無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
授業中のホセア学院の晴彦のクラスではほとんどの生徒が寝ていた。晴彦自身は寝ていないが。「ガァ―――――――、ゴォ――――――。」と、晴彦の前の席に座っている翔介が盛大なイビキを掻きながら居眠りをしている。
「拙僧ないな。ん?」
晴彦はふと周りを見ると教室の生徒が猫のように眠っていた。
「なんだ?」
そして遂には教師までもが授業中にも関わらず眠っていた。
「先生まで!?」
昼休みの時間。翔介はグラウンドで寝ている生徒を見ていた。
「いささかダレ過ぎじゃないか?誰もかれも昼間っからゴロゴロと。」
「「翔介が言うな。」」
ルルと晴彦がツッコミを入れる。
「梅雨のせいでサーカディアンリズムが乱れているからかもな。」
「さー・・・・なに?」
「サーカディアンリズム、つまり体内時計のことだ。夜型の生活をしたり、日光を浴びなかったりすると乱れるんだ。地下トンネルなんかをしている人たちにも見られるんだ。」
ルルの問いに分かりやすく説明する晴彦。
「乱れるか・・・・・・・・・なんかいい響きだな。」
「何考えてんだよっと!」
「ヘブッ!」
翔介の頭に晴彦は重い拳を振り下ろした。
場所は変わって食堂。食堂には昼食にと生徒たちが集まっていた。
「んで、何喰う晴彦?」
食券の前で考えている翔介が晴彦に問う。
「あ、魚とか美味そうだよな。」
翔介がそう言っていると晴彦は鼻に入ってくる匂いに反応する。
「この匂い・・・・」
「あ?どうした?」
晴彦が辺りを見渡すと舞と玲奈が一緒の席で食事をしていた。
「あ、晴彦!おーい、一緒に食べよーよー。」
舞のトレイには魚定食が乗せられていた。
(やっぱり魚・・・・・・・・・でもなんで今日に限って皆魚なんだ?)
晴彦はふと疑問に思ったが、そんなことは置いておいて食券を買い、舞と一緒に食事をし始める。
「で、翔介は焼き魚定食にしたんだ。」
「晴彦君は牛丼なんですね。」
「安くてボリュームがあるので。」
玲奈の言葉に晴彦は答えた。
「なんだよ晴彦。ま、俺は今日は無性に魚が食べたくなったからな。」
「私も何です。」
「おいしいよね、魚。」
翔介の言葉に舞と玲奈は相槌を打つ。
「そうっすよね。美味い、美味すぎる!」
翔介もバクバクと魚定食の魚を平らげる。
ふと翔介が周りを見ると、皆同じように魚定食を食べていた。
「しっかしこうして見ると、みんな魚定食ばっかだな。」
「確かにそうね。」
翔介の言葉に舞は納得する。
「おうおう、お魚ブーム到来ですかい?」
ルルが周りを見てそう言った。
「ごちそうさまでした。じゃあ翔介、俺ちょっと散歩してくるわ。」
晴彦はそう言うと食堂を後にした。
「皆見事に昼寝しているな。まあ、ヒッキーよりは・・・・・・・・・・ん?」
晴彦が中庭を歩いていると木陰のかかったベンチで昼寝をしている小糸の姿があった。
「あんな格好で・・・・・・・・・・風邪引くぞ。」
晴彦はそう言うと毛布を投影する。
「なんだろう、こうしてやってると、とても落ち着く。わっ!」
晴彦が小糸に毛布を掛ける。
「いくら梅雨明けだからと言っても腹冷やすよ。」
「晴彦・・・・」
そんな時であった。「にゃ~。」っと、猫の声がどこからか聞こえてくる。
「「っ!?」」
二人はその声に気づいた。そのすぐ後に鈴の音が聞こえる。
晴彦は小糸に付いて音の元まで共に道が整備されている森の中を歩き始める。
「こんなところに道があったんだね。」
「私も知らなかった。」
するとまた鈴の音がなった。二人が森を抜けると立ち入り禁止の立札に厳重に柵で覆われている古い洋館が目に映った。柵には植物が絡みついていた。
「これは?」
「古い洋館だよね。」
「それは猫屋敷ね。」
晴彦と小糸は舞にその洋館についてクラブで尋ねた。
「猫屋敷ですか?」
「あー、あれが。」
玲奈はふと疑問に思い、晴彦は納得していた。
「うん。昔は寄宿舎だったらしいんだけど、今は使われていなくて、元々管理人さんが猫好きで、近所の猫たちが集まってて、空き家になっても何匹か野良猫が住み着いてたらしいの。ちょくちょく猫好きな生徒も出入りしていたらしいんだけど、何分古い建物でしょ。ちょっとした不注意で怪我する子が出てしまって、当然保護者会やら何やらで大人たちが怒っちゃって。猫はすべて処分、建物は立ち入り禁止になったわけ。」
「かわいそうですね、猫ちゃんたち。」
玲奈が同情する。
「確かに。第一問題の根源は無責任な飼い主に責任があるのに、それを人間の勝手な都合で処分だのなんだのと、まあ身勝手なものだ。最近の大人はすぐに過保護になる。高校生とかにもなれば自分の行動にも責任を持つべきであるから、怪我くらいでギャーギャー騒ぐのはどうかと思うな。」
「それで、猫屋敷がどうかしたの?」
舞が小糸に問う。
「いえ、別に。先に帰るわ。」
「ほーい。」
晴彦は小糸を見送った。
「あー、しっかし今日は眠いわねー。」
「わたしもですー。」
「そうですけど二人共、男子がいるっての忘れてませんか?」
晴彦は二人を見る。二人は椅子の上で両足を着いて座っていた。そのことを指摘されて玲奈はすぐに直すが、舞は屁理屈を言う。
「私たちだけじゃないでしょ。」
舞は窓の方を指さす。
「朝からみーんなあんな感じだし。」
「どこもかしこもだな。」
「虫刺され大丈夫かな?」
ルルは別のことを心配していると、クラブに久瑠美が入って来た。
「すみません。」
「久瑠美ちゃん。」
久瑠美が来たことに玲奈が反応する。
「あの、今日はみなさんに相談したいことがありまして。」
久瑠美はクラブ内に入り椅子に座ると体を伸ばす。
「すみません。どうにも眠くって。」
「いいのいいの。」
「私たちも釣られちゃいましたから。」
「というか、何やってんだアンタら!」
舞と玲奈は猫のように体を伸ばした。
「晴彦は何ともないのね。」
「いや、俺がおかしいんじゃないから。今日に限って皆がおかしいだけだから!」
晴彦がツッコミを入れると久瑠美が話し始める。
「高等部の皆さんもこんな感じなんですね。初等部もなんです。」
「時代はちょーゆとりかも。」
「ゆとりどころかゆるゆるですね。」
「な、なんでしょうかね、これ?」
晴彦は学院全体の状況に頭が付いて来られなくなった。
「てか久瑠美ちゃん、相談って何?」
「あ、そうでした。実は・・・・」
ところ変わって久瑠美の友達の家。晴彦以外の二人は猫座りをしていた。
「猫を探すのを手伝っていただきたいんです。」
「猫ちゃん?」
「なーんだ、ファントムが出たのかと思った。」
久瑠美の言葉を玲奈が復唱し、舞はファントムでないことにがっかりする。
「また変な座り方ですよ。」
「すみません。」
晴彦に指摘され玲奈は謝る。
「それで猫って?」
「ありなちゃんが飼っている猫のルドルフが迷子になってしまって。」
「あちこち探しまわったんですけど、見つからなくって。久瑠美ちゃんに話したら、頼りになるお兄さんたちがいるから相談してみてくれるって言ってくれたんです。」
「そっか。久瑠美ちゃん友達を心配して。」
「わかった。私たちも探すの協力する。」
舞の言葉に久瑠美と有菜は喜ぶ。
「「ありがとうございます。」」
お礼を言う二人。そんな時、玲奈が問う。
「どんな猫なんですか?」
「はい。えっと・・・これがルドルフです」
ありなはスマホに撮っている動画のルドルフを見せる。
「まぁ、可愛いですねー。」
「晴彦、アンタルドルフの絵を描いて。」
「尋ね猫のポスターですね。分かりました。」
晴彦はスケッチブックにルドルフを描く。
「うわー、お兄ちゃん絵、上手。すごーい。」
ありなは晴彦を褒める。
「ありがと。」
晴彦、舞、久瑠美、玲奈は猫ショップにポスターを張ることを店員と相談し、張ってもらえることにしてもらった。
「ありがとうございました。」
「助かります。」
「見つかるといいんですけど・・・」
不安になる久瑠美に舞は答えた。
「そうね。この通りのスーパーにも張らせてもらいましょう。」
「明日には目ぼしい所を本格的に捜索しましょうか。」
「うん。」
舞は頷きながら答える。すると晴彦が玲奈を見て気づいた。
「玲奈ちゃん?何してるの?」
「ほえっ!」
突然のことに玲奈は声を上げる。
「っ!?これって・・・・・・・・・」
玲奈がまじまじと見ていたのは袋タイプのキャットフードであった
「な、なんていい香りなの!食欲を喚起する魔性の城ね!」
「先輩、貧乏だからってこういう手段に出ますか!」
晴彦は舞の頭を叩く。すると舞は正気に戻った。
「戻ってきました、先輩?」
「え、ええ。て、何でキャットフードになんかに食い付いてるのよー。」
「それ先輩ですから。てか大丈夫ですか?今朝と言い、今と言い。」
そんな時ルルが猫のおもちゃのねじこじゃらしを持って来た。
「みてみてー、面白いもの見つけたよー!」
その光景に舞、玲奈、久瑠美が反応する。
「これね、すっごく揺れるの。面白いでしょー。」
ルルが猫じゃらしを振るうと最初に舞が飛び掛かる。ルルはそれを間一髪回避する。
「危ない!何よいきなり?」
更に追撃で久瑠美と玲奈が飛び掛かってくる。
「お三方、大丈夫!」
晴彦が心配する。ルルは二人も回避する。
「もー、ルルちゃん怒るよ!」
ルルの言葉に三人は正気に戻る。
「なにをやっているのでしょう、私たち?」
「本当だよ!」
玲奈の言葉にルルは怒っていた。
「あれ?」
「猫じゃないんだから。」
「恥ずかしい・・・」
一方その頃小糸は猫屋敷の前で突っ立っていた。
(やはり気のせい?)
小糸がそう思った途端、雲が太陽を隠し、窓に影を差すと窓の奥に何かが見えた。
「っ!?」
翌日、みんな眠そうに登校する中晴彦は普通に登校していた。
「やっぱみんな変になってる。」
「そお?」
「いやおかしいだろ。スーパーに買い出しに行ったら魚だけが異常なまでに減ってたんだぞ。しかも翔介に聞いたらすぐにゴロゴロしたっていうから。それに跳んでるGも追いかける始末。これじゃあまるで・・・・?」
晴彦がグラウンドを見ると猫耳に猫尻尾を生やしたサッカー部がサッカーボールで遊んでいた。さらに野球部も硬式のボールを追いかけていた。おまけに陸上部のハードル選手までもが猫のように飛んでいた。
「みんな猫みたいだねー。」
ルルがそう言うと玲奈が晴彦に声を掛けてきた。
「晴彦君。」
「玲奈ちゃん?」
「お、おはよ。」
玲奈はなぜか鞄で尻を隠し、帽子を被っていた。
「・・・・・・・・・・・なんで帽子?」
「ほっほー、お嬢さん。何やら秘め事の匂いがしますぞ!」
ルルはそう言うと玲奈の帽子を強引に取ろうとする。
「おいルル、それは流石に・・・」
ルルとの攻防の末、玲奈は倒れる。その拍子に帽子が取れ、なんと白い猫耳に白い尻尾が生えた玲奈の姿があらわになった。
「なっ!」
「おー!」
晴彦は玲奈に手を差し出し、立たせる。
「すみません。」
「一体どうしたの?すごく似合って可愛いけど、今日はハロウィンでも二月二十二日でもないでしょ?」
晴彦の言葉に玲奈は答えた。
「これ、仮装じゃないんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
「ちょっと晴彦、アンタ何玲奈イジメてるの?」
声を掛けてきた方を見ると舞は茶色、小糸は黒の猫耳と猫尻尾が生えていた。
「舞お姉さま!」
「小糸さんまで!二人共似合ってて可愛いけど。」
刹那、舞の膝蹴りが晴彦の顔面に炸裂した。
「なんでさ――――――――――!」
「しょ、正直な意見を言うんじゃないわよ////////////」
舞も小糸も顔を赤くしていた。
(ジゴロってスゲー。)
その光景を見ていた誰もが思った。
「舞お姉さま、これって何かの祟りですか?」
「いいえ。これはきっとファントムの仕業よ。」
小糸の言葉に一同は驚いた。