無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
ある日のホセア学院グラウンド。晴彦たちは牛丼と豚丼のファントム討伐の依頼を受けていた。
「はぁああああああああ!」
舞が牛丼に向かい跳び蹴りを喰らわせる。牛丼が吹っ飛んだことに豚丼は驚く。そこへ後ろから晴彦が十字架と円盤を合体させた楯でタックルする。
「おらっ!」
豚丼は悲鳴を上げて前に飛ばされる。そして豚丼はそのまま久瑠美とアルブレヒトの方へと飛ぶ。
「アルブレヒト、お願い!」
久瑠美の声にアルブレヒトは前に動き、左腕を大きく振りかぶるとそのまま来る豚丼を吹っ飛ばし、牛丼にぶつけられる。それを小糸の声で追撃し動けなくする。
晴彦は豚丼をスケッチすると詠唱する。
「千早振るファントム!THOTHの天倫に虚像を晒せ!」
晴彦は豚丼を、玲奈が牛丼を封印する。
それが終わると周りから歓声と拍手が湧いた。
「強いつよーい!」
「舞、かっこいい!」
「すげーぞ。」
「ナイスチームワーク。」
周りから賞賛され、舞たちは照れていた。
晴彦たちのチームは七月に入りファントム退治の成績がトップの成績を収めるようになっていた。
舞は食堂で一緒に食事を取っていた。相変わらず玲奈の皿は山積みである。
舞は成績を見て微笑んでいた。
「あっ、もうすぐ夏休みね。ここんとこバタバタしてたから忘れてたわ。」
「合宿で海行くんだよね?海!」
海に行くことにルルが上機嫌に反応する。
「私も両親に頼んで、合宿への参加を許可してもらいました。」
「ご両親とは仲よくやっているようだね。」
「はい。最近は前よりも私の気持ちを聞いてもらえるようになりました。」
「そっか。よかったね。」
晴彦と玲奈が話す中、小糸はルルが持ち帰った機械を見回していた。
「小糸ちゃん、それなんだかわかる?」
「通信デバイスね。阿頼耶識社のサーバー専用の。」
「通信デバイス?」
「これが無いと阿頼耶識社のサーバーにアクセスできないの。どこでこれを?」
「初めて共同作業をした廃工場に。」
「回収されずに残ってたのね。」
「あ、あの!」
小糸に舞と同じような格好をした女子生徒三人組が来た。
「あ、あの私たち、水無瀬先輩のファンなんです!」
「は?」
小糸は突然のことに小糸は間抜けな声を出す。
「一緒に写真撮ってください!」
三人は頭を下げる。
「・・・・・・・・え?」
で、結局。
「はい、笑ってー。はい、チーズ。」
小糸は慣れない笑顔で女子生徒三人と写真を撮った。
『ありがとうございました。』
女子生徒はその場を後にした。
ズド――――――――――――――――――――――――ンっと、小糸は落ち込んでいた。
「小糸ちゃん大人気じゃん。」
「手紙とかくれる子もいるのよ。どうなってるのかしらね?」
「まぁ・・・・・・・・・・・・女性からしてみればかっこいい部類に入るんじゃないかな?」
「・・・・・・・・・・・・晴彦はどう思うの、私の事?」
「え?可愛いと思うよ。」
晴彦の言葉に小糸はパッと明るくなった。そしてそれを見ていた舞と玲奈は晴彦の脚を蹴った。
もうすぐ夏休み、全てはいい方向に進んでいる。そう――――――思われた。
夕方の町中。特異能力者男三人組が下校しながら話をしていた。
「聞いたか?隣町の特異能力者がファントムに襲われたってよ。」
「ああ、聞いた。」
「その前にも、別の学校の生徒が襲われたみたいですね。」
一人がスマホを見せる。するといきなり先頭にいた男士が腕を出し、二人を止める。
「おっと!」
「おお、すまん。」
「い、いえ。大丈夫です。先輩?」
先頭にいた男子は緊迫した表情で前を見ていた。
目の前には夏なのに黒いコートに顔を隠すほどの大きな帽子を被っている女性がいた。女性が乱れた映像の様なブレを起こすことからファントムと分かった。
ファントムは一歩、また一歩と近づくと帽子を上げる。瞳はまるでルビー。そしてその目に模様が浮かんだ。
「ッ!構えろ!」
先輩の言葉を火種に全員が構える。そしてファントムは微笑んだ。
『うぉおおおおおおおおおおおお!』
三人は一斉にファントムに襲い掛かった。
そして三人は倒され、ファントムは去って行った。
翌日、そのことはアリスの口からクラブ全員に告げられた。
「昨日、他校の特異能力者が正体不明のファントムに襲われました。」
その言葉にクラブにいた全員が驚きの声を上げる。
「このファントムは、エニグマと呼ばれています。特徴や来歴は不明ですが、現段階で分かっているのは、襲われた特異能力者は、その能力を奪われるということです。」
そのことに更に驚かされる。
「奪われるって、能力がエニグマに移っちゃうてことですか?」
舞の問いにアリスは「そうです。」と答えた。
「ファントム対策局は捜査に乗り出してますが、皆さんも十分に警戒してください。登下校はなるべく大勢で。万一遭遇しても戦わず、逃げるように。いいですね?」
夕方になり、晴彦たちは神社で一緒に話していた。
「特異能力者を襲うファントム。」
「なんだか変なの出てきたわね。」
「エニグマってどんなクマさんでしょう?」
玲奈の言葉に舞が相槌を打ち、久瑠美がエニグマをクマと勘違いする。
「エニグマはクマじゃないんだ。ギリシャ語で“謎”。第二次世界大戦の暗号機械や管弦楽曲名前にも使われるんだよ。」
晴彦の説明に久瑠美は感心する。
「正体不明と言うのが妙だわ。ファントム対策局にも、阿頼耶識社にも情報が全然ないなんておかしい。」
小糸がそう言うとルルが愚痴った。
「夏休みの合宿どうなっちゃうんだろ?」
「今はそれか?」
その時悲鳴が聞こえた。そのことに晴彦たちが気付く。
「玲奈ちゃんと久瑠美ちゃんはここに!強化、開始!」
晴彦は肉体を強化すると一気に上まで跳び、声がした方へと駆け付けた。
「晴彦!」
「全く速すぎるんだから!」
舞と小糸も晴彦を追った。
上の空き地ではビーチエンジェルズの金髪の女性を黒髪の女性が介護し、オレンジの子がエニグマと対峙していた。
「しっかりなさってくだい。」
「一体何をした?」
サーフボードを持っている子の言葉に対しエニグマは右手に光の剣を出す。
「黙りってか?ふざけるな!」
足元に水が出るとエニグマに向かい特攻する。
「いやぁあああああああああ!」
しかしエニグマは光りの剣で弾き返す。そして彼女は地面に倒れる。そんな彼女にエニグマは近づく。手を伸ばした。
一方その頃晴彦は一足先に駆け込んでいた。
(また誰かを救えない思いは・・・・・・・・・・・イヤダ!)
晴彦は空き地の塀を飛び越える。そこには倒れているビーチエンジェルズ二人と、黒髪の女性が対峙していた。
「ビーチエンジェルズの先輩たち!」
後から舞たちが来た。そのこと気付き、先輩が晴彦たちの方を向く。
「逃げて、エニグマです!」
彼女がそう話す間にエニグマの脚が光る。
「コイツは唇を――――」
「先輩!」
「っ!?」
先輩の前にエニグマが一瞬で近づくと唇を奪った。
「チューした!」
そのことにルルが驚く。先輩はビクビクと痙攣し、唇から特異能力が奪われる。そして彼女の特異能力の象徴である錫杖が消え、彼女は倒れた。
「先輩!」
「こんの!」
舞がエニグマの頭に蹴りを喰らわそうとするが避けられる。するとエニグマの右手に錫杖が現れ、舞に水を喰らわせようとする。間一髪のところで小糸が音の壁で防いだ。
「二人共、下がって!投影、開始!」
晴彦は槍を投影するとエニグマに向け投げる。エニグマは避けるがすぐに晴彦が「壊れた幻想」を使い爆発させる。その間に晴彦はアブラメリンの指でクトゥルークを召喚する。
「GO!」
晴彦の指示でクトゥルークは放水する。召喚応力に対しエニグマは一瞬驚いて動きを止めた。
「千早振るファントム、THOTHの天倫に虚像を晒せ!」
すでにスケッチをしていた晴彦はエニグマを封印する。
「よし、止め!ん?」
舞が五行の拳で止めを刺そうとしたがスケッチしたエニグマは晴彦のスケッチから姿を消した。
「消えた?」
「嘘だろ!描いたらちゃんと封印されるのに!」
「これって・・・・・・・・封印出来たって事?」
「なんでもいいよ。とにかく、アタシたちの勝ち!」
「ちょっと待て!」
喜ぶルルに晴彦が口を挟む。
「解析、開始。」
晴彦はスケッチブックを解析する。
「っ!そんな・・・・」
「どうかしたの、晴彦?」
「・・・・・・・・・・・エニグマが、俺のスケッチから逃げ出したんです。」
「なんですって!」
舞はそのことに驚く。
「確かなの?」
「間違いありません。」
そして夜、晴彦、舞、玲奈、ルルは阿頼耶識病院にいた。
ビーチエンジェルズの先輩たちが入院したのは、阿頼耶識社付属の研究病院であった。大けがはないけど、特異能力は失われたままだという。阿頼耶識社は人の脳機能を変化させた、そもそもの原因となった企業。ファントムと特異能力の研究では世界一。その技術に、期待するしかなかった。
「早く治るといいんだけど。」
「奪われた能力が戻らない。ということは、エニグマは・・・・」
「本当に逃げやがった。」
「出てきたらまたやっつけるだけよ。」
舞の言葉にルルが相槌を打った。
でもその後、エニグマが現れることはなく、晴彦たちは夏休みに入った。
晴彦は家で通信端末を直していた。
「晴彦またそれをいじってるの?」
「もうちょっとで直りそうなんだよ。」
「退屈だよー。学校行って皆とあそぼー。」
「全く・・・・・・・・たまには舞先輩たちに相手してもらえよ。」
そんな晴彦ルルは舌を出して言った。
「晴彦のアンポンタン!」
ルルはそう言うと部屋を後にした。
「全く、なんで俺にばかり構うんだ?」
再び作業に戻る晴彦。そんな時、家の固定電話が鳴った。
「ん?」
晴彦は電話に出る。
「一条です。」
『・・・・・・・・・・・・・』
「もしもし?」
『晴彦。』
「?」
晴彦はその声に聞き覚えがかすかにはあったが、思い出せなかった。
『晴彦ね。』
「えっと・・・・・・・・・・・・どなたですか?」
『母さんよ、晴彦。』
「っ!かあ・・・・・・・さん?」