無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
翌日の昼休み。晴彦は謝罪も兼ねて菓子折りを玲奈に手渡した。
「昨日は失礼しました。」
「い、いえこちらこそ。それにあれは私があなたの言葉を聞かなかったことから起こったことですし・・・・・・・・・・」
「気にしないでください。誰にでもありますから。それとこれは昨日のとは別なのですが、よろしければ一緒にクラブに入りませんか?」
「・・・・・・・・・・・ごめんなさい。私には――――」
「話だけでもいいので。お昼がまだでしたら奢りますよ。学食で。」
「っ?!」
その言葉に玲奈は反応する。
「学食・・・・・・・・」
玲奈は喉を鳴らした。
ホセア学院の食堂である一点に注目が集まっていた。それは晴彦の正面で食事をしている玲奈であった。彼女はざるそばを啜っているが彼女の周りに積み上げられた食器は軽く女の子が喰う量を超えていた。
(アーチャーが言ってたなー。食事をおごる時は大金を持っとけって。持っててよかった。)
晴彦は平静を保った顔で、内心安堵を吐いていた。
「おいしいです。これならいくらでも食べられます。」
「そうか。それだけ食べるということは元気な証拠だ。」
晴彦が微笑みむと玲奈は顔を赤くしてしまう。
「ん!顔が赤いけど大丈夫か?」
「え?え、ええ!だ、大丈夫です!」
そんな玲奈の反応を見て一部の生徒は思った。
(出た、無自覚タラシスキル。)
晴彦がアーチャーからもらった(?)スキルである。
「あ、あの私・・・・・・・・学食って一度来てみたかったんです。でも、お小遣いをもらってなくて・・・・・」
「そうか。まあそっちにはそっちの事情があるだろうし、これ以上は詮索しないことにする。」
「ありがとうございます。よろしければお話を聞かせていただけませんか?」
「ああ。じゃあファントムについては知っているとは思うが、一応説明するね。
ファントムとはいわゆる幽霊や妖怪、魔物などの異形の者たちの総称であるんだ。元々空想上の存在であったり、一部の人間にしか見えないものとされていた。
しかし、十数年前の阿頼耶識社の研究所で爆破テロの被害に遭い、それによって脳に達することのできる特殊ウィルスが施設外に流出。大規模バイオハザードによる脳の変化が人々を襲い、結果として誰の目にもファントムを認識できることとなった。いうなれば、幻影と現実の境目から出現したのがファントムであるんだ。
時を同じくして乳幼児らに異能力が発現。僕や君の様にファントムに立ち向かう子が生まれたんだ。
ファントムのほとんどは無害ではあるが、中には人に、社会に害を与える者もいる。私たちの能力者は学校ごとにクラブを作り、そう言ったファントムを封印、若しくは追い払ったりする。これは国防省が認可しているため報酬もある。現金ではなく品物ではあるが、私は現金派だ。」
「あの・・・・・・・・・ルルちゃんもファントムなんですよね?」
玲奈がプリンを食べているルルを見る。
「そーだよ。でも私はいい子だから退治されないの。」
「いい子と言うより基本無害なんだ。そして食べる時は許可くらい貰う様にしろ、ルル。」
晴彦は軽くのルルの頭を叩く。
「で、入ってはくれないか?こちらとしては君のような人材が欲しいのだが。」
「はぁ・・・・・」
玲奈はまだ迷っている様子であった。
「お小遣いを貰っていないのであればバイトの代わりにもなる。ペアを組んでいる舞先輩も、お米や日用品を貰って生活の足しにしているんだ。」
「ん~・・・・」
どうも踏ん切りがつかない玲奈にルルが突っかかる。
「こんだけ銭使っといて嫌とは言わせねぇぜ、嬢ちゃん!」
「今の言葉は無視して。」
晴彦はルルを掴み玲奈から離す。
「とりあえず体験はどうだろうか?それからでも遅くはないからな。」
「はぁ・・・・」
場所は変わりクラブ。玲奈は舞とあいさつをしていた。
「和泉玲奈さんね?あたし、二年の川上舞。」
「っ!?」
舞の顔を見て玲奈は何か反応した。そしてふと一言。
「お姉さま・・・・・・」
「は?」
「っ!ご、ごめんなさい。え、えっと。私のいた女子高って上級生を“お姉さま”って呼ぶ習わしだったので。つい・・・」
「ほー。何やらお嬢様のような感じだな。それとさっき舞先輩の顔を見てさっきの言葉を言ったから、一瞬ディルムッドのチャームに掛かったのかと思ったよ。」
「ディルムッド?」
「ああ。ケルト神話に出てくるフィオナ騎士団のディルムッド・オディナ。先輩とは違い槍を二本使い戦うが、女神の泣き黒子を持つから女難の相が文字通り出ている騎士なんだ。」
「はいはい、神話や逸話の話はいいから。それよりさっき顧問の姫野アリス先生から、新しい依頼が来たの。今度も成功させるわよ!あたしの生活のために!」
「今度はどんなファントム?」
ルルが聞くと舞は答えた。
「電柱のファントム。」
住宅建設予定地にリズミカルなリンボーダンスの音楽が流れる中、三体の電柱ファントムがリンボーダンスをしていた。晴彦たちは塀から覗いた。
「宮沢堅持の童話みたいですね。」
「楽しそー!」
玲奈はファントムを見て連想し、ルルは能天気な感想を言った。
「あの電柱って、この山で切られた材木で作られたらしいの。それがファントムになって帰って来たみたいね。」
「あのファントムさん、別に悪いことをしているわけじゃないんですよね?無理に追い払わなくても・・・・・・」
「あのファントムのせいでこの辺に電波障害が起こっているんだって。内のクラブの最終目標はファントムとの共存。けど、話の通じない迷惑なファントムはどっか言ってもらわないとね。」
「リンボー!」
「ルル、お前は本当に能天気だな。」
晴彦はルルに呆れる。
舞は立ち上がると深呼吸をし、手を前に出しながら腰を下ろす。すると舞の手の甲に五行線が表れ、舞は胸を揉みながら詠唱する。晴彦は見まいと顔を背ける。
「五行万象を発生し、緊にして緊なる金の気を禁ず。肺の金気拳を満たさん。
勤にして禽なる金気は満つ。いざや!破邪顕正の戦に挑もうぞ!」
舞はファントムに向かい走り出すと、一体に手を当て、気を放った。それによりファントムは吹っ飛ばされる。
「さあ、次はどっち?」
舞の問いにファントムは行動で答えた。ファントムの一体が電気を帯びた電線を振るう。
「おっと!」
舞は避けるが地面に当たった途端で放電する。
「電撃!」
舞は驚くがファントムはお構いなしに電線を振るってくる。
「うわぁっ!?」
舞は自慢の身体能力を活かし後退する。
「「舞先輩!」」
「舞っち大丈夫?」
「なんとかね。」
晴彦はある考えを三人に話した。
「「「付喪神?」」」
「ええ。人間に捨てられた道具類が恨みを持って変化した妖怪です。昔この山では、切り倒した気を供養する踊りを踊っていた。今彼らは、自分たちでその踊りを踊っているのではないのでしょうか?きっと・・・・・・・・・・・・誰かに認めて欲しいから。」
晴彦はそう言うとファントムの方を見る。
(アーチャーも、きっとそうだったんじゃないのか?一人にでも認めてもらえれば・・・・・・・)
そう思っている晴彦にルルは問う。
「でもなんでリンボーダンスなわけ?」
「多分関連付けなんだと思う。“リンボー”ってのはキリスト教で言うところのこの世と天国の狭間の世界の事。役目を終えても昇天出来ない悲しみを、ファントムたちはダンスを踊ることで表現しているんだと思う。」
「キリスト教のリンボー・・・・・・・・・それがリンボーダンスの語源なんですか?」
玲奈の問いに晴彦は答えた。
「いいや、全然。さっきも言ったけど関連付けなんだろう。もしくは、自分たちにできるか、俺たちにもできるからなのかもしれない。」
「でも一条君って物知りなんですね。びっくりしました。」
「いいや、大したことじゃない。ただ小さい頃から本を読んで、それを頭の知識に蓄えた。ただそれだけなんだ。」
「そーね。バトルで使えない残念知識しかないんだから。」
「ま、否定しません。」
舞の言葉に対し晴彦はその言葉を受け入れる。
「でも対策はわかりました。要するに、リンボーダンスを此処にいるみんなでしろってわけです。」
晴彦の言葉通りに参院は音楽にリズムを乗せ、リンボーダンスをする。
「みんな頑張ってー。」
一人ルール違反になるのでルルは見物する。
「本当にこれでファントムを封印できるんですか?」
「そのはずだよ。付喪神は人間たちに祀って欲しがっているんだから。」
「触れたら感電しちゃうわ。気を付けて。」
三人は慎重に動き、電線の下を身体を反らしながら通った。
「やった!これで・・・・」
「いや、リンボーダンスってのはどれほど低く通れるかを競うものですから・・・・」
晴彦がファントムの方を向くと予想通り電線が低くなっていた。
時間は過ぎて夜。ファントムは体を大きく反らし電線を抜ける。
「いつになったら付喪神たちの気は晴れるの?」
「おそらく勝つまで。」
舞の言葉に晴彦は答えた。そして三人はリンボーダンスをする。
玲奈は慎重に動くがバランスを崩し尻餅を着いてしまう。
「わぁっ!」
「はい、玲奈ちゃんしっぱ―い。」
「大丈夫。二人で君の分も頑張るから。」
晴彦がそう言うと晴彦と舞は潜り抜けた。
「やった!」
「あと一押しです!」
「へ?」
さらに電線が低くなる。
「まだやるの!?」
リンボーの音楽に乗りながら晴彦と舞、ファントムは潜ろうとする。
「舞お姉さま、頑張ってください。」
「はーるひこー、がんばれー。」
三人が潜ろうとする。
ファントムは限界まで体を反らすが曲げたところに負荷がかかり、折れ、倒れた。
「倒れた!」
「これで舞お姉さまが成功すれば!」
「晴彦も気にしてやれよ。あっ!?」
ルルが舞を見て気づく。
「とりあえず・・・・・・・・お先に!」
晴彦が抜ける。
「舞っちの巨乳が・・・・・」
「へ?ああ、なるほど。」
「これは玲奈ちゃんの方が有利だ!」
「それってある意味女性に対して失礼だろ!」
「どういう意味ですか!」
三人が漫才をする中、舞は慎重に進むが、自分の胸が引っ掛かるのではないかと恐怖する。そんな中、舞は体を上下に反復させ、胸を大きく揺らし始める。
「うわ、すごい賭け。」
「いっち、にの・・・・」
一同が見守る中、舞は動いた。
「さん!」
胸が極限まで低くなった瞬間を狙い、舞は電線を潜る。潜る抜け上半身を起こした瞬間、舞は自分の身体を抱きしめ喜びの声を上げる。
「よっしゃー!」
『やったー!』
舞の成功に一同喜ぶ。
「やりましたね!」
「すごいです!」
「さすが舞っち!」
三人が舞を褒める。
「まあ、ざっとこんなものよ。」
舞は照れながらもそう言った。そんな時ルルが気付いた。
「あっ!ファントムが・・・・」
ルルが見る先を一同見るとファントムはリンボーダンスを止め、受け入れるかのような仕草を見せていた。
「付喪神の恨みが晴れたんですね。自分たちを封印してもらって欲しいんでしょう。玲奈さん、すみませんがお願いできますか?」
「あ、はい。」
晴彦の言葉に玲奈は答える。
「ちょっと晴彦、どういうことよ?」
「まあ見てあげてください。彼女の能力を。」
玲奈はファントムの前に立つと深呼吸をし、口を大きく開けファントムを飲み込む。
「玲奈ちゃんすごいわ。絶対うちのチームに入ってもらわなくちゃ!」
舞は玲奈に近づきながらそう話した。
「はい。舞お姉さまがそうおっしゃるなら。」
「やったー!ありがとー!」
舞は玲奈に抱き着く。
「これで人材不足は解消ですね。」
「それも完璧なフォーメーションよ。戦うのはアタシ、封印するのは玲奈ちゃん。」
「で、俺は封印兼近・中距離の戦闘要員ってわけですね。」
「そうね。ん?中距離ってアンタ、飛び道具使えるの?」
「ええ、まあ。」
そんな話をしているとルルが話しかけてくる。
「見て―。電柱が。」
ルルの後ろには転がっている木の電柱があった。
「付喪神が離れて、元の電柱に戻ったのね。」
そんな電柱を見て舞は悲しい顔をする。
「なんだか可哀そうですね。」
「こいつらも、元は人間のために役立ってたんだね。ただ、付喪神になって人から嫌われてしまった。たったそれだけなんだよ。」
玲奈はそんな電柱を見て花を添える。
(もしもう一度木に戻れるなら、また君たちは人間お役に立ってくれるかい?)
煌く星の元に、電柱の金属部が輝いていた。
ホセア学院準備室。そこでアリスは一人の女子生徒と話していた。
「そう・・・・・・・やっぱり、一人でやっていくんですか?」
「はい、これまでずっとそうでしたから。」
「わかりました。でも気が向いたらうちの活動も手伝ってくださいね。」
「機会があれば。」
女子生徒は「失礼します。」と言うと準備室を後にする。
丁度その時に舞たちが準備室へと向かっている最中であったため、女子生徒とすれ違った。四人はその生徒のことを気に掛けた。
「誰だろう?」
「玲奈ちゃんと同じ四月から転入してきた子かしらね?」
そんな中晴彦は似た感じを思い出した。
(あの感じ・・・・・・・・・・・・アーチャーみたいだ。まるで・・・・・・・・・・一人で全てを抱えている、そんな感じ・・・・・)