素直に追いかけて ボールを追いかけて 作:スターダイヤモンド
《3回の裏に満塁ホームランが飛び出し、5対4とソフトボール部が一気に逆転!これから4回の表、μ'sの攻撃となります》
タッタッタッタッ
《おや、1塁側ベンチから、そのホームランを放った三井選手が走って来ました》
三井「穂乃果…というか、μ'sの皆さん」
穂乃果「どうしたの?」
にこ「嫌味でも言いに来たの?」
絵里「やめなさいよ」
三井「すみません、すごく言いづらいのですが…」
一同「…」
三井「この回が最終回です!!」ペコリ
一同「…えっ?」
三井「すみません。本来なら7回までやる予定だったのですが…作者の都合…いえ間違いました…今後の天候が思わしくない為、やむ無く、この回で終了するように…と学校管理者から連絡が入りました」
希「確かに、天気、荒れそうやもんね」
三井「昨日の予報では、ここまで風が強くなるなんて、聞いてなかったのですが…今は強風警報が出てますし、大雨も降るようです」
真姫「この回っていうのは、ここで終わりってこと?勝ち逃げするつもり?」
花陽「真姫ちゃん、ダメだよ!先輩だよ」
三井「ごめんなさい、上手く伝わらなかったみたいで…。次のイニング、つまり4回の表裏までです」
穂乃果「よし!あと1回は攻撃出来るんだね!」
三井「そうだね」
※彼女と穂乃果は同級生なのでここはタメ口。
海未「その代わり、点が入らなければ…その裏はない…ということですね…」
絵里「仕方ないわ…天候が相手では、どうにもならないもの。わかったわ」
三井「では…」ペコリ
穂乃果「うん、お疲れ」
タッタッタッタッ
希「まぁ、正直ウチらも、そんな長いこと戦ってられへんし、それはそれで、丁度いいんやないかな」
穂乃果「でも、この回、最低1点は獲らなきゃいけないってことね」
にこ「なに言ってるのよ!1点じゃ同点止まりじゃない。何がなんでも勝ち越すのよ!」
海未「わかっています。引き分けでいいなんて、誰も思っていませんよ」
《さぁ、大変なことになりました。天候の悪化に伴い、急遽、この4回がラストイニング、最終回。現在リードしているのは、裏の攻撃のソフトボール部。つまり、μ'sが無得点であれば、その時点で試合終了となってしまいます》
凛「かよちん、なんとしても凛まで回すにぁ~!」
穂乃果「ファイトだよ!」
希「塁に出なかったら、ウチがワシワシスペシャル、するからね」ニヤ
花陽「ぴゃあ!い…行ってきます!」
スタスタスタ
にこ「希、花陽がワシワシOKだったら、どうするのよ?」
希「それはそれで…うれしいやん!」ムフッ
にこ「あほ…」
《さぁ、泣いても笑ってもこの回が最終回。果たして、同点、あるいは勝ち越して、裏の守備につけるのか?それとも、グランドスラムの1発に沈むのか?命運を託されたトップバッターは、7番、ファーストの小泉選手!》
花陽(ここは小細工なしでシンプルにいこう。ストレート、チェンジアップ…それにライズ?どのボールでも、ギリギリまで引き付けて…思いきり…叩く!)
《前の打席では、ランナー満塁から、左中間フェンス直撃の、2点タイムリーツーベースを放っている小泉選手。ここは、どんな形でも塁に出たいところ。一方、ソフト部バッテリーは、どうやっても抑えたいところ。甘い球は禁物です》
二本松(さっきは、こっちが油断していたとはいえ、迷いのないスイングをしていた。この娘、侮れないよ!)
一条(確かに。先頭打者は出したくないが、続く2人の力量を考えれば、まずは長打を打たれないことが、最優先だな…)
《ソフト部バッテリー、サインの交換が終わったようです。バッター、小泉選手に対して、初球…投げた!インハイ、ボー…いや、ストライクです!審判が少し遅れてコール。それだけ際どいところ》
花陽(追い込まれたら…やられちゃう…)
《ピッチャー、一条選手。早いテンポで2球目のモーションに入る…投げた!》
キン!
《引っ張った!三遊間への当たり、ショート深いところ、逆シングル、よく捕った!踏ん張って投げる!判定は?》
ソフト部(アウト!)
μ's(セーフ!)
セーフ!
《セーフだ!セーフだ!判定はセーフ!!小泉選手の脚が僅かに早かったか?執念の内野安打です!》
花陽(はぁ…はぁ…間に合った…。毎日の…階段ダッシュの…成果かな…はぁ…はぁ…)
凛「今日のかよちん、カッコ良すぎにぁ~」
《しかし、ショートの六車選手も素晴らしい守備を魅せました!このプレーに対し、観客から惜しみ無い拍手が送られています》
一条(まぁ、ここまでは、想定内。むしろ、長打を打たれなかったことの方が大きい)
二本松(問題はこのあとだ…。むしろ、向こうは我々よりも頭を悩ますとこだろう…)
《さぁ、ノーアウトで、ランナーが出ました。打順は8番の南選手。先程の打席は、まったくバットに当たらず、三球三振。この場面ではどうか?》
凛「タイムにゃ!」
《あっと、μ'sベンチ、ここでタイムを要求です》
二本松(同点を狙いにいくなら、間違いなく、送りバントでランナーを進めたいところ…)
五木(正直、バッティングが期待出来る選手ではない。…であるなら、なおさらここは、送りバント…)
三井(送らせないよ…私と五木さんがチャージして、絶対に阻止するわ)
《南選手がバッターボックスに戻ります。ソフトボール部はバントに備え、早くもファースト、サードが前進守備。これは、南選手にプレッシャーが掛かる。往年の川相選手でも決めるのは難しいかも知れません》
一条(五木、三井、いくよ!)
五木(…)コクッ
三井(…)コクッ
《ピッチャーの一条選手、一瞬、1塁ランナーを見たあと、すぐにキャッチャーのミットを見つめます。モーションに入った…投げた!》
ダダダダッ
ダダダダッ
《ストラ~イク!南選手、ど真ん中のボールを見送りました…ストライク、ワン。投球と同時に、ファースト、サードが猛ダッシュ。あわよくば、ゲッツーを狙おうという守備陣》
二本松(バントをする気配がまったくなかった…?まさか強行策?)
《初球は様子を見たのか、南選手、平然と見送りました。しかし、投球はストライク。さぁ、次はどうする?ピッチャー、一条選手…モーションに入る…2球目を投げた!》
ブン!
《空振り!!なんと、ここでヒッティングです!》
五木(今のは焦った…)
三井(死んだかと思った…)
《肝を冷やしたのは、ファーストの三井選手と、サードの五木選手か。バントシフトから、投球と同時に猛ダッシュで前進して来ましたが、まさかのヒッティング!この至近距離で打球が飛んできたら…と思うと、あまりに危険な場面でした》
二本松(面白い作戦だったが…当たらなければどうというとはない by シャア)
一条(ふっ、しかし、これでツーストライクだ。策士、策に溺れるか…)
《南選手、ツーストライクと追い込まれてしまいました。ここでファースト、サードは定位置に戻ります》
凛(ことりちゃん…チャンスだよ)
ことり(…)コクッ
《ピッチャー、一条選手…一旦ロジン(バッグ)に手をやり、ボールをこねました。慎重にサイン交換を行い…頷いた。モーションに入る…3球目を…投げた!》
チュン!
一条(!)
二本松(!)
五木(!)
《あ~っと、バントだ!!打球は三塁線、勢いなく転がる…サード、ダッシュしてボールを…捕らない!捕らない!…敢えて捕らない…切れればファール…スリーバント失敗だが…》
五木(…)チッ!
《止まった!止まった!フェア…フェアです!バント成功!なんと、ノーアウト2塁1塁です》
絵里「ハラショー!」
穂乃果「やったね、ことりちゃん!」
ことり「ちゅん、ちゅん!」ブイ!
海未「上手く決まりましたね!」
凛「ことりちゃんには、徹底的にバント練習してもらったから…その成果が出たにゃ~」
絵里「絶好の場面だったものね!」
希(そう、ウチが今日のキーマンと見ていたもうひとりとは、何を隠そう『ことりちゃん』だったんよ。ホンマ、きっちり仕事をするなぁ…)
二本松(2球目の空振りは、守備位置を下げさせるためにわざと…?まんまと向こうの策に嵌まってしまった…。認めたくないものだな…若さ故の過ちというものを…)
~つづく~