素直に追いかけて ボールを追いかけて 作:スターダイヤモンド
《ワンアウトを取ったものの、依然として怖いバッターが続きます。続くは5番の八代選手、最初の打席はファーストゴロ。しかし当たりは痛烈なライナーをファーストが弾いて、結果ゴロとなったもの。あわや強襲ヒットかという、鋭い打球でした》
八代(ライズなんて、打ったことがない…浮き上がるということは…グリップの位置を高くして…振り下ろす?)
ブン!
ストラ~イク!
八代(…違うか…浮き上がる前に…打つ?)
ブン!
ストライク ツー!
八代(な、スローボールだと!どこに、そんな余裕が…)
絵里(手が滑った…)
八代(次は…なんだ?)
ズバッ
ストライク スリー!バッター アウト!
八代(手が出なかった…)
《絢瀬選手、東條選手の生徒会バッテリー、八代選手にまったく的を絞らせず、見逃しの三振に切ってとりました。これでツーアウト!》
絵里(あとひとり…)
《ノーアウト、ランナー2塁1塁が、ツーアウト、ランナー2塁1塁に。バッターは6番の七瀬選手。先程はショートに打ち上げたサードフライ。この打席はどうか?》
ブワッ!
《おっと、強い風!時折、突風が吹いてきます。現在の風向きは…先程とは違い、バックネット方向から左中間方向へと吹いています。雨こそ落ちていませんが、だいぶ雲行きが怪しくなってきました》
ボール
ボール
ボール
ボール
フォアボール バッター イチルイ
《あ~なんと、ここで…まさかのストレートのフォアボール!!満塁です。ツーアウトながら、全ての塁が埋まりました》
希「タイム!」
《たまらずキャッチャーの東條選手が、ここでタイムを要求。マウンドに野手全員が集まります》
にこ「どうしたのよ、急に…」
希「実は、これがこれまでライズを使えなかった理由なんよ」
穂乃果「どういうこと?」
凛「言葉は悪いけど…所詮『付け焼き刃』『一夜漬け』。まだキチッとコントロールが出来ない…ってことにゃ」
希「さすが凛ちゃん。その通りや」
海未「加えて言うなら、ライズを投げたあと、他のボールもコントロールを乱しています。疲れだけの理由ではないと思いますが」
希「それも正解!さすが海未ちゃんやね」
海未「後ろから見てて、投球フォームがバラついてるように感じましたので」
希「ライズは、リリースする時に、手首のスナップを利かせ、ボールに独特の回転をかけるんやけど…今のえりちだと、そのあとに投げるボールのリリースポイントとかが、上手く修正出来なくなってしまうんよ…」
花陽「そして…この『風』…ですね」
希「そう。ソフトは、ボールが大きい分、風によって、必要以上に変化してしまうんや。今は向かい風になるから、逆に球威が落ちるんよ」
絵里「だから、ここぞ!という場面でしか使えなかったの…ごめんネ!?」
花陽「謝る必要なんてないですよ!だって、まだ点を獲られたわけじゃないんだし」
穂乃果「そうだよ。このピンチだって、もとはといえば、穂乃果のエラーから始まってるんだから」
絵里「ありがとう、花陽、穂乃果」
凛「ツーアウト、満塁…ツーアウト、満塁」ゴニョゴニョ…
にこ「え、なに?」
凛「ことりちゃん、セカンドに入って欲しいにゃあ!」
ことり「ちゅん!?…ことりが…セカンド…?」
にこ「ちょ、ちょっと待ってよ!そうしたら、あたしはどこに、行くのよ?まさかベンチだなんて言わないわよね?」
穂乃果「ヒデコと交替だったりして」ムフフ
にこ「怒るわよ!?」
凛「にこちゃんは、センターに入ってもらうにゃ」
にこ「え、え~!!あたしがセンター?」
真姫「良かったじゃない、待望のセンターでしょ」ニヤッ
にこ「あのねぇ、こんなときにそんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!!」
ワイワイ
ガヤガヤ
一条「アイツら、なんか、楽しそうだな…」
五木(これがスクールアイドルという生き物なのか…)
二本松(ん?デジャヴュ?)
《さぁ、マウンド場の輪が解けて、選手が元のポジションに戻り…ませんね。キャプテンを務める星空選手が、主審に何かを伝えています。どうやら守備位置が変わるようです》
《まずセンターの星空選手がレフトへ、レフトの南選手がセカンドへ、そしてセカンドの矢澤選手がセンターへ…。3人のポジションが入れ替わったようです》
《そして、3人がそれぞれ守りにつきま…いや、待って下さい!…どういうことでしょう!?…センターの矢澤選手は2塁ベースの真後ろに立っています。確かにグラウンドの真ん中にはいますが…これはもう内野手と言っていいでしょう》
《そして、外野は左中間に星空選手、右中間に園田選手の2人体制!アイドル研究部 スクールアイドル μ's、大きな、大きな賭けにでました》
凛(満塁ってことは、内野ゴロなら、どこに投げてもフォースプレーにゃ…。ことりちゃんと真姫ちゃんには悪いけど…ボールが飛んできたら、とにかく抑えてもらって、近いとこに投げて欲しいにゃ…)
海未(外野への打球は、私たち2人でなんとかします)
《内野手5人の奇策は通じるのか?試合再開。バッターはソフト部唯一の2年生、三井選手が右バッターボックスに入ります》
三井(この場面、絶対に長打は打たれたくないところ。それを考えれば…スローボールは…まず、ない!)
《初球は内科低めの直球…やや低いか…ボール!!》
三井(ライズも高めに浮く危険性が有るため、投げづらい)
キン!
《次のボールを打って…ファール!》
三井(狙いはストレート1本!フルスイング!)
《3球目…投げた!!》
カキン!
!!
《打った!打ち上げた!これはセンターフライ、ソフト部、万事休すか…星空選手、もう落下地点に入っている…いや、バックする、バックする…伸びる、伸びる、風に乗って…越えたぁ、入ったぁ、ホームラン!!》
絵里(…)
希(…)
花陽(…)
ことり(…)
にこ(…)
真姫(…)
穂乃果(…)
凛(…)
海未(…)
《マウンド上で崩れ落ちたのは、ピッチャーの絢瀬選手。…他のμ'sナインも、誰ひとり動けません》
《それもそのはず。ソフトボール部にとっては起死回生の、まさか…まさかのグランドスラム…満塁ホームランが飛び出しました!》
《μ'sは内野手5人体制の奇策も実らず、ボールははるか上空、いわゆるホームラン風に乗り、フェンスを越えて行きました。これで、5対4、ソフトボール部が逆転しました!!》
穂乃果「…」ワナワナワナ
穂乃果「…」クックックッ
真姫「…穂…乃…果…?」
穂乃果「そりゃ、そうだ!」
一同「…えっ?」
穂乃果「そりゃそうだ!世の中そんなに甘くない!」
希「穂乃果…」
穂乃果「でも…まだ…まだ、終わったわけじゃないよ…」
にこ「…穂乃果…」
穂乃果「みんな、まだ終わったわけじゃないよ!!まだ、3回の裏だよ。まだ終わってなんかいないんだよ」
海未「穂乃果…」
穂乃果「μ'sはこれまで、何度も逆境を乗り越えて来たんだもん!これくらいのことで落ち込んでなんかいられないよ」
ことり「そう…だよ…ね」
花陽「穂乃果ちゃん!」
絵里「…毎回、毎回、穂乃果には、呆れてものが言えないわ…」
穂乃果「…」ムッ!
絵里「どうしたら、そんなにポジティブになれるのかしら…」フフフ
希「えりち…」
にこ「仕方ないでしょ、それがあたしたちの決めたリーダーなんだから」
穂乃果「にこちゃん…」
凛「にゃ、にゃ!?今日は凛がキャプテンにゃ!責任は凛がとるにゃ」
穂乃果「凛ちゃん」
凛「だから、絵里ちゃんはさっさと投げて、この回を終わらすにゃあ」
絵里「…わかったわ、凛キャプテン!」
ストライク!
ストライク!
ストライク!
バッターアウト! スリーアウト チェンジ!
《…というわけで、九龍選手…一言も喋ることなく三振で、3回の裏、終了です》
九龍(なんて、雑な扱われ方…)
~つづく~