無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
ある日のファントム退治が終わった晴彦たちは、恒例の焼き肉食べ放題の店に来ていた。当然のことながら玲奈が一番よく食べていた。
玲奈は口に付いたタレをハンカチで拭き取っていた。
「ごちそうさまでした。」
「つくづく見事な食べっぷりねー。」
舞がそう言うと玲奈は「すみません。」と言った。すると糸が言った。
「いいじゃない。頑張った報酬なんだから。ね?」
小糸の言葉に玲奈は微笑み、「はい。」っと言った。そんな時周りの子連れの声が聞こえてきた。
「こら、ちゃんと座って食べなさい!」
「トマト嫌い。」
「食べ物で遊ばない!」
「よし、よし。」
「アイス!アイス!」
「こらこら!」
どこもかしこも子供が親を困らせていた。そんな光景を見ていたルルが言った。
「なんだか大変だねー。みんなも小さい頃あんなだった?」
「私も好き嫌いが多くて、よく叱られていました。」
久瑠美が言うと玲奈が言った。
「私も、親が厳しくて。」
「忘れた。」
小糸はそう言った。
「そっか。舞っちは?」
「えっ!さ、さあ・・・・・どうだったかな~?」
(そういや自分で控えめな子って言ってたけど、実際は逆だったよな。おかげであのファントム組と戦ったし。)
晴彦はその時のことを思い出していた。
晴彦は家に帰るなりルルが持ち出してきた機械の修理をはんだを使って行っていた。
「ふぅ・・・」
一息吐くと晴彦は道具を探す。
「あれ?ドライバーのディスクどこにいったかな?」
晴彦は机の引き出しを探ると赤い鉄の箱が目に入った。
「なんだっけ、これ?」
晴彦は赤い箱の蓋を開けるとそこには小さな頃の宝物が入っていた。中にはビー玉やストラップ、そして折りたたまれた二枚の紙があった。
「ああ、小学生の頃の。懐かしいな。」
晴彦はそれらを手に取ると二枚の内の一枚を手に取った。
「これは・・・・・・・作文か。“日曜日のできごと 一年A組、一条晴彦”。」
晴彦はその文章を読み始めた。どこにでもある、当たり前の内容であるがその時の晴彦はどこか悲しそうであった。何でもない内容なのに、晴彦は一人だけ。そのクラスでは一人孤立していた。
そして晴彦は、一人ぼっちであった。
「・・・・・・・・・・・・・こんなこと、書いてたのか?」
晴彦は悲しい表情をしていた。
晴彦は作文を折り畳むと箱に戻し、蓋をした。
翌日、晴彦の部屋のベッドで小さな子が身体を動かしていた。
「んん・・・」
小さな子は体を起こすとベッドから降りる。すると大きすぎるズボンに足を取られ転んでしまう。
「アイダ!いてて・・・あれ?間違ってアーチャーの寝間着来たのかな?ん?」
子供は時計を見ると8:15を指していた。
「もうこんな時間!アーチャーは・・・・・・・・て、いい加減自分で起きろって言われてたんだった。・・・・・・・・・・あれ?ここ、僕の部屋のはずなのになんでこんなに大きいの?」
子供は棚を開けるが服はその子よりもはるかに大きかった。
「これも大きい!アーチャーサイズばっかりだ!でも時間ないし・・・・・・・・・・・あ、この服をベースにすればいいかな。解析、開始。」
子供は高等部の制服を解析すると投影する。
「これでよしっと。急がなくちゃ!て、ランドセルも無―い!」
子供は急いでホセア学院初等部に駆け込む。そして1―Aに入る。
「おはよ。」
その子が入ってきたことに教室の生徒は困惑する。
「誰?」
「うちのクラスの子じゃないよね?」
「知らない子だよね。」
「迷子かな?」
生徒体がそう言う中その子も困惑していた。
「あれ?おかしいな、クラス間違えたのかな?」
子供は廊下に出るとクラスを確認する。
「でも、僕一年A組のはずなんだけどなぁ。」
廊下で立ち往生し、子供は外の階段に座った。と、そこへ久瑠美が来る。
「そっか。自分のクラスなのに知ってる人がいないんだ?」
「はい。みんなも僕のこと知らないみたいですし。」
久瑠美は考える。
「よし。じゃあ、先生の所に行ってみようか。あ、お名前は?」
久瑠美が立ち上がって言うと子供も立ち上がって自己紹介をした。
「一条晴彦と言います。」
「一条、晴彦君?」
晴彦と同じ名に久瑠美は驚いた。
「う~ん・・・・」
職員室に言った久瑠美と晴彦は先生に頼んで晴彦のクラスを尋ねた。が、パソコンを操作している先生は見当たらないことに声を上げていた。
「一年生で一条君って男の子はいないわ。」
「え・・・」
「初等部全体でも見当たらないわね。」
「でも・・・・」
先生と久瑠美は晴彦を見る。
「ちょっと他の先生にも当たってみるわね。」
先生はそう言うと席を立った。
「晴彦君のお名前は一条晴彦で間違いないよね?」
「そのはずです。」
「晴彦君が通っているのは確かにこの小学校だよね?」
「はい、ホセア学院です。」
「う~ん・・・・」
この事態に久瑠美は頭を悩ます。そんな時久瑠美は気づいた。
「あれ、その鞄・・・・」
久瑠美は晴彦が掛けている鞄に見覚えがあった。
「ちょっと見せてもらってもいい?」
「はい。」
晴彦はそう言うと鞄を久瑠美に差し出した。鞄は古く、大分使われている感じがした。
「晴彦お兄さんの鞄に似てる。これ、本当に晴彦くんの?」
「ええ。それは投影していない、紛れもないオリジナルです。」
「投影・・・・・・・・開けてみてもいい?」
「はい。」
晴彦の了承を得て久瑠美は鞄を開けるとそこには晴彦が普段愛用しているスケッチブックと道具が入っていた。
「このスケッチブック・・・・まさか・・・・・」
久瑠美は目の前の光景に驚きを隠せなかった。
場所は変わってクラブ。この事態はアリスに任され、クラブには舞、玲奈、小糸、久瑠美、アリス、ルル、そして幼児化した晴彦がいた。
「う~ん、確かに、小学生の時の一条君と同じ顔ですね。」
アリスは小学生の時の晴彦の写真と見比べる。
「住所も、持ち物も同じで。この子、本物の晴彦お兄さんだと思うんです。」
「だとしても・・・・」
玲奈が口を開いた。
「私たちの事、本当にわからないんですか?」
そんな玲奈の言葉に晴彦は答えた。
「・・・・・・・・はい。」
「ルルちゃんのことも知らないんだ。」
「アタシは晴彦が、中学の頃に出会ったから。」
「自分が高校生だったことも忘れてるの?」
ルルの後に小糸が言う。
「夕べ何があったんですか?」
「何か覚えてない?」
「何でもいいのよ。」
「思い出してみて。」
玲奈とアリス、小糸と久瑠美が問う。そんな状況に晴彦は困惑する。
「晴彦君。」
「ねえ、晴彦?」
更に玲奈とルルが問うがそこへ舞が助け船を出す。
舞は晴彦の肩に手を置く。
「ごめんごめん。大丈夫だよ。お姉ちゃんたちが絶対元に戻してあげるから。」
「こ、子ども扱いしないでください!」
晴彦は照れながらそう言うと舞は晴彦の頬を手の平で揉み始める。
「な~に言っての。今は子供でしょ。」
「そ、そうですけど・・・・」
そんな晴彦を見て舞は笑った。
「なーんか可愛い。」
そんな舞の言葉に玲奈と小糸が相槌を打つ。
「そうですね。確かに可愛いですね。」
「・・・・・・着せ替えさせたい。」
欲望が見えたのは気のせいである。
「晴彦君は、朝起きたらこうなってたんだよね?」
「ええ・・・・・・・・・・・・でも、あの光景じゃない分マシだった。」
「ん?」
「な、なんでもないです。」
晴彦が後半の部分を小声で言ったが舞にはよく聞き取れなかった。
「朝起きたら子供になってたって事?やっぱりファントムの仕業かしら?」
「ま、とにかく。放課後になったら一条君の家を調べてみましょう。」
小糸が疑問に思うとアリスは提案した。
「とりあえず、今日は今までのクラスで授業を受けてみてください。なにか、元に戻れるきっかけをつかめるかもしれませんから。」
「わかりました。いろいろご迷惑をおかけします、皆さま。」
そんな晴彦を見て舞は言った。
「子供なのにこんなに丁寧・・・・・・・・・・一体どうやったらそうなるのよ?」
「アーチャーに教わりました。」
「アーチャーって人何者!てか子供に何を教えているわけ!」
そして晴彦は一応自分のクラスで自己紹介をしていた。
「一条晴彦です。皆さん、よろしくお願いします。」
「えー、一条君は朝起きたら子供になっていたそうです。」
そのことにクラス一同驚く。
「なんか、元は高校生だと聞いておりますが、今はこうなってしまいました。何かとご迷惑を掛けるかもしれませんがよろしくお願いします。」
そのことに友達の翔介が一番驚き、声にならなかった。
晴彦は椅子を投影すると漢字で自分の名前を書く。
「書けた!」
そんな晴彦を見て女子一同は揃って口にした。
『可愛い!』
休憩時間になると晴彦の周りには人が集まっていた。
「お前本当に晴彦なのか?」
翔介は晴彦に問う。が、そんな翔介を無視して晴彦は周りに集まっている女子にあいさつをする。
「お姉さんたち、僕に色々教えてください。」
そう言うと黄色い奇声が飛び交った。
「お行儀いい!」
「しかも可愛い!」
「持ち帰りたい!」
そんなことを言われる晴彦に翔介は羨ましそうな眼差しを向けた。
「いいな。なんかお前スゲーモテ期来てんじゃん。」
子供相手に大人げない翔介であった。因みに晴彦はアーチャーから女性は大事にと教わっています。
放課後になり、舞たちは晴彦の家に来ていた。
「特にファントムの気配はないわ。」
「今はどこかにいて、夜戻ってくるのかな?」
ファントムの気配がないことを小糸が言うと、ルルが思ったことを口にした。
「じゃあ、晴彦君を一人で置いておくことは出来ないですよね。」
心配する玲奈。そんな舞たちに晴彦は言った。
「あ、僕のことはお気遣いなく。一人でも・・・・・・・・・・大丈夫です。」
「でも・・・」
そんな晴彦に久瑠美は心配する。
「そうね。誰かの家で預かるしか・・・・・・」
「ここがいいです。ここは、僕にとって大事な場所ですから。」
晴彦は深みのある言葉でそう言った。
「あ、じゃアタシがやる!」
ルルが手を上げるが、もちろん却下である。
「じゃあ私が晴彦君の面倒を。」
玲奈が出る。
「貴方の家、両親が反対するでしょ?私は一人暮らしだから問題ないわ。」
小糸も出る。
「それならあたしも同じだし、アタシがやるわ。」
舞も出る。
気のせいであろうか、三人間で見えない火花が散っていた。
「でしたら、三人も一緒に泊まってはどうでしょうか?」
その状況を打開するように晴彦が提案した。三人は顔を見合わせると手を重ねた。ここに協定が結ばれたのであった。
「でもいつ元に戻るかわからないから、晴彦のもの色々買っとかないと。」
「でしたら僕の財布を使ってください。聞く限りだと貯金しているみたいなので。」
「他人の通帳見るのは本当はダメなんですけどね。」
「この際仕方ないわって・・・・・・・・・・どんだけ貯金してるのよ!」
通帳を見るなり驚く舞たち。収入に対し出費が極端に少ない所から金には貪欲である。
「てか、この手帳・・・・」
舞たちは晴彦の鞄に入ってた手帳を見る。そこには何曜日にどこのスーパーの商品が安いか、得なのはどっちかとかが書かれていた。
「晴彦ってオカン属性?」
「そうですね。アーチャーの影響でしょう。」
「だからアーチャー何者!」
そんなことがありながらも晴彦の日用品を買った。玲奈は何とか説得して許可を貰えた。まあ、子供の晴彦を見てみれば無害と思うのも頷ける。実際の晴彦は鈍感だが。
で、今晴彦が台所で四人分のオムライスを作っている。本人曰く“お礼”だそうだ。
「どうぞ。」
『いただきます。』
三人はオムライスを食べるなり衝撃が走った。お店に出せる程の腕前である。
「おいしい・・・・・・」
「けどなんか・・・・・・」
「女性としての尊厳が・・・・・・・・・」
「料理や家事に男も女も関係ないですよ。」
『晴彦、恐ろしい子!』