バカテス×真恋姫 ~バカたちは戦乱を征く~   作:抹ッチャ

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お久しぶりです、そして大変申し訳御座いませんでした。

最後に更新したのかが修正後の1話をアップしました。
感想をくれた皆様もまた読んでいただけると嬉しいです。



壱幕 三羽鳥編
壱ノ一 バカ×兵士×三人娘


 空は快晴。草木は風に揺られ、遮蔽物のない荒野の向こうには悠々と山脈が佇んでいる。

 荒野を割って流れる大河から数キロ離れたところに小さな街があった。無骨な石造り土壁とその上に建てられた木の塀に囲まれたその街は賑わいと活気に溢れておりおり、その証拠に街の出入り口は住民と商人で溢れていた。

 穏やかな空気に充てられて笑顔の多い街。しかし現在は、出入りする人間も関門に立つ()()もその表情は硬かった。

 

『おぉ~い』

『ん? おお~!(けぇ)ったか!』

 

 遠くから聞こえた声に関門の傍で積み荷をまとめていた男が手を上げた。彼の視線の先には数人の町人とそれを囲う兵士たちの姿があった。

 男は街に住んでいる漁師だ。傍にいるのは彼の弟子である青年たちで、兵士は最近の治安を心配して蜂起した義勇兵だった。

 

『収穫は?』

『喜べ! なっかなか大量だ——()()

 

 近くまでやってきた漁師の男がホクホク顔でそう答えると、同じような嬉しそうに町人も頷いた。腕のいい男だったので獲れ高については心配していなかったが、人間である以上完璧ということはない。わずかながらに抱えていた懸念が外れて両者ともに喜んでいた。

 しかしさっきまで嬉しそうだった顔を渋らせた男が言いよどむと、空気が変わる。

 

『どうしただ?』

『んぁ~なんつーのか……変なもんが掛かったというか……』

『変なもん? そんなけったいな(もん)だったんかぁ?』

 

 問いかけに対する返答は苦笑いだった。弟子の青年たちにも目を向けるが、彼らも気まずそうに視線を泳がせて目を合わせなかった。

 何故か明確な答えを返さない男たちに首を傾げていると、隣で話を聞いていた兵士が二人の間に入った。

 

『申し訳ないが、お話はその辺で。捕獲した物についてはお任せしますので、()()()()については後は我々が』

『お願いします』

『お(ねげ)えします、て。オラは気になんど。なしてそうも隠すん?』

『申し訳ありません。これ以上は……』

 

 兵士の余所余所しい発言に町人は不満そうだった。しかし捕獲した獲物を取り上げられるわけでもないということで、興味も薄かったこともあって食い下がることはなかった。

 若干の消化不良を残しながら、獲物を整理しようと荷車に近寄る。そこで一際大きな藁ぐるみを見つけるが、すぐさま兵士が抱え上げてしまった。

 目測で2m弱はありそうなその藁ぐるみを不審そうに睨みつける。しかし先ほどの大量という言葉通り、荷車の中にあった籠は大量で運び出しと計量と仕事量が多いことが分かった。結局頭の中に浮かんだ仕事で藁ぐるみの存在はすぐに忘れてしまい、町人と漁師たちはせっせと仕事に励んだ。

 

 兵士たちは目立たぬように持ち出した藁ぐるみは運んでいった。

 たとえ藁ぐるみの端から()()()()()()()()が見えていても、すれ違う人の多くは見間違いだと思って気にしなかった。

 

 

 

~ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ~

 

 

 

 目を覚ますとそこには古ぼけた天井があった。

 

「うぅ……ん……あれ……?」

 

 なんで僕は寝てるの? たしか教室でババア長に無理やり召喚獣のテストをさせられて、そしたら召喚陣から強い光が出てきて……

 

「まさか! 不具合で僕死んだ!?」

 

 慌てて体を起こして以上を確認する。そして体の隅まで確認してみると、傷もなければちゃんと触ってる感触も感じられた。手足の喪失感もないし、振り返って布団を確認してみても僕の体が倒れてるなんてことはなかった。

 よかった…。また起きてるのは魂だけとかにはなってないようだ…。

 

「ふ~……ん? あれ?」

 

 起きてから気づいたけど、ここは教室じゃなかった。

 寝かされていた床はあの教室みたいな畳じゃなくてフローリングだし、部屋の中央にあるのは田舎とかにある薪を燃やすやつ(囲炉裏)だ。壁には昔話で見るような笠が掛けられてて、よく見れば枕も藁を編んだ四角い形の枕だった。

 ここ、どこ? 学校の中にこんな部屋なかったよね?

 そう思って部屋中を見回していると、出入り口らしき木の扉から軽鎧を身に着けた兵士が二人入ってきた。——兵士!?

 

「え、誰!?」

『お? 目を覚ましたようだな』

「え、なに、コスプレ?」

『こす、ぷ……何か良くわからないが、対話はできそうだな』

『みたいだな。じゃあお前は見張りを頼む。すぐにショウグンを呼んでくる』

『承知した』

 

 なにか話し合っていた二人の兵士は、片方が部屋を出ていきもう一人が部屋に残った。残った兵士はおぼんを床に置くとゆっくりとこっちに押し出して、すぐに後ろに下がった。

 どういうこと? 教室じゃないところで寝てるかと思ったら、本格的なコスプレをした兵士は出てくるし。何がどうなってるの? 僕はコスプレ会場にでも連れてこられたの?

 

『……行ったか?』

「えっと、あの~これは一体——」

『おっと、余計な動きは見せるなよ』

 

 『ズビジッ!』なんて音が聞こえてきそうなポーズを決めた兵士の人。そのポーズはアレだ、『ジョ〇』のジョ〇フがとってたポーズだ。

 

『お前の身柄は、すでに我々蛮勇な戦乙女率いる一軍の支配下にある。大人しく、言うことを聞いてもらおうか?』

「ば、ばんゆう?」

『ふふふ……恐れから声もでないか? それも仕方ない、何故なら俺はこの軍を率いる我らがメガm——』

 

 ばんゆう? 名前か何かなのかな? バン=ユウか、韓国とか中国っぽい名前だなぁ。しかも乙女とか言ってたってことは、そのバン=ユウさんってのは女性なのか……あれ? てこは僕、女性に誘拐されたの?

 

『安心しろ。お前を餓死させるつもりは毛頭ない。こいつを食べたければ、大人しく俺の質問にこt——』

 

 そりゃあ、いつも美波や姫路さんや姉さんに襲われた時、自分の非力さには悲しく思ってたよ。いつだったか『ちょっと鍛えてみよう』なんて考えたこともあったけど、日々の臨死体験で消費するカロリーと僕の食生活じゃ難しくて諦めたっけ。それに、あの雄二でも本気の霧島さんや通常時の鉄人に通用しないのを考えたら、僕はどこまで鍛えればいいのかすら分からないってのもあって、諦めがついた。

 とはいえ、僕だってあのFクラス(地獄)で半年も生き延びた一人。それが女性に誘拐されるなんて、そこまで自分が非力とは思ってなかったよ……。

 

『そして、ガクシン様は言うのさ!“あぁ……なんて優秀で格好いい兵士なんだ。私の部下なんて勿体無い! ぜひ、私のはんry——”』

 

 それにしても誘拐犯は何が目的なんだろう。姉さんと生活するようになってからは多少なりとも貯金ができるくらいには余裕ができたけど、それでも足した額じゃないし……。いや母さんたち直接要求するつもりなのかも。だとするともう身代金の要求とか始まってるのかもしれない。

 でもあの母さんが、息子の生活費を振り込まないで姉さんを送り込むあの鬼のような人が素直に要求に応じるとは思えない。さんざん救いようのないバカだの言われてるし……いや、さすがに自分の子供を見捨てるなんてことはしないはずだ。

 

『さぁ~て……、そろそろ腹は決まったか? 痛い目に遭いたく無ければ、精々正直にすべてを吐くことだな』

 

 そもそもこの状況が本当に誘拐なのかも怪しい。だって目の前で酔ったように妄想を語ってる人がいるんだし。ならこの状況は誰の仕業かって話になる……いや、こういう質の悪い真似をする奴なんて決まってる。

 

「雄二だな……」

 

 理由は知らないけど、あの性悪雄二ことだ。僕をだまして、恥を晒すためならここまで凝ったことを計画することも考えられる。どうせ美波との……き、キスの事件の時みたいに、どこかでムッツリーニがカメラとマイクで隠し撮りしてるに決まってる。

 そうと分かればやることは決まってる。騙そうと思ってるなら、それに乗っかったうえでこっちが驚かせてやる!

 

『どうしたぁ~? 怖くて何も言えないかぁ~?』

 

 なんとかこの三下臭漂う兵士のキャラに乗っからないと。え~っと、尋問されてるって設定でいいのかな? だとしたら、この前見た刑事ものドラマみたいに振舞えばいいってことだよね……。あの時はたしか——

 

「『ふ、ふんっ! たとえ何をされようと、俺は仲間を売ったりしないぞ!』」

『おぉう!? な、なんだ! 急にやる気になったか!? じょ、上等だ! お、俺の剣の錆にしてやる!』

 

 僕のセリフ(ドラマのセリフ)に驚いたのか、兵士が腰に下げていた剣を抜いて構えだした。すごい、なんてキャラの作り込みだ。これは生半可な演技じゃ騙しきれないぞ。

ところで、なんかすごい光を反射してるんだけど……その剣は作り物だよね? 作り物なんだよね? ちょっとこっちに近づけないでくれません? 別に怖いわけじゃなくて、例えハリボテでもそれで殴られたら痛そうだから——

 

『お、俺が本気になったらな! お、お前なんて、簡単に——』

「ちょ、待って待ってストップ! 落ち着いて話をしましょう! だからその剣を離し——どわっ!?」

『よよよ余計なくくくちをひりゃくんじゃにゃい!!』

 

 今明らかに前髪切れたよ!? 本物!? 本物なの!?

 ヒラリと目の前で散った前髪を見た瞬間、僕の背筋に冷や汗が流れる。目の前で勝手にパニックになり始めた兵士は、本物らしき剣を震わせながら威嚇してくる。今さっき振ったときは運よく前髪に当たっただけで済んだけど、もし今のが頭に当たっていたらなんて考えたら……。

 

『お、お前なんてなぁ! お前なんて——ブヘッ!?』

「わわっ!?」

 

 本気でヤバいと思ったその時、奇声と一緒に突然兵士が倒れ込んできた。反射的に避けた後、倒れ込んだ彼の顔を覗き見ると完全に伸びていた。何が起きた?

 

「ちょ! いきなり殴らんでもええやろ!?」

「ナギちゃん! 穏便に! 冷静になるの!」

 

 何が何やら分からないでいる僕の前で何やら揉めている女の子が三人いた。両サイドに立つ女の子に責められている女の子は、拳を振りぬいた姿勢で固まっていた。その表情は俯いていて分からないけど、肩が激しく上下している様子から怒っているように見えた。

 君たちは一体……?

 

「あーあ、こら完っ全にノビとるで」

「ナギちゃん……」

「……私は命令違反を犯した者を罰しただけだ」

「あんなぁ……そうやからって、いくら何でもやりすぎやで」

「そうなの。まだちゃんとした部下になったわけじゃないんだから、無理させちゃだめなの」

 

 僕も気絶した兵士も置き去りにして話を進める三人。その様子はそこで眠っている兵士とは違う雰囲気だった。

 というか誰かこの状況を説明してほしい。それぞれがドクロの飾りが目立つ服に眼鏡をかけてたり、銀の胸当てと小手を装備した吊り目で真面目そうな雰囲気をまとってたり、虎柄のビキニとすごい丈の短い短パンだけの目のやり場に困る恰好だったりって彼女らの恰好にも驚かされてる上に、雄二のネタ晴らしの雰囲気もなければ、さっきより空気が重くなった気もするし。何がどうなっているの!?

 

「お前たちは甘すぎる! 私たちはいずれ一軍を束ねる将となる身、そんな軟弱な考えでは——」

「あのー……」

「ナギはもっと肩の力抜くの覚えや。なんでも規律や熱意で縛り付けたらええ訳やないやろ——」

「あのー」

「そうなの。厳しくしたらその分、優しくしてあげるのも大切なの」

「あの!」

「「ん? (あん)さん/お兄さん誰?」」

「いやこっちが聞きたいんだけど……?」

 

 君たちは雄二が計画したドッキリの関係者じゃないの?

 

「ユージ? 誰やそれ? 知っとる?」

「ううん」

 

 目のやり場に困る関西弁の子と眼鏡をかけた特徴的な語尾の子が二人で首を傾げた。

 どういうこと? 雄二のドッキリじゃないなら、この状況はますますどういうことなんだ? こんな凝った用意までして……もしかして、ババア長か?

 まさか普段の仕返しにこんな凝った用意を? だとしたらなんて大人げないクソババア長だ。

 

「……おい、貴様」

「はぇ?」

 

 僕を指さしたのは三人のうち、真ん中にいた女の子。彼女は他の二人とは違って、鋭い眼光でジッとこっちを睨みつけている。初対面でここまで敵視されるなんて、初めて清水さんや木下さんに会った時以来だ。

 

「命が惜しくば正直に答えろ。私に冗談や酔狂が通じると思わないことだ」

 

 一体何をもって冗談と思うのか分からないけど、彼女から伝わってくる迫力は只者じゃないということはわかった。

 すごい……鉄人や高橋先生の召喚獣にも負けない圧だ。

 

「答えろ。貴様は何者だ」

「えっと……、僕は吉井(よしい)明久(あきひさ)って言います。文月学園の二年生で」

「「?」」

「え……なに?」

 

 なにかおかしいこと言った?

 普通の自己紹介をしたはずなのにおかしい反応を見せる両隣の女の子たち。真ん中の彼女はさっきよりも険しい表情で

 

「貴様……戯けたことを……!」

「いや、何もふざけてなn——おわっ!?」

 

 弁明しようとした僕の鼻先に突き付けられたのは拳だった。慌てて体を引くと、数センチ先の拳から熱を感じた。

 というか本当に熱っ!? 目の前にあるのは拳のはずだよね!? 普通に火とかと同じレベルで熱いんだけど!

 

「ちょっと待って! 僕なにもおかしなこと言ってないでしょ!?」

「兄さん、アホとちゃうか?」

「アホじゃない! いや、皆にはよくバカとは言われるけど……」

「お兄さん、お馬鹿さんなの?」

 

 あの、そんな純粋な目で『お馬鹿さん』って言われないで……。雄二たちに言われるのとは違ってすごい心が痛いんだけど。

 僕が一人心の涙を流していても向こうにとっては関係ないらしく、拳を構える彼女の目はどんどん鋭くなった。

 

「初対面でマナを預けるなど、貴様何を考えている!」

「マナ? いや、僕は明久っていうんだけど」

 

 マナって誰の事? あ、いつだったかちょっと話題になった双子の芸能人の事かな?

 

「兄さんマナやマナ。知らんなんて言わへんやろ?」

「ああ、うん。マナさんならあれだよね。あれ? でもどっちがお姉さんでどっちが妹なんだっけ?」

「なんで急に会話が通じなくなんねん!?」

 

 秀吉とお姉さんを見てても思うけど双子って本当にそっくりだよね。さすがに秀吉たちは見間違えることはないけど、テレビに出てるタレントや芸人さんだとどっちがどっちか分からないや。

 

「サワ、どう思う?」

「う~ん……嘘っぽくは聞こえないの」

「アホかバカやとは思うんやけど」

「え……これ、もしかして本気なの?」

「せやからアホなんちゃう?」

 

 コソコソ話をする二人の会話がこっちにも聞こえてくる。君たち、わざと聞こえるように言ってない? ねえ、そのチラチラ向ける視線は何?

 疑惑の視線を向けてくる三人に僕の精神は限界です。

 

「そもそもここは何処で君たちは誰なの? 建物の感じからして、学校近辺じゃないんだろうけど」

 

 もうババア長だろうと、雄二だろうと誰だっていい。とにかくこの状況について誰か説明をしてほしい。

 そう溢した僕の呟きに、三人は何だとばかりに表情を変えてこっちを見た。

 

「何処て、ここは大梁(だいりょう)やん」

「ダイ、リョウ?」

「サワたちはここで義勇軍をまとめているの」

「ギユウグン——軍!?」

 

 軍隊がいるの!? そういえば今『義勇軍をまとめてる』って言ったよね? じゃあ目の前にいるこの子は軍の中でも偉い人なの!?

 ほとんど変わらない年だと思う彼女たちにただ僕は驚いていた。

 

「君たちは、一体——」

 

 彼女たちの名前を聞こうとしたその時、バタバタと駆け込んできた兵士の言葉に僕は耳を疑った。

 

『ガクシン様! ああっ、リテン様とウキン様もこちらでしたか!』

「え?」

「騒々しいぞ、何事だ」

『はっ! 今しがた、チンリュウの使者と思わしき一軍が到着しました! 我が軍の代表者へと面会を求めております!』

「すぐに向かう。奥の部屋にお通ししろ」

『はっ!』

 

 指示を受けた兵士は慌ただしく走り去っていた。今の、本当なの?

 驚いて固まる僕の前で三人は気絶していた兵士を担ぎ上げて引き上げ体勢に入った。

 

「ちょ、ちょっと待って」

「なんや?」

「君たち、名前は……?」

 

 拝啓、天国のお祖父ちゃん

 

「ウチは李典(りてん)(あざな)曼成(まんせい)や。よろしゅうな」

 

 そちらの世界の生活はいかがですか?

 

「サワは于禁(うきん)なの。字は文則(ぶんそく)っていうの」

 

 僕は元気です。でもここが現実かどうか不安でしょうがないんだ。

 なぜなら……

 

「……私は楽進(がくしん)だ」

 

 三国志の登場人物と一緒にいるのだから。

 




何度書き直しても明久の口調が安定しない。
更新は書き上がり次第随時行っていきますが、定期はお約束できません。
気長にお待ちいただけると幸いです。

感想、誤字脱字の御指摘は感想蘭にてお願いします。

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