ホビーショップT&H。テスタロッサ家とハラオウン家の共同経営であるこの場所は、5階建てのビル全てがホビーショップであり、ミッドチルダスタイルのデュエリストのショップである。そんなT&Hへ、仲良く手を繋いだ高坂兄妹が到着していた。
流石に店の前では手を離していて、二人ならんでT&Hの建物を見上げる。初めて来た浩樹に、佳奈が付き合う形だ。
「へぇ、このビル。ホビーショップだったのか」
「そうだよ。一階と二階は普通のおもちゃ屋さん。三階以降はブレイブデュエル関係なの。五階がブレイブデュエルの本体とかリローダーが置いてあるの。他の階はまだ見てないから分からないんだけどね」
「とりあえず五階に行けばいいってことは分かった」
「でもいっぱいじゃないかな? 先に他の階を見に行かない? 多分リローダーあるかもしれないし、回せるならそっちで回そうよ」
「……ふむ。じゃあ、そうするか」
佳奈の提案に乗り、浩樹と佳奈は一路三階へ。エレベーターを出たその先に広がっていた光景は、フードコートのようであった。暫く見渡すと、隅の方にリローダーが置いてあり、浩樹と佳奈はそちらへ向かう。
「えっと、お金とか必要だよね? 幾らだろ?」
「あん? いらないだろ」
「え? そうなの?」
「毎日一回だけ無料で回せるらしいぞ。それにバトルで手に入れたポイント使っても引けるらしい」
昨日はやてに聞いたと言いながら、浩樹がリローダーを回す。しばし待つと、一枚のカードが排出された。それを手に取って確認すると、浩樹の顔が喜色に染まった。
「よっし! パーソナルゲット!」
「やったね!」
浩樹と佳奈。イエーイと仲良くハイタッチ。それから場所を入れ替えて、今度は佳奈がカードを引くと、こちらは新しいスキルカードであった。
「幸先いいね、浩樹」
「ああ。しかし、こうして新しいカードを手に入れると、ますますやりたくなるなぁ、ブレイブデュエル」
「浩樹はリライズアップだもんね。でも、流石に混んでると思うよ?」
「だよなー」
なまじ幸先の良かっただけに、出鼻を挫かれた気分になる浩樹。佳奈も同じだ。新しいスキルカードを試してみたい。
とりあえず順番待ちをしようかと移動を開始しようとした二人に、「浩樹君?」と名前を呼ばれ、二人同時に振り返る。
どこかの工場から抜け出してきたようなつなぎにTシャツという、いかにもアレな風貌。Tシャツに『技術屋魂』なんて書かれているから尚更だ。
しかし、この怪しげな風貌の男が、自分の名前を知っていたことに疑問を覚え、「どちら様ですか?」と浩樹は口を開く。そうしながら、僅かに体を動かし、佳奈を自分の背中へ庇うようにすると、男――カズヤは、思わず苦笑してしまった。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だよ。君が俺を知らなくてもおかしくない。俺が一方的に知ってるだけだから」
「なんで知ってんだよ」
「昨日聞いた。電話でね」
「電話?」
電話をかけるタイミングなんてあったろうかと、浩樹が警戒をそのままに首を傾げると、「カズヤ!」と新たな声。浩樹と佳奈、そしてカズヤがそちらの方へ視線を動かせば、お盆にカレーを乗せた、青い髪の少女が楽しそうに近づいてきた。
そして、その少女には、浩樹は見覚えがある。少しだが、会話を交わした相手だ。そこから流れるように、浩樹は漸く、カズヤの事を思い出した。
「グランツ研究所にいたやつか!」
浩樹の言葉に反応して、カズヤは浩樹の方へと視線を戻すと、ニコリと笑う。
「Exactly. 俺はカズヤ・アイカワ。宜しくね」
「……高坂浩樹だ」
「……高坂?」
目当ての人物と同じ名字を聞き、カズヤは視線を、浩樹の後ろにいる佳奈の方へと移した。視線を向けられて少しビクリとしたものの、会話した感じ、悪い相手とは思えなかったため、佳奈も浩樹の後ろから出ると、軽くお辞儀した。
「高坂佳奈といいます。浩樹の双子の妹です」
「……ふむ。レヴィ、この子が高坂ちゃんだってさ。……レヴィ?」
返事のない連れがどうしたのかと、浩樹が視線を再びレヴィの方へと移すと、レヴィはさっさと適当な席に座ってカレーを食べ始めていた。よっぽどお腹が空いていたらしい。ガツガツとかきこむように食べている。
「全く。お目当ての子の一人がいるっていうのに」
「お目当て?」
「今日はね、高坂佳奈ちゃんと高町なのはちゃんの二人に会いに来たんだ。ロケテスト第六位、鉄槌の騎士ヴィータに認められた子達に。俺はそれに加えて、高坂浩樹君にも用があったけどね」
「俺に?」
「はやてちゃんに前から話を聞いていたからね。気になるだろう?」
「む」
どんな話をしていたというのか気になったが、浩樹は口をつぐむ。
「あの、それで? 私達と会って、どうしようって考えてたんですか?」
「勿論。ブレイブデュエルを。出来ればこのまま、一対二で」
「はぁ? 一対二? なんでわざわざ。一対一でいいだろ」
「……二人はヴィータちゃんが勝負を挑んできたら、どうする? 一対二?」
「……個人的には一対一の方がいいけど」
「今の私達じゃ流石に一対一じゃ勝負にならないと思うし」
「だったら一対二だ。俺は――ヴィータちゃんより強いからな」
先日の乱入後、八神堂のエキシビションでヴィータと直接拳を交えた浩樹は当然のこと、浩樹と戦いながらヴィータの戦いぶりをちょくちょく横目で覗いていた佳奈もまた。ヴィータの強さは知っている。だからこそ、強い相手と戦う事を望む浩樹は勿論、佳奈のまた、カズヤに対して興味を抱いた。大言壮語だと一蹴してしまうのは簡単であったが、そんな法螺を吹くような目を、カズヤはしていなかったからだ。
「ヴィータちゃんより強いって、あなたもロケテストのランキングに入っているんですか?」
「いや? 俺はロケテストの個人戦には出ていないからね。ダークマテリアルズってチームに入って、チーム戦にだけ参加した」
「……え? じゃあ、直接戦ったわけではないんですか?」
「一対一ってこと? それなら無いかな。チーム戦フリーバトル中でのマッチアップでならともかく、二人仲良くフリーバトルってのは無いよ」
「……」
それはつまり、チーム力なら八神堂よりも高いかもしれないが、カズヤ個人がヴィータより上ということにはならないのではないだろうかと、佳奈はそう考える、双子ならではのシンパシーみたいな物で、浩樹もそう考えていることも、佳奈は察していた。彼にはそれに加えて、友人である八神ヴィータを侮辱された怒りのようなものも含まれている。
だからだろう、慣れていなければ自分でも逃げ出してしまいそうな凄みというか圧力のようなものを佳奈は浩樹から感じており、そしてそれは、カズヤも同じ。
最もカズヤは、浩樹の圧力を感じても、全く気にした様子が無い。彼もまた、ストライクアーツと呼ばれる総合格闘技の達人クラスである両親に免許皆伝の姉というバリバリの武術家系の一子である。姉ほど濃くはないが、一部では鬼神とまで呼ばれた父や母の血を継いでいるし、グランツ研究所で働くようになる中学生までは、鬼神たる父から毎日のようにストライクアーツを叩き込まれ、今では頻度こそ落ちたが、それでも教えを受けていることに変わりはない。
故に、浩樹からの圧力を前に、リアルでの殴り合いでは勝てないことは察しても、だからといって臆するほどではなかったのだ。今から行おうというのは素手での殴り合いではないのだし。
とは言え、流石にこのままでは一対二の勝負を認めては貰えないだろう。体よく知り合いでも見つからないだろうかとあたりに周囲を巡らせて、カズヤはちょうどいい相手を見つけた。
「アリシアちゃーん。ちょっといいかー?」
「はーいっ!?」
浩樹が呼ぶと、丁度そこにいたアリシアが振り返り、浩樹の姿を捉える。その瞬間、普通に笑顔を浮かべていたアリシアの顔が、思いっきり引きつった。そのことに気がつかず、それでもニコニコ笑いながら、ちょいちょいと手招きするカズヤ。流石に無視をするというわけにも行かず、嫌々ながらにアリシアはカズヤ達へと近づいた。
「久しぶり」
「オヒサシブリデス、カズヤサン」
「アリシアちゃん……どうしたの?」
「ナンデモナイヨ、カナチャン」
どう考えても何でもあるハズなのだが、片言で何でもないと告げるアリシア。「えー……」と佳奈が苦笑する中、浩樹がぐっと、アリシアの手を引く。
「ふぇ!?」っと、妙な声を漏らすアリシアをそのまま自分の背に隠すように移動させた浩樹は、ジトリと、カズヤのことを睨めつけた。正面からその威圧に受けて立つカズヤは、笑みを崩さない。
「……いいぜ、受けてやる」
「うん?」
「受けるっつったんだ。一対二は飲む。その代わり、形式はフリーバトルだ」
「勿論。それじゃあ、フィールドは『海上廃都市』。試合制限時間は五分。勝利条件は『敵チーム全員の戦闘不能』。そっちに限って『試合終了時刻までの生存』を入れていい。どっちか一人でも試合終了時刻に生き残っていれば勝ち、だ」
「……大分俺達に有利なルールだな?」
「俺が引き分けだと納得できないから、って事にしておいてくれ」
「……分かった」
「それじゃあ、三十分後。三階のメイン会場で」
それだけ言い残し、カズヤは去る。その背を見送り、「ふんっ」と浩樹は苛立たしげに鼻を鳴らした。
「嫌な奴だ」
「でも悪い人には見えなかったよ? 試合前に煽ってるだけじゃない? とりあえず、冷静に行こう、浩樹。ヴィータちゃんより強いって言葉が事実なら、的確な行動が出来ないと勝ち目はないよ」
「そりゃそうだが……。えっと、アリシアだっけ?」
「ふぇ!?」
唐突に話を振られ、浩樹の後ろで小さくなっていたアリシアが変な声を出す。頬が僅かに赤らんでいるアリシアは、暫くワタワタと慌てたあと、仕切り直すように咳を一つ。
顔を上げた時には、キリッっとした表情になっていた。
「な、なにかな?」
「あの、カズヤ・アイカワってやつ。本当に強いのか?」
「強いよ」
浩樹の言葉に、アリシアが即答する。迷いもなく、ぶれる事もない。信じて疑わないと、そう言った様子。
「本人がなんて言ったかは知らないけど、アイカワさんは強いよ。ロケテストの個人戦には出てないからランキング順位に名前こそ乗ってはいないけど、こと、フリーバトルに関して言えば、ランキング一位も夢じゃない。まあ、彼のデバイスの関係上、フリーバトル以外のブレイブデュエルは苦手だから、順位は落ちるけどね」
「フリーバトル以外?」
「明確にルールの定められた……まあ、スポーツみたいな競技があるの。単純なスピード競技から壁抜きまで。そういうのは苦手だから……まあ、ランキング的には五位以上くらいかな。一位は厳しいけど、それでも上位ランカーだよ」
「五位ってことは……確かにヴィータより強いな。確か六位だったはずだし」
「なら尚更だよ、浩樹。冷静に行こう。わざわざ三十分も用意してくれたんだもん、有効活用しなくちゃ」
「ああ。とりあえず、何とかしてリライズアップしてから、デッキ調整だな。大したカードもないが」
「それならいいものがあるよ? ちょうどいいし、此処の案内をしてあげる。アイカワさんから、庇ってくれたお礼にね。って言っても、私が一方的に苦手意識持ってるだけで、具体的に何かをされた事はないんだけど」
「何かあったの?」
「ちょっと、ロケテスト時代にね~」
***
「悪い、待たせたって……レヴィ。そのカレー、何皿目だ?」
「ん~、ふぁん?」
「三!? どんだけ、食ってんだよ!?」
「んぐっ。美味しいよ?」
「……はぁ、まあいいや」
諦めてレヴィの対面の席に腰を下ろすと、カズヤはデッキとカードホルダーを取り出した。
デッキの中身を確認し、カズヤは思考する。
(浩樹君はフォワード。何かやってるみたいだし、殆ど無意識で、本人自身が誰かに守られるよりは守る方を重視してる傾向があった。あと、煽り耐性低いかな。佳奈ちゃんはセンターガード。冷静に状況を分析してる。双子だからかな。いいコンビだ。俺にはいないからなー、そういう相手)
強いてあげるなら、高火力のシュテルやフルバックでの広域魔法を得意とするディアーチェなのだが、シュテルはロケテスト一位の実力で並び立つのは厳しいし、ディアーチェに関しては既にユーリという存在がいる。
残るはレヴィだが、ライトニングタイプに加え、考えるより先に行動するレヴィの速度に、自分自身が追いつけないのだ。デバイスだけであれば、何枚かは間に合うのだが、それでも限界二枚だし、下手にレヴィの空域に障害物を配置してしまって、事故が起こらないとも限らない。
「そもそもポジションも違うからな」
「何の話?」
三皿目のカレーを食べ終えたレヴィが、無意識につぶやいたカズヤの言葉に反応する。そんなレヴィへ、何でもないよと笑顔とともに告げる。
「にしても、悪いな。勝手に一対二って言っちゃって」
「別にいいよ。カズヤの戦い、見てるの好きだし」
「そうなのか?」
「技巧派って感じでかっこいいよね!」
笑顔でそういうレヴィに、カズヤが僅かに顔を赤らめる。正面から褒められると、何ともこそばゆい。そのこそばゆさを誤魔化すように、カズヤはバインダーからカードを一枚、取り出した。
「一応コイツもデッキに入れとくかな」
「あれ? それ使うの? 奥の手中の奥の手だよね?」
「そこまでの隠し球にしたつもりはないけどな。奥の手の一つってのは確かにそうだな」
「じゃあ、何で?」
「面白そうだし。それに、レヴィに言われたからには頑張らないとな」
デッキの中の攻撃用スキルカードを抜いて、件の奥の手カードをデッキへ入れて。一枚だけ入れ替えただけのデッキの中身を確認し、ブレイブホルダーへとデッキを戻す。
「うし。これでいいだろ」
「応援してるからね!」
「ああ。これが終わる頃には高町ちゃんも来るだろうし、そうしたら二人で出ような? 競技内容にもよるけど」
「うん!」
笑顔で頷いたレヴィの頭を撫でて、残り時間二十分はあるものの、移動のために浩樹はブレイブホルダーとデータカートリッジを手に、立ち上がる。
「さて、いっちょやるか」
***
同じ頃。五階のアリシアに案内された、BD簡易シミュレーター『エンタークン』で、リライズアップを終えた浩樹とデッキを組み直した佳奈が、お互いに相談をしながら基本戦術とフォーメーションの確認をしていた。
「――んじゃ、基本的には佳奈が牽制で、俺が一撃を狙いに行く形で」
「それでいいと思う。私、あんまり火力高くないから」
「正直、どれだけカズヤさんが強いか分からないからな。最強チームの一角ってこととディフェンダーってことくらいしか、アリシアも教えてくれなかったし」
「そうだよねぇ」
どんなデバイスなのかも分からないのだ。まあ、それが普通なのだから、それについて気にするつもりはないのだが。
「デバイスで攻撃と防御を兼任できるタイプなのか、攻撃に関してはスキルカード頼りなのか……」
「まあ、初めて見ればわかるだろうけどな。とりあえず前半二分は様子見で行こう。後半三分で一気に畳み掛ける」
「うん」
浩樹の言葉に頷き、佳奈は眼下に置かれたエンタークンのフィールドへと目を向ける。
指定された海上廃都市は、なんてことはない、ビル街のようであった。海鳴では滅多にお目にかかれない、高層ビル群が立ち並ぶ場所。どうやらビルは破壊可能オブジェクトらしく、壁を撃ち抜くというのも可能。また、ビルの内部への侵入も可能で、その為、隠れる場所も多い。まあ、アリシアちゃん曰く、毎回ビルの配置はランダム構成らしいから、今回覚えたフィールドがそのまま適用されるわけではないというのが少し残念ではある。
(でも、なんでわざわざココにしたんだろう?)
向こうが言ってきたこのフィールドの条件に、佳奈は首を傾げる。自分に都合がいいからこのフィールドを指定してきたのか、それとも自分や浩樹が隠れる場所を与えるという意味でこのフィールドを選択してきたのか。カズヤの意図がつかめず、少し悶々とする。判断材料が足らないから仕方がないのだが、浩樹と違って結構色々と考えてから事を行うタイプの佳奈にとっては、少しばかり、これは厳しい。
(最初の二分でどれくらい情報収集できるかだよね)
なるべく手の内を見たい。その為に、リスキーではあるが、前半はダブル前衛というのも視野に入れる。二人仲良くアタッカーである。
「念押ししておくけど、前半は命を大事に、だからね? 情報収集段階で戦闘不能になったら目も当てられないんだから」
「分かってるよ。殴りには行くけど、前半はシュートとスキルカードで遠距離から、だろ」
「なら良し。がんばろうね」
「当たり前だ」
エンタークンの電源を落とし、ブレイブホルダー、データカートリッジを手に、浩樹と佳奈は立ち上がる。
「行くか!」
「うん!」
***
「れでぃーす&じぇんとるめん! 皆さんこんにちわ! 司会は私! ホビーショップT&Hの看板娘、アリシア・テスタロッサが! そして――」
「解説はこのボク! グランツ研究所からレヴィ・ラッセルがおーくりします!」
「みんな、ブレイブデュエル、楽しんでますかー!」
楽しんでまーす!
「大いに結構! 急遽始まりました、このエキシビションマッチ! 昨日も来てくださった皆さんの中には、私の妹、ロケテスト第二位の実力を誇る、フェイト・テスタロッサの戦いぶりを見た方もいるかもしれません! 正しく電光石火とも言うべき私の妹の速さに惚れたという方もいるでしょう!
さて、知っている方は知っているかもしれませんが、ブレイブデュエルには三つのスタイルがあります。ミッドチルダ、ベルカ、インダストリーですね。これらには、それぞれ特徴というものがあります。今回のエキシビションマッチでは、その特徴を皆さんにお見せしようと思います! あ、初めに行っておきますと、今回のミッドチルダ、ベルカ代表はまだ初心者さんなので、混成チームです。特別インダストリーが強いとか、そういう事ではないですからね? いいですか、皆さん?」
はーい!
「いいお返事、ありがとうございます。さて、それでは入場して貰いましょう! ミッドチルダ代表、高坂佳奈ちゃん! ベルカ代表、高坂浩樹君! 仲良し双子の兄妹が入場です!」
「……なんかすっげぇやりづらい」
「ま、まあ、優先的に使わせて貰うんだから、これくらいしないと」
「それもそうか。行くぜ」
「うん」
「「リライズアップ!」」
スクリーンに表示されたバトルの行われる空間に、二人の影が現れる。
片や、茶色のローファーと黒の指ぬきグローブ。ピッチリとした黒のパンタローネパンツに、半袖の白いブラウスと燕尾服のような裾のついた袖のない水色の上着を纏った少女。
片や、上半身のうち、右腕にアルハと名付けられた大きな手甲を身に付け、左手には手袋。タンクトップ型の黒いインナーシャツの上には白色のベスト。下半身も白い長ズボンに覆われ、両肘と膝には黒のサポーター。更に鉄板でも仕込んで有りそうなごついミリタリーシューズという、動きやすさ重視の少年。
それぞれ、高坂佳奈と浩樹である。
「対するは、インダストリー! ボクも所属している、ロケテスト最強チーム『ダークマテリアルズ』の白一点! 二つ名は『千変の機動要塞』!」
「装甲」
轟っ!っと風が吹き、やんだ時には浩樹と佳奈のいる空間に、カズヤの姿があった。
インナーシャツにズボン、トレンチコートに靴と、身にまとう全てが黒色で統一された姿。腕に沿って引かれたラインや、手首、裾の部分に沿って引かれたラインのカラーは白色。極めつけは右目を覆うモノクルだった。サングラスなのか、レンズが真っ黒で、向こう側の景色を捉えているかも怪しいほどである。
ブレイブデュエルの世界に登場した、カズヤは、一息ついて、右腕を横へと振った。
「カズヤ・ザ・フォートレス。参る」
「さあ、両者が立ち並んだところで、このエキシビションマッチのルール説明!」
「形式はフリーバトル。時間制限は五分。フィールドは海上廃都市。勝利条件は相手チームの全滅。更に高坂兄妹チームに限り、五分後の時間制限を迎える事も、勝利条件となっています」
「まあ、カズヤだったら楽勝だと思うけどね!」
「解説さんは贔屓したらダメだよー。さて、それではいよいよ開戦と行きましょう!」
大体三十メートル程の距離をおいて飛ぶ高坂兄弟とカズヤ改めサジッタとの間に、スクリーンが現れる。
描かれているのは三つの円。その内の一つが赤に染まり、少しの間と共に二つ目が赤に染まる。
「れでぃー……」
三つ目が染まり、少し間が空いて。三つすべてが一斉に緑色に染まった。
「「ごー!!」」
開戦したその直後、浩樹が一気に、カズヤへと肉薄した。
***
ロケテストの経験やグランツ研究所がブレイブデュエルの総本山という環境もあって、カズヤの経験値はかなり豊富である。実際、一撃必殺の威力を誇るセイクリッドのシュテルや、自分では到底及びつけない速度を持つライトニングのレヴィ、広域攻撃を得意とするLOGのディアーチェなど、相手に恵まれており、その対策もバッチリと自分の中に保管してある。
ただ、それをもってしても――ライトニング並の速度でスタートダッシュを決めてみせたセイクリッドの少年を前に、カズヤは驚きを隠せず、それゆえに僅かに反応が遅れてしまった。
「ほう」
浩樹が攻撃モーションに入ったギリギリで漸く動き出せたカズヤは、回避ではなく防御を選択する。拳の進行方向に左手をおいて、シールドを発動。その直後浩樹のデバイスに包まれた右拳ではなく、何もついていない左拳がシールドへと叩きつけられるやいなや――
バリン
「なっ!?」
ガラスを割るような音が響き、何ら抵抗も見せることなくカズヤのシールドは破られた。
再び驚き硬直したサジッタの手のひらに、浩樹の左拳がぶつけられる。それだけなら然したる問題はないのだが、浩樹はそのままで手を開き、カズヤの右腕を掴んでしまう。
「とりあえず一発だ」
物心ついた頃から、かれこれ五年以上続けている体の動きを足場のない空中でどう行うのか。それを無意識に思考し、シミュレーションした動きをトレースした浩樹は、デバイスに包まれた右拳を強く握り締める。
「ぶん殴られとけ!」
パンッっと、空気の弾けるような音が響き、弾丸の如き速度で、カズヤの顔面目掛け浩樹の右拳が叩き込まれ――。
衝撃を受けたカズヤが、そのまままっすぐ落下して、高層ビルの一つへと突っ込んだ。
「……」
振り切った拳をまじまじと見つめ、それから、眼下で濛々と上がる粉塵の方へと視線を移した浩樹は、
「浩樹!」
佳奈の言葉に反応し、一気に後ろへと下がる。その直後、浩樹の鼻先ギリギリを通るように、三発の魔力弾が通過した。恐るべきはその速度。歯軋りとともに、浩樹は反転して、佳奈の方へと飛んだ。前方では、佳奈が刃部分を消したキュートジェミニを構えている。
視線は一瞬交差して、浩樹は地面と並行の姿勢のまま、高度を上げた。それにより、体のあった辺りを追尾してきた魔力弾三発が通過していく。
合わせるように、ズガガガンと三発。銃声が間を置かずに轟いた。放たれた弾丸と、浩樹を狙う追尾弾が空中で交わり、炸裂する。まるで空砲みたいだなと、そんな感想を抱きながら、浩樹は佳奈の元まで戻ってきた。
「手応えは?」
「無し。防がれた」
「そっか」
キュートジェミニへ弾丸を装填しながら、短いやりとりを終える。
強いとは聞いていた。だから驚かない。要塞という二つ名も聞いた。だから意外とも思わない。
只々純粋に、尊敬した。開幕直後、カズヤがスキルカード二枚と自身の技術も使った、今の浩樹が行える最高の不意打ち。
間違いなく虚を付くことは出来て、にも拘らず反応し、防いで見せたその事実。
「硬すぎるな。ありゃ」
「アリシアちゃんも苦手になるよ。多分クリーンヒット、一発もなかったんだろうね」
突風のような風が吹き、サジッタの墜落した付近の粉塵が一気に薙ぎ払われる。
その中に立っていたのは、思った通りダメージ無しの千変の機動要塞。
「カズヤさんのデバイスは分からずだな。じゃあ佳奈、予定通りに」
「うん」
拳を軽く合わせて、思考を切り替える。
要塞という名に恥じぬ鉄壁を打倒するために、情報収集を。しっかりと握った右拳と左拳を叩きつけながら、浩樹はまっすぐカズヤを睨めつける。
開幕直後。電光石火の技の応酬。
見た目こそ引き分けのようではあったが、圧倒的な力の差を、高坂兄妹へと見せつける形で幕を閉じ。
第二戦は十秒後。先に動いたのは、今回も高坂兄妹であった。