無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
ファントム退治が終わったある日の夕方、晴彦たちは焼き肉食べ放題の店の前に来ていた。特に玲奈は目を輝かせていた。
(私、和泉玲奈と言います。今日は、ファントム退治の報酬に食べ放題のチケットを頂いたので、クラブの皆さんとお食事に来ています。)
玲奈の食用はすさまじく、あっという間に積み上げられた皿は玲奈の顔を隠すほどの量であった。その光景が他の客の注目を浴びた。
玲奈が嬉しい顔をする反面、店員の顔から生気が失われていった。
「はぁ~。幸せです~。」
玲奈は満面の笑みでそう言った。
「そ、そお・・・・・・」
隣に座っていた舞が汗を掻きながらそう言うとルルが話しかける。
「ホント玲奈ちゃんってよく食べるよねー。どこに入ってるの?」
ルルの言葉に玲奈は自分御身体を見る。
「んー、さあ・・・・自分でもよくわからなくて。」
そんな玲奈の近くを生気を失った店員が警戒する様に歩いてくると玲奈は追加の注文をする。
「あ、すみませーん。」
「はぃいい!」
「えっと、この特性厚切り上カルビ二人前と、ミックスホルモン、タレで。」
そんな光景に晴彦も玲奈も親の目線になった。
食べ終わると玲奈は恥ずかしくなり、顔を赤くしていた。
「うう・・・・ごめんなさい。私一人ではしゃいじゃって・・・・・」
「何言ってるんだ?玲奈ちゃんが貰ったチケットなんだから。」
「そうそう。どんどん食べなくちゃ。私も今度は負けないわよ。」
恥ずかしがる玲奈に対し晴彦と舞は励ましの言葉を掛ける。舞の言葉に玲奈は反応する。
「また・・・・・・・・一緒に来てくれるんですか?」
「あったりまえじゃない。」
玲奈は晴彦の方を向くと晴彦は微笑みながら答える。
「うん。また来よう。」
玲奈はその言葉に微笑み、感謝の言葉を言った。
「ありがとうございます。」
途中の交差点で玲奈は晴彦たちと別れ、家へと帰るバス停でバスを待っていた。
(最近私は、以前よりよく笑うようになりました。でも、学校が楽しい分、帰り道は寂しくなってしまいます。)
玲奈が下を向きながら足を動かしていると何処からかバイク音が聞こえて来た。
「っ!?」
玲奈はまるでそのバイク音に聞き覚えがある様に顔を上げると、ヘルメットから飛び出た長い髪が目に止まった。
「お姉さま!」
玲奈は身を乗り出しそのバイクを見る。が、一瞬重なって見えた赤いライダースーツの女性ではなく、黒いライダースーツの男であった。
(物知りの晴彦君が教えてくれました。この時刻は、逢魔時。ファントムに出会いやすい時間帯だと。私は、“ファントムイーター”と呼ばれる特異能力者です。以前から時々、人に迷惑を掛けているファントムを封印してきました。でも、私の両親はそのことを・・・・・)
玲奈が考え込んでいると現実に引き戻すかのようにバスのライトが目に入った。
「変わった形のバスですね。」
玲奈の目は、心ここにあらずの目であった。
玲奈がバスに入ると内装は緑のシーツに木目の床の昭和のバスであった。玲奈はそのバスの中に何の迷いもなく入った。
丁度その頃下校途中の小糸の側をそのバスが通り過ぎた。
玲奈は不思議な空間を、ただ茫然と歩いていた。目には何も映っておらず、ただ茫然と歩いていた。
気づいた時には自分家の門の前にいた。気づけば夜になり、電柱のライトが既に付いていた。
「あれ?いつの間に帰って来たのかしら?」
玲奈はハッと気づき胸に手を当てる。
「なに、この感じ?」
そんな玲奈の姿をカメラが見ていた。玲奈の姿を確認すると、門が開いた。玲奈は門をくぐると、両親にあいさつをした。
「お父様、お母さま、ただいま帰りました。」
「今日も遅かったわね。」
「まさか、ファントムと関わったりはしてないだろうな?」
「はい・・・」
玲奈の両親は、ファントムと関わることをよくは思っていなかった。
翌日、玲奈はそのことを晴彦たちに話した。
「それってさー、ファントムに化かされたんじゃないの?」
玲奈の頭に乗っているルルがそう口にした。
「化かされた?」
「うん。例えば、道に迷った人に声を掛けてさー、“ぐっ!持病の痔がぁあ・・・旅のお方、わしを家まで連れて行ってくださったら、お礼も致します~。”とか言って、相手を騙して異世界に引きずり込んじゃう奴いるでしょ?」
「所謂、天狗隠しや神隠しの類ってことか。」
晴彦が具体例を挙げると玲奈は昨日のことを思い出す。
「後、その時なぜか胸の中がとっても温かくなって・・・・すごく幸せな、まるで、お姉さまといる時みたいな・・・」
「それって、舞先輩の事?」
「わ、私?」
舞は晴彦の言葉に顔を赤くする。すると玲奈は全力で言い訳をする。
「あ、あの私、違う!あ、いえいえいえ、違わないんですけど!ええっと・・・・」
しどろもどろしている玲奈。そんな時、扉の陰から小糸が姿を現し助け舟を出した。
「昨日のバス。あれ、ファントムよ。」
「水無瀬さん!」
「貴女・・・・取り付かれてるわ。」
その音場に玲奈は衝撃が走った。
放課後になり、玲奈は晴彦たちと小糸と共にバス停にいた。
「すみません。私なんかのためにわざわざ。」
「またまたー。玲奈ちゃんすぐ遠慮する―。」
「そーよ。チームなんだから当然じゃない。」
謝る玲奈にルルと舞が声を掛ける。
「チームって、家族みたいなものじゃない。支え合ってかなきゃね。」
その言葉に玲奈はなんだか重い表情を浮かべた。そのことに晴彦は気づいた。
(家族って言葉に反応した。もしかして・・・・・・・・・)
「昨日も丁度、このくらいの時間だったわ。私にはすぐわかった。あれはファントムだって。」
少し離れたところで小糸が呟くと舞が突っかかる。
「アンタ、黙って見てただけなの?」
「だってその子も特異能力者でしょ?余計なお節介はいらないと思ったの。」
「そういう問題じゃ・・・っ!・」
突然玲奈が舞にもたれ掛かり、舞は小糸に話すのを止めた。
「玲奈?っ!?」
『っ!?』
突然目に光が入って来た。目の前には昨日と同じバスが停車していた。バスの扉が開く音が聞こえる。舞が目を再び開けると玲奈が既にバスに乗っていた。
「ちょっ!玲奈!」
「玲奈ちゃん!」
舞の制止を聞かない玲奈を扉が閉まる前に晴彦が飛び乗った。
「晴彦!」
また光り、バスは消えた。
「晴彦!玲奈!」
舞は辺りを見渡すがどこにも二人の姿もバスもなかった。心配する舞に小糸が声を掛ける。
「心配いらないわ。またすぐ帰ってくると思う。ただし、これが続いたらちょっと危ないわ。」
小糸の言葉に舞は反応する。
「危ないって?」
「もう戻ってこれなくなるって事。」
一方その頃玲奈は心が無い目のまま、バスの座席に座っていた。
「玲奈ちゃん・・・・」
声を掛けても反応しない玲奈を見た晴彦はバスの中を見渡す。
「それにしても・・・・なんなんだ、このバス?」
外の風景は都会から一転し、おとぎ話に出て切るような草原と木の家が広がっている風景があった。
二人がバスを降りると一軒の家の前が目の前にあった。晴彦が周りを見ると「うさぎガーデン」と白のペンキで書かれた立札があった。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
「あら、お帰り玲奈。」
「おいしいご飯出来ているでー。」
「はーい。」
玲奈は今まで聞いたことのないような明るい声で帰りの挨拶をすると、中の住人が温かく迎え入れる。
晴彦が中に入ると髭を生やした眼鏡の雄ウサギと雌ウサギがウサ耳の生えた玲奈と食事をしていた。
「どない?学校には慣れてきた?」
「うん!めっちゃ楽しい!」
「クラブ活動は初めてやろ。大変とちゃうか?」
「ううん。みんな優しいし面白い人ばっかりやから、ぜーんぜん。この間なんて、拳法の特訓したんやで!」
「拳法?そらえらいこっちゃなー。」
「うん!こうやって、こーやるのー!」
玲奈は手を動かし二人に見せる。
「こらこら玲奈、食事中に行儀悪いわ。」
「あー、ごめんなさーい。」
玲奈は自分で頭をコテンと叩くと二人は笑った。
(これって・・・・・・・・・・玲奈ちゃんの心の中にある願望が・・・・・・だとしても、それは・・・・)
晴彦はそう思い玲奈に声を掛ける。
「玲奈ちゃん、しっかりしろ!」
「あっ!お兄ちゃん!」
「「晴彦~!」」
「え?」
突然のことに晴彦は間抜けな声を出す。夫婦ウサギは晴彦をまるで帰って来た自分の息子の様に出迎える。
「晴彦―!」
「晴彦―!遅い遅い!」
「またどこぞで道草でも食っとんたんかー?」
「ささ。はよ席について―。」
晴彦は流されるがまま席に座ってしまう。外はすっかり月が昇っていた。
「でね、学校のメニューがめっちゃいろいろあって。」
「ほー、そらお父さんも食べてみたいなー。今度、男士の制服着てお父さんも玲奈の学校行ったろうかいなー?」
(なんだ・・・・・・・・・・なんで俺はこうしているんだ?)
あまりにも不自然な世界でありながらも晴彦は心のどこかでそれを望んでいるような感じがした。
「お兄ちゃん、はいごはん。」
「ああ、どうも。」
晴彦は茶碗によそわれたご飯を受け取ると箸でご飯を口に運んだ。すると晴彦の頭にうさ耳が生え、意識はどこかに持っていかれた。
「お兄ちゃーん、お風呂空いたでー。」
パジャマ姿の玲奈が二階にいる晴彦に声を掛ける。
「おお、サンキュー。」
晴彦もまるで当たり前のように返事をした。晴彦が階段を下りていると玲奈は晴彦に言った。
「なあなあ。」
「ん?」
「久しぶりにな、一緒に寝-へん?」
その言葉に晴彦は動揺する。
「ば、馬鹿野郎!俺たち何歳だと思ってんだよ!」
「あっはは。冗談ジョーダン。お兄ちゃん照れすぎー。」
玲奈はそう言うと部屋に入っていった。そんな玲奈に晴彦は溜息を吐く。
「たく。」
朝となり、二人は学校に出かけるように夫婦ウサギにあいさつをした。
「「行ってきまーす。」」
「いってらしゃ~い。」
「今日は道草食わんと、はよ帰ってくるんやでー。」
玄関で夫婦ウサギが見送ると玲奈は「はーい。」と返事し、晴彦は手を振った。
「はっ!」
晴彦が意識を取り戻すとバスに戻っていた。
「どうなってんだ・・・・・・・・・これは?」
晴彦は隣で気を失っている玲奈に声を掛ける。
「玲奈ちゃん。玲奈ちゃん、玲奈ちゃん!」
晴彦が肩を掴み体を揺らした途端、その世界は消え、辺りは暗くなっていた。
「ん・・・・・」
玲奈が目を覚ますと玲奈は晴彦の肩を借りて立っていた。
「晴彦君!」
「これを見て。」
晴彦はスマホの時計を見せる。時刻は17:52を示していたが、それはバスに乗った時間であった。
「俺たちがバスに乗ってから、ほとんど時間が経ってない。」
そんな光景を監視カメラ越しに玲奈の父が見ていた。
《玲奈か?帰ったのなら、早く家に入れ。》
「す、すみません!」
《隣の男は誰だ?》
「っ!ぼ、僕は・・・」
「学校の同級生です!」
晴彦の言葉を遮る様に玲奈は話した。
「暗くなったから、送っていただいたんです!」
そう言うと小声で晴彦に話した。
「すみません。今日はこのまま帰っていただけますか?」
「あ・・・・うん。」
「すみません。それじゃ!」
玲奈はそう言うと急いで門を通った。