無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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27 永遠のファントム・ワールド①

 阿頼耶識社付属病院の個室。そこで晴彦は未だ目を覚まさない母を見ていた。

 端の方には舞、玲奈、久瑠美、アリスがいた。

「ずっと眠り続けているんです。エニグマに、意識や記憶を奪われた後遺症で。」

 そのことに舞たちはショックを受ける。

「やっぱり、エニグマを封印しないと目を覚まさないんですね?」

 玲奈がそう言った。

「前にも言った通り、私はここの研究の手伝いをしています。何かあったらすぐに連絡しますね。」

「はい、お願いします。」

 舞が返事をする中、晴彦は握り拳を作って思った。

(俺は・・・・・・・・・・また・・・・・・・助けられなかった!)

 

 

《逃走中のエニグマは、昨日だけでも三人の能力者を襲撃し、これだけで少なくとも三十名あまりの特異能力者が被害に遭いました。》

 ニュースにはエニグマのことが報道されていた。晴彦たちそれを見ていると舞が晴彦を心配して声を掛ける。

「晴彦・・・・」

「っ!そろそろ行きましょうか。」

 いつも通りの晴彦を演じているが舞体には無理していることが分かった。

「無理してますね。」

「うん。やっと会えたお母さんがファントム。その上能力を奪われてしまったんだもの。やるせないわ。」

 舞たちはそんな晴彦の背中を見ていた。

 そんな晴彦が一人の男性とすれ違う。すれ違った途端に男性が晴彦に気づいて声を掛ける。

「あ!晴彦君、ですね?」

「ええ。」

「よかった、ここで会えて。」

「あの・・・・貴方は?」

「初めまして。私は、なんというか・・・・君のお母さんの今の夫です。」

「・・・・・・・・え?」

『えっ!?』

 そのことに舞たちも驚いた。

 

 

 晴彦と男は病院の中庭のベンチで会話をしていた。その話を遠くから舞たちも聞いていた。

「君のお母さんと知り合ったのは二年ほど前のことです。それ以前のことを詳しく聞くことはしませんでしたが、本当に複雑な事情があったみたいです。そして、随分と苦労したようです。ああ、そういえば・・・・」

 男は紙袋から一冊の絵本を取り出した。

「これは君のお母さんが毎日眺めていた本です。中を見てください。」

 晴彦は絵本を手渡され、中を見る。

「っ!」

 そこには記憶を失う前の晴彦と、笑顔で写っている母の写真が一枚あった。

「ずっと、君に会いたがってました。でも今更会わせる顔が無いと。罪の意識に苦しみ続けていたようです。」

「・・・・・・・・・・・・・あの、こんなこと言うのは変かもしれませんが、あの人・・・・・・・母を支えてあげてください。俺には、あの人と過ごした記憶がないんです。」

「それはどういうことですか?」

 晴彦は十年前に身に起こったことを話した。すると男は同情しながらも納得し、「わかりました。」と言った。

「すみません、待たせしちゃって。」

 晴彦は絵本を手に舞たちの元へと戻る。

「晴彦・・・」

「大丈夫です。いろいろ分かって・・・・少しスッキリしました。」

 晴彦は言葉ではそう言うが、顔はそう語っていなかった。そのことに舞は気づいた。

「そっか。よしよし。」

 晴彦を舞はあやす。からの首絞めである。

「じゃあ次は、ルルのお見舞いね!」

「いきなりは反則です!」

 そんな光景に久瑠美は戸惑い、玲奈を見るが玲奈は笑顔で応えた。

 

 

 場所は変わり晴彦の家。玄関では晴彦たちが知っているルルとは180度違うルルが出迎えていた。

「お帰りなさいませ。」

 そのことに晴彦たちは唖然としていた。

「お母さまのご容体はいかがでしたか?」

「あ・・・・うん。特に変わりなかった。」

「そうですか。」

 そんな時玲奈が晴彦に小声で話しかける。

「ずっとこうなんですか?」

「そうなんだ。」

 そんな晴彦にルルが詰め寄る。

「心配ですね。早く良くなるとよいですね。」

「アンタも来ればよかったのに。」

 舞がそう言うとルルは言った。

「いえ、滅相もありません!私なんかが付いて行ったらお邪魔になるだけですもの・・・」

 ルルは人差し指を合わせながらそう言うと軽く笑った。

「あ、麦茶の支度をしてまいります。麦茶は、ヒコプラテスも用いていた健康飲料なんですよ。彼の本によれば――――」

「ストップ。脱線してるよ。」

 晴彦はルルの頭を軽く突く。

「すみません、つい。」

 晴彦の部屋でルルの変化について話していた。

「ルルちゃんどうなっちゃったんでしょう?さっきはまるで晴彦お兄さんみたいでした。」

「わからないんだ。別にエニグマになにもされていないし。」

「アンタが特異能力を奪われたのと関係あるのかしら?」

「ルルちゃんって晴彦君と仲良しですから、影響を受けたとか?」

「うーん・・・いくらしょっちゅういるからってそんなことあるかな?」

 そんな話をしていると物音が聞こえてくる。晴彦たちがその方を振り向くとそこにはビニール袋に人数分の麦茶のペットボトルを入れたルルがいた。

「お待たせしました。今お注ぎしますね。」

 その光景にまたしても唖然とするが、いち早く玲奈が動いた。

「ルルちゃん、お手伝いしますよ。」

「え!そんな、大丈夫ですよ。」

 そんなルルを見て晴彦は不安になった。

 

 

 そのころ小糸はビルの屋上でエニグマの気配を探っていたが、溜息を吐く。

「どうだ?エニグマの居場所分かるか?」

 ファントム対策局の人間が問うと小糸は首を横に振る。

「何か情報はないの?」

「実は、我々も何も知らされてないんだ。」

 その人の後ろに二人の黒服の人がいた。

「上層部は何か掴んでいるらしいんだがな。」

 小糸は少し考えるとあることを思い出した。

 

 

「よいしょ、よいしょ!」

 全力でコップに麦茶を注いでいるルルを見て舞たちは言った。

「こういうルルも・・・・・・・・ありね!」

「ありですね!」

 舞と玲奈がそう言った途端、ルルは麦茶をこぼした。

「わぁ!こぼしちゃいました!」

 ルルは急いでティッシュを取るがその際に転んでしまう。

「まさかのドジっ子?」

 舞がそう言った途端、部屋の扉が勢い良く開けられた。開けた先には小糸の姿があった。

「小糸さん。」

「どうしたのよ怖い顔して?」

 そんな中小糸は晴彦に問う。

「どこ?」

「何が?」

 小糸は晴彦の机にある通信デバイスを手に取る。

「これ、修理終わった?」

「まだだけど。」

「直ぐに直して!」

 小糸は晴彦のネクタイを掴んでそう言った。

「ちょっと、小糸。」

「情報が隠蔽されてる。」

「えっ!」

 小糸の言葉に舞は驚く。

「これは阿頼耶識社のサーバーにアクセスする、専用通信デバイスよ。これでサーバーをハッキングする。」

『ハッキング!』

「少しでも情報が欲しいの。じゃないと、エニグマを倒せないわ。すぐに直して。」

「そう言われても・・・・」

 困る晴彦に久瑠美が助け船を出す。

「あ、あの・・・だったら。」

 アルブレヒトの腕を上げる久瑠美。

 そして晴彦の机の上でアルブレヒトが修理を行っていた。

「前にもお父さんのパソコンを直したんですよ。」

「へー、器用ねー。」

「すごいな。」

 舞と晴彦が感心すると・・・・

「直ったみたいですよ。」

「早っ!」

 そして通信デバイスからサーバーにアクセスができた。

「繋がった!」

 舞がそう言うと晴彦はショックを受ける。

「すごいです。ハッキングもできるなんて。」

 玲奈の言葉に晴彦はショックを受ける。

「今までの苦労は?」

 そんな晴彦を慰めるかのようにルルがそっと頭に手を置いた。

「こんなのバレたらヤバいわよね。」

「構いやしないわ。このまま放っておいたら手遅れになる。」

 小糸の方を舞たちが見る。晴彦は小糸に問う。

「情報が隠されているのは確かなの?」

「間違いないわ。あれはただのファントムじゃない。」

 そしてアルブレヒトがハッキングに成功した。

「出た!」

 アルブレヒトは久瑠美の方へ戻る。

「お疲れさま、アルブレヒト。」

 小糸はパソコンを操作しファイルを開く。そしてファイルの中に描かれていた文字を読み上げる。

「“強化ファントム、エニグマ”?」

「強化ファントム?」

 小糸ん言葉に晴彦が反応する。

「それって?」

「阿頼耶識社は以前から、集められた特異能力者の異能を学校ごとにプールして分析し、ファントムを人工的に強化する実験をしていたみたい。」

「人工的に強化!(それじゃあアーチャーがいてた切嗣の悲劇じゃないか!)」

 晴彦はそう思った。

「ねえ、どういうこと?」

「捕えたファントムに、人間の遺伝子情報を組み込んだり、科学的な処理を施したらしいわ。元のファントムとは、完全に別物よ。」

「な、なんなのそれ?」

「どうしてそんなことを?」

 舞と玲奈が疑問に思う。

「用途は、低コストの労働力、人工兵士としての軍事転用、薬品用の実験の素体など・・・・」

 そのことに晴彦は怒った。

(ふざけるな・・・・・・・・・・・・・・命を・・・・・・・・・・・・・そんな風に扱うなんて許されると思ってんのか!)

「エグイこと考えるわね。」

「ファントムを守る法が無いからって・・・・・・・・・・・・こんなの・・・・・・・許されるわけないだろ!」

「でもエニグマは研究者の予想を大きく超えた力を持ってしまった。そして人間を見下すようになり、反乱を起こしたらしいわ。」

 

 

 その頃阿頼耶識社にエニグマが来ていた。警備ロボットが制止にかかる。

〈ここから先は入場規制が掛けられています。許可証をご提示してください。〉

 そんな警備ロボットの頭を撫でてエニグマは言った。

「里帰りなの。だから・・・・・・・・・・許可なんかいらないわ。」

 エニグマはそう言うとロボットの頭を特異能力の剣で貫いた。

〈ご用件をおっしゃってください。担当ブショニ――――〉

 警備ロボットは頭から火を噴きながら倒れ、そして燃えた。

 

 

「阿頼耶識社は今回の件、最後までシラを切り通すつもりの様ね。」

「そんなのズルいです!」

「ファントムよりこいつらの方がずっとタチ悪いじゃない!」

「待って。私たちの情報もあるわ。」

「姫野先生が送ったデータかな?」

「ええ。“ホセア学院特異能力者 一条晴彦と妖精型ファントムルルに関する報告”。」

「え?」

「晴彦さんと私のことに関してですか?」

「なんて書かれているんですか?」

 それを読もうとした時、小糸の携帯が鳴った。

「ちょっと待って!はい?・・・・・っ!」

 小糸は電話に出ると立ち上がった。

「わかったわ。」

 小糸は電話を切る。

「エニグマが出たわ。」

 そのことに晴彦たちは驚く。舞が問う。

「どこ?」

「阿頼耶識社の研究施設。貴方のお母さんがいるところよ。

 晴彦はそのことに衝撃を受けた。

 一方その頃阿頼耶識社ではエニグマが警備ロボットを壊し、着々と進行していた。

「それ以上近づくな!」

 阿頼耶識社の人間が警告をする。が、エニグマは足を止めない。

「人間どもに興味はないわ。私が欲しいのは、この研究施設にある情報だけよ。」

「止まれ!」

 再度通告するが全く聞く耳を持たない。

「隊長!」

「・・・・・・・・・構え!」

 隊長の合図で一斉に構える部下たち。そんな光景にエニグマは微笑む。

「掃射!」

 武器から放たれた攻撃がエニグマに向かい飛び、直撃する。が、それは弾かれ攻撃を受けた。阿頼耶識者たちの悲鳴がこだました。

「退避!退避!」

 このことはたちまちニュースになった。

「これ以上近づかないでください。危険ですので。」

 阿頼耶識社の研究施設へと通じる道を阿頼耶識社が封じていた。晴彦たちは近づこうにも近づけなかった。

「どうするの、晴彦?」

「・・・・・・・・・・・・・・俺だけでも行きます。」

 晴彦はそう言うと黒鍵を両手に投影し、腎をコンクリートに描くと紋章を刻み、指を気って血を垂らした。

「我の血を刻みし馬よ、今我は汝を求める。ならば汝、我が意に応えよ!」

 すると晴彦のバイクが転移される。

「ちょっと晴彦!」

 舞が晴彦の頬を片手で掴む。

「アンタみんなの気持ち考えてるの!」

「私たちもお供します!」

「大体アンタは――――」

 晴彦が舞と痴話喧嘩をしているのを見て溜息を吐く。すると黄色い車が晴彦たちの側に来た。

「皆さん、来てたんですか?」

『先生!』

 車の運転手はアリスであった。

 

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