無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
ある日の夜、晴彦はバイクで高速道路を走っていた。
(やっぱり“風王結界”の投影は出来た。でもバイクにだけってのが痛いな。)
晴彦がそう思いながら走っていると高速道路を阿頼耶識社が封鎖していた。
「参ったな。これじゃあ抜けられない。仕方ない、他の場所を探すか。」
晴彦はそう言うと別の場所に行こうとバイクを走らせようとした途端であった。晴彦のすぐ側を猛スピードの新幹線ファントムが通り過ぎて行った。
「ファントム!」
晴彦はバイクを走らせファントムを追うが、新幹線ファントムは猛スピードで疾走しているため追いつけない。
(くっ!こうなったら・・・・・っ!あれは!)
晴彦は目を強化する。すると高速道路の中央で小糸がポケットに手を入れ突っ立っていた。
(水無瀬さん!てことはさっきの阿頼耶識社の人は封鎖のためか。タイミング悪。)
晴彦がファントムの遥か後ろで追う思っていると小糸は詠唱を始める。
「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、光を知らしめせ!」
「あー。」と声を上げ、音の壁を作り出し、ファントムを正面から止める。ファントムは止まること無く進み、そして自滅した。
(やるな・・・・・・・・・でも今の戦い方、下手したら・・・・)
晴彦は遠くから小糸の戦いを見ていて思った。
小糸は消滅を確認するとその場に背を向けた。近くにあった車から、阿頼耶識社の社員が出てくる。
「水無瀬君、よくやってくれた。あのファントムが暴れまわっていたせいでこの高速はずっと使えなかったんだ。君のおかげで―――」
「後の事はお任せします。では。」
玲奈は一礼するとその場を後にした。
「あ、ああ・・・・」
小糸がその場を去ろうと歩いていると、さっきのとは別のファントムの気配がした。
(まだいたの!)
小糸が振り向いた途端、小さく、高速に動くファントムが通り過ぎた。
「しまった!」
小糸がファントムの方を向いたすぐ後にバイクのエンジン音が聞こえてくる。
「そこを動くな!」
「え・・・・」
その声が聞こえた途端、晴彦が通り過ぎた。
「今の声・・・・・・・・まさか・・・・・」
晴彦はフルスロットルでファントムを追う。
「この!」
晴彦はファントムに追いつくと右手に西洋剣を投影し、ファントムに斬りかかるがファントムはその攻撃を避ける。ファントムは晴彦のことを笑う。
「このっ!」
ファントムは更に加速し、晴彦と距離を取る。
(このまま追ってもこっちのエンジンが持たない。こういう時にあれが使えるのは嬉しいな。)
晴彦はあの言葉を詠唱する。
「風王結界!(インビジブル・エア)」
晴彦のバイクに銀の鎧が装備される。銀の鎧によって風の抵抗が極端に減り、一気にファントムと距離を詰める。
「はっ!」
晴彦は剣を一振りし、ファントムを切裂いた。
晴彦はブレーキを掛け、バイクを止める。
「よし。ん?」
向こうから晴彦のことを追う様に阿頼耶識社の車が来た。
「ヤッバ!いろいろ聞かれると面倒だから次のインターで降りよ。」
晴彦はバイクを走らせ、その場からトンズラした。
翌日の学院のお昼休み。小糸は一人黄昏ていた。すると他の生徒が話をしていた。
「ねえ、お昼どうする?」
(私は常に、他人との距離を保ちながら生きている。四年前に能力が目覚めてから、ずっとそうして来た。)
小糸は一人学院の衝動に向かっていた。周りには和気あいあいと話をしている生徒たちがいた。
(学校のクラブにも所属せず、一人で対ファントムの活動をしている。自分が異質であることを自覚しているからだ。)
食堂で晴彦は翔介と一緒に食事をしていた。
「晴彦はいいよなー。チームの仲間、可愛い女子ばっかりだもんなー。」
「アタシも可愛いぞー!」
「そーだな。可愛い可愛い。」
「ヨシャー!」
翔介はルルを上手く乗せる。そんな時近くにいた女子生徒が声を掛ける。
「ルルちゃん、こっちおいでよ。」
「お菓子あげるから。」
「うわーい!」
簡単に席を移動するルルのなのであった。
「そんな価値観で女性を見るのはよくないぞって、アーチャーに教わった。」
「あんだけ美人ならいいじゃん。ま、いくら美人でも、水無瀬小糸みたいなのはアレだけどな。」
「水無瀬さんがどうかしたのか?」
「最初はクラスでも人気あったみたいだけどさ、愛想無し、誘っても無視するし、今も話しかける奴いないってってさ。」
翔介の話を聞いて晴彦は同情する気持ちになった。
「いくら見た目が綺麗でも、性格があんなんじゃなー。」
「それは彼女のことを知らないからじゃないのか?ま、お前は偏見が多い方だからそう見えるんだろ。女性と男性は性別も違えば考え方も違う。彼女なりに何か思ってそうしてるんじゃないのか?ま、もっともこれは憶測だがな。」
「お前って普通にそう言うこと言えるよなー。」
「事実だろ。第一、彼女はきっと・・・・・・・・・」
「ん?なんだよ?」
「翔介、後ろ後ろ。」
「後ろ?」
翔介が振り向くとそこには料理の乗ったトレイを手に後ろに立っている小糸の姿があった。小糸は翔介を睨むと席へと移動する。
「怖かった・・・・」
「陰口を言うからだ。自業自得だ。」
晴彦はそう言うと小糸の方を見た。小糸は隅っこの席で一人で食べていた。
放課後に小糸は準備室でアリスから依頼を受けていた。アリスはパソコンを操作し地図を出す。
「飼育小屋?」
「ええ、そうです。あちこちの学校で、ファントムがウサギ小屋や飼育小屋を荒らして、エサにしているそうなんです。そろそろウチも危ないかなって。」
アリスは席から立ち、隣で話す。
「貴女には簡単すぎる仕事だけど、もしかしたら、興味があるかと思ったんです。」
「やらせてください。」
小糸は“このこと”に関してはこれまでにない意欲を示した。
「はぁ~、疲れたー。」
「だらしないわよ。シャキッとしなさい。」
一緒に下校している晴彦たちの前を小糸が通り過ぎる。
「あれ?」
「水無瀬さんですね。」
「どこ行くんだろう?」
晴彦は小糸の行方が気になった。
「すみません。俺ちょっと。」
晴彦はそう言うと小糸を追いかけ始める。そんな晴彦の行動に舞は気になった。
「どうするの?」
「決まってるだろ。さっきのこと、謝りに行くんだよ。」
一方その頃、学院内のウサギ小屋では頭にクマのぬいぐるみを乗せた女の子がウサギにエサを与えていた。
「みんなおいしい?」
女の子は微笑むと小糸が声を掛ける。
「ねえ。」
「はわぁああああああああ!は、はい!?」
「貴女、飼育当番?一人?」
小糸の言葉に女の子は頷く。
「ふーん。」
その直後、小糸はファントムの気配を感じ取った。空間に歪みが発生する。
女の子は飼育小屋の扉を開けながら聞こうとする。
「あ、あの・・」
「いいタイミングだったみたい。」
「え!」
空間の歪みから赤い球体が現れるとそれは地面に落ち、三つ首のファントムへと姿を変えた。そのファントムの姿に小糸は平静を保ちながらも驚いた。
「きゃあああああああああ!」
女の子はその光景に動揺し、ウサギ小屋の外側に身を隠す。
三つ首の中央が光線を放つと小糸はそれを音の壁で防ぐ。ファントムはその光景に驚く。
その時であった。タイミング悪く晴彦とルルが来た。
「水無瀬さん!大丈夫!」
「ファントムだ!」
「貴方たち、なんで・・・」
晴彦の方に三つ首の右が晴彦の方を向いた。そしてファントムは晴彦の方へと襲い掛かる。
「危ない、逃げて!」
小糸は晴彦の下まで走ると晴彦を押し、ファントムから離す。ファントムが左前脚を振ると小糸は避けるが、三つ首の左が小糸に向けガス状のものを吹きかける。小糸は応戦しようと声を出そうとした途端、喉が痛んだ。
「ごほ、ごほっ!」
その光景を見ていた女の子が言った。
「アルブレヒト、お願い!」
その途端、クマの人形・アルブレヒトの目が光り、ひとりでに動くと巨大化し、ファントムの前まで接近するとアッパースイングを喰らわせファントムを上に殴り上げる。
「っ!」
晴彦は上に跳び、大斧を投影しファントムを叩きつける。
「晴彦!」
その直後に舞と玲奈が来た。
「先輩!」
「晴彦君、大丈夫ですか?」
玲奈が晴彦のことを心配する。
「例は大丈夫だけど小糸さんが!」
その時ファントムは起き上がった。ファントムは状況を判断するとその場から姿を消した。
「水無瀬さん!」
晴彦は急いで小糸の元まで走る。
「大丈夫?」
「ええ、へい・・・」
言おうとした途端に小糸は咳をした。
(また・・・・・・・・・・救えなかった・・・・・・・)
晴彦は拳を握り締める中、女の子は緊張が解け、全身から力が抜けた。
保険室で小糸は手当てを受けていた。
「能力使えないんじゃ、ファントムは無理ね。」
「でもよかったです。大きな怪我がなくて。」
現実を言う舞に対し、玲奈は安堵の言葉を口にする。
晴彦は女の子に礼を言った。
「さっきは助けてくれてありがとう。君も特異能力者かい?」
「はい。」
「名前はなんて言うの?」
ルルが聞くと女の子は答えた。
「は、はい。四年B組、熊枕久瑠美です。で、この子はアルブレヒトと言って―――」
「十二世紀のブランデンブルグ辺境伯だね。熊公とあだ名がある。」
「す、すごいです。それ知っている人初めてで―――」
二人が話していると小糸が声を上げる。
「余計なことしないで!あのファントムは、私が倒すわ。」
彼女の目には何か決意のようなものがあった。
「貴方たちの手は借りない。」
「そんなこと言ったって、能力使えないじゃないの。後のことは引き受けるから、力が戻るまで休んでなさいよ。」
「声はすぐ戻るわ。とにかく引っ込んでて。」
喧嘩腰の小糸に舞は額に血管が浮き出る。
「つーか!アンタなんで上級生に溜口なわけ?あのファントムは私が倒す!」
「勝手に決めないで。依頼を受けたのは私なんだから。」
「舞お姉さま落ち着いて・・・・」
そんな状況に文字通り板挟みになる玲奈。そんな状況に助けの手が伸びる。
「話は聞かせてもらいました。」
アリスが保健室の扉を開け参上する。
(絶対タイミング計ってたな。)
晴彦は心の中でそう思った。
『先生!』
「どちらが先に、ファントムを退治できるか競争しましょう。報酬は、先にファントムを倒した方に上げます。」
その言葉に舞は反応する。
「そーこなくっちゃ!」
「川上さんのチームもこのところ成績が上向きだし、任せられると思うから。」
勝手にな話を進めるアリスに小糸は拳を強く握る。晴彦はそのことに誰よりも早く気付いた。
「水無瀬さんはまず、体調を戻してから。無茶は現金。いいですね?」
そんなアリスに小糸は無言で乱暴に鞄を手に取り、保健室を後にした。
「水無瀬さん!」
小糸を晴彦は追いかけようとする。
「ちょっと晴彦、どこ行く気?」
舞の問いに晴彦は答えた。
「すみません、俺・・・・・水無瀬さんを手伝います。また・・・・・・・・俺だけが助かったから。」
晴彦はそう言うと保健室を後にした。
「はぁ?どういうこと?」
晴彦の行動を舞は理解できなかった。そんな舞に玲奈が解説する。
「晴彦君、責任を感じてるんじゃないでしょうか?自分のせいで喉を痛めてしまったって。」
「戦力的にはいいバランスですね。水無瀬さんが治ったら、あっちの方が有利かも?」
いじわるそうにアリスは言うと、舞は不貞腐れる。そんな時舞は久瑠美に気づき、声を掛ける。
「ねえ?」
「は、はい。」
「久瑠美ちゃんって言ったわよね?」
「は、はい。」
「お姉ちゃんたちの事、手伝ってもらえない?うちのチームの臨時メンバーとして。」
「え、えぇえ!?」
驚く久瑠美。そんな時玲奈がふとあることを思い出した。
「そう言えば晴彦君、さっき変なこと言ってましたよね。」
「変なこと?」
「はい。“また・・・・・・・・俺だけが助かったから”って。あれって・・・・」
玲奈はアリスの方を見る。
「・・・・・・・・・このことはあまり言いたくないのですが、晴彦君、十年前に災害に遭ったんです。その時に晴彦君だけが助かって、あれ以来、晴彦君は“自分だけが願いを叶えられた”と思ってて。生き残ったことに責任を感じているんです」
「だから水無瀬さんを・・・・」
「それに、前に彼は自分なりの正義の味方になりたいと言ってましたよね?」
「はい。」
「ええ、まあ。」
「彼は・・・・・・・・・・傷つく人を極力少なくする正義の味方を目指しています。全てを救うことは出来ないと理解していても、それでも助けたいと思うきもちがあるから、そんな正義の味方を目指しているんです。」
学園内をズカズカ歩いている小糸の後を晴彦は追っていた。小糸は止まり後ろを振り向く。
「付いて来ないで。」
「ほっとけないよ。俺のせいで力が出せなくなったのに。」
「すぐ治るわ。」
小糸は声を出そうとするがすぐに咳をしてしまう。
「力を使おうとすると咳き込むのか。」
「やっぱり、大人しくしてたら?」
ルルがそう言うと小糸は言った。
「あのファントムはアタシが倒す。絶対に。」
「・・・・・・・・・何があって君をそこまで動かすかはわからないけど・・・・・・・・・・これを飲んで。」
晴彦は液体の入った試験管を差し出す。
「なにこれ?」
「回復を促進させる薬。効果はあるけどその反面、すっごくマズイ。」
「・・・・・・・・・」
小糸はそれを受け取ると栓を開け、一気に飲み干した。
「・・・・・・・・・・・・マズイ。」
小糸は晴彦に試験管を返した。
「でもどこに出るかわからないのにどうやって探し出すんだ?」
「私はファントムの気配がわかるの。」
「すっごーい!レーダーみたい!」
「でも戦う方法が・・・・・それに同じ手を使われたらどうするんだ?」
「大丈夫。その時にはもう治っているから。」
それから三時間歩き回ったが、その日はあのファントムを見つけることは出来なかった。もう夜になっていた。
「この後はどこを回る予定なんだ?」
「今日はもう終了。ここは私のマンション。分かったら帰って。」
小糸はそう言うとマンションに戻った。
「明日はどうするの?」
ルルが聞くと晴彦は答えた。
「ちょっとアリス先生の力を借りる。」