無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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19 幕末ファントム異聞①

 三日月が照らす京の町。その川辺で二人の新選組が巡回していた。

「土方さん、噂は本当なのですか?」

「それを確かめに来たんだ。近藤さんも、間もなくここへやってくる。」

 二人が話していると物音がした。

「総司、見ろ!」

二人が音がした方を向くとそこには怨念によってこの世に現界している者がいた。

「貴方は、新選組初代局長、芹沢鴨!我々に斬られたことを恨み、迷って出たか!」

「違うぞ総司。アイツは妖怪だ!都を自分の支配下に置くため、本物の芹沢さんにすり替わり、機会を伺ってたに違いない!」

 妖怪は奇声を上げる。

「京の町は、我らが守る!」

 二人は抜刀し構える。そして妖怪は襲い掛かった。

 

 

「どお?私が書いた台本。面白いでしょ?」

 クラブで演劇部の生徒が晴彦たちに自分が書いた台本を読ませていた。舞は台本のページをめくる。

「で、これを読ませてどうしようっての?」

「演劇部の助っ人で舞台に立って欲しいのよ。」

 その言葉に晴彦は問う。

「俺たちが、お芝居を?」

「今年の演劇部は仕事が集まらなくて、部員が私一人だけなの。このままじゃコンクールに出られないのよ。クラスメイトのよしみでさ、助けてよ舞!」

 晴彦は台本を手に取る。

「“幕末妖怪物語 新選組対ファントム 池田屋の対決”作・北島亜弓。」

「よくわかんないけど楽しそー!」

 ルルがそう言うと晴彦はページをめくった。

「池田屋事件が題材ですか。でもこの作品、事実関係とか事実考証とかムチャクチャですね。」

「いいの!わかりやすさと楽しさを優先!いつもいつも優等生的なことやってたら、進歩も発展も無いわ!時には大胆に行かなきゃ。それが青春、それが若さよ!」

(パラレル感覚でとらえればOKだな。)

 晴彦はそう思うと舞にこっそり話しかける。

「アツイ人ですね。」

「演劇のことになるとね。」

「でも私、お芝居なんてやったことなくて・・・・」

 弱気な玲奈に亜弓が声を掛ける。

「お願い!お礼に食事奢るから!」

「やります!」

(買収早!そして絶対後で財布を見て泣くな。)

「この間の大猿のファントムの時、小道具と衣装貸してあげたじゃない。今度はそっちが手伝う番よ。」

 亜弓にそう言われ断りづらくなる。

「そう言われると断りづらいわ。」

「やろやろ!きまりー!」

 ルルは一人乗っていた。

 

 

 場所は変わって演劇部部室。晴彦と舞は新選組、舞は町人姿の着物を着ていた。

「それでは、配役を発表します!

 新選組副長、土方歳三に一条晴彦。

 副長助勤、沖田総司に和泉玲奈。

 局長、近藤勇にルルちゃん。」

「はーい!」

「ファントムにさらわれる町娘に川上舞。」

「普通アタシが局長じゃないの?」

「意外性を狙ってみたのよ。もう一つ意外性で坂本龍馬に熊枕久瑠美ちゃん。」

「私何にもわかりませーん!」

「そして、暗殺剣を振るう岡田以蔵に水無瀬小糸。悪いファントム役はアタシ、北島亜弓がやります。」

「どうして私までこんな・・・」

 巻き込まれたことに迷惑する小糸に亜弓は肩を組む。

「人が足りないんだから手伝ってよー。かわいい子が多いと舞台が晴れるしさー。」

 その言葉に照れる小糸だが、その時何かに気づいた。

 不安な久瑠美に晴彦が声を掛ける。

「まあ俺たちもフォローするしさ、手伝ってあげようよ。」

「うう・・・・・・・・・・・お兄さんがそう言うなら頑張ってみます。」

 久瑠美がそう言う中、小糸は部屋の中を見回していた。

「頼むね、久瑠美ちゃん。」

 亜弓がそう言うと小糸も参加することを口にした。

「いいわ、私もやる。」

「ほんと?ありがとー!」

 亜弓は喜んだ。

「なんか、急に態度変わったわね。」

「今、気配を感じたの。この近くにファントムがいるのかもしれない。」

「マジ!」

 小糸の言葉に驚く舞。そんなことを聞くと亜弓がここのことを口にする。

「ま、古い部室棟だしね。」

「もしかしたら、お芝居好きのファントムかも。」

 ルルがそう言うと玲奈があることを口にした。

「“ファントム オブ ジ オペラ”。オペラ座の怪人ならぬ演劇部の怪人ですね。」

「正体を見極めるまで付き合うわ。凶暴なファントムだったら危険だから。」

 小糸がそう言うと晴彦は思ったことを口にした。

「俺たちのこと心配してくれてんだ。」

「小糸ちゃん、優しい。」

 晴彦とルルの言葉に小糸は照れる。

「アンタたちだけじゃ頼りないって事よ。」

「照れてる照れてる。」

(大分性格も丸くなったし、これはこれでいいね。)

 晴彦がそう思っていると亜弓はポジティブに捉える。

「なんでもいいわ!出演さえしてもらえれば大感謝よ!みんな本当にありがとう。仲良くやっていこう。」

 で、練習が始まると・・・・

「この能無し!ボンクラ!大根!荷物纏めて国に帰れ!」

 亜弓は晴彦に台本を投げる。

「おっと!」

 晴彦はそれを避ける。

「無茶言わないでよ。まだセリフも覚えてないのに。」

「ちょっと休みませんか?」

「この場面が仕上がるまでは休みも食事も無し!もう一回最初から!」

 亜弓の言葉に驚き晴彦と舞はぶつかってしまう。

「えっとえっと、私こっちでしたっけ?」

「久瑠美ちゃんはこっちですよ。」

「アタシは出番無いから、見てていいんだよねー。」

「やっぱりやめとくべきだった。」

 ブラック企業ならぬブラック演劇部の光景であった。

 

 

 練習は続き、結局夜になった。

「は~、くたびれた~。」

「演劇部って運動部並みですね。」

「久瑠美ちゃん、ちゃんとお家まで送っていきますからね。」

「はい、よろしくお願いします。」

 演劇をした晴彦たちはお各々話した。

「皆ゴメンねー。私ってお芝居のことになっちゃうと夢中になっちゃうから。」

(演じる方じゃなくて監督が向いているよこの人。)

 晴彦はそう思った。

「いいのいいの、大変だけど楽しいし!」

「アンタ出番無かったじゃない。」

 舞がルルにツッコミを入れる。

「実はうちの演劇部って十年連続予選落ちしてるのよ。」

「十年?」

 玲奈はその年数に驚く。

「みんなよっぽど下手だったんだねー。」

「こら。」

 ルルが心にもない言葉を掛ける。

「だから、今年こそは予選を突破したいの。先輩たちの悲願を果たしたいのよ。」

 亜弓は拳を作って意気込む。

「ま、たまにはこういうのも悪くないですよ。ね、小糸さん?」

「・・・・・・・・そうね。」

 

 

「むっはっはっははー!」

「あ~れ~。」

 厳しくも楽しい練習は続いた。音響と照明は翔介やクラブの先輩たちが手伝ってくれることになった。まあ翔介の場合はビーチエンジェルズがいるおかげだろうけど。

 皆でお芝居にゆかりのある場所を尋ねてみたりもした。

 ちなみに池田屋事件とは、尊王攘夷派の浪士たちが京都に大火事を起こし、混乱に乗じて公明天王を奪取しようとした計画を新選組が阻止した一件。

 練習は順調須進み、心配されていたファントムの出現も無く、遂に、演劇コンクールの火がやって来た。

 

 

「生きるべきか死すべきか、それが問題だ。生き続け、足掻き続け、日々の生活の中に飛び交う過酷な運命の弾丸をひたすら耐え忍ぶか。それとも、自らの人生の舞台を――――」

 他校の生徒が演劇を行う中、裏では晴彦たちが話をしていた。

「一人演劇とはレベルがまた高いな。」

「ええ。」

 晴彦の言葉に舞が相槌を打つ。

「緊張します。」

「アタシもワクワクしてる!」

「頑張ろうね、アルブレヒト。」

 そんな中真剣な表情をする亜弓を小糸は見ていた。

 他校の演劇が終わると放送室で待機しているビーチエンジェルズと翔介がスタンバっていた。

「いよいよ次ね。」

「準備OKですわ。」

「私人魚なのに鳥肌立っちゃう!」

「しっかりな、晴彦。」

 翔介が放送室で晴彦にエールを送る。

 一方晴彦たちは演劇に意気込みの声を掛けていた。

「練習の成果を出せば、きっと上手くいくわ!」

 晴彦たちは手を重ね、亜弓がそう言った。

「目標は地区予選突破。100%、ううん、200%の力を出して頑張りましょう!ホセア学院演劇部、行くぞー!」

『おー!』

「よーし、やるぞー!」

 意気込む亜弓。だが彼女の黄緑の瞳にピンクの斑点が浮かんでいた。

 

 

《続きまして、ホセア学院演劇部。演目は、“幕末妖怪物語 新選組対ファントム 池田屋の対決”》

 アナウンスが終わると劇場の幕が開き、京の町を描いたセットが薄い光を浴びて照らされる。そこへ晴彦と玲奈が出てきた。

「土方さん、噂は本当なんですか?」

「それを確かめに来たんだ。」

 素人感が丸出しの玲奈に対し晴彦はまるで土方になっているかのような口調で話す。

 舞台の裏では亜弓がスタンバっていた。

「総司、アレを見ろ!」

 晴彦がそう言った途端、亜弓は仮面を下ろし小声で「よし・・・」と言うと舞台に出る。

 「ぐぁあああああ!」と声を上げる歩みを赤いスポットライトが照らす。

「貴方は、芹沢鴨!迷って出たか!」

「違うぞ総司、アイツは妖怪だ!」

「都を自分の支配下に・・・・・」

 その時晴彦も変化に気づいた。今いる場所は演劇の場ではなく、まるで本物の京の町の河川敷。目の前の亜弓は赤いオーラを放っていた。

「これは・・・・」

「なにこれ?本物?」

「どうなってるんでしょう?」

 ルルと久瑠美も困惑している内に劇場の幕も無くなり、その場所がホールではなく、京の町になっていた。

「もしかして、ファントムの仕業?」

「やっぱり。」

 一同が困惑する中、小糸だけが理解していた。

 

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