無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦   作:ザルバ

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5 記憶コピペ作戦①

 夢を見た。

 あの日と同じ、地獄の夢。でも何かが違った。空を見上げれば大きな穴が開いていた。俺の時は、そんなのはなかった。

 周りを見渡すと、赤い髪の少年が、泣きじゃくりながら地獄を歩いていた。どこか、俺と同じに思えた。

 そしてしばらく歩き続けた。俺と同じように、雨に打たれながら。少年が手を空へ伸ばす。俺はその手を取ろうとするが、掴めず落ちてしまいそうになる。

 誰か助けてくれ。そう思った矢先、少年の手を一人の男が掴んだ。その人は黒いスーツを着込んだ男であった。

「生きてる・・・・・・・・・・・生きてる!よかった・・・・・・・・・・・よかった・・・・・・・・・これで僕は、救われる。僕は、一人を助けた。」

 まるで助けられたのは、少年ではなく男であった。

(ああ、そっか・・・・・・・・・・・これアーチャーの・・・・・)

 僕はその時理解した。これが、憧れる正義の味方の始まりなんだってことを。

 

 

「ん・・・・・・・・」

 晴彦は目を覚ますと頬を伝う涙の感覚があった。

「そっか・・・・・・・・・俺、アーチャーの過去を見たんだ。」

 晴彦はそういうと着替え始めた。

 

 

 休日であるにも関わらず晴彦は舞たちと出かける。理由はアリスからの依頼である。

「舞お姉さま~。」

 待ち合わせの駅前で待っている舞に玲奈が声を掛けながら晴彦と共に来た。

「すいません。ちょっと準備に手間取って。」

「二人一緒に来るなんて仲いいのね。」

「いや、たまたま――――」

「晴彦君とは偶然来る途中で会っただけですので!ぐ・う・ぜ・ん!」

 玲奈は照れ隠しをしながら階段を跳ぶ。

「やっぱ嫌われてるか。仕方ないな。」

 晴彦はそう言いながら階段を上り始める。

(自覚してないのね、こいつ。はぁ~、ジゴロなのは病気ね。)

 舞は晴彦に呆れていると子供の声が聞こえて来た。

「オオグソクムシ、カッコよかったね。」

「うん!」

「えー。アタシあれちょっと怖かった。」

 そんな光景に舞はふと見入ってしまう。

「先輩?」

 晴彦が舞に声を掛けると舞は歩きながら答えた。

「ちょっとね。自分が小さい頃のこと、思い出しちゃった。」

「舞お姉さまってどんなお子さんだったんですか?」

「それがね、嘘だって言われそうなんだけど、大人しくて内気で泣き虫でね。」

「「絶対嘘だ。」」

 晴彦と玲奈が口を揃えて言うと舞の地獄耳に入り、関節技を決められる。

「ふん!」

「なんでさー!」

 理不尽な暴力に晴彦は悲鳴を上げる。

「私は信じます!ああ、きっと可愛らしくて愛くるしい女の子だったんでしょうねー。」

「可愛かったかはともかく、昔は本当に引っ込み思案でさ。初対面の人とは目も合わせられなくって。でも、一度だけ・・・・」

(そう。あれは遠い日の記憶。魔法の様な、不思議な思い出。)

 舞が思い出に更けているとルルが声を掛ける。

「ねー、そろそろ離してあげたらー?」

「あ、ごめん。」

 晴彦はやっと舞から解放された。

「さ、電車来るからそろそろ行くよー。」

「はい、舞お姉様。」

 そんな三人の光景を隠れながら見ているクマのぬいぐるみを持った女の子がいた。

「このあいだのお姉さんたちだね。アルブレヒト。」

 

 

 電車に乗った舞が晴彦たちに話した。

「それで、今回のファントムなんだけど、夕方橋を渡ろうとすると通せんぼするんだって。“通りたければ自分を倒してから行け”って。」

「弁慶みたいなファントムですね。」

「だが、弁慶は負けた相手の獲物を奪うけどファントムは違いますね。」

「ええ。川に出るということは、きっと水の属性よ。」

「じゃあ、土の攻撃で倒せますね。」

 晴彦の言葉に玲奈は頷いた。

「そう!張り切ってやってやろうじゃない!」

 その光景を少し離れている場所でクマのぬいぐるみが見ていた。

 

 

 夕方の依頼のあった橋に晴彦たちはいた。

「ここね。」

 舞を先頭に晴彦たちは歩き始める。

「暗くなってきましたね。」

「“逢魔時”って言って、夕方は魔物が出やすい時間なんだ。そろそろ現れるかもしれない。先輩、どうかしました?」

 晴彦が舞の異変に気付く。

「なんかここ、見覚えあるような・・・・」

 舞がある程度進んだところで足元が急に光り始めた。

『っ!?』

 空から花弁が舞い落ちるのに気づいたルルは見上げると、橋の上にいる黒い肌に白髪の女の子のファントムがいた。

「ファントムだ!」

「アンタね!通行人に片っ端から喧嘩を売っているファントムって!」

 舞の言葉にファントムは何も答えない。

「アタシが相手してあげるわ!」

「喧嘩を売っていたのではありませぬ。」

「っ!?」

「すべては志を遂げんがための手立て。」

「なに?アンタ会話ができるタイプ?」

「斯様にして待てば、いずれ必ず願いは達せられる。そう思いし故のことでございます。」

「志とか願いとか、なんの話よ?」

 舞とファントムが話をしていると反対方向にもう一体のファントムが現れる。

「先輩、もう一体います。」

「えっ!」

 舞は後ろを振り向くとそこには白い肌に黒神の女の子のファントムがいた。

「知れたこと。川上舞、其方を呼び寄せることが私の狙い。」

「アタシ!」

「増えた―!」

 衝撃の狙いに舞は驚き、ルルは声を上げる。

「腕自慢の其方の事。」

「こうして我らが名を売れば、いずれ現れると踏んでいた。」

「狙いは先輩・・・・・・・・・よくわかっていることで。」

「でもどうして?」

 玲奈は疑問に思うが舞には関係なかった。

「なんだか知らないけど、アタシと戦いたいなら相手してあげるわ!負けたら封印よ!」

 その言葉を合図に二人は舞に飛び掛かる。 二人の攻撃により盛大に爆煙が舞うが舞はその中から出ると橋の上で辺りを警戒する。

「素敵。牛若丸みたいです。」

 舞の姿に惚れる玲奈。だが晴彦は別のことを考えていた。

(先輩のスタイルは一対一。けど相手が二体ってことは・・・・)

 晴彦の予想通りにタイのファントムは同時に舞に蹴りをかました。

「「はぁあああああああ!」」

 舞は十字に腕を組み攻撃を防ぐと弾くが、二人は態勢を立て直し息の合ったコンビネーションで舞を追い詰める。

「「やぁあああああ!」」

 二人同時の蹴りが舞を吹っ飛ばした。舞はなんとか着地するが、膝を付く。

「舞っちピンチ!」

「一旦撤退します!投影、開始!」

 晴彦は干将と莫耶投影するとファントムに向け投げる。

「ふっ!」

「その程度の攻撃!」

「造作もない!」

 二人が干将と莫耶を弾くと晴彦は再び干将と莫耶を投影し、投げる。

「同じ手を!」

「何度も・・・・・・・・・・ちょっと待って!この剣おかしいぞ。」

「なに!」

 二人は自分たちの周りを旋回する二組の干将と莫耶に目が行った。その状況に晴彦は微笑む。

「壊れた幻想。」

 晴彦が詠唱すると干将と莫耶は爆発し、爆煙が生まれる。

「先輩!」

「舞お姉さま!」

 二人は舞の方へと駆ける。

「余計なことしないで・・・・私はまだ負けてない!グッ!」

 強がる舞だが受けたダメージが身体に響いていた。

「舞お姉さま、しっかり!」

「強がってる場合ですか!」

 晴彦は舞をお姫様抱っこすると戦略的撤退をする。そんな舞にファントムは言った。

「川上舞!修行して出直してきなさい!」

「我らはここで、待っている。」

 その光景を橋の端で隠れて見ていたクマのぬいぐるみを持った女の子がいた。

「す、すごかったね。アルブレヒト?」

 彼女の側には赤と白の花が咲いていた。

 

 

 翌日のクラブで舞は再選に意気込んでいた。

「このままじゃ済まさないわ!今度は勝つ!」

「あのファントムたち、舞お姉様が狙いだったみたいですけど・・・」

「大方、アタシが強いのをどこかで聞きつけて来たんじゃないの?」

 そんな話をしていると他の生徒の話が聞こえてくる。

「ねえ、今日はどんな依頼なの?」

「公園の花壇を荒らしているファントムがいるらしいの。そっちは?」

「ロックバンドのファントムがうるさいから、何とかして欲しいって。」

 そんな光景を見て舞は目を反らした。そんな時晴彦が同じクラブの諸橋翔介に声を掛ける。

「翔介、今日はどんな依頼なんだ?」

「山の向こうの自然公園。鍾乳洞にオオニュウドウが出て観光客を脅してんだって。」

「そっか。気をつけてな。」

「そっちも頑張れよー。」

 翔介はそう言うとクラブを後にした。

「皆さんお忙しそうですね。」

「アタシたちもグズグズしていられないわ。早く対策を考えないと。」

「でしたら舞お姉様と晴彦君が組んではどうでしょう?晴彦君だったら格闘は――――」

「残念だけど俺は使い手だ。戦士じゃない。」

「使い手?」

 晴彦の言葉に玲奈は首を傾げる。

「俺は武器と体術は使えるけど極めていない。手段を多く持っているだけで極めてない、言わば半端もんだ。」

「じゃあ格闘は・・・・」

「二流だな。そもそも、舞先輩の格闘スタイルに合わせるのも難しい。となると・・・・・・・・あれかな。」

「「「あれ?」」」

 晴彦の言葉に3人は首を傾げる。

「舞先輩の経験を俺に投影するんです。人間の記憶ってのは色々あります。

知識や常識などの意味記憶。家族や名前、経験など自分に活計するエピソード記憶。自転車の乗り方や逆上がりなどの体の動かし方と言った手続き記憶。格闘技も部類もこれに当てはまります。」

「つまり・・・・アタシが身に着けた格闘技をアンタに記憶ごと移植するって事?そんなことできるの?」

「一応理論的は可能です。記憶にはまだ謎が多く、一説によれば記憶はコンピューターのクラウドの様に脳とは別の、人間の無意識の集合体にあるってことで、思い出すということは外部からアクセスするということだそうです。もし仮にこれが正しければ、他人の経験を誰かに移植することも可能となります。」

「うっさんクサ。」

「こればかりは何とも言えないんです。俺も武器を投影すると同時に解析をして使い方を頭で理解していますし。」

「えっ!アンタそんなことしてたの!」

「ええ。いくら武器が多くても使えなきゃ意味が無いですから。」

 晴彦の言葉に驚く3人。そんな中、クラブにアリスが入ってくる。

「話は聞きました。試してみる価値あると思いますよ。」

 

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