無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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1 ファントムの時代①

「ん・・・・・・・・・・・」

 晴彦は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。

 あれから月日が経ち、晴彦は今ホセア学院高等部一年に在籍していた。

 アーチャーと別れてからも一緒にやってきた日課を続けており、三十分のジョギングにストレッチをしていた。

「ふぅ・・・・・・」

 晴彦は汗を流し、自室に掛けてある制服に着替えようとした時であった。

「おっはよー、晴彦。」

「あ、おはよルル。」

 晴彦の家に小人のファントム・ルルが来た。

「相変わらず体鍛えてるけど・・・・・・・・なんでだ?」

「大事な人との習慣だから。」

「あの写真の人か?」

 ルルは飾られている写真を指さす。写真には小さい晴彦に手を回しているアーチャーの姿が写った写真があった。

「ああ。あの人と過ごした時間は、俺にとって大事な時間だからな。」

「ふーん。おっ!晴彦、砂時計の上の部分が全てなくなっているぞ。」

「本当か!」

 ルルの言葉に晴彦は反応する。ルルの言葉通り、確かに砂時計の石は全て落ち、代わりに一つの虹色の石がそこにはあった。

「アーチャー、約束、守ったよ。」

 晴彦はそれを見ながらそう呟いた。

「なあなあ晴彦、舞っちに伝えた方がいいんじゃないか?一応言ってんだろ?」

「っ!そうだった!」

 晴彦はスマホを取り出し急いで相棒であるホセア学院高等部二年の川上舞に電話をする。が、彼女は電話に一向に出ない。

「・・・・・・・・・・・あれ?マナーモードにしてんのかな?」

 晴彦がそう言った途端に電話に出た。

「あ、舞先輩ですか?」

『ううん、違うよ。』

「あ、電話かけ間違えました。すみませーん。」

『電話かけ間違ってないから大丈夫だよ。それよりねー、早く学校に来てあげて。あの子、今ファントムと戦ってるから。』

「はぁ――――――――――――――――――――っ!?」

 晴彦は電話越しに驚きを隠せず、声を上げてしまう。晴彦は電話をインカムに切り替え、着替えながら会話する。

「状況は?」

『舞が一人で応戦しているけど、苦戦してそうに見える。』

「ファントムの特徴は?」

『えっと・・・・・・色は赤で大きな鬼・・・・・・・・・・・かな?それくらいしかわかんない。』

「十分です。ありがとうございました。」

 晴彦は電話を切ると車庫に入れてあるバイクの下まで駆ける。

「ルル!懐に入れ。」

「えー。」

「文句を言うな!それとも、俺より遅く学校に行くつもりか?」

 晴彦の言葉にルルは反応する。

「アタシより早く行くだなんて、晴彦生意気。」

「文句言うならさっさと入れ。」

 晴彦は通学カバンとスケッチブック入りの鞄をバイクのボックスに入れ、エンジンを掛ける。

「ちょっと飛ばすからな。」

 晴彦はそういうとヘルメットを被り固定、左右の安全を確認しバイクを発進させた。

 

 

 一方その頃ホセア学園グラウンドでは舞が赤鬼ファントムと戦闘を行っていた。

 舞はファントムに向かい走り、飛ぶと片手で角を掴み拳を叩き込む。ファントムはダメージを受けるが反撃に腕を振るう。舞うは後ろに跳び回避する。舞が着地したところにファントムの拳が振るわれるが舞は横に跳び回避する。

 ファントムは追撃にと拳を何度も振り下ろすが舞は華麗に回避する。そしてファントムが右腕を大きく振り上げ構えると舞も構える。ファントムが雄叫びを上げながら振り下ろすと舞は左に回避、宙を舞い、右の拳を構える。

「はぁあああああああああああああ!」

 舞はファントムの右腕に大ダメージを与える。

「やった!え?」

 一瞬勝利を確信した舞だがファントムは何もなかったかのように右の拳を振り下ろした。

「効いてない!?」

 舞はその攻撃を回避する。

 そんな中でもホセアニア学院に生徒たちが登校してくる。

「舞ちゃんも頑張るよねー。」

「うんうん。でも相方の子がいないよね。」

「ああ、あのお助け屋君ね。」

 舞とファントムの戦いを観戦している同級生が話していると、バイクで登校してきた晴彦が来た。

「まだ大丈夫ですか、先輩!」

「遅い!」

「てかなんでそんな格好しているんですか!」

 晴彦はスケッチをしながら舞と話をする。舞の姿は上は学校指定の制服とセーターを着ているが、下は赤いブルマと変な格好である。

「着替えの途中だったのよ!」

 舞は戦闘を行いながらもファントムと戦闘を繰り広げ、晴彦はスケッチをする。

 そんな時であった。ファントムが振り下ろした拳が土の瓦礫を作り、それが観戦していた女子生徒の方へと飛んでゆく。

「しまった!」

「っ!」

 誰もが間に合わないと思った中、晴彦はスケッチブックを投げ捨て詠唱した。

「強化、開始。(トレース オン)」

 一瞬、一瞬であった。晴彦の肉体が強化され一瞬で女子生徒の下まで跳びお姫様抱っこするとそのまま跳び、大分離れたところに着地した。

「え・・・・・・・」

 その光景を見ていた誰もが唖然とした。が、そんな中、晴彦は助けた女子生徒に話しかける。

「怪我はない?」

「え?あ・・・・・・・・はい/////」

 女子生徒は今置かれている状況に頬を赤らめる。そんな女子生徒に気づかず晴彦は笑顔で「よかった。」と言うと女性生徒を下ろした。

「先輩、俺が時間を稼ぐんでスケッチブック取ってください。」

「え?ちょ、ちょと!」

 舞の制止も聞かず晴彦は詠唱する。

「投影、開始。(トレース オン)」

 晴彦は干将と莫耶を投影すると一気にファントムの懐にまで接近する。

「っ!?」

『っ!?』

 その光景に舞も見ていた生徒も驚く。

「はっ!」

 晴彦は十字に振り払い、ファントムを飛ばすと干将と莫耶をファントムに向け投げる。ファントムは両腕で払うが、干将と莫耶はファントムの周りを旋回し、再び接近すると晴彦は詠唱する。

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

 その瞬間、干将と莫耶は爆発する。

「投影、開始。」

 晴彦は再び干将と莫耶を投影する。

(さっきのは強度が弱くてすぐにヒビが入った。もっと強い強度を。)

 晴彦は再びファントムに接近する。ファントムは右の腕を振り下ろすが晴彦は干将で受け止めると腕に莫耶を叩き込む。更に反転しファントムの後頭部に干将と莫耶を叩き込む。ファントムはグランドを大回転しながら転がる。その直後、干将と莫耶が砕けた。

「ちっ・・・・・・・・・・・・強度が足りない。」

 晴彦は再び干将と莫耶を投影するが、ファントムは晴彦に向かい突進してくる。晴彦は瞬時に周りを確認する。今ここで避ければ後ろの人が巻き添えを食うことが予想出来た晴彦は右腕を突き出し、詠唱する。

「――――I am the bone of my sword.(体は剣でできている。)」

「熾天覆う七つの天環!(ロー・アイアス)」

 晴彦の前に光の七枚の花弁の花と六枚の盾が出現する。ファントムはその盾にぶつかり後ろに弾き飛ばされる。

「先輩!」

「っ!う、うん!」

 晴彦の言葉に従い舞はスケッチブックを取り、晴彦に渡す。晴彦はファントムの全体像をスケッチすると、スケッチブックを上に掲げ詠唱する。

「千早振るファントム!THOTHの天倫に虚像を晒せ!」

 晴彦が詠唱するとファントムはスケッチブックに封印される。

「封印完了です、先輩。」

「そうね・・・・・・・・・・・・・・・・・てなるわけないでしょ!」

「うわっ!」

 急に怒鳴る舞に晴彦は驚く。

「なんですか急に怒鳴って?」

「なんですかじゃないわよ!何よさっきの武器とか変なものとか!いつそんなの得たのよ!」

「ペア組んだ時に言ったじゃないですか。約束の時が来たらもう一個見せるって。」

 舞の拳と蹴りを避けながら晴彦は会話をする。

「それに今回は被害が少ない分報酬だって多く入りますし、結果オーライじゃないですか!」

「アンタはオーライでもアタシはそうじゃないのよ!」

 舞は足払いをするが晴彦はきりもみ回転をして舞の後ろに付く。

「それよりさっさと終わらせましょうよ、先輩。」

「はぁ・・・・・・・・・・・そうね。」

 晴彦の言葉に納得し、舞はスケッチブックを近くで見る。

「色から察するにこのファントムの属性は火。水木火の法則でコイツの弱点は水の気ね。」

 舞は深呼吸をしながら手を前に出すと腰をゆっくり下ろす。刹那、両手の甲が光り、五行線が浮き出る。舞は抱きしめる形で脇を揉みながら詠唱する。

「五行万象を発生し、師にして錘なる水の気は火を吸い込む。腎の水気で拳を満たさん。

 翠にして錘なる水気で拳を満つ。」

 舞はスケッチブックに手を添えると拳に蓄えられた気を一気にスケッチブックに放った。

「はっ!?」

 封印されたファントムと共にスケッチブックは消滅した。

 

 

 放課後の脳機能エラー対策室、通称クラブ。現役の学生特異能力者たちが入るグループで、2~3人によるチームを形成し、チーム単位でファントムの退治依頼を受ける。

 国を守る仕事のため、対峙すれば防衛省から報酬がもらえる。

「今日の報酬は結構ありますよー。舞さんには生活用品、晴彦君には口座にお金が入りまーす。」

「はーい。」

「ま、今回は二次被害がなかったですからね。」

 教卓に立つ顧問の姫野アリスが二人に報告すると二人とも反応を示す。

「それと晴彦君は後で私の方に来てください。さっきの能力、ちょっと説明して欲しいので。」

「わかりました。」

 アリスの言葉に晴彦は返事をする。

「はーい、今日のミーティングは終了!みんな気を付けて帰ってねー。」

 アリスがそう言うとクラブにいた生徒が次々と出ていく。

「お疲れ、舞。」

「じゃーなー、晴彦。」

 二人に帰りざまに声を掛ける生徒たち。そして舞と晴彦、ルルとアリスだけが残った。

「ま、わざわざあそこで話さなくてもいいのでここで話しましょうか?」

「そうしてもらえると助かるわ。晴彦君、あれは何なの?」

「あれは・・・・・・・・・・投影です。」

「「投影?」」

 舞とルルが首を傾げる。

「なんて言うか・・・・・・・・・・偽物を作る能力なんです。あの時投影した干将や莫耶もそうです。投影ってのは本物に近いニセモノを作ることができる能力で、可能なのは精密機器以外でしたら粗方できます。」

「ふ~ん。じゃスケッチブックもそうなの?」

「ええ、そうですよ。」

「でもそれってズルくない?やろうと思えば食材だってできるじゃん。」

「先輩、それは違います。」

「は?」

 舞は間抜けな声を上げる。

「投影はあくまでも偽物です。野菜なんかを投影できないんです。」

「うーん、言っていることの意味が分からない。」

「ではクローンで例えましょう。先輩の細胞で作ったクローンでも経験と人格が違えばそのクローンは先輩ではないドッペルゲンガーです。投影ってのは無機物の複製は出来たとしても有機物、生命の複製は出来ないんです。」

「へー。じゃあ万能ってわけじゃないのね。」

「その通りです。俺も投影に限りがあります。また、これは特異能力と言うよりも魔術って言った方がいいです。」

「魔術?」

 さらに晴彦の言葉に舞は首を傾げる。

 

「魔術ってのは魔法と違って時間とお金をかけてできるの物の事です。例えば空を飛ぶ。これは飛行機やハンググライダーで可能です。火を出すのであればライターや摩擦熱。それに対し魔法とは人間の現段階で不可能なことです。例えるなら永遠の命だったり、無限のエネルギーなんかです。」

「へー。でもなんでアンタその能力を隠してたの?」

「それは・・・・・・・・・・・・・大事な約束をしていたからです。」

『約束?』

 晴彦の言葉に三人は首を傾げる。

「この能力を使っていいのは、彼がくれた砂時計の石が全て下に落ちた時だって、あの人と約束したんです。」

「そのあの人ってのは・・・・・・・・・・・・・・彼の事、晴彦君?」

 アリスの問いに晴彦は頷いた。

「あの人は、俺に全てをくれました。だから、約束を守ったんです。」

「そう・・・・・・・・・・・わかったわ。また聞きたいことがあるかもしれないから、その時はよろしくね。」

「はい。それじゃあ失礼します。」

 晴彦はそういうとルルと共にクラブを後にした。

「先生、先のあの人って何なんですか?」

 舞がふとアリスに聞いた。

「ああ、そのこと?そうね・・・・・・晴彦君は“全てをくれた”って言ってたわよね?」

「ええ。」

「晴彦君が約束した人はね、今の晴彦君を小学六年生まで育て上げたの。」

「小六までって・・・・・・・・その後は?」

「・・・・・・・・・・・いなくなったの。突然ね。」

「え・・・・・・・・・・」

 舞はその言葉に衝撃を受ける。

「でも当時の晴彦君はそれを受け入れていたわ。不思議なくらい、大人のようだったわ。」

「・・・・・・・・・・・」

「でもね、今の晴彦君は昔とは大きく違ってたの。特に入学当初は感情が無い目をしてたわ。」

「どうしてそんな・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・それは私の口からは言えないわ。でもね、舞さん。もし晴彦君が言いたくなった時があったら、聞いてあげて。彼、自分よりも他人を助ける傾向が極端に強いから。」

「わかりました。」

 

 

 晴彦は帰り道をバイクを押しながら帰っていた。両手には買い物袋があった。

「今日の買い物はこれで全部だな。」

「なーなー、晴彦。」

「なんだ、ルル?」

「なーんでお前の大事な人って“アーチャー”って名乗ったんだ?偽名じゃん。」

「本人曰く、“それが私のクラスだから”なんだってさ。」

「ふーん。ん!」

 晴彦の方に乗っているルが気付いた。

「なあ晴彦、道間違えていないか?」

「ん?あ、ほんとだ・・・・・・・・・・・でもなんで・・・・・」

 晴彦は立ち止まり考えてみる。

「もしかして・・・・・・・・・・・・ジャメビュか?」

「ジャメビュ?」

「よく知っている風景が初めて知っているみたいに感じる錯覚だ。っ!?」

 晴彦は辺りを見渡していると薄い式神のような黒いファントムが女の子の周りを取り囲んでいた。

「たすけ・・・・・っ!?」

 晴彦は助けようとしたが、あることに気づいた。彼女自身、恐怖はしていない。むしろそれを望んでいるような様子であった。

「恥ずかしいから、あんまり見ないでくださいね。」

 女の子はそういうと口を大きく開け、ファントムごと飲み込んだ。周りの墓地の風景も吸収され、そこはいつも見慣れている神社の風景に戻った。

「すごいな・・・・・・・・・彼女は部活で見ていないから・・・・・・・・・勧誘してみるか。」

 晴彦はバイクを駐車し、買い物袋を置くと彼女の下まで歩き始める。彼女も階段を下りながら「おいしかったですわ。」と言いながら下唇を舐める。

「失礼、同じホセア学院の生徒とお見受けするが間違いないですか?」

「え?えぇえええ!み、見ましたか・・・・?」

 彼女は間抜けな声を出すと驚き、顔を赤らめながら晴彦に問う。

「ええ、まあ。僕も偶然通りかかったので悪意はないです。あ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前は一条晴彦です。」

 晴彦は律儀に頭を下げる。

「え、えっと・・・・・和泉玲奈です。えっと・・・・ご、ごめんなさい!」

 玲奈は急いで会談を降りようとした。

「あ、待って!そこらへん一部ガタガタだから・・・・・」

 晴彦の言葉通り会談の一部が緩くなっており、偶然にもそれによって足を取られ転びそうになってしまう。

(強化、開始!)

 晴彦は玲奈の前に周り受け止めようとする。が、ここでルルが余計なことをしてしまう。

「落ち・・・るな!」

 ルルは玲奈のスカートを引っ張り下半身を上に持ってくる。晴彦が彼女のクッションになるが、その光景は彼女が押し倒す形であった。

「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!い、いやぁあああああああああああああああああああ!」

「ぐへっ!?」

 晴彦はビンタを喰らってしまうが、玲奈は羞恥のあまりそこから急ぎ足で去って行った。

「な、なんでさ・・・・・・・・・・・」

「あーあー、逃げちゃったね、あの子。」

「お前のせいだろ。」

 

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