無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
夏。灼熱の暑さにクーラーが効いていない教室で生徒たちは授業を受けていた。大半の生徒が暑さに負け、気力を失っていた。そんな中、翔介が後ろに座っている晴彦の本が気になった。
「なあ晴彦、さっきから何やってんだ?」
「ああ、これ?“アブラメリンの指”って言ってこれが結構難しくて。」
「ふ~ん。」
授業を行っている先生ですら汗をハンカチで拭う始末である。
「うー、それにしても異常に暑いな。」
教師がグラウンドを見ると廊下から「大変だー。」っとルルの声が聞こえてくる。
「授業なんか受けてる場合じゃないよ!外!中庭!見て見て!温泉だよ!お・ん・せ・ん!」
ルルが教室に飛び入りして生徒と教師に言う。
中庭を見ればいつの間にか温泉ができていた。温泉にはたくさんの小さなサルと一つ目のボス猿が入っていた。
「これのせいで暑かったのか。」
窓から翔介と共にその光景を見ていると玲奈が声を掛ける。
「晴彦君。」
「あ、玲奈ちゃん。」
「大変なことになりましたね。」
「ああ。多分あのファントムの仕業だよ。」
晴彦は一つ目のボス猿ファントムを見る。
「あのお猿さんがこの温泉を掘り出したのでしょうか?」
晴彦たちが話していると小糸がダルそうな顔で話しかけてくる。
「いいえ。あの子ザルと温泉をひっくるめて、全部ファントムよ。」
「固有結界か。」
晴彦はツッコミを入れたが、玲奈たちは何を言っているかわからなかった。
そんなサルたちの光景を見ていた生徒たちが呟いた。
「気持ちよさそー。」
「私も全部脱いで温泉に浸かりたい!」
「もうやめなよ。はしたない。」
(女性ってナチュラルにそう言うこと男の前で言えるよな。ある意味すごいというか怖いというか・・・・・)
晴彦がそう思っていると翔介が制服を脱ぎ始める。
「こら授業は中止だな。よーし、この汗流してやるぜ!」
窓から飛び出ると同時にパン一になる翔介。
「翔介、ボスがそこにいるってことは――――」
翔介が「ひゃっほー。」と気勢を上げながら風呂に入ろうとするが落下地点にボス猿が到着するなり翔介は吹っ飛ばされた。
「—―――ボスの許可がいるって言おうとしたが遅かったようだな。」
そして翔介は星になった。
「晴彦君、封印は出来ますか?」
「残念だけど無理。温泉が白いから全身を描けないと封印は無理。玲奈ちゃんは?」
「私も相手がある程度弱ってないと・・・・」
「そっか。どうするべきか・・・・・・・・・」
今回のことで再びクラブに召集が掛かった。
「このままでは授業が始められず、夏休みに補習を行うことになります。」
アリスのその言葉に「えー!」「嘘だろ!」「ありえない!」などの声が響き渡る。
(普通に夏休みの日にちを一日削られないのだろうか?)
「いやならみなさん、全力であのファントムを退治してください。」
(鬼だ!)
晴彦がそう思った時、ふと晴彦は気づいた。
「小糸さん、大丈夫?」
「ええ・・・・・」
「・・・・・・・」
晴彦はタオルを投影すると廊下に出て水道でタオルを濡らし絞ると再びクラブに戻って小糸の首にタオルを掛ける。
「少しは良くなった?」
「ええ、ありがと////」
暑さのせいか小糸の顔が赤くなった。
一方中庭では、子ザルが暖簾の近くでレトロにコーヒー牛乳瓶の紙の蓋を開け、気持ちよく飲んでいた。そんな時、暖簾の奥から一人の生徒が制服姿で入って来る。
「一番、行くぜ!」
男子生徒にエールが送られる。ボス猿は何か面白いものを見られると思い期待する。
「舞い上がる翼、舞い降りる翼、降り立つ翼。」
男子生徒の腕に虹色の鳥が現れる。
「その鋭い爪で、邪悪なる使いを切裂け!」
虹の鳥は奇声を上げながらボス猿に特攻する。が、ボス猿に鳥は掴まれ、振り回されると羽毛を全てむしり取られた。
「ダメか。」
男子生徒はショックを受ける。
「強いな。敵ながらあっぱれ。」
「感心してる場合じゃないよ、晴彦。」
感心する晴彦にルルがツッコム。
「二番は俺だ!虹の雷!」
男子生徒が腕を振り下ろすと虹の剣が現れ、ボス猿に集中放火されるがボス猿はそれを全て掴むと放り投げ、ジャグリングをする。
「なかなかのスピードね。」
舞が感心する中、晴彦は思った。
(虹祭り?)
晴彦がそんなことを思っていると水着姿の翔介が入って来た。
「ここは俺の出番だな!とう!」
(あ、そういや虹は一つの光の拡散だから・・・・・・)
「燃えろ、燃えろ、俺の魂!今ここに!真の超絶―――」
詠唱が終わる前にボス猿のアッパースイングでまた星になった。
「一つになって白となったか。てか、噛ませ犬だなアイツ。」
「晴彦君、もうちょっと言葉を・・・・」
「それにアイツ無駄に詠唱とアクションが長いからいっつもボコられるんだけど。」
晴彦がそう言っていると暖簾の奥から三人の女子生徒の声が聞こえてくる。
「情けないですわ。」
「やれやれ。」
「水と言えばあたし達、ビーチエンジェルズ。」
ビーチエンジェルズが出たことに男子は喜ぶ。サルたちもそのことに喜んでいた
「なんで水なのにエンジェル?マーメイドとかではなくて?」
「確かにそうよね。」
晴彦の言葉に舞が相槌を打つ。
「お覚悟を。」
錫杖を持っている左の女子生徒の錫杖に付いている石が光ると温泉の水がビーチエンジェルズに集まる。すると三人の服装がスク水に変わり、真ん中の生徒はマーメイド、右の生徒は緑の鮫のサーフボードを持っていた。そして水は二頭の龍になる。二頭の龍の頭にはマーメイドとサーフボードの女子生徒がそれぞれ乗っていた。
「行きます!」
錫杖を持っている女子生徒が水の竜でボス猿に攻撃を仕掛ける。
「水龍の呪縛!」
水龍によってボス猿は球体状の水の檻に閉じ込められる。その中をマーメイドの女子生徒が旋回し水で拘束すると水のウォータースライダーが形成される。
「激流の槍!」
サーフボードの生徒がボス猿に向かい突っ込む。
「貫け!」
しかしボス猿は水の拘束を力技で解く。そのことにサーフボードの生徒は驚いてしまう。そしてボス猿は水面を力いっぱい一発叩くと水柱が発生し、三人は水に巻き込まれる。
「「ああっ!」」
「あれー!」
見事にやられた三人は子ザルによって献上される形となった。ボス猿は獲物を見る目でマーメイドエンジェルズを見ると舌を出し、右から頬、胸、頭を舐める。
「きゃー!」
「いやー!」
「あーん!」
その光景に全学院生徒が悲鳴を上げる。
「先輩方をあっさりと。すごいですね、あのファントム。」
「そこじゃない!着眼点がそこじゃない!」
感心する玲奈に晴彦はツッコミを入れる。
「それじゃあいよいよ、真打ちの出番って事ね。」
今度は舞が挑む。舞が挑むことに歓声が沸いた。そして子ザルも歓声が沸き、ボズ猿はうっとりした目で見る。
そんな時久瑠美が晴彦たちの元に来た。
「こんにちは。」
「あ、久瑠美ちゃん。」
「大丈夫でしょうか?」
心配する久瑠美。そんな久瑠美の思いを受け取ってか晴彦は舞に声を掛ける。
「先輩、温泉の中は足場が悪いです。」
「まあ見てなさい。」
舞はそう言うと風呂に全て浸かってない石にまで跳ぶ。一個先にはバナナを食べている子ザルがいた。
(回り込んで、背後から攻撃!)
舞の戦術を発動しようとした途端であった。バナナを食べ終わった子ザルがバナナの皮を投げ捨てる。運悪くバナナの皮を踏んでしまった舞は前に倒れる。
「ぬおっ!」
「初めて見た・・・・・・・・・・・・バナナの皮で転ぶ人。」
「晴彦お兄さん、気になるところ?」
晴彦にツッコミを入れる久瑠美。そして舞は足を掴まれ逆さまにボズ猿に捕まった。
「離せこの!」
ボズ猿は舞を舐めようとする。
「いやぁああああああああ!気持ち悪い!」
その光景を見ている誰もが同情した。
「強化、開始!」
晴彦は肉体を強化すると一気にボス猿にまで近づき脇に拳を叩き込む。それによってボス猿の手から舞は解放される。
「ふっ!」
晴彦はお湯を蹴って舞の元まで跳ぶとお姫様抱っこで反対方向に着地する。ボズ猿は晴彦に狙いを定める。
「ヤバ。」
「任せて下さい!アルブレヒト!」
久瑠美は温泉にアルブレヒトを投げ入れる。
「今の内に!」
「わかった!」
晴彦は舞を回収、久瑠美の元へと戻った。
「あれ?ちょっと待てよ。アルブレヒトって・・・・」
晴彦の予想通りにアルブレヒトに温泉が集まってゆく。
「なんかヤバイ。」
「膨れてる。」
「水吸ってる。」
アルブレヒトは水を吸い、巨大になる。
「ダメだ!」
アルブレヒトは前のめりに倒れた。
「アルブレヒト!」
「ぶよぶよだ。」
そんなアルブレヒトを見て子ザルたちは笑う。
「みんな情けないわね。」
「無茶するな!ただでさえ暑さで弱ってるのに!」
「任せて!開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べて、印を留め置け!」
小糸は詠唱すると「あー」と声を出す。しかし全体に攻撃をしても全くダメージはなかった。
「ダメだ!温泉が厚い壁になって拘束できない!」
「暑い・・・・」
小糸は後ろに倒れそうになる。
「ちょおい!」
晴彦は片腕に舞、片腕に小糸を抱き抱える形で回収した。
場所は再びクラブ、特異能力者生徒のほとんどがボズ猿によってリタイヤさせられたものがいたが、他にも暑さによって戦う気力を無くした者、ボス猿の餌食になりたくない者で溢れていた。
「すごい汗。」
「小糸ちゃんって意外と暑がり?」
心配しる玲奈に対しルルがそう言った。
「先輩は・・・・・・・・・・・・精神的に無理ですね。」
晴彦は舞の顔を見るなり察した。
「最悪よ。」
いつもは見ない彼女のグロッキーな表情は心中を察する。
「困りましたね。ほとんどの生徒たちがやられました。」
「てか、アイツの弱点何処?」
晴彦は考えるが、一向に答えは出なかった。
「晴彦君、投影を使った戦い方で何とかできませんか?」
「う~ん、ちょっと無理あるな。でっかい威力だと中庭どころか校舎も壊しちゃうから。いったん家に帰ってちょっと道具取ってきてもいいですか、先生?」
「ええ、いいですけど・・・・・・・・・・・何を使うつもりですか?」
「傀儡をいざと言う時に。」