、おいおい……」
「はぁぁ……」
彼女の吐いた吐息に安堵の溜め息ではなく何処かうっとりしている様に聞こえてた気がした。
「ますたぁ……」
「マスター……」
「くそぅ……」
水着の清姫と水着のタマモに挟まれながら釣り竿を握りしめる俺。
なんとか船を操作出来るサーヴァントと碇を開放できる魔術に詳しいサーヴァントを釣ろうと奮闘したが、まさかのこの2人。
「キャスターじゃないので、力及ばず申し訳ございませ〜ん……てへっ!」
「せめてもの助力として、マスターのお側にお控え致します……永遠に」
「いらないっ!」
余計な荷物ならぬ、過剰なヤンデレに囲まれ始めたが、釣りの邪魔をしないルールらしいので続行しているが……
「役に立たないのは認めますし仕方がない事ですがマスターには私以外のサーヴァントなんていらないですよなんでこれ以上サーヴァントを増やすんですか逆ですよ逆船から突き落としてしまいましょう個人的にはあの金星の女神とかいらないですあとあの命乞いさんもですね清姫ちゃんは隙を見せないのでいっそのこと私がこの手で仕留め……」
小声でブツブツ呟き続けるタマモ。
「マスター、駄目ですよ? こっちだけ見て下さい。私にだけ耳を貸して下さい、ね?」
俺が視線やら反応やらで清姫以外に意識を向ければ肩を抓られる。
痛いし頭に響くしで俺の正気度を削りに来ているが、釣りをしている間はそれだけだ。我慢して釣りをしよう。
「お、きたぁ!!」
頬を膨らませたり眼光が鋭くなる左右の2人を放っておいて、立ち上がって釣り竿との格闘を始めた。
「っこい!」
トドメに思いっきり引っ張った。
目の前に見えたのは金のキャスタークラスのカード。
「よっし!」
光り輝くそれを見て漸く本命を確信しつつ、光が収まるのを見届けた。
「――ふぅ、漸く私の出番の様だねぇ!」
現れたのは羽の装飾を付けたオケアノスのキャスター、通称オケキャスだ。
「ふふふ! 私の見た所、役に立たないサーヴァントを立て続けに引いた様だがご安心あれ! 私の力で可愛い子豚にして――」
「――取り敢えず碇を外してくれ」
長くなりそうな前口上を切って、命令をすると特に気にした様子もなくオケキャスは余裕たっぷりの笑みで碇に刻まれた魔法陣を見て頷いてみせた。
「ふんふん、やはり最高のサーヴァントである私にとっては赤子の遊び同然の仕掛けだね!」
「よっし、頼んだ!」
別に実際に暑い訳では無いが、雲の無い空に輝く太陽にさんさんと照らされ続けて来た俺は最速脱出を第一に釣りを再開した。
「不夜キャス! 頼む!」
「ええ、用意出来ました」
先までレア度の高いサーヴァントを釣ろうと金のリンゴを餌にしていたが、今度は船を操れるライダーだけ狙う為に不夜キャスに頼んでいた物を受け取った。
「あらマスター? ずいぶんと古ぼけた紙の様ですが、なんですかそれは?」
「これは不夜キャスが知っている宝の地図さ」
海は水では無くエーテル。濡れはしないが、針から外れると困るので、仕掛けを軽く振って近場に落とした。
「へぇ……宝の地図ねぇ。旅行先としてはいい場所じゃない。それなら他のサーヴァントの餌じゃなくて私にくれれば良かったのに」
イシュタルも復活した様で、せなかにくっついて来た。
(正直胸ないし誰得って感――)
「――ふふふふふっ、楽しんでいるかしらマスター?」
怒らせてしまったようで、俺の首をグイグイと締めている。
「ぎ、ギブギブギブ……!」
「マスター? これは唯のスキンシップよ?」
「完全に釣りの妨害だろ!?
……あっ、し、死ぬ! 何か首の辺りから聞こえて来たっ!」
そんなやり取りをしながらも無事に釣りを続行し、そして望んでいたサーヴァントを釣り上げた。
「……ふぅ……何か、あっという間だったかもしれないが長かったなぁ……」
最後に釣り上げたアン&メアリー、2人の女海賊の航海スキルを利用して船で小島まで辿り着く事に成功した。
「後は扉へ――は、簡単じゃなさそうだなぁ……」
船に乗っているのは合計7騎。
全員が俺を逃がす気がなさそうだ。
「そうです。此処でマスターを捕まえて、船に揺られながらニャンニャン三昧ですっ!」
「因みに……俺を捕まえた後当然ながら全員で奪い合いになると思うんだけどそれはどうなんだ?」
「ふふふ……それは後よ後。今争って逃げられたら取らぬ狸の皮算用よ」
「ええ、そうね。メアリーと私で、ベッドの上で激しく頂きます」
「うん、だね」
「マスターの体の健康に気を遣い、精の出る料理で夏を2人の情熱の夏に……」
「やはり此処は海辺でイチャイチャ! ラブラブカップル気分で遊んだ後、お風呂でしっぽりと混浴夫婦になりたいですっ!」
「勿論、この魔女の秘法で骨抜きさ! 極上の晩餐と私のテクニックで直ぐに堕としてみせるよ!」
「うーん、私はそうねぇー……ああ! そうだ、良い機会だし私がどんな女神よりもマスターを幸せに出来るか、その身にたっぷり教えてあげる!」
各自己の野望を語って来るが、俺も1つ名案を思い付いた。
「そう言う訳よ! 後はじゃんけんでも正妻戦争でもしてマスターを頂くから、先ずは景品に大人しくして貰おうかしら!」
そう言って近付いて来たイシュタルだが、俺に触れた瞬間その手は弾かれた。
「いっ! な、何よ今の!?」
「釣りの妨害は禁止だろ?」
俺は片手に竿を持ちながらゆっくりと小島へと向かう。
「……なるほど。
けどマスター、そのルールは小島に入ったら終わりだよ?」
「ええ、そこを全員で捕まえて差し上げますね?」
そんなルールがあったか、だけどそれも恐らく大丈夫だ。
「【瞬間強化】……!」
船の上で走り出し、小島まで全速力で駆け抜ける。
サーヴァント達から見れば予想通り、そして想定内。
人間の俺が幾ら強化しても彼女達には追い付けない。
「俺の脱出を助けろ!! 清姫、タマモ!!」
「みこーんっ!?」
「は、ぁ、いぃ……マスターの為、ですから……!」
令呪の様に、俺への命令には2人は逆らえない。
後ろから迫るイシュタルをタマモが御札を投げ付けて足止めし、清姫の炎が残り数人の足止めをする。
涙目で睨まれるが、俺は只々全力で帰還の扉へと駆け抜けた。
「よっし! 俺の、勝ちだ!」
「――こうして、マスターは無事に現実世界に帰る事が出来ましたが、翌日には清姫さんの怒りに触れ、大変な目に合うのですがそれはまた、別のお話――」
「いや、めっちゃ気になるんだけど。次の日って明日?」
椅子に体を縛り付けられた姿の俺は、物語の続きを不夜キャスに頼むが彼女はそっと目を伏せるだけ。
「如何でしたでしょうか?」
「凄いなー、語られている間ずっとその物語の中だった気がするけど凄い面白かったなぁ」
「喜んで貰えた様で嬉しいです」
「あのー、そろそろ縄を外してくれると有り難いんだけど……」
「……それは駄目です」
悲しそうな顔をしながらも、俺の頬を撫でる。
人間としては既に死んだが、サーヴァントとして死ぬのも怖い不夜キャス。
この悪夢の中でも当然の事ながら自分の消滅を怖がっている。
「ですけど、私の死への恐怖、生への執着はマスターといれば今だけは多少和らげる事が出来ます」
ヤンデレにしては大人しい……訳では無い。
こうやって拘束され、ニセの物語を語る事で他のサーヴァントを退場させた上で自分と俺だけを悪夢の中に残している。
キャスターとはいえサーヴァントなので、俺では太刀打ち出来ない。1対1になれるこの能力は危険すぎる。
「ですので、貴方が目覚めるその時まで、私はお側を離れません」
「縄を外さない理由は?」
「……マスターの縄を外すのは、私との性行の時ですが、よろしいのですか?」
頬を染めて言われたので俺は押し黙った。
「その……私もまだ、そうなるのは時期早々だと思っていますので…………」
彼女がどこかの特異点で学んだ愛は、死ぬ意味だ。だから彼女は他のサーヴァントと違って、性行を目的に俺を求めない。
「私の物語を全て語り尽くした時に、その時にこそ――」
――彼女のキスで、俺は目を覚ましたのだった。
次回こそはもっと早い投稿を目指したいです。
ホラーなヤンデレを書こうか、旅行的な話を書こうか……
取り敢えず2部を進めながら考えてみます。(そしてまた執筆時間が……)