機動六課が活動して数日……。早朝、綺麗な青い空の下、訓練場ではFWメンバーが今日も汗を流しながら訓練をしていた。
『こ、このっ! ちょこまかちょこまかと!』
艶やかなオレンジ色の髪の少女ーーティアナ・ランスターは叫ぶ。彼女の視界には三体のガジェット・クローンの姿を捉えてる。まだまだ乱雑だがそれでも彼女はびしばし動きながら魔力弾を撃ち込む。
『っ! キャロ後ろに来てるわよ!』
『えっ? くっ!』
『キャロ!? 大丈夫っ!?』
『な、なんとか大丈夫です!』
『了解、早速で悪いけどキャロ! 援護頼めるっ!?』
『は、はい! わかりました!』
『よし! スバル! エリオ! そっちはどう!?』
『私達もなんとか!』
『撃破できました!』
『了解! 中央に敵がいるから挟み撃ちにするわよ!』
まだまだ日が経ってないがチームワークは悪くない。最初はまだガジェットが8体だったので良かったが、現在のガジェットの数は16体。だが、彼女達は作戦を立て、まだ未熟だがよく動けている。上から見るとその動きがよくわかる。
「ま、こんなもんか」
漆黒のサーフボード〈ホウキ〉に乗った長身痩躯の少年ーーカナタ・エイジは上空からその様子を見てボソッと呟いた。ちなみに教官はなのはとカナタが交代、交代で教える。今日はカナタが教える日だ。
「やっぱりか……」
カナタは訓練場を見ながら言った。
「うしっ、じゃあ訓練はここまでだ」
『ありがとうございました!』
午前の訓練が終わり昼ご飯の時間になった。FWメンバーもお腹がすいてる様子だ。するとカナタが
「あ、キャロは残ってくれ。後はいっていいぞ」
「え?」
キャロは驚いた顔をし、他の皆は何故キャロだけを? と思い首を傾げた。するとティアナがカナタに近づいた。
「なんでキャロを残らせたのよ?」
「ん? ちょっと個人訓練だ」
「こ、個人訓練!? あんたそっちの趣味だったのね! この変態!」
ティアナは顔を赤らめながらカナタに指を指し叫んだ。
「だから俺はガキには興味ねーよ。ほら、帰った、帰った。」
「まぁまぁティアナ戻ろうよ。カナタさんは多分大丈夫だよ!」
「そ、そうですよ! 多分カナタさんなら大丈夫ですよ!」
「……わかったわよ」
スバルとエリオの説得のおかげでティアナが折れてくれた。カナタは心の中で二人サンキュと呟いた。するとティアナはキャロに抱きついた。
「キャロ、こいつが変な事したらすぐに連絡するのよ!」
「? わかりました?」
ティアナは大きく頷き、一瞬キャロに変な事したら殺す!っという意味を込めた睨みをカナタに向け、スバルとエリオと一緒に隊舎に向かった。ようやく行ったか……とカナタは三人に向けていた視線からキャロに向けた。
「待たせたな。そんで個人訓練の話だけど、この特訓は辛いぞ。お前にそれをやる覚悟はあるか? 苦手な事でもやる覚悟の事だぜ」
「…………」
苦手な事……キャロは沈黙する。カナタは軽く話しているようだが妙に重さがあった。例えるなら幾度もの修羅場をくぐりぬけた者のみが放つプレッシャーのようなものだ。しばらくキャロが考え……
「か、カナタさん!」
キャロは緊張しながらカナタに近づき上目遣いで見上げた。その瞳には決意をした思いが感じられる。
「どうしたんだよ、そんなに緊張して?」
「その特訓をしたら私は強くなれるんですよね?」
「ああ、そうだけど……それはお前の努力次第だ」
「な、なら私は大丈夫ですっ! どんな訓練にも耐え抜いて見せますっ!」
キャロの誠実さはカナタに伝わり、
「……わかった。どんなに過酷でもちゃんと耐え抜いてみせろよ。場所変える、じゃあ行くぞ」
「は、はいっ!」
そう言ってカナタとキャロは隊舎の方に歩いて行った。
昼の時間。管理局本局の者はこの時間は弁当か食堂に食べに来るかだ。大半の物が食堂で食べにくる。食堂の飯は量が多くどれも絶品なので局員にとっては数少ない安らぎの場所だ。今日もたくさんの人がきて、食堂は賑やかだ。そんな食堂の厨房に二人が見学していた。キャロとカナタだ。
「あわわわっ! カナタさん! なんだか皆さん流れる様に動いてますよ!」
キャロの視界ではスタッフが素早い動きで働いている様子が映っていた。ある者はキッチンの調理鍋からビーフシチューをよそい、またある者がパンとサラダを用意して、そしてある者はお盆の上にそれらをセットして、カウンターにいる局員に提供している。
「それであのぅ……個人訓練ってもしかして」
「んっ、それ着てるんだから言われなくてもわかるだろ」
「む、ムリですっ! わ、私絶対足を引っ張りますよっっ!」
キャロの服はファミレスでよく見るウェイトレスの服をきていた。
「問題ねーよ。一度やってみて、勤まらないようだったら俺が声をかけるし」
ポンっとカナタはキャロの背中を押したが、
「あ、あのぅ……」
キャロは弱々しく口にする。キッチンの端っこで邪魔にならない様にしながら、一生懸命トレイを回すスタッフ達の動きを眺めるので精一杯だった。何をすればわからず、出だしから躓いた。
「うぅ……カナタさぁ〜〜〜んっ!」
情けない声を出す。役に立てないのが悔しくて、ちょっとだけ涙を流したりする。すぐにカナタが助け船を出した。
「もうちょい周りをよく見てみろよ」
「ま、周り……ですか?」
「そ。困った時はすこし視線をずらして、周りをよく見てみろ。お前にできることなんて限られている。スタッフの方を見て、自分がいまできることで、スタッフ達のためになることはなんだよ?」
「スタッフのためになること……」
カナタの言われるがまま、キャロは周りを見る。六人のスタッフ達が手際よく盛り付けと調理をこなし、カウンターのスタッフ達は受けた注文を素早くキッチンへ伝えている。全員に迷いはなく、とてもキャロには真似できない。しかし、やることはわかった。キャロは緊張しながらカウンターに立った。
「あ、あのぅ……ご、ご注文は、な、何にしますかっ!?」
モジモジしながら上目遣いでキャロは言った。すごく可愛い。緊張しながらも必死に頑張っている少女の様子は、人に悪影響を与えるものではなかった。腹を空かせた局員は次々注文する。キャロは必死にメモを取り、キッチンに向かう。
「す、すいません! ビ、ビーフシチューを……そのぉ…」
お、落ち着け私……!
少し目線をずらすと六人の内の一人が配膳に専念しているのに気づいた。
「あ、あの……! ビーフシチュー一人前注文入りました!」
緊張した声で注文を告げ、料理が乗ったトレイを受け取るとそれをカウンターに持っていく。
へっ、よく周りを見てるじゃんか。端っこでカナタはキャロの様子を見てふっと口の端をつり上げた。キャロの役割は大雑把にいえば仲間の後方支援だ。仲間の支援をするには敵の状況、味方の状況を見る観察眼が必要だ。これを訓練の時に応用できれば問題ねーんだけど……。
するとキャロが近づいてきた。
「カナタさんっ! 質問いいですか?」
「ん、どうしたんだよ?」
「どうしてここの人達は、こんなにてきぱき動けるんですかっ?」
「さーな。でもさ、厨房スタッフの目的は料理を素早く、それも正確に提供することじゃん」
カナタは厨房スタッフの方を見る。
「目的が同じ者同士が集まって努力し続ければ、自然と結果が出るもんなんじゃねーの。こいつらだって周りをよく見ながら、自分にできることを精一杯やってるだけなんだぜ」
キャロはその言葉を聞いてはっと気づいた。自分はいつも目の前の事に精一杯で周りが見えていなかった。今日の訓練もティアナに指摘されなかったら撃墜されていた。
もっと……周りを見なきゃ……っ!
キャロがそう考えていると、客が落ち着いてきたので厨房のスタッフの一人がカナタに近づいてきた。
「カナタさん、今日のピークは無事すぎましたんで、あとは俺たちに任せてください!」
「うん、じゃあ後はよろしく頼むわ」
『お疲れ様でしたーーーっっっ!』
手の空いてるスタッフはカナタに向かって深々と頭を下げる。この人って何者なんだろう?っとキャロは思った。ティアナやスバルの話だと裏切り者扱いされていて、局内でも悪評が途絶えた例がない。それなのに……局員のスタッフ達からは妙に敬意を払われているようだし。
「ほら、好きな料理選べよキャロ」
「えっ! でも私そんなに手伝ってませんし……」
すると先ほどのスタッフがキャロの前にきた。
「カナタさんの教え子ならいつでも大歓迎です。なにかあったらお声をかけてください」
「あ! あの! ありがとうございます! じゃ、じゃあビーフシチューを……」
彼女のテーブルの上にはいつの間にか食欲をそそるビーフシチュー。キャロはビーフシチューを食べるとぽっぺがとろけ落ちそうになると大満足。そんな笑顔をカナタに向けながら食べた。カナタもキャロと一緒のビーフシチューを食べた。
本局を出た後カナタとキャロは並んで歩いている。町の中央通りなので人はかなりいる。するとカナタはキャロに手を出した。
「ほら、手」
「え……なんの手ですか!?」
「人込みだからさ。繋がないとはぐれちゃうかもしれないだろう?」
「手を……繋ぐんですか?」
「うーん、もしかして俺とじゃ嫌か?」
「い、いえ! その……教官のカナタさんと手を繋いでもいいいんですかっ!」
「そういうキャロをエスコートしたいんだよ」
「う、嬉しいです! すごくすごく嬉しいです!!」
キャロはカナタの手を握る。初めて握ったカナタの手は、とても温かかった。尊敬する教官の手だから、自ずと興奮してしまったんだろうと思う。しかし、それ以上に自然と心臓の音が高鳴り、キャロは恥ずかしくなって俯いた。
「べつにそんなに喜ばなくてもいいんだけど……」
「ち、ちがいます! カナタさんはすごいんですっ!」
キャロは興奮気味でカナタに言ったのでカナタはキャロに質問した。
「ふーん。俺のどんなとこすごいと思ったの?」
「教官さんとして、わたしたちに指導して強くしてくれたところとか……その……」
キャロは俯きながらゴニョゴニョと小さい声を漏らす。
「んっ、今なんて言ったんだよ? 小さくて聞こえなかったぞ」
「っ!」
カナタはキャロに顔を向ける。キャロの顔は紅くなっていた。キャロは正直に言った。
「や、優しいところですっ!」
「ふーん、俺ってそんな風に見えるのかよ。でも、俺ってぜんぜん優しくねーだろ。特訓とかも、かなり厳しめのラインを設定しているつもりだけどな」
「で、でもっ! こうして手を繋いでくれますしっ! やっぱりカナタさんはやさしいです! それにかっこいいですし!」
「そっか。ま、そんだけ言われたら悪い気はしねーかな」
キャロはカナタと並んで歩いていると幸せな気分になる。女の子の歩幅は男の子のものよりずっと狭い。しかし、この者は自分に歩幅を合わせて歩いてくれている。キャロは穢れのない瞳で、カナタの横顔を見る。こちらの視線に気づいて、前髪をくしゃくしゃに撫でてくれた。
なんだか……お兄ちゃんができたみたいです。キャロはカナタと歩きながらそう考えていた。
いつのまにか夕陽が出ている時間帯になり、カナタ達は公園についた。カナタとキャロはベンチに座る。そしてカナタがキャロに今日最後の訓練を言い渡す。
「キャロこれが今日最後の訓練だ。単刀直入に言う、お前は自分の本当の力をどうしたい? 使いたいのか、使いたくないのか。どうしたい?」
「っ! どうしてそれを……?」
「フェイトから聞いた」
「そう……ですか」
キャロは俯いた。キャロがその力を使わないのは理由がある。キャロが生まれた里でキャロは高い魔力を持って生まれた。しかし、ある日その力を暴走させてしまい里から追放されてしまった。その後各地を点々としていたところを時空管理局に保護され、キャロの事情を聞いたフェイトはキャロを引き取ったのだ。しばらくしてキャロが静かに口を開いた。
「怖いんです、また私のせいで誰かが傷ついてしまうと考えると……」
落ち込むキャロにカナタは、
「なぁキャロ、ヒントをやるよ」
「? ヒント……ですか?」
「今のお前はその優しさが弱さにつながっている。自分の想いを貫くチカラに繋がっていない。お前の力はなんの為に存在している?」
キャロは深く考えた、自分は本当はこの力をどうしたいのかを。そしてキャロは決意し、その言葉をカナタに言い放った。
「フェイトさんや皆を護る為です……!」
カナタは自然と口の端がつり上がる。
なんだ、自分でちゃんとわかってんじゃん。
「でも……私、また暴走しちゃうかも知れません」
「なぁ、キャロ。強さってなんだろうな?」
「強さ……ですか?」
強さとは何か?ーーーその完全な答えを人々はまだ知らない。身体的強さ。技術的強さ。精神的強さ。何かに耐える事だって強さの1つだ。他にも強さがあるが、カナタがその中で一つ選び出すなら、心の強さを挙げるだろう。どんな強者にも本質的に屈することない、不羈の心。自分のあるがままを受け入れ何事も束縛されない自由な心。カナタは自分の力を恐れて、もがき続けている少女を導いてやりたかった。
「ようはお前の怖がっている力も『心の強さ』次第だ。お前の心の強さでこれからのお前は変わるんだ」
「心の……強さ」
「護りたいんだろ? お前の手で皆を。……じゃあもう一回聞くぞ。お前はその力をどうしたいんだ?」
「私は……」
もう恐れちゃだめ。大丈夫。私には……皆を護りたいって思う強さがあるから!!
「使いたいです!! 皆や困ってる人を護るために!」
決意に満ちた真っ直ぐな瞳をカナタに向けた。その瞳からは確かな強さを感じ取れた。これならもう大丈夫そうだな
「合格だ。また明日から頑張って行こうぜ、キャロ」
カナタはキャロの前髪をくしゃくしゃ撫でた。キャロはなでられて嬉しそうだった。その時の少女の顔は、
「はいっ!!」
夕陽の輝きに負けない曇りのない笑顔だった。
夕陽が照らす公園で少女は誓った。自分を助けてくれた人を……大切な仲間を……そして私の大切なお兄ちゃんみたいな教官を護りたいと。
ちょっと無理やり感あるな〜と書き終わって思いました。
かなりレクティ回のネタを使いました。読んでくれてありがとうございました。また微妙に編集しときます。