無彩限のファントム・ワールド 二つの能力を持つ晴彦 作:ザルバ
翌日、晴彦たちは小糸も含めて昨日のことを話した。
「そいつなら知ってる。人間を催眠状態にして、自分たちの世界に引きずり込んでしまうファントムよ。」
少し離れたところで小糸はスマホをいじりながら話す。
「晴彦も一緒に催眠状態にされたってわけね。」
「食べ物を口にしたのが失敗。それで意識を持っていかれた。」
舞は玲奈に聞いた。
「玲奈。なんでそんなのに取りつかれたのか心当たりある?」
舞がそう聞くと玲奈はスカートの袖を握り、話した。
「実は私、両親にこのクラブに入ったこと、まだ打ち明けられていないんです。」
「え!秘密にしてるの?」
ルルが驚く。
「でもご両親は玲奈が“ファントムイーター”って知ってるんでしょ?」
舞の言葉にうなずきながら玲奈は「はい。」と答えた。
「でも、ファントムをいかがわしいものだと思って、ひどく嫌っていて、私が関わり合うのもよく思っていないんです。だから、このクラブに入ったなんて両親に言ったら、絶対反対されて・・・きっと転校させられます。」
「ホントに!」
「まさか・・・」
舞とルルはそのことに衝撃を受ける。が、晴彦は違った。
「なんでそう思うの?」
「え?」
「玲奈ちゃんの両親がファントムをよくは思ってないのはわかる。でも、だからと言って理解されないってことは絶対じゃない。実際、玲奈ちゃんはこのクラブに入って何か変わったことはあった?」
「えっと・・・・・・・・・・よく笑顔になるようになりました。」
「うん。経験から得るものの一つだね。勝手だけど、玲奈ちゃんの生き方を決めるのは玲奈ちゃん自身だ。君が何をしたいのか、無鉄砲でもいいから話してみたらいいよ。」
「わかりました。それで話は戻るのですが、私の姉は、そう言う両親に反発して家を出てってしまいました。」
「玲奈ちゃん、お姉さんいるの?」
ルルが聞くと「はい。」と玲奈は答えた。
「オートバイが好きで、よく私を後ろに乗せてくれて。」
玲奈は舞の方を見る。
「ちょっと、舞お姉様に似ていました。」
「っ!」
「あー。それであってすぐ舞っちに懐いたんだー。」
ルルの言葉に舞は恥ずかしい顔をする。
「すみません。早くお話ししようと思っていたんですけど・・・」
「いや、別に謝ることじゃ・・・・」
「最近は、両親に隠し事をしながら家に帰るのが辛くなってきて・・・・」
「その気持ちを、ファントムに付け込まれたと。」
晴彦がそう言った途端にチャイムが鳴った。すると小糸が準備をし始める。
「仕事の呼び出しだわ。私はこれで。」
「小糸ちゃーん、行っちゃうの?」
ルルの言葉に小糸は答えた。
「この程度のファントムなら、貴方たちだけでどうにかなるでしょ?じゃ。」
小糸はそう言うとヘッドホンを掛け、クラブを後にした。
「なによあの態度!ムカツクー。」
冷たい態度を取る玲奈に対し、晴彦は何となくではあるが、彼女の気持ちが分かった。
(きっと・・・・・・・・こう言いたかったんだと思う。“仲間で助け合って解決したら”って。でも彼女は・・・・・)
「なんどもすみません。」
夕方に晴彦たちは同じバス停にいた。
「それは言わなくていい。」
「はい・・・」
舞は晴彦と玲奈を気に掛けると、またあのバスが来た。
「晴彦!」
「は・・・・」
晴彦は返事しようとした途端口が止まった。目は玲奈と同じように、なにも見ていない目をしていた。
「昨日の影響が残っているみたいね。」
舞がそう言うとバスのドアが開き、二人はバスに乗る。
「晴彦、玲奈!・・・・・・・・・・・くっ!」
舞は捨て身覚悟でバスに乗車した。
バスに乗車すると空間が一転し、穏やかな世界が広がっていた。
「なにここ?」
舞が辺りを見渡していると声が聞こえてきた。
「お父さん、お母さん、ただいまー。」
「ただいまー。」
玲奈の声が聞こえてきた方を舞が向くと家の中に入ってゆく玲奈の姿があった。それに続いて晴彦も入ってゆく。
「なんやー、二人一緒かいなー。」
「うん。バス停でばったり会って。」
「そーかー。流石兄妹やなー。」
舞とルルが互いに見合うと再び家の方に目を向ける。
「すっかり化かされちゃってるわね。私たちは、しっかりするわよ!」
「うん!」
舞とルルは家に乗り込む。
「ファントム御用だ!」
「二人を返してもらうわよ!」
そんな舞を見た玲奈と雌ウサギは涙目で言った。
「お姉ちゃん!」
「舞!」
まるで帰ってきた子を見る目をする二人に舞は「え?」と間抜けな声を上げる。
その刹那、晴彦と玲奈、雌ウサギが一斉に抱き着いて来た。
「舞お姉ちゃん!」
「戻ってきたんだー!」
「お父さん、お姉ちゃんや!舞お姉ちゃんが帰ってきたでー!」
その言葉に反応するかのように雄ウサギが全力ダッシュで舞の下まで走ってくる。
「なんやてー!舞―!」
雄ウサギは涙を流しながら舞に飛びついてくる。
「むぐっ!」
全力ダッシュのタックルで舞の顔に抱き着くと雄ウサギは髪を触る。
「おお、これは間違いなく舞やー!」
「なにこれ!なんなのこれ!」
突然の状況に舞は頭の整理が追い付いてこれなかった。
場所が変わり今でテーブルに雌ウサギが作った料理が並べられていた。ルルはちゃっかり出された食事を口にしていた。何のためにそこにるのかわからない。
「ほんと心配したんやで。」
「ホント。今までどこで何をしてたんだよ?」
「何って、あんた・・・・っ!」
舞はその時晴彦と玲奈の頭に生えているうさ耳に気づいた。舞は適当に話を合わせる。
「まぁ・・・・・・・・・・色々。けど、何とかやってたわ。」
その言葉に夫婦ウサギが感動する。
「苦労したんやなー。」
「もー“オートバイ乗るな”なんてゆわへんから。ずーっと家におってなー!」
「うん・・・・・・・・」
舞はルルに小声で話しかける。
「これもきっと、玲奈の気持ちが反映されてんだわ。」
「わふぁっていてもたふぇたらだめだひょ(分かっていても食べたらだめだよ)。」
「アンタはファントムだから食べても影響ないわね。」
「これもおいしいー!あーん。」
「あーん。」
ルルは舞に料理を食べさせてしまう。
「ほんと、おいしい!」
「でしょ?」
「ってバカ!」
舞の頭にうさ耳が生えてしまった。
そしてその家に笑い声が響き渡った。
「やっぱり家族はいいわねー。」
「これからは!」
「家族みんなでやっていこう!な、玲奈?」
「うん!」
その光景にルルは顎に手を当て考える。
「まぁ、いいか。みんな楽しそうだし。」
ルルはそう言ってしまった。もうやるべきことを忘れてしまっている。
「家族が揃って、本当に、よかった。」
晴彦はそう言うとトイレに入る。
「あれ?何がよかったんだっけ?」
トイレに入った途端に晴彦の頭からうさ耳は消えた。
「何言ってんの?みんな揃ってめでたいじゃん。あっ!そう言えば晴彦の頭の耳、無くなってるね。」
ルルの方を晴彦は向く。
「晴彦全然似合ってなかったからよかったよ。」
ズボンを下ろしている状況にルルがいることに晴彦は動揺してしまう。
「全然よくない!」
「これなんかアイス頭に乗せてるでー。」
「ほんとだ。我ながら可愛いなー。」
舞がウサギ夫婦とアルバムを見て懐かしんでいる光景を廊下から玲奈は見ていた。そんな玲奈に晴彦は声を掛ける。
「玲奈ちゃん、ちょっとこっち来て。」
晴彦は玲奈の手を引っ張る。
場所は変わりトイレの中。
「どないしたん?トイレの中で、ここ?」
「トイレってのは民俗学ではこの世界を繋ぐ場所って言われてるんだ。つまり、ここなら正気に戻りやすい。」
「はぁ・・・・・・どういうこと?」
「玲奈ちゃん、しっかりしてくれ!」
晴彦は玲奈の肩を掴む。
「俺は君のお兄ちゃんじゃない!君はファントムに化かされているんだ!」
「よーわからん。お兄ちゃんはお兄ちゃんやろ?」
まだ正気に戻らない玲奈に対し晴彦は最後の手段を取る。
「玲奈ちゃん、ゴメン!」
晴彦は玲奈を抱きしめる。その途端、玲奈のうさ耳は一気に引っ込んだ。
「ぶ!ぶ、ぶ、ぶ!無礼者―――――――――!」
玲奈は晴彦を投げ、トイレに頭を突き刺した。犬上家の光景である。
「っ!は、晴彦君!?」
「ヤッター!元に戻ったー!やるじゃん、晴彦!」
ルルは晴彦の尻を叩いた。が、晴彦は返事をしなかった。ただの屍になったらしい。
しばらくして晴彦は玲奈とルルと共に外から家の光景を見ていた。
「私、ずっと思ってました。お姉様が帰ってきて、両親と仲直りしてくれればいいのにって。」
玲奈の目には夫婦ウサギと仲良くしている舞の姿があった。
「あれは、ずっと私が願っていた光景なんです。たとえ、ファントムが作った偽物だとしても。」
「玲奈ちゃん・・・・・・・」
晴彦には、玲奈の気持ちがよくわかった。
「私、ここが自分の本当の家みたいに思えて。両親が優しくて姉もいて、自分の居場所があって・・・」
そういう彼女の背中は、どこか寂しいものがあった。そんな玲奈にルルが聞いた。
「ひょっとして、帰るの嫌なの?」
ルルがそう言うと玲奈は拳を握った。
「玲奈。」
「っ!舞先輩!」
夫婦ウサギの下で気を失っている舞の姿が晴彦には映っていた。そして空間は暗い空間へと変わった。
「玲奈、お前が目を覚ました以上、私たちはもう行かなければならない。元々君の夢に依存した世界だからね。」
「でも、貴方さえ良ければ、私たちと一緒に来てくれてもいいのよ。」
その言葉に玲奈は動揺する。
「私たちの本当の娘になって、ずっと仲良く一緒に暮らすの。」
「だが、無理強いはしない。帰りたいと言うのなら、私たちは止めない。」
「お父さん・・・・・・・・お母さん・・・・・」
玲奈は一歩足を進める。
「玲奈ちゃん!行っちゃだめだ!」
晴彦の言葉も聞かず玲奈は一歩、また一歩と足を進める。
「玲奈。」
「私たちの家族になってくれるのね?」
そんな玲奈を晴彦は追いかける。
「ダメだ!行ったら帰ってこれなくなる!くそっ!全然追いつかない!」
走る晴彦だが、足元が躓きこけてしまう。
「俺の母さんも、父さんと上手くいかなくて家を出たんだ!君のお母さんみたいに!」
その言葉に玲奈は反応する。
「俺はその記憶は覚えていない。でも、確かに俺には母さんがいる!俺は今でも、母さんお帰りをも待っている!君の姉さんだって、帰って来た時君がいなかったら玲奈ちゃんがいなかったらきっと寂しいんじゃないの?」
玲奈は晴彦の言葉に涙を溜める。
「それまでは、それまでは俺たちの居場所が君の居場所だ!」
玲奈は晴彦の言葉に泣く。
「みんな、君を待ってるよ。」
その言葉を聞いた途端、心から玲奈は泣いた。誰かにそう思ってもらいたくて、誰かに言ってもらいたくてずっと心の奥底にしまっていた感情が一気に溢れだした。
玲奈はスカートを握りながら一歩、後ろに下がった。
夫婦ウサギは玲奈のその思いを、受け止めた。
「いいんだ。玲奈がそう決めたならそれでいい。」
二人の後ろが光り始めた。
「短い間だったけど、貴方と家族でいられて楽しかったわ。」
「時々でいいから、私たちのことを思い出しておくれ。」
「さようなら、玲奈。」
二人はそう別れの言葉を言うと、消えていった。
玲奈は涙を流しながら二人に言った。
「お父さん!お母さん!私・・・・・・私・・・・・!」
玲奈は必死に涙を抑えながら言った。
「・・・・・・・・・・・ごめんね。」
現実に戻り、晴彦は舞を背負い、地面に座り込んでいる玲奈を温かく見守っていた。
夜空を見上げ、大きく息を吸い、そして吐いた。
空には煌く星がたくさんあった。
「・・・・・・・・・・・・アタシ、頑張る。」
晴彦も同じように、星空を見上げた。
(二人共、一時でも、俺にもう一つの家族の温もりを教えてくれてありがとう。また・・・・・・・・どこかで会えるといいですね。)
翌日、晴彦たちは食堂で話をしていた。
「この度は皆さまに、大変なご迷惑をおかけしました。」
玲奈は二人に謝罪をする。
「特に晴彦君には本当にお世話になって・・・・」
「いいよ、別に。俺も・・・・・・・・・・・・・あの温もりが欲しかったからさ。」
晴彦はそう言うと、どこかさみしそうな顔をした。
「それより、このクラブの許可、よくご両親にもらえたわね。」
玲奈は微笑むと答えた。
「今回のことは、元はと言えば私がクラブのことを両親に隠していたのがきっかけでしたから。そこに向き合って、ちゃんと向き合って話をしないとと思って。」
「玲奈ちゃん、頑張ったんだね。」
ルルの言葉に玲奈は笑顔で「はい!」と答えた。
(この世界に帰ってこれてよかった。それは本当にそう思います。けれど時々思うんです。もう一つの自分の家が、あの夕焼けの向こうにあるんじゃないかって。あのファントムの両親に、もう一度会ってみたい。そんな風に思うことも。)
「またいつか。」
(そういえば・・・・・・・・・・・あの時晴彦君は言ってました。)
“俺はその記憶は覚えていない。”
(あれは・・・・・・・・・どういう意味なんでしょう?)