無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
その日、世界は一変した。
「朝からずっとこうなのー。」
「なんなのこれ?」
「どーやったら取れるんだよ?」
突然身に起きたことに生徒たちは困惑する。その光景を見たルルが思ったことを口にした。
「まるで猫の学校だねー。」
「確かに。」
「猫化してない人がいるのは、何が違うんだろう?」
舞がふと疑問に思った。
「成長ホルモンがたくさん出ている人からなりやすいのではないでしょうか?スポーツしている運動部の生徒とか、ひょっとしたらよく寝ている人もその対象かもしれません。」
「寝る子は育つってこと?」
「多分。」
そんな時晴彦の服を誰かが引っ張った。
「久瑠美ちゃん!」
ツインテールでよくは見えないが久瑠美も猫化していた。
「晴彦お兄にゃん。」
「ちょっ!」
猫語が混じったことに晴彦は驚く。
「だめにゃ。上手く喋れにゃい。」
「久瑠美ちゃん。」
「にゃんか変な感じ!」
久瑠美のネコ科の重度に玲奈はショックを受ける。
「成長ホルモン出まくりだから、猫化も早いのか。」
舞が冷静に分析する。
「このまま猫化が進んだらどうしましょう?」
玲奈が不安になったことを口にする。
「小糸さん、さっきのファントムの仕業ってのは?」
晴彦の言葉に小糸は答える。
「猫屋敷よ。」
「え。」
「昨日一緒に猫の声聞いたでしょ。あの猫屋敷から猫の声が聞こえて、かすかにファントムの気配がした。今もその気配は強くなってきている。時を同じくして、生徒たちの猫化も始まった。きっと関係があると思う。」
小糸の言葉に晴彦たちは猫屋敷へと向かった。
「で、なんで晴彦が猫耳と尻尾付けてるわけ?」
「いや、なんかしなきゃいけないと思って。」
晴彦は黒の猫耳と尻尾を投影し、疑似猫化をしていた。因みに色は黒。
(私と同じ色/////)
小糸は心なしか嬉しそうであった。
猫屋敷の前で不安になった久瑠美は猫耳をピクピク動かした。
「どお?」
「変わらない強い反応。」
舞の言葉に小糸は答えた。ルルは冗談半分で「それアタシじゃないの?」と聞くと小糸は答えた。
「貴方とは違う気配よ。」
「んじゃ、いっちょファントム退治、行っちゃいますか。」
舞がそう言った途端、鈴の音が聞こえたすぐ後で「みゃお。」っと猫の声が聞こえた。
「っ!ルニョルフ!」
久瑠美が声を上げると舞がその名を復唱する。
「ルドルフ?」
「にゃ、似てる!」
「似てる?この声がルドルフに?」
久瑠美の言葉に玲奈は信じられないと思った。
「じゃあここに。ルドルフが?」
舞は猫屋敷を見る。晴彦が干将と莫耶で柵を壊し、猫屋敷の中へと入る。
「開いてる。」
「失礼しまーす。」
開いていることをルルが口にし、晴彦が一応言葉を掛ける。
「おー、これまた古い作りですなー。」
「電気は?」
ルルが感心し、舞が気になったことを口にすると玲奈が答える。
「今は通ってないみたいです。」
「雰囲気あるねー。」
「日が沈む前には片付けたいな。」
晴彦がそう言うと一同中へと入る。すると突然扉が閉まり、大きな音が立つ。そのことに驚いた玲奈は晴彦の背中に跳び付いた。
「す、すみません。」
「気にしなくていい。けどヤバイな。音にびっくりするとなると猫化の進行が・・・」
「はーい、いったん離れとこっかー。」
舞が二人の間に入り離す。
「どうかしましたか、先輩?」
「べーつにー。日が沈む前に終わらせるんでしょ?」
舞はそう言うと先に進んだ。
最初に訪れたのは001の部屋である。
「そんなに部屋数はないみたいですね。」
「楽勝。」
小糸がそう言うと晴彦が開ける。中は空っぽの部屋であった。
「うわかび臭ーい。」
「どのくらい古いんでしょう?」
「見た目以上に傷んでますな。」
一同部屋の中を捜索する。すると晴彦が机の引き出しに入っていた懐中時計と二枚の写真を見つけた。一枚には猫をあやしている女性生徒三人が写っていた。あやしている一匹の猫は緑と紫のオッドアイをしていた。
「具合はどう?」
「はい、にゃんとか。」
舞は玲奈を心配する。
「ファントムの反応はどうですか?」
玲奈が小糸に問う。
「ずっといて、きっと近い。」
晴彦たちはルドルフとファントムの両方を探すが一向に見つからない。
「ルドルフ、見つからないなー。」
「子猫で体小さいですしねー。」
そんな時鈴の音と猫の声が聞こえた。
「声は聞こえるのに。」
「生きているのか、それとも・・・・」
玲奈が口にすると小糸が二つの可能性を口にする。
「まるでシュレディンガーの猫みたいね。」
「シュレディンガー?」
舞がそう言うと聞き覚えの無い言葉を玲奈は復唱する。
「放射性物質と猛毒の入った箱に猫を入れてその箱を開けてみるまで猫は生きている状態と死んでいる状態が重なって存在してるって言う。」
「まあ、そんなバカのなことは有りえないってのが、シュレディンガーさんの言いたかったことなんですけどね。」
「小難しいことはともかく、ルドルフがどうなっているか、ちゃんと確認するしかないってことよね。」
「ルニョルフは生きてまにゅ!」
舞の言葉に久瑠美は声を上げる。目には涙を溜めていた。
「そうね、ルドルフは生きてるわ。当たり前よね。」
「もちろんだよ。」
晴彦は久瑠美に近づく。
「ごめんね、心配させちゃって。でも俺たちは、ルドルフが生きてるって信じてるから。さ、ルドルフを探しに行こう。」
晴彦は泣きそうな久瑠美を励ました。
そして次の部屋、次の部屋と探し回る。
「似たような部屋ばかりだから。」
「いくつ部屋を探したのかもう・・・」
「これひょっとしてどこかでループしてない?」
「そんなことは・・・・・」
「早くしないと日が暮れてしまう。」
「ルニョルフ―!」
一同声を掛け探す中、晴彦はあることに気づいた。
「・・・・・ちょっと待てよ、おかしい。」
「何がおかしいのよ?」
「さっき階段を上って気づいたんですけど、一階は001、二階は011ってなってました。で、さっきの部屋は065何か気づきませんか?」
「・・・・・・・そっか。確かにおかしい。ここ、六階も無い。」
「ええ。それにさっきから見てるんですけど・・・・皆さんにはどう見えます?」
晴彦が舞たちに問う。
「まだ日が高いわよ。」
「そうでしょうか?」
晴彦たちが部屋を捜索している中、部屋の番号がダイヤル式で変わっていた。そのことに気づかぬまま晴彦たちは捜索を続ける。
「なんか寒くないですか?」
「涼しいくらいじゃない?」
「風を感じる。ファントムは近くにいる。」
そんな時、晴彦の前にアーチャーが現れる。
「目の前のものが真実ではない。そもそもそこのどこにファントムはいる?」
「っ!?」
久瑠美が両膝を床に付く。それと同時に晴彦は現実に戻された。舞が久瑠美を心配する。
「大丈夫?」
「あれ?どうしてたんだろう?」
「頭がぼーっとします。」
ルルと玲奈も現実に戻される。
「猫化が進んでる。とにかく、休めるところへ。」
舞の言葉に従い晴彦たちは場所を移す。入った部屋には長机と椅子が並べられていた。
「ここは・・・・」
「食堂か何かかな?」
ルルが辺りを見渡す。
すると鈴の音が鳴り響き、目の前にルドルフがいた。
「ルニョルフ!」
久瑠美がルドルフを見て声を上げる。するとルドルフがいた椅子がルドルフを巻き込む。
「ちょっと!」
「まさかここでファントムが!」
「マズイ、扉が固定された。」
「窓は!」
「開かないですし、この高さから飛び降りても・・・・・」
「・・・・・・・・そうか。」
その時晴彦は気づいた。
「何に気づいたのよ、晴彦?」
「俺たちはファントムを探していました。でも見つからない。でもそうじゃないんです。見つからないんじゃなくて、見つけていなかったんです。」
「どういうことよ?」
「小糸さん、ファントムの気配は?」
「ずっといる。けど・・・・・・・あれ?なんでずっといるの?逃げているなら少し離れて・・・・・まさか!」
「そのまさかだよ。俺たちは・・・・」
部屋の床がナミの様にしなり、晴彦たちを浮かせる。天井には紫と緑のオッドアイが現れた。
「ファントムの中にいたんです!」
「そうと分かったなら!」
舞は構え、小糸は詠唱する。
「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べて、焔を知らしめせ!」
小糸の詠唱が終わると共に舞は久瑠美をお姫様抱っこで着地する。そして小糸は「あー。」と声を出す。ファントムは悲鳴を上げるがそれと同時に熱さが部屋に充満した。
「あっつ!これってヤバくないか?」
「五行万象を発生し、師にして鍾なる水の気は火を吸い込む。腎の水気で拳を満たさん!」
舞が天井に向かい右拳を繰り出す。衝撃によって天井の一部か崩れる。
「ストップストップ!ここで暴れたら俺たち死にますよ!」
「そんなこと言いったって・・・・・・晴彦、封印は?」
「中なんで無理です。玲奈ちゃんは?」
「内側からは無理です。」
そんな得天上からたくさんの大きなボールが降ってくる。舞たちは驚くが更にキャットタワーも降って来た。
「これって・・・・・・・」
「キャットタワーだ!」
「猫が喜びそうなものばかり・・・」
「抱き付かないで。」
「我慢なさい!」
舞は珍しく小糸に抱き着いた。
「そうか・・・・・・・・・・・・こいつは・・・・・」
「何よ晴彦、何か気づいたの?」
「これはこいつの願望なんです。」
『願望?』
晴彦の言葉が分からない舞たち。そんな時、久瑠美がキャットタワーに入る。
「ルニョルフ!」
「久瑠美ちゃん!」
玲奈が声を上げる。
「正解だ、久瑠美ちゃん!」
晴彦もキャットタワーの中に入る。
「待ってください!」
「登りたい・・・・」
「今は我慢しなさい!」
そして一同はキャットタワーの中に入る。久瑠美を先頭にほふく前進で茂みの中を進む。
(そっか。お前はずっと人を・・・・・)
「ちょっと、変なところ蹴らないでよ!」
晴彦の後ろにいた舞が晴彦に文句を言う。
「仕方ないでしょ!狭いんですから!」
その時であった突然足元が無くなり、晴彦たちは落ちる。
晴彦たちが不思議な空間に落ちた。
「晴彦、大丈夫?」
ルルが晴彦に声を掛ける。
「ここは・・・・・・どこだ?」
「さあ。」
「晴彦、あれ。」
舞が指を指す方向を見るとそこには家と一体化した化け猫がいた。
「あれは・・・・・・」
ファントムの側にはホログラム状の猫をあやしている女子生徒たちが側にいた。
「そっか・・・・・・・・・・・・・お前はずっと待ってたんだよな。帰ってくる日を信じて。」
晴彦はファントムに近づくと顔を撫でる。
「さみしいよな、つらいよな。」
そんな晴彦とファントムの光景を見て玲奈と久瑠美も近づき、ファントムに声を掛ける。
「お願い、お屋敷ファントムさん。貴方の寂しさは感じる。お屋敷がにぎわってた頃の幻覚を作り出す気持ちも。幾多の季節を廻った孤独や悲しみさえも。
でも、寂しいのは貴方だけじゃない。ここに迷い込んだ子猫を返してほしいの。」
玲奈がそう言うと久瑠美は猫語でファントムに語り掛ける。
(お願い、ファントムさーん。)
久瑠美が必死に語り掛け、一方の存在が消滅し、残った一方が残った。
ファントムの頭に乗せていたルドルフを久瑠美に返してあげた。
「ルドルフ!ありがとう!」
玲奈がファントムに抱き着く。ファントムは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。」
晴彦も微笑む。
「通じた・・・・」
舞は通じたことに驚いた。すると晴彦があることを口にした。
「抽象的自我のおかげですね。」
「なにそれ?」
「人の“ココロ”や“意識”が物体の状態を観測した結果に作用するって考え方です。」
「人の心が?」
「ええ。ただ、あまり科学的でない考え方ですし、発表された当時はあまり評判も良くはありませんでした。でもこの考え方は、俺は正しいとも捉えられます。そもそもシュレディンガーの猫はこの解釈に対する批判として出されたパラドックスなんですけどね。」
「ふーん・・・・・・・・・・よくわからないわね。」
「ようするに、久瑠美ちゃんたちの気持ちがルドルフを命あるものに固定したというか・・・・・・・・この話はまた時間がある時に。」
そして空間は元の姿に戻り、舞たちの猫耳と尻尾は消えた。
「戻った!」
「やっぱり猫屋敷ファントムが皆を猫化させていたんだ。」
「やっと喋れる。」
声が戻った久瑠美は安堵を吐く。
「よかったわね。ルドルフ見つかって。」
「はい。」
「でもどうして?」
ふと舞が疑問を持った。
「前はここにたくさんの猫がいたのに居なくなって寂しかったんだそうです。」
「きっとルドルフが屋敷に入り込んだのがきっかけで猫たちに会いたい気持ちが募ったのかもしれませんね。」
久瑠美の答えに晴彦が憶測を言う。
「その気持ちが周囲に放射されて、人々を猫にしてしまった。」
「皆さん、もう一仕事、してみませんか?」
玲奈があることを提案した。
そして舞たち全員で猫屋敷の掃除を始めた。
「ねえ、みんなに言っていいかな?」
「舞お姉さま、言いたいことはわかります。」
「晴彦ってこんな一面あったんだ。」
「これってアーチャーのおかげかな?」
舞、玲奈、小糸、ルルの順に晴彦を見て驚いた。
「ふはははは!この程度の汚れが落とせなくて何が一条か!」
アーチャーの“何が衛宮か!”が伝染したのか、晴彦も掃除スキルが上がった。故に、猫屋敷の汚れを殲滅するためのスイッチが入った。
「でもこうして綺麗にして挙げて、またみんなが出入りするようになれば、この御屋敷も寂しくなくなるんじゃないかと思って。」
玲奈の言葉に舞は「うん、そうだね。」と答えた。
そこへ久瑠美と一緒にありなが来た。
「ルドルフを見つけてくれて、ありがとうございました。」
「おそうじ手伝いに来ました。」
「ありがとう、二人共。」
掃除をしている晴彦がそう言った。そこへ掃除をしているアリスが晴彦たちに話しかける。
「皆さん、学院側に掛け合ってこの御屋敷は自由に使って構わないということになりました。ここは生徒が自由に活用できるキースペースになるそうです。」
アリスの言葉に「素敵!」と声を上げた。
「じゃあ掃除が終わったら、早速お茶会をやろう!」
『はい。』
「そうね。」
掃除が終わり、舞たちは晴彦の淹れた紅茶を飲んでいた。
「しっかしあんた、紅茶をおいしく淹れることもできるのね。」
「まあアーチャーのおかげですから。まだまだですけどね、腕前は。」
晴彦と舞はベランダでくつろいでいた。
「ふーん。でもこーして見ると普通の屋敷なのにね。」
「普通に見えていても、位置側には不確かなものに見えているかもしれないってことですよね。俺たち人間みたいに。」
晴彦の言葉に舞は若干頬を赤らめる。
「なーにかっこつけてんのよ!」
「別にそう言うつもりないんですけど。」