INNOCENT Brave Heart   作:零円

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01-05 決着

「二分が過ぎたところで、誤射と追い打ちで浩樹選手に大ダメージ! 流石セイクリッド。自慢の防御力で戦闘不能まで追い込まれることはありませんでしたが、それでも試合続行は厳しいか!」

 

「セイクリッドの防御力だけじゃないよ。カズヤのシューターがヒットする直前で、なりふり構わないで張ったシールドのお陰もあるね。魔力はほとんど持ってかれたけど、魔力さえ回復すれば、試合続行は可能かな。でも、最大容量結構あるみたいだし、回復まで時間がかかるかもねー」

 

「そして戦えなくなった兄の代わりに、前に出たのは佳奈選手! どうやら一人で戦うつもりのようですが……」

 

「ここまでの精密射撃は目を見張るものがあったけど、それは混戦状態じゃなかったからだし、あの子はガンナータイプ。多彩な攻撃が可能な反面、威力は心許ないし、防御も平均だからスペック的に考えて、一撃当たるとそれまでって可能性がある以上、あんまりいい選択とも思えないけど」

 

「本人やる気マックスな顔してますから、それに期待してみましょう!」

 

 

***

 

 

現状を整理しよう。まずは佳奈。

彼女は、自身のアバターのスペック、スキルカードとキュートジェミニの性能は大体把握していた。ただ無心に浩樹のサポートをしていたわけじゃない。細かい動きを繰り返してアバターの動作に慣れ、スキルカードで行えることの許容範囲を調べ、キュートジェミニの狙撃能力を調べていたのだ。残念ながら刃の耐久性能までは判別する余裕はなかったが、ここまでの戦闘。カズヤの攻撃はシューターによる射撃が基本であり、その攻撃を戦闘中一度だけだが、瞬間的に出した刃で斬る事によって防いでいる。ゆえに強度は十分と、そう判断していた。

 対してカズヤ・アイカワ。ここまで分かってる手札は、熟練された基本スペックとスキルカード『アクセルムーブ』のみ。未だどんなデバイスを使っているのか、どんなスキルカードがあるのかも定かではない。

 

 改めて状況を再確認し、厄介だなぁと佳奈は思う。

 啖呵を切ったのはいいが、特別勝ち筋が見えているというわけでもない。開幕一発目。此方が主導権を握るために行った最初の不意打ちをきっちり反応され、迎撃された事実。カズヤがアクセルムーブを発動した二度目の攻防。二度目に関して言うなら、手の内を一枚、明らかにしたともとれるが、実際のところはそうではなく。敢えて見せた、見せられたという印象がある以上、佳奈としては喜べない。

 

(戦略ゲームだったら、今まで負けなしなんだけどなー)

 

 好きなテレビゲームは桃鉄。得意なゲームは将棋とかチェスとか戦略系。

 そんな少女であるからこそ、開幕直後からの読み合いに際し、負け続けというのは正直面白くない。勝ちまではいかずとも、驚かせ、余裕を無くし、思わず本気を出してしまう状況。そこまで追い込んでみたい。

 

(て言っても、今のところ、望み薄なんだよね)

 

 自分が前衛に出たことでも、どうやらカズヤは驚いてくれないらしい。動揺した様子は見れない。物は試しと二発、顔のスレスレを抜けるようにして撃ってみたが、カズヤは身じろぎ一つせず、二発の弾丸を見送った。

 

(目がいい。しかも、処理能力が高いんだよね、頭の。あの人は追い込まれてからでも反撃できる。それだけだったら、浩樹も私だって出来るけど、あの人の場合、条件反射での反撃じゃなくて、しっかり見た上でのカウンター攻撃だからタチが悪い。常時後出しジャンケン状態なんだもん。

 でも、その後出しジャンケンを支えてる柱の一つが、先読み。浩樹の開始直後の奇襲が上手く嵌らなかったのは、試合開始前のカズヤさんの挑発が効いてたから。それ以降だって、どうにも攻撃に重きを置いてるのは事実)

 

 攻撃に重きを置けば、その分カウンターが飛んでくるのは自明の理だ。難しくもなんともない、じゃんけんでグーを出せばパーに負けるのと同じくらい。

 佳奈の考える限り、戦闘とは極端に突き詰めればじゃんけんのそれと似ている。

 強打、カウンター、そしてフェイント。三すくみのそれはじゃんけんの如く、カウンターは強打に強く、フェイントはカウンターに強く、強打はフェイントに強い。

 だからこそ、ここまでおされっぱなしなのだ。相手の方が上であるにもかかわらず、強打に特化して戦ったせいで、強打に強いカウンターを使われる。フェイントを入れたとしても、お得意の先読みからの後出しで、カウンターは強打へとシフトする。

 フェイントを使ってこないのは、カズヤなりの手加減なのだろうと考えていた。強打とカウンター。パーとチョキ。その二つのみで戦うという手加減。

 

(詰めるとしたらそこなんだけど、カウンターにカウンターをぶつけるのはなぁ)

 

 並大抵の技術ではないし、そもそも勇み足の相手でもなければカウンターの使う為に相手を釣る、というのは難しい。

 

(……あんまり考えすぎると時間無くなっちゃうか)

 

 眼下。ビルの上に降り立ち、自分を睨みあげる兄の視線を、佳奈は苦笑を漏らした。

 

(まあ、やれるだけやってみようかな)

 

 一対一になった状況でのプランは、戦闘開始前からいくつか考えていた。

 大人しい、というか理性的な。少なくとも自分と似た戦い方と踏んでいただけに、幸い考えていたプランに大きな変更点はない。実力差という絶対の壁はあるわけだが、そればかりは何とか工夫で補うつもりでいた。

 

(それじゃあ、見て貰おうかな。私の戦い)

 

 にやりと笑い、佳奈は構える。

 双子らしく、好戦的なその笑みは浩樹のそれとよく似ていた。

 

 

***

 

 

* スキルカード アクアバレット *

 

 カズヤがデザインしたスキルカードの一枚である。

水の弾丸を作り出すそれは、変幻自在、多種多様な弾丸を作り出せる反面で、威力に問題があるスキルカード。どちらかといえば玄人向けのカードで、初心者が使いこなせるカードではない。中々難しい空中制動に、戦闘の構築などを行いながら、明確なイメージを必要とするこのカードを、初心者が使えるはずが無いからだ。

単純なイメージではそもそも威力不足のせいで役に立たず、複雑なイメージは戦闘中だと難しい。

正直、デザインしたカズヤも、ちょっと威力低すぎたかなとは思ったものの、アクアバレットのレアリティ郡のカードパワーを考えれば、どうしてもこれ以上は弄れず。結果として今に至ったわけで。

 

「おいおい」

 

 関心とも呆れとも取れる声を漏らしながら、カズヤは佳奈の攻撃を避けていた。

 彼女の使用したアクアバレット。その時はもっと使いやすいカードを使えばいいのにと少しだけ思ったものだが、今は違う。当初のカズヤですら想像していなかった使い方をして、佳奈はカズヤを追い込んでいた。

 単純に水の弾丸を打ち出すカードという予定で、カズヤはアクアバレットと名付けた。だからこそ――アクアバレットを日本刀のような刃の状態で固定して、銃口部分にキープしたままで斬りかかってくるのは正直予想していなかった。グリップの下にある刃はそのまま。四刀を持って攻めてくる。

 

(つーか、高坂ちゃんもなんかやってるのか? 太刀筋鋭いんだが)

 

 ストライクアーツの訓練を受けていなかったら、既に落とされていそうな勢い。今日からストライクアーツの訓練を再開するかなとぼんやり考えながら、振られた刃を躱す。

 

(しかし、防御って選択肢が取れないのが辛いな)

 

 斬りかかられた一撃目を防御しようとしたところ、いきなり刃が弾けたのだ。だが、お構いなしに佳奈は振り続け、盾を通りすぎたところで、アクアバレットの刃を再構成したのである。慌てて回避し事なきは得たが、おかげで自慢の防御力を生かせずにいる。

 意外な相性の悪さ。カズヤは楽しくて堪らなかった。

 

「やるねぇ、高坂ちゃん」

「私としては、まだお話をする余裕があるようで悔しいですが!」

 

 振られた刃を躱す。躱し続けながら、カズヤは時計を確認した。

 

(残り1分切ってるんだよな……。高坂君も回復してるし、このままだと厳しいか)

 

 ここまでのHP消費も被弾率も共に0と要塞の名に恥じぬ出来ではあるが、流石に素人二人相手にタイムアップというのは、DMSの一角を担う身としてはいただけない。

 カズヤ・ザ・フォートレス。あらゆる状況に完璧に適応し切る、同じ姿を一切見せない千変の機動要塞。その名を与えられた自分には、その名を守る義務があるのだ。

 

(だからまあ、残り三十秒)

 

「ぼちぼち潰す」

 

 死刑宣告にも近いその言葉を言った直後、佳奈の体が何かに吹き飛ばされた。

 

「あっ!?」

 

アバターの差もあるとは言え、一撃で四割ほど削られた佳奈は、なんとか空中で体勢を整え、周囲を探る。

 だが、そんな佳奈を嘲笑うかのように新たな追撃を受け、佳奈は戦闘不能まで追い込まれた。

 一秒にも満たない、文字通りの一瞬。その一瞬、カズヤが攻勢に出ただけで、明らかに攻勢であった佳奈は初めての敗北を期した。

 しかし一対一に持ち込んだとしても気を抜かず。カズヤはノールックで後部上方へシールドを発動した。数瞬の間もおかず、叩きつけられる浩樹の拳。驚いた浩樹であったが、直ぐに切り替え、ここまで温存していたスキルカードを発動した。

 バリアブレイク。自身の打撃攻撃に衝撃貫通能力を与える、近接打撃型のプレイヤーなら誰もが欲しがるレアスキル。

 防御したとは言え、殆ど距離はない。この状態で衝撃を貫通させれば、バリア越しにでもカズヤへダメージを与えられる。スキル発動にかかる時間はコンマ数秒。回避は不可能。まずはここからとそう考える浩樹の頭部へ、死角からの衝撃。スキルカードの発動はキャンセルされ、バランスを崩したところに、先程と同じ方から、今度は脇腹へ一撃。僅かにくの字に曲がる体。あろう事か、そのタイミングを付いて、真下から浩樹の水落付近を狙った打撃が入る。

 セイクリッドとは言え、いきなり三発もノーガードで受ければ、ダメージが入り、動きも止まる。どうすることも出来ず弾き上げられながら、それでもカズヤの方を睨みつける浩樹と、振り返ったカズヤの目があった。

 その目を見て、浩樹も流石に察した。この瞬間に動けない時点で、自分の負けなのだと。昨日の佳奈の時とは違う、圧倒的な差を見せつけられての敗北の味に、浩樹は口角を釣り上げる。

だが、ただで負けるのは惜しい。せめて最後に触れてやろうと頑張って手を伸ばし、その手すらも謎の衝撃によって撃ち落とされた。

 

「くそったれ!」

「フルアタック」

 

 会話にならない会話を終えた直後、浩樹のHPケージは瞬く間にゼロになった。

 

***

 

「決着ー!勝者、現行最強チーム『DMS』が誇る要塞!カズヤ・ザ・フォートレス!やはり最強の壁は硬かった!」

 

「当然!ロケテストでも、あの防御を抜けた人は少ないんだからね。初心者二人がかりでも抜けるはずないよ」

 

「ですが、結果的にノーダメージだったとは言え、あの二人もとても強いよ。あそこまで彼が防御に専念してたってことは、それだけの力があったってことだし」

 

「むっ。それは……確かに」

 

「クロスレンジを最も得意とするベルカの近接破壊力! 遠近両用のミッドチルダ! そして圧倒的技術力を誇ったインダストリー! 皆さん、素晴らしい勝負を見せてくれた三人に大きな拍手を!」

 

 アリシアの声に答えるように、賞賛と喝采の声が響き渡った。

 

***

 

 聞こえてくる声を聞いて、ブレイブシミュレーターからでた浩樹と佳奈は顔を上げる。拍手を受けているため、気まぐれに手を振れば、声が増した。有名人になったみたいで、少し嬉しさを感じる。

 

「浩樹君、佳奈ちゃん」

 

 横合いから声をかけられ、そちらへ視線を移した。

そこにいるのは、先程までの作業着とTシャツの上から、白衣をまとったカズヤ。白衣に関しては、デュエル開始前に、勝負服だからと自ら纏っていた。それだけで、先程まであった怪しさが無くなり、普通の研究員のように見えるのだから恐れ入る。

 

「ナイスデュエルだった。楽しかったよ」

 

 差し出された手に、浩樹が答えて握り返すと、健闘称えるように一際大きな拍手が湧いた。

 

「ありがとうございました。ブレイブデュエルの奥深さ。身に染みました」

「そう言って貰えると助かる。やりすぎってくらいやっちゃった気もしてたからな」

「あれくらいがちょうどいいです」

「いいね。中々挑戦的で。嫌いじゃないぞ、そういうの」

 

 浩樹と手を離し、今度は佳奈と握手する。

 

「アクアバレットの使い方。中々良かった。思いつかなかったよ」

「ぶっつけ本番だったんですけどね。うまくいって良かったです」

「狙いも良かった。強くなるよ。俺が保証する」

「心強いです。今度、色々お話を聞かせて貰ってもいいですか?」

「ああ。いつでも」

 

 握手していた手を離し、数歩離れたカズヤへ蒼い影が突撃した。「ごっ!?」と変な声が、カズヤの口から漏れる。

 

「カズヤ! 次は僕とチーム戦やろう!」

「レヴィ……。いや、チーム戦って言っても、フリーバトルだと相手になる奴いないだろ。全国ランカーなんて、そんなゴロゴロしてないぞ?」

「2vs100位なら、ちょうどいいんじゃない?」

「相手がゴチャゴチャになって自滅する未来しか見えん」

 

 脇腹に抱きついたレヴィの頭をよしよしと撫でながら、うーむと呟くカズヤ。ここ暫くはブレイブデュエルの正式稼動に向けて色々忙しく、レヴィと中々遊ぶ機会が取れなかったため、カズヤとしてもレヴィと遊びたいという気持ちは大きかった。

 しかし、フリーバトルが終わった今、ここがグランツ研究所であるなら、自分とレヴィのチームに挑戦者を集うということも出来そうだが、生憎此処はT&H。自分のホームでもないのに、そんなことをする訳にはいかない。

 どうしようかと視線を動かすと、先程まで自分と健闘していた高坂兄妹も、学校の友人らしき少女達に囲まれて、あれやこれやと言われていた。その中の一人が、全国ランカーのフェイト・テスタロッサだと気がつき、レヴィを呼ぶ。

 

「レヴィ。もしかしたら目当ての子がいるかも知れないぞ」

「……誰だっけ?」

「高町なのはちゃん。ヴィータを倒した子だよ」

「おー!そうだったそうだった!」

 

 レヴィがカズヤの元を離れ、浩樹たちの方へと近づいた。自然とそちらに視線が集まる。

 

「高町なにょはに用がある!」

「ふぇ!? 私!?」

 

 なにょは発言に、一部が笑いをこらえる中、呼ばれたなのはと呼んだレヴィだけが大真面目だった。

 

「ヴィーたんをやっつけたという実力! このボクにも見せて貰おうか!」

「えええ!?」

 

 そんな二人のやりとりに、にやりとアリシア・テスタロッサが口角を釣り上げたことに、その場にいた誰もが気がつかなかった。

 

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