無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
予備を含めた二体の傀儡を手に晴彦はクラブに戻って来た。流石の暑さに皆水着姿になっていた。
「晴彦君、なんですか、それ?」
「傀儡だよ。なんかの時のための準備って事で。それとこれ。サルに関する生態について書かれている本を家から持って来た。何かしらの役に立つかも。」
晴彦はそう言うと本を開こう落とした途端、小糸が回復した。
「小糸さん、もう大丈夫なの?」
「ええ。今度こそ私が倒してやるわ。」
「あのファントムは恐らく水の属性。小糸さんは炎だから相性が悪いよ。」
「じゃあどうするの?」
小糸がそう言うとルルが言った。
「いいじゃんこのままで。気持ちいいし。」
「アイツがお湯から出るってのは・・・・・・・・・正直最悪な策しか頭に浮かばない。」
晴彦は女子の方に視線を向けないように話す。そんな晴彦のことを察したのか玲奈が言い出す。
「あの、でしたら私が・・・・」
「エ゛ッ!」
「あの、お猿さん?あの、こっちに来て来てくれたら嬉しいな。とか、思ったり?」
玲奈は慣れない色仕掛けとウィンクをする。
(玲奈ちゃん、君ホントいい子だよ。)
孫を見る親の目線になる晴彦。
「これで上手くおびき出せるのかしら?」
「さあ。でもいきなりど素人がマタ・ハリになれってのが無理ですけど。」
「なにそれ?」
小糸が晴彦に問う。
「歴史に名を残した女スパイの名です。」
晴彦が真面目に答えるとルルが玲奈にダメ出しをする。
「玲奈ちゃん、ダメダメそんなんじゃ。こうだよこう!」
お尻を強調させるポージングを取るルルに玲奈は焦る。
「お前はオヤジか!」
晴彦のツッコミに見ていた小糸と久瑠美が頷いた。
「こ、こうですか?」
(なぜ真面目にそれをする!)
「腰、腰!」
ルルはそう言うと玲奈の尻を叩く。ルルの指示に従い尻を上げ、再び言った。
「私、お猿さんと仲良くなりたいな。」
そのポージングにボス猿は反応する。
「だめですか?」
ボズ猿は徐々に玲奈の方へと近づく。するといきなり止まり。玲奈の尻を見る。ボズ猿の上に乗っていた子ザルが奇声を上げながら両腕でバツ印を作ると玲奈にお湯が掛けられる。
「そんな・・・・・頑張ったのに・・・」
「久瑠美ちゃんに魅力を感じなかったんじゃない?」
ルルの心の無い言葉にショックを受ける。
「一時撤退!」
再びクラブ。晴彦の胸には玲奈が顔を埋めていた。
「私・・・・・・・・頑張ったのに・・・・・・」
「あー、あるよね。うん、あるよね。頑張ったのに認められないのって。」
晴彦は優しく頭を撫でながら本のページを捲る。するとある記述が目に留まった。
「・・・・・・・・・・・これは流石に頼めないな・・・・・・」
「何を見つけたのよ?」
一応回復した舞が晴彦に話しかける。
「ああ、いや。発情期の雌猿はお尻が赤くなるって記述がここに書かれているので、その追い尻を見せて雌を誘惑するって。で、今思い付いた最悪のシナリオがあるんですけど。」
「あはは。まさかアタシを使うって手じゃないでしょうね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・冗談・・・・・・・・・・・・よね?」
「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」
晴彦は舞に土下座をした。
「いやよ!また舐められろっての!」
「顔の認識をあまりされていないのが先輩しかいないんです!悲しいことに!」
「アンタは私が襲われても言い訳!」
「そうなる前に何とか手を打ってみます。」
「・・・・・・・・・」
晴彦の熱意に負け、舞はしぶしぶ晴彦の提案を受けることにした。
暖簾の裏で舞は晴彦にお尻を突き出していた。
「こういうのは一生で一度ない方がいいですよね。」
「あ、アタシだって恥ずかしいんだから早くしなさいよ!」
「はい。」
晴彦は赤いペンキを筆に付け、塗る範囲の外側を描く。
「冷た!」
(や、柔らかい・・・・・)
筆を塗る度に声を漏らす舞。その光景に晴彦は必死に耐える。
(なんかいろいろ危ない声がするけど落ち着け一条晴彦!I am the bone of my sword. I am the bone of my sword. I am the bone of my sword .I am the bone of my sword.)
暗示の様に自分に語り掛け、無理矢理無心になる晴彦。そして見事な赤いお尻を描いた。
「じゃ、行ってくる!」
「ご武運を!」
舞がサル耳を付けて暖簾をくぐると「お、来た!」「頑張れー。」との声が送られる。
(こんなんで本当に誘惑できるの?ていうか、別に晴彦が塗る必要は・・・・・・・・・でもほかの人よりかは・・・・・・・・・・・・はっ!何を考えてるの私!)
舞は頭を振って邪念を祓った。
「さあ、ここからが見せ場だよ!」
舞は前に出ると男子の歓声が沸く。そしてボス猿も舞をじっと見ていた。舞は恥ずかしがりながらも赤く塗ったお尻を見せる。
それを見た子ザルは仰向けに倒れ、ボス猿は風呂から立ち上がった。
「いいよ!舞っち最高にイケてるよ!」
ルルの言葉に晴彦はかすかに頷いた。
「きた来たキター!」
「舞先輩、もう少しですから踏ん張って!」
だが舞は舐められた時のショックで後ろに下がる。その時運悪く舞の足元にペンキが入った缶が子ザルたちによって運ばれ、そこに舞は足を突っ込んでしまう。そして舞はバランスを崩し、後ろに倒れそうになる!
「舞先輩!」
晴彦が舞を受け止めようとスケッチブックを投げ捨て、走り出した途端、またもボス猿が舞の脚を掴み、逆さにする。
「しまった!」
「イ――――――ヤ――――――――ダ―――――――――!」
その時ボス猿の脚が見える。
「今だ!スケッチブック!」
「ペンキで真っ赤になっちゃった!」
「なんでさ!仕方ない!ぶっつけ本番!」
晴彦は指を噛み切り血を出すと詠唱する。
「聖なるかな聖なるかな聖なる神の静粛あれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。」
晴彦は空中に召喚の陣を描く。
「Invoco CTHULHU !」
召喚人から大量の海水が出ると大きなピンクの蛸が姿を現した。
「タコだ!」
「よっし!行け!」
晴彦の指示にしたがクトゥルーは水を吐いた。それによって舞は解放され。ボズ猿は橋まで押される。落ちる舞を晴彦がお姫様抱っこでキャッチする。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。また舐められるかと思った。」
舞の言葉を聞いて玲奈は安堵を吐くと晴彦に問う。
「晴彦君、その蛸さんは?」
「コイツは魔導書。ネクロノミコンに記される太古の地球に君臨した偉大なる邪神、“クトゥルー”だ。」
「今どうやって召喚したの?」
小糸が問うと晴彦は答えた。
「アブラメリンの指って言ってね、絵が無くても召喚できるんだけど、今回ぶっつけ本番で試した。」
晴彦たちが話しているとボス猿が立ち上がる。そのことに気づいた久瑠美が晴彦に話す。
「お兄さん、来ます!」
ボス猿は奇声を上げながら晴彦たちの方へと飛び掛かる。
「撃ち落とせ、クトゥルー!」
クトゥルーは晴彦の言葉にしたが水を放つ。ボス猿はそれを回避するがボス猿の脚をクトゥルーの脚の一本が捉え、そして振り下ろした。
その光景を見た後で晴彦を見た舞は思った。
(すごい・・・・)
「さて、仕上げといきましょうか!」
晴彦は舞を下ろすとボス猿に狙いを絞る。
「天の鎖!(エルキドゥ)」
いくつもの神をも縛る鎖がボス猿を拘束する。
「やった!」
「玲奈ちゃん、どお?」
「わたしはちょっと。あまり食欲が進みません。」
「確かにまずそうだよね。」
ルルがそう言うと晴彦は思った。
(食欲が進むファントムなんているのか?)
「燃やすしかないわね。」
小糸のその言葉に止めて欲しいと言わんばかりに子ザルたちが声を上げる。そんな時久瑠美が気付いた。
「ちょっと待ってください。あのお猿さん、泣いているみたいです。」
「ホント。何かあったんでしょうか?」
ルルがボス猿の話を聞きに近づく。サル語でルルが話すと一匹の子ザルが答えた。そしてその話を晴彦たちにする。
『奥さんに逃げられた!』
「うん。」
「それで温泉に入って心の傷を癒してたんだって。」
「てかファントムに夫婦なんてあるの?そこにびっくりだわ。そして傷に染みる温泉に入るか普通?」
「もしかして、私が晴彦に撮られたと思って泣いてるって事?」
「多分。」
『っ!?』
舞の言葉に玲奈と小糸は反応する。
「どうでもいいけどどうするの?」
「あの大ザルの心の傷を癒してあげれば、温泉化は止まるんじゃない?」
そんなルルの言葉に玲奈は言った。
「それって・・・・・・・・誰かがあのお猿さんの花嫁になるって事でしょうか?」
女子一同それを想像し、頭を振る。
(まあ、なるなら人間の方がいいよな。)
と、そこへ水着に白衣を着たアリスが来た。
「話は聞かせてもらいました!私に任せてください!」
(なんで水着姿に白衣?)
「先生、一応できましたけど・・・・・・・・・・・・自分で言うのも何ですけど複雑な気持ちです。」
晴彦は傀儡を限りなく自分に近づけた骨格と肌にした。
「ええ、よくできてます。後はこうして。」
アリスは尻の赤いサルの衣装を晴彦人形に着せる。
「じゃ、血を流しまーす。」
晴彦は傀儡に血を垂らし、動くようにする。晴彦人形はサルたちの前にくると赤い尻を振る。
女性ならば魅力的だが男性ならばそうではない。汚物を見せられたサルたちは悶え苦しむ。が、ボス猿は結構タイプであったためか後ろに倒れる。
「気に入ったみたい。」
「奥さんじゃなくて夫に逃げられただろ!」
そして晴彦人形はボス猿と共に天の世界に行った。
「なんか・・・・・・・・・・・・複雑な気分です。」
「・・・・・・・・・・・・ドンマイ。」
地面に手を付けている晴彦の方に舞はそっと手を乗せた。