無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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11 久瑠美とぬいぐるみ王国①

 久瑠美のことがあった後日の雨上がりの朝、久瑠美は一人アルブレヒトを抱き抱えながら登校していた。

(また、お手伝いするのかな?)

 ランドセルにクマのストラップをぶら下げながら久瑠美は不安を口にした。

「私、ちゃんとできるかな?」

 久瑠美はアルブレヒトに尋ねるように言うが、アルブレヒトは答えない。

 横断歩道の信号の青が点滅し、赤に変わる。横断歩道にはいくつもの水たまりができていた。

(今日は学校へ行きたくはありません。大好きな図工もあるし、お友達と可愛いシールを交換する約束もしていて、とっても楽しみ。・・・・・・・・・・だけど、やっぱり行きたくないのです。どうしてかと言うと・・・・)

 久瑠美は先日の晴彦とファントムとの戦闘の後の事を思い出していた。

“久瑠美ちゃんもお疲れさま。また何かあったらお手伝いしてね。”

「どーしよー、アルブレヒト。」

 久瑠美はアルブレヒトを自分の方に向け尋ねる。

「あんなにすごいお姉さんたちのお手伝いが、私にできるのかな?」

 不安になった久瑠美は顔を上げる。目の前にはコンビニまで続く横断歩道があった。そして信号が青になる。久瑠美は横断歩道を見て、ルールを決める。

「最後まで白い所から足が出ないで渡れたら、お姉さんたちのお手伝いが、ちゃんとできる!いくよ、アルブレヒト!」

 久瑠美はそう言うと跳び、白線の上に跳ぶとまた白線へと跳ぶ。

 一方その頃、晴彦は通学路を歩いていた。

「なんで今日はバイクじゃないの?」

「雨上がりだから。」

「小糸ちゃんの時は乗ってったのに?」

「あれは夜雨が止んだからだ。今回のは早朝。それに水を人に掛けちまうだろ。」

 晴彦はルルと話しながら登校しているとルルが久瑠美に気づいた。

「あ、久瑠美ちゃんだ。久瑠美ちゃーん!」

 ルルは久瑠美に手を振る。久瑠美は突然のことに驚き後ろに倒れそうになる。

「あっ!落ちちゃう!」

「危ない!」

 久瑠美は片足が横断歩道の水たまりに付くとそのまま後ろに倒れてゆく。晴彦は久瑠美を支えようと駆け寄り、腕を掴んだ途端、晴彦の手が触れた場所から光が溢れだした。

「っ!なにこれ!?久瑠美ちゃん、大丈夫?久瑠美ちゃん!」

 晴彦の言葉が聞こえてないのか久瑠美は何も答えない。

そして光の影響によって足元の水たまりに変化が起こった。水たまりに穴が開き、落ちるように晴彦と久瑠美は落ちるが晴彦は穴の淵に手を掛け何とか事なきを得る。

「なんだよこれ!」

 ルルも微力ながら晴彦を上に引っ張る。が、久瑠美は晴彦の手からズルズルと下へ落ちてゆき、そして落ちた。

「っ!久瑠美ちゃん!」

 晴彦は手を放し、久瑠美を追うように落ちて行った。

「晴彦――――――!」

 ルルは落ちた晴彦を追う。

 

 

 久瑠美が黒い穴を通るとその世界は夜。アルブレヒトとランドセルは久瑠美の手から離れ、どこかに落ちた。久瑠美はまるで月面にいるようにゆっくり落ち、大きなキノコをクッションにゆっくりと地面位降りる。その最中、久瑠美は目を覚ました。

 晴彦はパラシュートを投影し、着地する。

「ふぅ・・・・・・・・危なかった。」

 安堵を吐く晴彦と反対に久瑠美は辺りを見渡した。

 大きすぎるキノコに捻じれた木、正にワンダー・ランドである。

「ここ・・・・・・・・・どこ?」

 いきなりのことに分からない久瑠美。そんな時ルルが晴彦に声を掛ける。

「おーい、晴彦。大丈夫?」

「ああ。」

「よかったよかった。なんかとんでもない所に巻き込まれちゃった感じだねー。」

 ルルは辺りを見渡すと久瑠美を見つける。

「あ、晴彦!久瑠美ちゃんだよ!」

 ルルは久瑠美を指さす。

「アルブレヒトは!アルブレヒトはどこー!」

 大事なアルブレヒトがいなくなったことに久瑠美を涙を溜めながらパニックになる。

「パニくっちゃってるよ~。」

「久瑠美ちゃん!」

「っ!一条さん・・・・」

 晴彦が声を掛けた途端、三匹の二足歩行のクマが久瑠美に近づく。

「見つけたぞ!」

「その方、クママクラーン連家の生き残り、久瑠美姫とお見受けする。」

「?」

 当然のことに久瑠美は何が何だかわからなかった。

「ヒグマーン家の王子、サーモン王子がお待ちです。さあ、大人しくこちらへ。」

 隊長と思われるクマが久瑠美を連れて行こうとするが、二人を遮る様に一本の剣が突き刺さった。

「ぬあっ!」

「久瑠美ちゃん、こっちに!早く!」

「は、はい!」

 晴彦に言われ久瑠美は晴彦の方へ歩み寄る。

「おのれ・・・・・・・・・貴様何奴!」

「ただの学生です。」

「邪魔するならぶほぁ!」

 突然倒れる隊長クマ。後頭部には小さなキノコがあった。

「兵士長殿!」

「兵士長殿!」

 部下のクマが兵士長クマを介護する中、キノコの陰からあのクマが姿を現した。

「姫!遅くなりました。」

「めっちゃええ声や!」

「そこか?」

 キノコの陰から出てきたのはアルブレヒトであった。

「お前は・・・・」

「一体何者?」

 部下クマ二人の疑問に久瑠美が答えた。

「アルブレヒト!」

 久瑠美の言葉に部下クマ二人は驚く。

「アルブレヒト?」

「クママクラーン連家最強のナイトと恐れられた、あの!」

 部下クマ二人はアルブレヒトの名を聞いて驚く。

「ヒグマーンの兵よ、よく聞け。姫の身は、このアルブレヒトが守る。たとえこの命に代えても!」

 アルブレヒトの姿に久瑠美は心を奪われる。

「くっ!出直すぞ!」

「はっ!」

 部下クマ二人は兵士長クマを担いで撤退して行った。去り際に部下クマの一人が言った。

「久瑠美姫、この次は必ず。」

 敵が去り、久瑠美はアルブレヒトの方を見る。

「アルブレヒト・・・」

 アルブレヒトは突然片膝を付く。

「姫。申し訳ありません。姫の側を離れるなと、このアルブレヒト一生の不覚。クママクラーン連家のため、姫のため、これからも――――」

 決意を言おうとした途端、久瑠美はアルブレヒトに抱き付いた。

「アルブレヒトと話せるなんて夢みたい!」

 当然抱き着かれた所にアルブレヒトは顔を赤くする。

「ひ、姫!」

 意外に堅物なクマであった。

「一体、何がどうなってるんだ?」

 晴彦はルルに聞くがルルもわからなかった。

「話は後で。ひとまず、隠れ家に行きましょう。」

 

 

 アルブレヒトに連れられ、晴彦たちはクママクラーン連家の隠れ家にいた。隠れ家がお菓子の家である。

「先程は姫を救っていただき、感謝します。」

「気にしなくていい。困った人を助けるのに理由なんていらないから。」

「なんと寛大な・・・・・いやはや、我が兵にも見習わせたいものだ。」

 晴彦とアルブレヒトが話している中、久瑠美は木の器に入れられた飲み物を飲む。

「おいしい・・・・」

「それはよかった、姫。どうぞたくさんお召し上がりください。クママクラーン連家特製のハチミツが入っております。」

 アルブレヒトが飲み物について説明すると晴彦が問う。

「こちらは状況が掴めていないのでそこから聞かせてもらいましょう。クママクラーン連家とは?」

「クママクラーン連家は、代々この森を治めてきた由緒ある一族です。」

「先程の・・・・・・・・・ヒグマーン家の兵が久瑠美ちゃんのことを“生き残り”と呼んでいたがあれはどういう?」

 久瑠美もそれが知りたく、アルブレヒトを見るとアルブレヒトは頷いた。

「ある日突然、北の国から、ヒグマーンと言う一族がこの森に攻め入って来たのです。」

「さっきの連中だね。」

 ルルが指摘すると久瑠美は反応する。ルルの言葉にアルブレヒトは「はい。」と返事をした。アルブレヒトは、過去攻め入られた光景を思い出した。

「突然の襲来に為す術もなく、国王陛下ご夫妻は、非業のご最期を。家臣一丸となり、何とか姫だけは守り抜いたのです。この上は一旦身を隠し、いずれクママクラーン連家を再考しようと考えていたのですが・・・・・・宿敵ヒグマーン家のサーモン王子が久瑠美姫を妃に迎えたいと言い出したのです。サーモン王子の差し向けた追手から逃げる際、不覚にも、姫を見失ってしまい・・・・・・・・・・・旅のお方、久瑠美姫をお守りくださり、感謝の言葉もありません。」

 アルブレヒトは席から降りると片膝を付いて頭を下げる。

「旅のお方・・・・」

「って設定になっているんだね。付いて来てる、久瑠美ちゃん?」

 ルルが久瑠美に問うが、付いて来れてはいなかった。そんな中晴彦は、アルブレヒトに問う。

「アルブレヒトは、ずっと久瑠美ちゃんの側に?」

「ええ。姫が生まれた時からずっと。」

 そう言うとアルブレヒトは久瑠美の方を見て微笑む。久瑠美もその微笑みに釣られてか微笑んだ。そんな時、外で物音がした。

「何者!」

 アルブレヒトは扉の方まで駆けより、窓を覗くと家臣の三人がそこにはいた。

「お前たち・・・・」

 扉から流れ込むように家臣たちが隠れ家に入ってくる。

「おお、姫!」

「姫、よくぞ御無事で!」

「姫―――!」

「姫!」

 家臣のクマたちが来る二の元まで駆けより喜ぶ。

「我等は皆、姫に付いてまいりますぞ!」

「姫―――!」

「姫様!」

「えええええええええええ!」

 困る久瑠美にアルブレヒトは家臣に声を掛ける。

「姫はお疲れだ。暫しお休みいただく。」

 アルブレヒトの言葉に家臣の一人が「御意。」と返事をすると久瑠美の方を向いた。

「では姫、お会い出来て嬉しゅうございました。」

 そう言うと家臣たちは一礼をして部屋を後にした。

「どうしようアルブレヒト?私姫とかそんなの無理だよ。」

「姫は姫なのですから。」

「違うもん!絶対無理!出来ないよう・・・・」

 できないという久瑠美にアルブレヒトはあるものを渡した。

「さあ姫、これを。脱出する際に落とされましたよ」

 アルブレヒトから手渡されたのは持ち手がピンクの黄色い子供用の熊手であった。

「このクママクラーン連家に伝わる黄金の熊手が、いつまでも姫を守ってくれます。さて、少し当たりの様子を見てまいります。」

「アルブレヒト。」

 外へ出ようとするアルブレヒトを久瑠美は呼び止める。アルブレヒトは久瑠美の言いたいことが分かっているのか頷き、そして外に出た。

「それにしても・・・・・なんかすっごいもの背負っちゃってるね、久瑠美姫。」

 ルルは黄金の熊手のネックレスの繋目を掛けながら久瑠美に話す。

「できたよ。かわいいね。」

「ありがとうございます。」

 感謝の言葉を言われてルルは笑う。そんな時晴彦はあることに気づいた。

「そうか・・・多分ここは久瑠美ちゃんの心の中の世界なんだ。」

「心の・・・・・・・・・・・中?」

「ああ。もしかして久瑠美ちゃんは現実の方で何か大きなプレッシャーを背負っていた。それでそこから逃げ出そうと心の世界へ入り込んでしまった。久瑠美ちゃんも特異能力者だから、こういうことが起こっても不思議じゃない。」

「だけどさー、なんで心の中の世界がこんなことになっちゃってるわけ?」

 ルルが疑問を口にした。

「そこなんだよ。その手掛かりとして、久瑠美ちゃんのことを色々教えて欲しいんだけど。」

「はい。」

「まず好きな動物は?」

「クマです。」

「出身地は?」

「熊本県です。」

「じゃあ行ってみたい場所は?」

「熊野古道。」

「尊敬する人は?」

「南方熊楠さん。」

「好きな食べ物は?」

「熊の手です。」

「食べちゃうの!」

 まさかの回答にルルは驚く。

「改めてお名前は?」

「熊枕久瑠美です。」

「見事なまでのクマ尽くし。故に心の中もクマ尽くしと。」

「晴彦だったらどんな世界なんだろう?」

(俺だったら・・・・・・・・・・・・・あの赤原かあの地獄だな。)

「後、クマの王子様が大活躍するお話を読んでいます。」

「なるほど。このファンタジー感はそこから来ているのか。」

 晴彦と久瑠美は部屋を見渡す。」

「ここが・・・・・・・私の心の中?」

「正確には具現化した世界だけどね。久瑠美ちゃんは現実世界から逃げてここに来たけど、結局は自分自身の心の中だからここでも久瑠美ちゃんの悩みが反映されているんだ。」

 久瑠美は舞の言葉を思い出した。

“また何かあったらお手伝いしてね。”

「何か悩んでいるのかな?」

「実は・・・・」

 久瑠美が答えようとした途端、扉が勢いよく開いた。

「ヒグマーンの大軍が攻めてきました!」

『えっ!?』

「サーモン王子が、その先頭に!」

 

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