無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
まるで本物の妖怪の様に声を上げる亜弓。そんな時晴彦は気づいた。
(みんなには見えていない・・・・・・・・・・こっちの意識だけを取ってやってるのか。ま、事は穏便に済ませよう。)
晴彦はそう思うと次のセリフを言う。
「奴は人間に化けて都を支配しようとしていたんだ。」
晴彦と玲奈は刀を抜刀する。
「歳、総司、大丈夫か?」
予定通りルルが駆け付けてくる。
「近藤さん!」
亜弓先輩は大きな白狐の妖怪に化ける。その光景に見ていた観客は驚く。晴彦は玲奈に小声で話す。
「今は演技を続けて。」
「わかりました。」
晴彦たち三人は妖怪に斬りかかる。斬られた妖怪は燃え上がる様に赤いものを放出し、苦しむと倒れた。その光景を見ていた翔介とマーメイドエンジェルズは話す。
「これ打ち合わせと違くない?」
「こんな演出有りませんでしたわ。」
「翔介君、どうするの?」
「いや、俺に聞かれても。」
見ていた観客も話し始める。
「今の場面、迫力あったね。」
「本物のファントムも出てるらしいから、その力を使ってるんじゃない?」
「ふーむ、その手があったか。」
何とか誤魔化せた様であった。審査員の三人も驚く。
「いやー、斬新な演出でしたなぁ。」
「最近の学生演劇は手が込んできましたねぇ。」
「はて、様子が変ですぞ。」
舞台では亜弓が小声で話した。
「ごめんなさい。私人間じゃなくてファントムなの。十年連続で予選落ちした演劇部員の悔しさや悲しさ一つに固まってファントムになった。それが私。」
「人間に化けて生徒に紛れてたと?」
「ええ。みんなの記憶を操作して、ずっと二年生の演劇部員のフリをしていたのよ。」
そんな時晴彦は念話を使い翔介と話す。
(翔介、聞こえてるか?)
「晴彦?」
「誰と話してますの?」
「いや、晴彦と。聞こえませんか?」
(お前だけに通してんだよ。念話って奴だ。適当に音楽とか合わせてくれ。話は後ですっから。)
「お、おう。分かった。それじゃあ適当に照明や音楽を合わせましょう。」
「では、わたくしは音楽を。」
「私たちは照明を何とかするわ。」
亜弓の方に照明が集中し、音楽が流れる。
「小糸は気づいていたの?」
「うすうすね。」
小糸を証明が照らす。
「事情が分からないから、様子を見ていた。」
「悪気はなかったの。でも、自分がファントムだって怖がって手伝ってもらえないと思って。それで正体を隠していたの。」
照明が無くなり、薄暗くなる。亜弓は立ち上がり言った。
「私は演劇のために生まれ、演劇に生きるファントム。コンクールに出て、十年間の悲願を果たしたい!」
亜弓を照明が照らした。
「それが・・・それだけが・・・願い、だったのよ!」
彼女自身の願いであった。怨念で生まれたとはいえ、それは彼女自身が望んだ願い。その言葉には嘘偽りなどはなかった。
「許しては・・・・・もらえないわよね。いいわ。封印でもなんでもしてちょうだい。」
彼女は諦めたように手を差し出すと、その手を晴彦が握った。
「なら、舞台を続けましょう。北島先輩。」
「一条君、私をまだ先輩と呼んでくれるの?」
そんな亜弓に舞は言った。
「ファントムでも人間でも、アタシたちは友達よ。」
「今日まで一緒に頑張ってきた仲間じゃないですか。」
玲奈がそう言うと久瑠美と小糸も続く。
「私も最後までお芝居したいです。」
「ま、練習の成果も出さずに終わるのも癪だもの。」
「皆で、悲願を果たしましょう。」
亜弓は嬉しくて涙を流した。
「ありがとう・・・・みんな本当にありがとう。」
そんな光景を見たルルが言った。
「これが青春って言いう、交じりっ気のないエネルギーの美しさなんだねー。」
その後で観客から拍手が送られる。そのことに唖然とする晴彦たち。
「ストーリーはよくわかんないけど、なんか素敵。」
「アタシもこういうシーンに弱いの!」
「熱演ね。演技じゃないみたい。」
「少々ベタだが、ぐっときますなぁ。」
「しかも意表を突いた展開ですわ。」
「役者が突然素に戻る、一種のメタ演劇なのでしょう。」
どうやら見ている人はこれも演技の一部だと思っている。
「まあ、結果オーライだね。続けましょうか、俺たちの演劇を。」
玲奈とルルは久瑠美と対峙していた。久瑠美がルルに言った。
「近藤さん、俺たちは手を結べるはずだぜよ。」
「世迷言を言うな、坂本龍馬!」
「貴方は討幕派の大物。我々とは敵同士です。」
玲奈は久瑠美を指さす。と、そんな時に次のセリフを忘れてしまった久瑠美。だがそれを後ろで控えていたアルブレヒトが台本を見せてフォローする。
「えっと・・・アンタらが仕える会津は、幕府と朝廷の和解を望んじょる。俺も、この国が内戦になる事だけは避けたい。話し合う余地はあるはずぜよ。」
それを見ていた観客が言った。
「あの熊何なのかしら?」
するとアルブレヒトの後ろから小糸が出てくる。
「無駄じゃ龍馬。所詮、俺たちと新選組は、水と油。土佐金の岡田以蔵。」
小糸は刀を抜刀する。
「近藤、沖田、抜け!」
「望むところだ!やっちゃるわー!」
「新選組副長助勤、沖田総司。」
一触即発の状況に晴彦が割って入る。
「待つんだ近藤さん、総司。俺たちは騙されていたんだ。」
「どういうことだ、歳ちゃん!」
ルルが晴彦に問う。
「鎖幕派を暗殺していたのも、討幕派を襲っていたのも、実は妖怪だったんだ!お互いを争わせ、その隙を突いて奴らが天下を支配する計画だ。」
「な、なんだってー!」
ルルが驚くと照明が消える。玲奈とルルはそのことに驚く。すると二人の後ろからスモッグと赤い光の奥で亜弓の笑い声が聞こえてくる。
「流石は土方、よくぞ我が計略を見破った!」
「お前は、この間やっつけた妖怪!」
「生きていたのか!」
ルルと玲奈は驚く。
「妖怪ではない。我々はファントム!」
照明でオーラを演出し、音楽が流れる。晴彦は刀に手を掛ける。
「間もなくこの町は、火の海になる。そうすれば天下は我々のものだ!」
すると亜弓はワイヤーに引っ張られ、飛ぶ。
「飛んだわ!」
「ワイヤーアクション!」
見ていた観客は驚く。そして晴彦たちは再び亜弓が作り出した空間へ引き戻された。
「また怖くなってる!」
ルルがそう言うと玲奈は辺りを見渡した。
「周りもおかしいですよ。」
玲奈の言葉通り今度はその空間全体が京の町へと変貌していた。
「固有結界パート2・・・・・ファントムって固有結界持ちが多いのか?」
晴彦はふとそんなことを疑問に思った。
「北島先輩の力だわ。気合が入りすぎると、ファントムの力が周りに影響を及ぼす。」
「気にしないで続けよう。」
小糸が分かりやすく説明すると晴彦が続演することを言った。
「ファントム!お前たちの好きにはさせない!」
晴彦が亜弓を指さしながら言う。
「そうだそうだ!」
すると亜弓は高笑いをする。
「これを見よ!」
「あ~れ~。お助け~。」
亜弓は舞を人質に取る。
「ああ、新選組の賄をしてくれているお舞ちゃんが人質に!」
玲奈が演技していると舞は小声で呟いた。
「アタシ、この間の猿の時からこんなのばっか。」
ごもっともであった。
「おのれファントム、おなごをかどわかすとは・・・・卑怯ぜよ!」
久瑠美は台本を見ながらセリフを言う。
「なんとでも言うがいいわ!」
「ガラガラガラ!」と笑うとその場を飛び去る。その際に舞が「あれ~。」と言った。
「なんて卑怯な。」
ルルがそう言うと久瑠美が晴彦に言った。
「晴彦君、客席の人たちまで!」
周りを見れば町人姿に扮した客席の人たちがいた。
「本間に今夜は賑やかどすえ。」
「年に一度の祇園祭どすものなー。」
「おお、月が美しゅうござる。」
「夏は夜、月どころは皿なりどすえ。」
「いやー、雅でござる。」
「こーんなええ加減な京都便でかましまへんのどすかな~?」
「お相撲さんは?」
「どすこいどす!」
観客までも演じていた。
「歳ちゃん、総ちゃん、追いかけよう!」
「「はい。」」
「以蔵さん、俺たちも行くぜよ!」
「今宵は祇園祭で人が多い。急がないと被害が大きくなる。」
晴彦たちは祇園祭で賑わう京の町を駆け走る。
先頭を走っていた晴彦が止まり周りを見る。
「先輩たち、どこに行ったんだ?」
「こんなに広いと、探しようが・・・・・」
焦る二人に小糸が声を掛ける。
「落ち着くのよ。状況は台本の通りに動いているはずだわ。」
「そうか。お姉さんたちは池田屋さんにいる予定ですね。」
久瑠美がそのことに気づいた。するとルルが池田屋を見つける。
「あった!目の前!」
「さすが北島先輩の台本。スピーディーで分かりやすい展開だ。」
それを俗に“ご都合主義”とも言う。
晴彦たちは池田屋に入る。
「新選組だ!御用改めである!」
ルルがそう言うと久瑠美と小糸が続く。
「坂本龍馬と!」
「岡田以蔵もいるぜよ!」
すると屋敷主に扮した翔介が驚く。
「ひっ!新選組!」
「翔介さん!」
「翔ちゃんがお店の人なんだ。」
玲奈とルルが驚くと小糸が話す。
「お芝居を続けて!この劇が終われば、みんな元に戻ると思う。」
「た、た、たた、大変だー!」
翔介は店の奥へと走る。それを晴彦が追いかける。
「みんな逃げろー!新選組だ―!」
「悪い、翔介。」
晴彦は翔介に先に謝ると刀を抜刀し、翔介の背中を斬る。
「やられた・・・」
翔介は階段を頭から降りる。その光景を見まいと玲奈は手で顔を覆い、小糸は目と瞑った。
「ごめんなさい翔介さん。」
玲奈は翔介にせめてものと思い謝っておく。
そして晴彦たちが部屋に入る。
「「新選組推参!」」
晴彦とルルが先に入ると部屋には亜弓にとらわれている舞の姿が目に映った。
「土方さん、助けて―。」
「お舞ちゃん!」
「おのれ新選組。よくぞここを突き止めた。だが勝負はこれからだ!」
すると黒子のファントムが現れる。
「掛かれ!」
部屋の外に出て晴彦と小糸はファントムを斬り、久瑠美は目を閉じて銃を撃つ。が、久瑠美の弾は回避され、黒子が襲い掛かるがそこへアルブレヒトが駆け付け黒子にタックル、そしてその後でパンチが炸裂する。
「ぐぬぬ・・・・」
亜弓は上に跳び、天井を突き破り屋根に出る。
「お舞ちゃん!」
黒子と鍔迫り合いになっている晴彦が気付く。晴彦は黒子を斬ると店を出る。
亜弓は屋根を飛び、逃げる。
晴彦は亜弓を追いかける。
場所は変わり河原で舞たちは戦っていた。ルルは黒子の攻撃を避けると頭を斬る。
「今宵の、虎鉄は、血に飢えてるぞ!」
久瑠美はアルブレヒトが弱らせた黒子を斬っていた。飛び交う暗器はアルブレヒトが久瑠美を抱き抱えて回避する。するとアルブレヒトに向かい多くの黒子が襲い掛かってくるが、すべて倒される。
小糸は声で黒子を倒す。
「備前長船、菊一文字。参る!」
玲奈は亜弓に斬りかかる。亜弓は右の爪で受け止める。
「ぬぅ!」
一瞬の隙を突いて舞は逃げる。
「はっ!しまった!」
舞は脇を揉み、詠唱を始める。
「五行万象を発生し、水なる力で火を静め、腎の水気で拳を満たさん!」
「はぁあああああ!」
舞の拳に五行線が浮かび、亜弓に拳が炸裂する。そこへ晴彦が駆け付ける。
「ファントム、正義の刃を受けてみよ!」
晴彦は刀を頭上から振り下ろした。斬られた亜弓は悲鳴を上げ、赤く発光する。
「これで勝ったと思うな土方。我らの仲間がいずれ新選組を壊滅させるだろう。楽しみに待っていろ!」
そう言うと亜弓は高笑いをして爆発した。晴彦は刀を手元で回すと鞘に収める。
「終わった。」
「やったな、土方さん。」
ルルの後に久瑠美が台本を見ながら言う。
「ありがとう、坂本さん。」
晴彦と久瑠美が握手すると共に日が昇った。そして最後の決め台詞を言う。
「日本の夜明けは近い!」
「日本の夜明けは近いぜよ!」
セリフを言うとともに演劇が終わり、元の世界に戻った。すると観客から拍手が送られる。
「元に戻った。」
ルルがそう言った。
そして全員で観客に礼をした。
そんな中で一番嬉しそうな顔をしていたのは亜弓であった。そして劇場の幕が下りる。
そして後日。
「能無し、大根、ボンクラ!そんなんで全国に行けると思ってんのか!」
晴彦たちは亜弓の指導の下、演劇の練習をしていた。
「ちょっと待ってよ。手伝うのは地区予選だけのはずでしょ?」
「こーなったら、このメンバーで全国を目指すわ!学校にも許可を取ったし、夏休みも返上よ!」
「そんな・・・・」
「やっぱり封印しとけばよかったわ。」
小糸がそう言うとルルが話す。
「アタシは楽しいからオッケー。」
「もう一回!今の場面最初から!」
『はぁ~い。』
そんな亜弓の声が響く演劇部の部室には、地区大会の金賞の賞状とトロフィーと写真が飾られていた。