無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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12 久瑠美とぬいぐるみ王国②

 夕方のホセア学院のクラブで舞たち三人は話をしていた。

「久瑠美ちゃん、今日お休みだったんだって。今日もファントム退治の依頼が来てたから手伝って欲しかったんだけど。」

「もしかして、ファントムと戦うのが怖くなってしまったんでしょうか?まだ小学四年生ですから。」

 久瑠美を心配する舞と玲奈。そんな二人に小糸が言った。

「あの子なら大丈夫よ。まだ戦いには慣れてないけど、芯は強いと思う。」

「てか、なんであんたがここにいるわけ?」

「姫野先生に呼ばれたの。とにかく、あの久瑠美って子、一皮剥けばちゃんと戦えるはず。それより晴彦君は?」

「え?晴彦がどうかしたのよ?」

「そう言えば晴彦君、今日見ていませんね。」

 小糸に言われ玲奈は気づいた。

「いつもだったら早く来てるのに・・・・・・・・・・・アイツも休みかしら?」

「それはないですよ。一条君、風邪とかで休むとしても先生にちゃんと報告する人って姫野先生から聞きましたから。」

「そう言えばそうね。でもなんで・・・・・・・・・・」

 舞は考え込む。そんなとき小糸があることを聞いた。

「ねえ、晴彦ってどんな奴なの?」

「え?なに?アンタ気になんの?」

「違うわよ。ただ・・・・・・・・あいつの背中、少し寂しそうだったのよ。」

 小糸の言葉にどこかしら共感できるところがあった。

「そうね。確かにアイツは誰にでも優しいわ。でも・・・・・・優しすぎる。」

「そうですね。私も一条君のことは聞きましたけど、誰かを助けるために自分か傷ついても構わないって感じだそうです。」

「それにあの言葉。“俺だけがあの地獄で願いを叶えられた”って、どういう意味なのかしら?」

「そう言えば私の時もありました。“俺はその記憶は覚えていない”って。舞お姉さまは何か知っていますか?」

 玲奈と小糸が舞の方を見る。

「ゴメン、私も知らないの。第一晴彦自身、アーチャーとの過去しか話さなくて、それより前は全く。」

「アーチャー?」

 小糸は聞き覚えの無い言葉に復唱する。

「ああ、アンタは知らなかったわよね。アーチャーってのは晴彦を昔育ててた人の通称。本名は晴彦も知らないんだって。」

「ふーん。でもアイツ・・・・・・・・・私にあんな話してたけど、まるで自分にも当てはまることがあるみたいに話してたわ。」

 

 

 一方、久瑠美の心の世界では晴彦が久瑠美を背負ってサーモン王子から逃げていた。

「アレが久瑠美ちゃんをお姫様にしようとしているサーモン王子?」

 アルブレヒトの側を飛んでいるルルが問う。

「はい。サーモンのヒグマーン三世です。」

 アルブレヒトがそう言うとサーモン王子はメガホンで久瑠美に呼びかける。

「久瑠美姫、お待ちください!どうかこのサーモンのイクラの様に真っ赤なハートを受け取ってくださいませ!」

「例えがそれは流石に嫌だな。」

「え。イクラ嫌い。」

「あらら、告白から外しちゃってるよ。」

 晴彦が久瑠美とそう話しながら逃げているとアルブレヒトが立ち止まる。

「旅のお方!」

「はい?」

「私がここで時間を稼ぎます。どうか、その間に姫を安全な場所へ!」

 アルブレヒトの言葉に久瑠美は反応する。

「そんな・・・・・・アルブレヒト、一緒に行こう!一緒じゃなきゃ嫌だ!危ないよう!」

「姫、落ち着いて。森に細工を仕掛けてあります。」

 ヒグマーンの兵の一人が矢をつるがえ、アルブレヒトに狙いを絞る。

「そこでいくらか奴らを食い止められ―――」

 ヒグマーンの兵の矢がアルブレヒトの左わきを掠め、アルブレヒトの綿が外に出る。

「ぐあっ!」

「アルブレヒト!」

 アルブレヒトは片膝を付く。

「姫!」

「よし、いくぞ!」

 サーモン王子が一歩足を踏み入れた瞬間、足元にあったキノコを踏み潰す。その際に奇妙な音が生じた。

「ん?」

 サーモン王子がその音に気づいた途端、足元からいくつもの大きなキノコがその姿を現した。

「な、なんだこれは!?」

 キノコ地雷にパニックになるヒグマーン軍。その光景にルルは「やるねー。」と言った。

「久瑠美ちゃん、今の内に逃げるよ!」

「バイバーイ、クマさーん。」

 晴彦はアルブレヒトを回収すると久瑠美に持たせ撤退する。

「おのれ見ておれ!」

 倒れたサーモン王子が去って行く晴彦たちにそう言った。

 

 

 先ほどの場所から離れ、晴彦たちは洞穴にいた。洞穴の中で久瑠美はアルブレヒトに応急処置を施していた。

「痛い?」

「姫、申し訳ありません。」

「アルブレヒト・・・・」

 そんな光景を見ていたルルが言った。

「久瑠美ちゃんとアルブレヒトの間には、つよーい絆があるみたいだね。」

 ルルの言葉に気づいた久瑠美はアルブレヒトについて話す。

「私とアルブレヒトは、赤ちゃんの時からずっと一緒なんです。アルブレヒトは、いつも私の側にいてくれて。」

 小さな久瑠美は公園で砂場遊びをしている子供たちと一緒に遊びたそうに見ていた。

『一緒に遊びたいな。』

 久瑠美はアルブレヒトを見ると『うん、がんばる。』と言って女の子たちの方へ歩み寄る。

『・・・・・・・・・いれて。』

 勇気を持って久瑠美はそう言うと女の子たちは『いいよ。』『おいでおいで。』と温かく迎え入れてくれた。そのことに久瑠美は心から嬉しかった。

「それからは、少しずつだけど、いろんな人とお話しできるようになったんです。」

 その話を聞くと晴彦はわかるような表情をした。

「お兄さん?」

「ごめん、ちょっと共感できる所があってね。俺もあの頃は、人と話すことすらできなかった。それどころか、周りと違う点から自分で距離を取ってた。でも・・・・・・・アーチャーがいてくれたおかげで、今の俺があるんだ。」

「お兄さんもそんな時があったんですか?とてもそうは見えません。」

「今はね。でも昔は久瑠美ちゃん以上に自分を出さなかったよ。」

 そんな時地鳴りがした。

「何!?」

「デカいな。」

 晴彦とルルが洞穴から身を乗り出して外を見るとそこには足がキャタピラのクマロボットがいた。

「現実的なロボットだな。」

「そこ気にするところ!てか、なんじゃこりゃー!またクマだよ!クマったなこりゃ。」

「下らんこと言ってる場合じゃないだろ。」

 晴彦は久瑠美の方を向く。

「久瑠美ちゃん!」

 晴彦は久瑠美の名を呼ぶ。解放されているアルブレヒトは久瑠美に言った。

「姫・・・・・・・どうか・・・・・逃げてください。ここは・・・・・わたしが・・・・」

 アルブレヒトは痛めた体に鞭を打ち、動こうとする。

「アルブレヒト・・・・・」

「久瑠美ちゃん、早く逃げるよ!」

「ヤバイよヤバイよ!」

 晴彦とルルが促す中、サーモン王子はボタンを押す。するとクマロボの加えていたサケから砲弾が飛んでくる。晴彦は熾天覆う七つの天環で入り口付近にくる砲弾を防ぐ。

「はっはっは、久瑠美姫!」

 逃げる手立てがない久瑠美に逃げ場がないと思ったサーモン王子は笑う。

「姫。早く、お逃げください。」

 逃げるように促すアルブレヒトに久瑠美は自分なりの答えを出した。

「私が・・・・・・・私が行きます!」

 その言葉にアルブレヒトとルルは驚いたが、晴彦はその声を待っていたかのような顔をした。

「いけません、姫。」

「大丈夫。今まではアルブレヒトが私を守ってくれてたから、今度は私がアルブレヒトを守る番。たとえ・・・・・この命に代えても。」

「う~ん、ちょっと不正解かな?」

「え?」

 晴彦の言葉に久瑠美は間抜けな声を出してしまう。

「大事な人思うなら、生きて帰ることを思って欲しい。死んだら・・・・・その人にはあえなくなっちゃうから。」

「お兄さん・・・・・・うん。」

「それともう一つ。これはアーチャーからの受け売りなんだけど、“常に勝つイメージを頭に描け”。これはね、いつでも勝つことを意識しろって話なんだ。分かる?」

「うん!私、アルブレヒトを守るために絶対戻ってくる!」

 久瑠美はそう言うと洞穴の外に出る。

「晴彦、いいの?」

「あれでいいんだ。ここは久瑠美ちゃんの心の中。久瑠美ちゃんの不安や恐怖があれなら、倒すのはアルブレヒトでなれば俺でもない。久瑠美ちゃん自身がそれに向き合う必要があるんだよ。」

 晴彦がルルに説明するとサーモン王子が久瑠美に言う。

「久瑠美姫、さーこちらへ!」

 サーモン王子はクマロボの奥に入るとコックピットへ移動。頭のヘルメットにプラグが刺され、クマロボが本格的に起動する。

「久瑠美姫、私の妃になるのです!」 

クマロボが止まると久瑠美はサーモン王子と対峙する。日が昇ると共にサーモン王子はロボット越しに言う。

「さあ、こちらへ。どうか私の妃に。ヒグマーン家の栄光のため!」

 その言葉に対し久瑠美は言った。

「お断りします。」

「なに!?」

「お断りします!」

 その時であった。久瑠美の下げている黄金の熊手が赤く光る。

「私は・・・・・・・・・戦います!お兄さんとお姉さんおチームの一員として、そして、大切なアルブレヒトを守るために!」

 久瑠美は変身する。服装は女子高生の制服。手には大きくなった黄金の熊手があった。

「わお。面白いねー。」

「クママクラーン連家の襲う災いを薙ぎ払い、幸運をかき集めると言うゴールデンベアハンド!今正に、伝説が蘇ろうとしている!」

 アルブレヒトが久瑠美の持つ熊手を解説する。

「行きます!」

 久瑠美はクマロボに向かい正面からゴールデンベアハンドを振り下ろそうとする。

「いやぁあああああああああああああ!」

「小癪な!」

 クマロボは右腕を振り下ろす。ゴールデンベアハンドとクマロボのアタックがぶつかり、突風が生まれる。

「ぐぅうううううう!」

「くぅうううううう!」

 一見互角に思える光景だがクマロボのモニターに“危険”と“注意”の警告が流れる。

 二人のぶつかり合いによって大地が盛り上がる。そしてぶつかっているところを中心に光が発生し、そしてクマロボは消滅した。

 

 

「参りました。」

 サーモン王子は土下座をして降伏宣言をする。

「では、これにて失礼いたします。」

 大人しく去って行くサーモン王子。

(なんであんなに頑固になったんだか。)

 晴彦は最初と最後の温度差に困惑する。

「よかったね、久瑠美ちゃん。」

「はい。」

 ルルの言葉に久瑠美は返事をした。そこへアルブレヒトが傷口を抑えながら久瑠美の方へと来る。

「っ!アルブレヒトー!」

 久瑠美はアルブレヒトに跳び付く。久瑠美とアルブレヒトは互いにうれしい表情をしていた。

(久瑠美ちゃん、ありがとう。)

 アルブレヒトがそう思うと世界に変化が起こり。森も、隠れ家も洞穴もすべてシャボン玉へと変わっていった。

 

 

 久瑠美は後ろに倒れそうになるが晴彦が支える。

「久瑠美ちゃん、お帰り。」

「はい。」

「戻った!なんで?」

 突然のことにルルは戸惑う。

「久瑠美ちゃんが心の中の世界でちゃんとプレッシャーに打ち勝ったから、戻ってこられたんだよ。」

 久瑠美は応急処置をしたところのリボンを外すと切れたアルブレヒトの腹の傷はなくなっていた。

「アルブレヒト。」

 目の前のアルブレヒトは人形に戻ってしまっていた。

「久瑠美ちゃん、向こうの世界で言いかけてた悩みって、解決した?」

「はい。お兄さん、ありがとうございました。」

 久瑠美は晴彦に頭を下げる。

「どういたしまして。でも久瑠美ちゃんが一番頑張ってたよ。じゃ、行こうか。」

「はい。」

 

 

 最初に晴彦がクラブに入る。

「遅くなりました。」

「晴彦。」

「晴彦君!」

「晴彦・・・」

 晴彦の後に続いて久瑠美が入ってくる。

「久瑠美ちゃん!」

「来てくれたんだ!」

 久瑠美が来てくれたことに舞と玲奈は喜ぶ。久瑠美はお辞儀をして挨拶をする。

「晴彦、今までどうしてたの?」

「すみません、ちょっとあって。」

「まあいいわ。そのことは後回し。ファントム退治の依頼が来てる。久瑠美ちゃんにも、手伝って欲しいの。」

 その言葉に晴彦は久瑠美に問う。

「どうする、久瑠美ちゃん?」

 晴彦の言葉に久瑠美はクラブに足を踏み入れ言った。

「はい、頑張ります!」

 そんな久瑠美に小糸は言った。

「一皮剥けたみたいね。」

「じゃ、いくわよ。」

 舞の言葉に久瑠美は「はい。」と返事をした。

 舞たちは廊下へ出ると、久瑠美はアルブレヒトを見て言った。

「行こう、アルブレヒト。」

 舞たちを追う様に久瑠美は走った。

 

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