無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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プロローグ

 目を覚ますと少年は地獄にいた。

 空を見れば赤く染まった空、立ち上がれば燃え盛る炎と町、聞こえてくるのは悲鳴にうめき声に助けを求める声であった。

 少年には、助ける力もなかった。そんな人たちを見捨てる形で、少年は廃墟と化した街をただひたすら、涙を流しながら進むしかできなかった。

 どれほどの時間が経ったであろうか。煙によって雲が発生し、雨が降っていた。降り続いた雨によって火は大分静まったが、まだ燻ぶっている炎があった。少年は体力の限界が来て、倒れた。

 生きる気力も失った。

(もう・・・・・・・・・・・・・・死ぬのかな?)

 少年は手を空に伸ばした。雨が降る暗雲の空に、手を伸ばした。

 だが、誰もその手を取る者はいない。少年の手は無残にも、下に降りようとした時であった。その手を誰かが取った。少年はその手の主を見ると、毛が白く、黒い肌の赤い服を着た男であった。

「よかった・・・・・・・・・・・・・よかった・・・・!これで私は・・・・・・救われる・・・・・・」

 男は少年が生きているのを確認して雨に紛れ、涙を流した。

 

 あれから少し時間が経ち、少年の名前が分かった。たまたま持っていた財布から、一条晴彦と言う名前であることが分かった。

 だが、あの災害によって晴彦は過去六年間の記憶を失った。そして、その時一緒であったであろう家政婦の人もその災害で亡くなった。晴彦は一人ぼっちになってしまった。

 父は海外で世界中を飛び回り、母は最近離婚。誰も彼を救っている者はいないと思われた。

 そんな晴彦に、あの男が手を差し伸べた。

「晴彦と言ったか?私はワケあって名前は言えないがアーチャーだ。よろしく頼む。」

 アーチャーは晴彦の手を取り、晴彦の家で一緒に暮らすことになった。

 アーチャーは晴彦の思い出の写真を見せ、記憶を蘇らそうとしたが本当に何も思い出せないことで晴彦は泣いた。

「ごめんなさい・・・・・・・・・・・なにも・・・・・・・何も思い出せないんです・・・・・」

 そんな晴彦をアーチャーは優しく抱きしめた。

 しばらく感情が不安定な時期はあったが、アーチャーがいたおかげで、晴彦は人としての生活ができた。そしてアーチャーと過ごす内に、ある能力があることに気づいた。

 投影である。

 アーチャーはそのことに驚きを隠せない表情ではあったが、晴彦自身、その能力を使うことをためらっていた。記録によると晴彦には絵にファントムを封印・召喚する能力しかない。

 あの災害の日に、この力を得た晴彦は恐怖しかなかった。

「アーチャー、僕・・・・・・・怖いよ。こんな力があるなんて・・・・・・」

 そんな晴彦を見て、アーチャーは晴彦と同じように投影をした。

「安心しろ、晴彦。私も同じ能力を持っている。君だけじゃないんだ。」

 そんなアーチャーの言葉を聞いて晴彦はまた泣いた。それは、自分を受け入れてくれることへの涙であった。

 

 さらに時間が経ち、満月の夜に晴彦はアーチャーと話をしていた。

「晴彦、伝えておかなければならないことがある。」

「なーに、アーチャー?」

「私はもう数年したら、この世界から消え、また別の世界の抑止として召喚されなければならない。」

 晴彦はアーチャーの言葉に衝撃が走った。

「だがな、晴彦。君は一人じゃない。ここにいる町の人が、学校の先生が、友達が、周りにはいる。わかるな?」

「うん・・・・・」

「・・・・・・・・・・・少し、昔話をしよう。

 私は、君と同じような災害に遭い、記憶を失った。そして、正義の味方に出会った。

 それから私はその人に引き取られ、その人と生活を共にした。

 その人が正義の味方であったためか私は、いつしか正義の味方になることを夢にしていた。そんな私にあの人は言ったんだ。

“正義の味方になるには、年齢制限がある”とね。そんなあの人に私は何と言ったと思う?

私はこう言ったんだ。

“爺さんの夢は、俺が受け継いでやる。”

 そして私は、高校生になってもなおその夢を抱き続けた。いや、むしろ強くなったといった方がいいか。そして私は、正義の味方となった。

 誰もが傷つかない世界を、誰もが悲しまない世界をと、この手に武器を取り、悪を倒した。

 だが・・・・・・・・・途中で正義の味方であることに疲れてしまったんだ。」

「どうして?正義の味方であることになんで疲れちゃうの?」

「こんなのでもか?

 生きるために盗みをする人を、家族を守るために武器を手に取る人を殺すのが正義と言えるのか?

 いや、もっとわかりやすい話をしよう。

 致死性の高い伝染病が蔓延した乗客乗員600人の命と、都市に住む15,000人の命。どちらを救うかの瀬戸際に私は立たされた。どちらも罪もなく、等しい命だ。飛行機の中には生きようと互いに励まし合っている人たちがいるかもしれない。運良くいけば不時着できるかもしれない。だが、不時着すれば都市に住む何の罪もない人を巻き込んでしまう。

 結局私は、全てを救うことができず、飛行機の人たちを、殺した。

 誰かを救うには誰かを見捨てなければならない。そんな現実に、私は疲れてしまった。

 決定的だったのは、私が善意で行動していたのに、世界に裏切られて殺された時だった。

 もし、何の見返りも求めず人助けをする人がいたらどうする?いつも、見返りも、恩賞も求めない人がいたら人は不安を抱く。”何か考えているのではないか?“、”もしかしてだましているのではないか?“

 そんな感情が彼らに不信感を抱かせ、やがて私を殺す行動に至った。」

「・・・・・・・・・・・でも、アーチャーは僕の命を救ってくれた。それは紛れもない事実だよ。」

「・・・・・・・・・そうだな。それは紛れもない事実だ。単に、あれは偶然だったと言えよう。私が召喚された時には、既にあんな光景であった。私は召喚されすぐに絶望した。また人を救えなかったのではないかと思った。だが・・・・・・・・・・・・私はほんの少し希望を抱いた。もしかしたら、誰か生きているんじゃないかと思ってね。

そして君を見つけた。あの時助けられたのは、私だったのだ。晴彦、君に問わせてもらいたいことがある。」

「なーに、アーチャー?」

「君は・・・・・・・・・・・・・・どんな人になりたい?」

 アーチャーのその言葉に晴彦は考えた。

「・・・・・・・・・・アーチャーとは別の正義の味方になりたい。」

「っ!ほう・・・・・・・・・・・それはどういうことだ?」

「あの日・・・・・・・・・・・・・すべてを失ったあの日に、自分の無力さを感じた。誰かを助けたいって思いは、今も変わらない。ニセモノなんかじゃない。でもすべては救えいないってわかってる。

 だから・・・・・・・・・・・・・僕は自分が救える範囲の人を救って、自分の正義を貫こうって思ってる。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。私にはない答えだな。」

 

 そして、中学年に上がる少し前に、アーチャーとの別れの日が来た。

「アーチャー・・・・・」

 晴彦はポロポロと涙を流す。

「泣くな、晴彦。前に別れることは言っただろ?」

「でも・・・・・でも!」

 そんな晴彦をアーチャーは抱きしめる。

「こんな短い時間ではあったが、君と過ごした時間の中には、私が経験した地獄はなかった。むしろ、心が休まる時だった。」

「でも・・・・・・・・・・・・また戦いの場に召喚されちゃうんでしょ?そんなの・・・・・・・・・・アーチャーが辛いだけだよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・晴彦、私のことを心配してくれるのか?」

「当たり前だよ。だって・・・・・・・・・・・・・アーチャーは僕のかけがえのない“家族”なんだから!」

 アーチャーはその言葉を聞くと驚き、そして微笑んだ。

「ありがとう、晴彦。本当に、本当に君と会えて私はよかった。これを君に渡そう。」

 アーチャーは懐から虹色の石が入った砂時計のよなものを取り出す。

「この石が全て下に移動した時、君が持つ第二の能力、投影を公に使っていい。」

「でもあれは・・・・・・」

「確かに異端な力だ。だが・・・・・・・・・・・・君なら使える。正しく使いこなせる。だからこれが全て落ちる暇で約束をしてくれるか?」

 晴彦はア―チャーの言葉に対し、「うん。」と返事をしてそれを受け取った。

「晴彦、俺はこれからも頑張っていく。お前も頑張れ。」

「うん・・・・・・・・・・・・・・・うん!約束するよ、アーチャー!僕も、頑張るよ!」

 晴彦の言葉を聞くとアーチャーは召還された。

 

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