IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~   作:龍使い

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本日のIBGM

○黒き龍と白き獅子
Don't be Afraid(FINAL FANTASY Ⅷ)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm13551150

○鈴の過去の一端
回帰性戦慄カテゴリー(VALKYRIE PROFILE-LENNETE-)
ttp://www.youtube.com/watch?v=DnsLeU8Hsk8

○捨てるもの、取り戻すもの
Bullet Dance(BLAZBLUE)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm16855808

※雨が降り始めた辺りは出来れば無音で聞いていただけるとありがたいです。


第三十一話『雨』

ある日、少女は約束した。

「あなたのためのご飯を作りたい」と。

少女は想いを寄せる少年の、屈託ない了承の笑みに心をときめかせた。

彼女の心にかかる不安の雲を散らす、太陽のような笑顔だった。

 

そして少女は力という翼を得て、笑顔に逢うために彼の地から飛び立った。

その姿はまるで、苦難の旅路を一羽で飛ぶ鳥のよう。

ただひたすらに運命という嵐の中を突き進み、止まり木に止まって羽を休めることさえ惜しんで、かつての日の当たる“あの場所”を目指して翼を動かす小さな渡り鳥。

降りしきる雨と、吹き荒ぶ風の中を、渡り鳥はただがむしゃらに飛び続ける。

 

 

もはやどこを飛んでいるのかさえ、分からなくなっているとしても……

 

 

――――

 

第一アリーナ中空。

正面から武器を手にとって激突した真行寺修夜と凰鈴音は、その一合から戦い方を接近戦に発展させていた。

修夜の操る実体振動剣(ストライク・ファング)と、鈴の操る青龍刀・双天牙月(そうてんがげつ)が、絶え間なくぶつかり合いながら鋭い音をアリーナ中に響かせる。

(さすがに代表候補は、伊達や酔狂じゃねえな……!)

二合、三合、四合と、ぶつかっては離れてを繰り返し、幾重にも剣閃を重ねていく二人。

時代劇のチャンバラシーンでも、こんなに激しく切り結んだりはしない。

それが成立するのは、修夜と鈴の奇しくも似通った精神構造が成せる、先読みの一致による奇妙な凌ぎ合いだからだ。

純然な生身での剣術なら、修夜にすぐさま軍配が上がるだろう。

だがこれはISによる戦いであり、その意味では鈴に一日の長がある。

まして、短期で猛烈な数の戦いを勝ち抜いてきたであろう彼女の腕前は、修夜の感じるところで自分と限りなく五分に近かった。

もう七度目の競り合いを交わし、また間合いを取って離れる両者。

(それにしても、荒っぽい太刀捌きしてやがんな、鈴のヤツ……)

古今東西、芸や学とは常に“かたちから入る”ものである。武術も“型”という動きの基本を仕込んで、はじめてまともな戦い方が出来るようになる。

修夜は白夜の鬼のシゴキで完璧な型を仕込まれているが、おそらく鈴は基本的な型もそこそこで実践を積んできたのだろう。一見して完成しているように見えても、修夜にはところどころの余計な力みや、ぎこちなさが見えていた。

そんな未完成の剣で達人級の修夜に迫っているのだから、鈴の武の才もかなりのものである。

(粗いけど変な無駄は少ないし、剣閃も鋭い。戦いの中で鍛えた“実戦剣術”ってところか…!)

粗く未完成だが、繰り出される一振り一振りは獲物を捕らえんとする獣の爪のように、必中の意思を持って的確に放たれている。

何より今の鈴は、殺意にも似た鬼気に満ち満ちている。その緊張感が、技の粗さを補う棘付きの防壁として、また敏感なセンサーしても働き、修夜の攻撃を牽制したり察知したりしているのだ。

(なら今は、アイツに合わせて剣を振るのみ……!)

壁が邪魔なら、その壁の隙間や薄い場所を突いて崩すしかない。そのためには鈴の剣に合わせて、彼女の太刀筋を見極める必要がある。見極めるならば、相手の攻撃のリズムやパターンを知る必要がある。

距離を取りながらアリーナの中空を周回する中、再度鈴が正面からぶつかってきた。

それに合わせて修夜も鈴へと迫り、両者は八度目の競り合いをはじめる。

鈴は二刀による絶え間ない猛撃で、修夜を激しく攻め立てる。一方の修夜は、実体振動剣の一刀だけで器用に勢いを逃がしながら、鈴の嵐のような攻撃をしのいでみせる。

現状は鈴が完全に攻め手に回り、修夜は防戦一方という状態だ。

「どうしたの、さっさと攻めてきなさいよっ!」

攻撃の手を休めることなく、鈴は修夜に挑発の言葉を浴びせる。

「そういうお前もっ……、二刀流で剣一本に苦戦してんじゃねぇよっ……!」

鈴からの挑発に、修夜もへらず口で応戦しながら攻撃を捌く。

捌いてはいるが、正直そろそろ攻めのきっかけが欲しいのも本音ではある。

そして鈴も、始まって以降のこの膠着状態に不満が募ってきたらしい。

「だったら……、これでどう!?」

「!!」

一声とともに、鈴の攻撃がさらに加速し、剣閃の密度を上げてきた。動きの方も体を前を向けて剣を振るだけでなく、体に回転や捻りを加えることで一撃の威力を底上げし、単調だったリズムに変則性を加えている。

(くそっ、さすがにコイツはまずい……!)

なんとか耐え忍びつつも、さすがの修夜も暴風のような攻撃に本格的に押されはじめる。

攻撃の重さに押され、徐々に腕に疲労がたまり、自分のリズムが微妙に狂っていく。

「でぇいっ!!」

そのわずかな隙をついて、鈴は今までで一番大きな攻撃を振り抜いた。

二刀双閃。平行に並んだ青龍刀が、修夜を真横に薙ぎ払おうとする。

(ここだ!)

これを好機とみて修夜は、敢えてその一撃をまともに防御し、攻撃の反動を利用してそのまま吹き飛ばされることを選んだ。

距離を取って体勢を立て直すために、鈴の一撃をわざと受けたのである。

飛ばされた修夜は、ある程度の間合いが開いたことを察すると、すぐさまスラスターを吹かして体勢を立て直し、鈴に向き直る。

「どう、これで少しは分かったでしょ!」

体勢を直した修夜を睨みつけて、鈴は決然と言い放つ。

自分の実力が修夜の強さに対抗できることを、鈴は修夜に突き付けてみせた気分だった。

「……あぁ、確かにな。代表候補生になっただけあって、半端じゃないのはよく分かった」

実際のところ、修夜も鈴の実力が想定以上に高かったことに、内心驚いていた。

以前戦ったセシリアは、磨き抜かれた繊細かつ大胆な戦法で修夜を翻弄して見せた。しかし鈴はそれとは真逆の、とにかく勢いで畳みかける荒々しい戦い方であり、それを我流で実戦向きに磨いたパワーファイトだ。

しかも一年という短期で昇華させたのだから恐れ入る。

「だから――、俺もそろそろ【マジで】いかせてもらうぜ」

強気なまなざしを宣言とともにより強くし、修夜は右手に握った実体振動剣を左手に持ち替え、空いた右手を横に伸ばす。

「シルフィー、レーザーブレード(デュアルクロー)だ!」

《了解だよ、マスター!》

訝しげに鈴が見つめる中、修夜は右手に【黄昏色のフレーム】を持ったレーザーブレードを顕現させ、掴み取る。

「……剣が一本増えたから、何なワケ?」

呆れ気味な声と視線を送る鈴に構うことなく、修夜は再び口を開いた。

「何もお前ばっかりが、二刀流じゃねぇんだよ。俺の四詠桜花流(しえいおうかりゅう)剣術もな、“二刀でこそ真髄を発揮する”剣技なんだよ」

右手のブレードが起動し、青白い光の刃を形成する。

修夜はそこからゆっくりと右手を脇に、左手を下段に構えて鈴を睨み返す。

「見せてやるよ、鈴。魑魅魍魎と摩訶不思議に抗うべく、人が人の限界を突破するために編み出した古代剣術の、本当の姿をな……!」

場を支配していた鈴の覇気に、修夜の放つ冴えた闘志が混ざり合っていく。

それに合わせるかのように、風の向きも修夜に対して追い風の方向となる。

少年剣士を包む雰囲気が、一気に様変わりしはじめる。

次の瞬間、修夜は左腕を右肩に挙げ、二つの刃を袈裟切りに振り抜いた。

「!?」

鈴は修夜の動作を見た瞬間、本能的に二刀を前方に構えて防御態勢になる。すると本来なら届くわけがない剣閃が、まるで間合いを無視して“飛んで”きたような衝撃となって、鈴の青龍刀を強く震わせた。

「なっ……」

突然の怪奇現象に戸惑う鈴に対し、その隙を逃さず修夜は突撃を仕掛ける。

(速いっ……!?)

そして今度は修夜が二刀での猛攻撃を開始する。

繰り出される一振一閃は、薄く鋭く研ぎ澄まされており、少女の剣とはまるきり真逆だった。

何より一撃の速度が尋常ではなく速く、そのうえ無駄に感じるものが一切ない。

力み、緩み、焦り、気遅れ……、剣を鈍らせるものが感じられず、どこまでも澄みきっている。

押していたはずの関係が、じりじりと平行に直され、修夜の方へと傾きはじめる。

「いい加減に……しなさいよっ!!」

焦った鈴は、とっさに空間圧縮砲「龍砲」を解放し、拡散モードで撃ち放つ。

空気を叩く轟音とともに修夜と距離をおくと、すかさず鈴は龍砲を連射モードに切り替えて牽制をはじめる。

「シルフィー、二挺マシンガン(ピアスクロー)!」

《任せて!》

修夜も最初の一撃を避けると、両手の剣を拡張領域(バススロット)に引っ込め、銃身の短い二挺の【青いフレーム】のサブマシンガンに繰り変えて、銃撃戦に転換する。

互いが互いの火線を読み合いながら、もつれ合うように弾丸が宙を飛び交う。

 

形勢は徐々に、五分になりはじめていた。

 

――――

 

第一アリーナ観客席。

 

空中での激しい攻防とは対照的に、観客席には奇妙な静けさが広がっていた。

「開始五分で、あれかよ……」

観客席のモニター正面の座席で、織斑一夏は二人の壮絶な鍔迫り合いに圧倒されていた。

一夏だけではない。客席でこの試合を観戦している者たちの多くが、一夏と同じ心境で試合展開に息を呑んでいた。

ドラマやゲーム、プロの格闘戦でも、IS同士のこんなに壮絶な競り合いはお目にかかれない。

それを今、自分を目の前で展開され、アリーナ中の観客たちが見入っているのだ。

「本国でも、あんな無茶な戦い方をされる方は、見たことがありませんわ……」

この中で一番ISの操縦歴の長いセシリア・オルコットでさえ、ISでの戦いではこれほどの剣と剣による激しいせめぎ合いは、そう見たことが無いらしい。

「そうなのか? セシリアの剣技は確かフェンシングのような動きだが」

篠乃之箒はセシリアの発言に、何気ない疑問を抱いた。

箒の言うように、フェンシングという剣術は非常に鍔迫り合いの激しい戦い方をする。

一旦お互いが間合いに入れば、有効打を狙って激しく剣を交えてしのぎを削るのだ。

「フェンシングでも常に間合いを取りつつ、隙をついて飛びこむものですわ」

「……そうか、それなら剣道とあまり差はないものだな」

武術にとって間合いは生命線である。

互いの獲物の長さ、重さ、攻撃箇所の大きさ、体躯、四肢の長さなど、諸々の要素から攻撃の届く範囲と早さを予測し、自分の身の安全を確保しながらも、相手に一撃を届かせる間隔を測る。それが間合い取りである。

いかに自分の得意な間合いに相手を寄せるか、実力が拮抗しているなら、間合いの読み方一つで勝負が決まることもあるのだ。

「そもそもISの戦闘は、本来は銃撃戦が主体の持久戦か、格闘戦でしたら読み合いと一撃必中の押収というのが普通ですもの。これほどまでに、お互いが接近し合ったまま剣をぶつける戦い方というのは、セオリーではありませんわ」

修夜と鈴の競り合いは、本来のISの戦闘、ひいては武術として見ても不合理と言えるのだ。

密着したままの攻撃の押収は、互いの体力をすり減らし、呼吸の乱れを誘う。そうなると特に競り合いに応じる側は、自分のリズムを作れずに圧迫され、同時に仕掛けた方も長期戦へ向けての体力がなくなる。

何より密着し過ぎると攻撃に勢いが付きにくく、威力の大きい一撃を繰り出しにくいのだ。

「むしろ、あれだけの数の攻撃を、お互いがほぼ完全に読み切っているというのが驚きだ」

剣道歴の長い箒にも、戦況の異様さは充分に伝わっていた。

「……たぶん、似た者同士だから……だろうな」

「……え?」

剣道少女の疑問に、二人の幼馴染である少年は私見を口にする。

「修夜も鈴も、基本意地っ張りで気が強いからさ。そのクセ他人のことは放っておかないし、何に対しても一生懸命になるからさ……。お互いに考え方が似通ってるから、直感でわかっちゃうんだと思う」

七度目の競り合いを見守りながら、一夏は独り語りのように言葉を紡ぐ。

修夜と鈴が似た者同士なのは、誰よりも近くで二人を見続けてきた一夏が最も知るところである。息をするようにケンカをはじめる修夜と鈴に割って入り、仲裁するが一夏のいつもの仕事であり、一夏もまた二人の在り方を深く理解していた。

だからこそ余計に、今繰り広げられているこの戦いの様相に、一種の違和感を感じてもいる。

「でもなんというか、今の鈴の戦い方は、アイツらしくないっていうか……さ…」

「らしくない……?」

「うん……、なんか無人機のときと比べて……怖いっていうか……」

箒の問いに、一夏はいつもながらの直感で答える。

いつもならここで「はっきりしろ」と誰かしら一夏に問いただすが、この場においては誰しもが一夏の答えに自然と納得していた。

特にセシリアに至っては、その戦い方に既視感を感じてさえいた。

(……本当に、ひと月前のわたくしとそっくりですわ)

代表候補生にとって、敗北は自身の立場を追い詰める忌むべき不安材料である。負けが込んでしまうと、最悪の場合は代表候補から外され、本国から強制帰還命令が下ることさえある。それはIS操縦者の競争からふるい落とされることであり、その挫折は信頼の失墜につながり、IS操縦者としての道が絶たれることを意味する。

かくいうこの英国代表候補生も、自身の家と両親の尊厳を守るためにその道を歩み、常に自分を追い詰めながら学園への主席入学をもぎ取った少女である。かつての彼女にとって、一度の敗北は万死に値する恥辱であり、守るべきものを守る道を絶たれることそのものだった。

クラス代表決定戦で少女が修夜に見せた鬼気迫る戦いぶりは、まさにこうした強迫観念にも近い使命感に突き動かされたがためである。

それをセシリアは、修夜と刃を交える代表候補生に対し、重ね合わせずにはいらなかった。

「凰が仕掛けた……!」

思わず箒は声を上げる。

八度目の競り合いで、焦れた鈴が修夜にさらなる猛攻を仕掛けたのだ。

「うわ……、さっきよりも速いし攻撃も重そう……!?」

体のバネを利用した鈴の激しい攻撃に、一夏は自分が受けたときを想像して顔を引きつらせる。

次の瞬間、修夜が鈴の痛打で大きく弾き飛ばされる。

「修夜!」

「大丈夫です箒さん。今のは剣でガードして、わざと受けたように見えましたわ!」

修夜の身を案じて叫んだ箒に、セシリアは鋭い洞察力で修夜の行動を見抜き、彼女を落ち着かせようとする。

「え、今のわざとなのか?」

「……分かりませんが、おそらくは凰さんの攻撃から、離れるためなのではないかと」

一夏の問いにセシリアは静かに答える。

修夜の方は鈴と向き合い、何やら会話を交わしているようだ。

そして会話のさなか、修夜はシルフィーの名を大きな声で呼び、右手を空けてかざした。

出てきたのは――

「え……」

「レーザー…ブレード……?」

二人の少女は思わず目を見張った。

普段から修夜と訓練を共にする一同は、修夜がエアリオルをゼファーフォームの状態で、レーザーブレードを使ったのを見たことがなかった。見たことがないだけならまだしも、そのレーザーブレードのフレームはどこかで見た【黄昏色】をしていたのだ。

「あのブレード、この前のブラストフォームの装甲の色と同じだ」

一夏が言うように、その黄昏色は“斬奸突撃の烈風”こと、『エアリオル=ブラスト』フォームのフレームと同色に見える。

だが驚いたのはこれだけではなかった。

上空の修夜は二本の刃を袈裟斬りに振り抜いた寸の間のあと、鈴が弾かれたように構えた青龍刀を震わせた。さらにその隙をついて、修夜が華麗な猛撃を繰り出す。

「凰の剣が……震えた……!」

「えっ、今のは一体……!?」

目をさらに丸くする箒とセシリアだが、一夏は今の一連の現象に見覚えがあった。

「修夜のヤツ、完全に本気モードだな」

「一夏さん、今のに見覚えが……」

セシリアが一夏に問いかけようとしたと同時に、今度は空中で大きな炸裂音が生じる。音のあとに、今度は両者とも武器を切り替えて者下船へと突入していた。

そこでも三人は、修夜が【青いフレームのサブマシンガン】を、二挺同時に使用していることに気がつく。

「あのマシンガンは……!」

〔『エアリオル=ソニック』の二挺サブマシンガン「ピアスクロー」だよ〕

箒が声を発すると同時に、この場にいないはずの人間の声が、三人の近くから聞こえてきた。

声のする方を三人が同時に探ると、そこには携行用コンソールを使って、Bモニタールームにいる相沢拓海とモニター越しに通信する布仏本音の姿があった。

「たくみ~ん、なんでしゅうやんは『ソニック』の武装を、いつもの『ゼファー』で使ってるのん~?」

本音いつもののんびりとしたしゃべりで、拓海に現状を確認する。

〔今回は『ゼファー』の“元々の良さ”を活かすためのアセンブルにしてみたんだ。

 ゼファーに『ソニック』と『ブラスト』の武装をいくつか選出したうえで搭載して、追加で突撃用推進機(アタックブースター)を取り付けているんだよ〕

「エアリオル=ゼファー」は実体振動剣と、専用のアサルトライフル『ハウリング=アヘッド』、そしてビームシールドを展開する自立ユニット『メインシェル』のみで構成されており、かなりシンプルといえる。

そのシンプルさゆえに、戦闘に必要な最低限の武力しかなく、何の特色もないがために、機体の強さは操縦者の技量にすべて反映されることになる。

だがこの白亜の獅子も、何の理由もなく身軽に出来ている訳ではない。

〔そもそも『ゼファー』は、後付装備(イコライザ)による調整を前提とした、いわば“普通のIS”としてのエアリオルの形態なんだよ〕

エアリオルは機体の武装も装甲も、機能や特質さえも全部ががらりと変わる、『ASBLシステム』と呼ばれる驚異の瞬間換装機能を有している。

これは平たく言えば、元から数機分のISの装甲と武装を拡張領域に搭載し、それらを特殊なプログラムを用いて装甲同士と武装同士をデータ連動で接続させておき、その接続に対応している装甲と武装を瞬時に換装させているのだ。

いわば装甲と武装の“早着替え”ともいえる機能である。

そして装甲と武装の転換を終えたエアリオルは、個々の形態に応じて特化した性能を持つ。

逆にいえば、どの形態も何かに特化し過ぎて、どこかしらに穴があり、柔軟性に欠ける部分を持っているのだ。

〔『エアリオル=ゼファー』は、敢えて言うなら【柔軟性特化の汎用機】ってところだね。

 何か突出してすごい部分はないけれど、取り付ける武装次第でいくらでもその性能を変化させることが出来るんだ〕

ゼファーの装甲の“白”とは、何色にも染まらない色であり、同時に【何色にも染まる】ことの出来る色でもある。

この機体の特性を表すには、まさにうってつけの配色なのだ。

〔もっとも『ブラスト』の修復が終わっていれば、そっちで行く予定だったけどね〕

「エアリオル=ブラスト」は近接特化の格闘戦形態であり、機体コンセプトの類似する甲龍(シェンロン)とぶつかるには、最も相性の良い形態でもある。しかし先日の無人機戦で、ブラストは右足に大きなダメージを負ってしまい、結果として今日の鈴との試合にはわずかに間に合わなかった。

そこでこの蒼羽技研主任は、汎用性の高いゼファーに接近戦向けの他形態の武装を搭載し、即興で近接戦用ISに仕立てたというのだ。

「それでは、先ほど修夜さんが呼び出し(コール)したレーザーブレードは……」

〔ブラストが本来脚部に格納している、格闘戦用のブレード「デュアルクロー」だね〕

セシリアの疑問に拓海は明快に答える。

〔ほかにも、今使っているのが『ソニック』の二挺マシンガン「ピアスクロー」。無人機戦でも牽制のために使っていたはずだよ〕

拓海の解説するなかで、修夜と鈴はフィールドの中空を縦横無尽に駆け巡り、銃弾と衝撃砲のエネルギーが空間に断続的な直線を描き続けていた。

よく見れば、修夜が鈴を追いかけ、鈴がそれを牽制しながら突き離しているようにも見える。まるで今の二人の関係そのものだ。

「……なぁ、拓海はこの試合、どうなったらいいと思う?」

空中でいたちごっこを演じる二人を見ながら、箒は不意に拓海に問うてみた。

〔……エアリオルの開発者としては、もちろん修夜に勝って欲しい。長年の相棒としてもね〕

ISの開発者として、修夜の最も古い縁者として、至極当然の回答である。

〔だけどそれ以上に――〕

そんな前置きののち、

〔修夜がどこまで鈴から“真実”を引き出すことが出来るか、一番の問題はそこだよ〕

はっきりとそう言いきった。

「真実……?」

一夏が訝しげな顔で拓海に訊き返す。

 

〔実を言うと、中国という国のIS事情は、異常な競争率と国家教導による方針下で、かなり荒んだ状態にあるらしいんだよ〕

 

一同に戦慄が走った。

〔簡単に説明すると、より優秀なIS操縦者を発掘するために、幼少期から英才教育を施したり、国民全体にIS適性検査を義務付けたり、養成機関を施設してより優秀なエリート操縦者を育成したり……。とくにかく国全体で、ISに対する執着が極めて強いらしい〕

ISによる女尊男卑の時代とはいえ、女性もISに乗るか否かは当人の自由に任されている。

それはISの運用を定めた「アラスカ条約」にも明文化されており、『権力者が政治的な力を背景にIS適性検査の義務化や、国際IS委員会の承認した養成施設以外でのISに関する教練は、基本的に規約違反として厳罰に処される』となっている。

〔僕の方で掴んだ情報だと、どうやら鈴も中国国内での異様な空気の中で、相当厳しい競争を勝ち抜いてきたみたいなんだ。そもそも彼女のIS適性は文句なしの『A判定』だ、そんな逸材を国が放っておくわけがないだろうからね……〕

拓海の語る生々しい事実に、四人はただ愕然としていた。

同時に事実の異常性も、否応(いやおう)なしに感じ取ることが出来た。

国中がIS一色に染まり、才能あるものは操縦者となることを暗黙の内に強いられ、その上でさらにふるいに掛けられていく。そこにあるのは貪欲なまでの野心と生存本能であり、中国という国がISに傾ける執着心そのものであった。

〔ただ、ね……〕

ここで拓海の発する声に変化が起きる。

〔それにしては、あの鈴の頑なさはどこかおかしい気がするんだ。あくまで、僕個人の“直感”なんだけど……〕

拓海もまた、鈴とは古い付き合いであり、鈴がどんな少女なのかはよく知っている。

だからこそ、単に本国の異常な空気にさらされただけで、一年足らずで人格に歪みが出るほど、少女が弱くはないことも承知している。

「つまり……りんりんは、何か私たちに【隠しごと】してる、ってこと?」

〔まあ、端的に言ってしまえばね〕

尋ねる本音と頷く拓海の後ろで、一夏たちは新たの事実の登場に静かに驚いた。

「ようするに、修夜が凰と戦うことで、凰の内側に溜めているもの吐き出させようと……?」

〔無茶苦茶な論法だけど、多分あの二人だからこそ出来る方法だよ〕

驚きながらも尋ねる箒に「是」としながら、拓海は言葉を続けた。

〔修夜の一番の魅力はね、“やるときは常に全力なところ”なんだよ。

 全力でぶつかっていくからこそ、相手にもベストを尽くさせる。それが最終的に、思いもしない結末を導き出すことさえあるからね〕

親友を超えた“家族”だからこそ、確信をもって言える言葉だった。

そこにいた全員が、拓海の言葉の意味するところを思い起こし、不思議な説得力を感じていた。

特に強く得心したのは、他ならぬセシリアだった。

かつて自分が彼と戦ったとき、彼の見せた全力が自分の心の底に眠っていた“純粋な思い”を呼び覚まし、その結果が今ここにいる自分を生み出している。

「信じていらっしゃるのですね、修夜さんのこと」

自然と笑顔になりながら、セシリアは拓海に言葉をかけた。

〔もちろんだよ。なにせ僕の“家族”で、一番の【相棒】だからね〕

セシリアの笑顔に応えるように、拓海も自信に満ちた笑みで返答する。

そんなときだった。

 

 

――ぽつり

 

 

一夏の額を、一滴の水がかすめて落ちていく。

それを合図にして、水滴は次々へと灰色の空から零れ落ち、第一アリーナ全体を湿らせていく。

 

「雨だ」

 

誰ともなくそう口にしはじめる。

雫は数秒に一滴ほどだったが、間もなくして小雨となった。

 

『雨天となりました。雨をよけるために屋根を稼働させます。

 最前列の通路にいる方は、万一のために座席にお座りいただくか、後ろにお下がりください』

 

アリーナ中にアナウンスが響くと、耐衝撃用シェルターと兼用のアリーナの屋根がゆっくりと降りてくる。そして座席全体を覆うと、内部を照明で照らし、屋根の裏一面にフィールドの状況を映し出した。

最新科学による超大型の中空電子画面により、まるで先ほどと変わらない風景が、シェルターとなった屋根の内側に広がった。

「ひぇーっ、すっげえなぁコレ……!」

〔普段じゃなかなかお目にかかれれない機能だからね〕

IS学園に結集された科学力に驚く一夏を見て、他の面々はどこかほっとした気分となった。

「拓海、この試合はこの先どうなるんだ?」

ISの試合でも、雨天時は状況に応じて試合続行の可否が左右されやすい。

小雨程度で終われば続行することが多いが、大雨の場合は中止となる。特に雷雨や暴風雨は、操縦者自身の安全に係わるため、即刻で中止の判断が下るのだ。

〔現在の雨雲の様子から見て、雨脚は強まりそうだけど、中止するほどではないと思うよ〕

雨の中の試合。

それは一年生はおろか、上級生でもそう経験する試合ではない。

雨程度はISにとって何の障害にもなり得ないが、それを操る人間側には様々な影響が出る。

古今東西、雨天下の戦いには、往々にして“魔物が棲む”とされてきた。

人間も生物である以上、天候による小さな変調に、無意識の内に影響されているものである。気温の低下、湿度の上昇、空気の変容、気圧の変化など、そうした環境は体を通じて精神に及び、心のありように振れていく。

〔……というか、僕個人としては、このまま試合を続行してもらいたいんだよ〕

「どういう、ことですか……?」

ここで拓海が珍しく、自発的に自分の願望を口にした。対してセシリアが疑問を呈する。

〔もちろん、雨天時のデータを取りたいのもあるけど、それ以上に【賭けている】んだよ〕

「賭ける……?」

堅実そうな拓海自身から出た意外な言葉に、箒もその意味を訊く。

「賭けるって、しゅうやんが勝ってりんりんが素直になること?」

本音もまた、今までの話から推察して拓海の答えを読んでみる。

〔修夜については当然だけど、それ以上に――〕

拓海が最も信頼する修夜を差し置いて、それ以上の可能性を見出したもの、それが……

 

〔試してみたいんだ、この“雨の魔法”っていうのを〕

 

拓海は雨が降ると想定した時点で、この先の展開を見据える構えをしていた。

修夜と鈴の戦いが、期待通りの展開になる可能性を、拓海はあまり高くないと見積もっていた。鈴の現状の性格では、溜めているであろうものすべて吐き出させるには、いささか強情すぎると踏んだのだ。

より強固にするための要素は、本来ならば一夏に担わせるのが適当なのだろうが、残念ながら一対一の戦いである以上、無茶である。

ならば他の要素と考えたとき、最年少主任は雨という天候の持つ“魔力”に賭ようと決断した。

〔非科学的だろうけど、天気が人に及ぼす影響は意外と大きいからね。

 修夜の全力と雨の魔法、これが僕の導き出した最善策だよ〕

拓海の眼には、いつになく強い輝きが宿っていた。

 

――――

 

第一アリーナ中空。

大気が湿度を上げていく中で、二機のISの戦いの熱も上昇し続けていた。

鈴の最初の一発から既に5分以上が経過し、互いのシールドバリアーを掠めながらの地味な削り合いが続いている。

出来るだけ無駄弾を撃たないように気を配る修夜だが、鈴の方は追いかける修夜を牽制するために、とにかく衝撃エネルギーの弾丸をばら撒き続けてくる。

(くそっ、鈴のヤツ、こっちの弾切れを待ってやがるな……!)

龍砲をはじめ、空間圧縮砲の最大の利点は“弾切れ”と呼べる状況がないことである。

空間圧縮砲は、空間の壁を歪める負荷で生まれるエネルギーから弾丸を生成し、さらにその歪みが元に戻るエネルギーで弾丸を発射する武装である。機体エネルギーの残量と、砲本体の酷使による熱暴走さえ気を配れば、弾数の制限はないに等しいのだ。

反面、一発撃ち終わると、次を撃つための砲本体の冷却や、エネルギーの充填に時間が掛かるという欠点もある。だが格闘戦の得意な鈴にとってそれは大した隙にならず、また彼女の機体には短距離加速《クイック・ブースト》という、機動力を底上げする機能が追加されている。

よって鈴と正面から下手に撃ち合うと、最悪の場合は一発も掠らずに、こちらだけが弾切れにされてしまうのだ。

《マスター、「ピアスクロー」の残弾六十パーセントが切ったよ……!》

「……ったく鈴のヤツ、思ったより上手く避けてやがるな」

突撃用推進機があるお陰で鈴に食らいついてはいるが、先の接近戦で無暗に懐に入れるのは危険と判断されてか、逃げに徹せられてしまった感がある。

(正しい判断だけど……、何か気に食わないやり方だな)

無茶な話しだというのは、内心で愚痴っている修夜も分かっている。それでも修夜にとって、鈴の性格から連想する戦い方は、今の戦い方とは少しかけ離れていた。

修夜の知る鈴という少女は、何事も正面から挑んでいく強気な性格をしている。それこそ先ほどの競り合いのように、ガンガン押していく戦い方のほうが“らしい”のである。

ところが競り合いから銃撃戦に移ると、今度は一向にこちらに突っ込んでくる気配がない。それどころか攻めようと追えば、立ちどころに逃げてしまうだ。

(少なくとも無人機戦じゃ、こんな及び腰な戦い方はしてなかったけどな)

無人機相手の鈴は、龍砲で気を引きながら突撃し、格闘戦に持ち込むスタイルを多用していた。修夜としては、むしろそっちの戦いをしてくるものと考えていたのだ。

(来いよ鈴、その程度じゃないだろ……!)

空中で熱を上げていく“弾丸の舞踏”とは裏腹に、修夜の闘志は徐々に熱を失い、別のものが次第に首をもたげてくる。

(もっといつもみたいに、正面からかかってこいよ!)

それが傍らでサポートするシルフィーには、なんとなく察しが付いていた。

(……なんだか、マスターがイライラしてる)

修夜と長く触れ合ってきたシルフィーには、自分の主人の機嫌ぐらいは聞かずともある程度の理解が出来た。それが修夜の鈴に対する“無意識のこだわり”であることも、ぼんやりと察しが付いている。

(この前もその前も、今も。なんだかんだ言って心配してるんだよね、あの子のこと)

サポートに集中すべきなのは分かっているが、電子の妖精は自分の主人の“人の善さ”を、再確認せずにはいられなかった。

(……まさか、この前みたいにならないよね?)

一抹の不安がよぎった、そのときだった。

 

 

――ぽつっ

 

 

エアリオルのシールドバリアーに、弾丸とは違うものが掠めるのを、シルフィーは感知する。

(今の、って……)

龍砲からの砲撃を掻い潜る修夜のサポートと並列して、電子の妖精はハイパーセンサーの一部分を第一アリーナ上空に向ける。

(間違いない、来る――!)

妖精は上空からの第三者の介入を、いち早く察知した。

 

――ぽつり

 

――ぽつ、ぽつ

 

――ぱら、ぱらり

 

シルフィーが察知して間もなく、天からは無数の雨粒が降り注ぎはじめる。

やがて辺りは小雨となり、修夜と鈴はその変化に自然と体の動きを止めていた。

「とうとう振ってきやがったか……」

大方の予想が付いていた修夜に、さしたる驚きはなかった。

《マスター、耐水フィールドと眼前電子画面(バイザービューア)を用意するね》

そういうと数秒後に、シールドバリアーが一瞬だけ擦りガラスの用に曇ると、次には修夜の目を覆うように小型の中空電子画面が出現する。

外から見ると透明ない球体が、修夜をすっぽりと包んでいるように見えている。

「蒼羽技研での人工雨の実験が、もう役に立つとはな」

修夜の目を覆う画面は、シールドバリアーを伝う雨を視界から外し、操縦者により快適な操縦をおこなわせるための機能である。

そして耐水フィールドは、ISのシールドバリアーが雨に反応して、余計な機能を働かせないようにするための防御策の一つである。

小雨程度はISにとってさしたる苦難ではないものの、相手は機械や電子の天敵の水である。万全を期したISのシールドバリアーであっても、何かしらの拍子に予期せぬ事態が起きないとも限らないのだ。

実際に大雨の中で耐水フィールドなしでの戦闘実験をおこない、雨粒の二十パーセントがシールドバリアーを通過し、シールドエネルギーの消耗が普段以上に激しくなった例が、世界で十数件ほど報告されている。

修夜の画面越しには、Aモニタールームからの指示を得ながら、こちらと同じ作業をする鈴の姿があった。

しばらくすると、鈴の方もシールドバリアーが一瞬だけ曇り、それが晴れると目の周りを眼前電子画面が覆っていた。

周囲では場内アナウンスが鳴り響き、アリーナがその屋根を次々と下ろしていく。

そうして白い環状のチューブの真ん中で、二機の機影が雨に打たれるという、少しばかり殺風景な光景が出来上がったのだった。

〔修夜、聞こえるかい?〕

Bモニタールームから、開放回線(オープン・チャンネル)で拓海が通信を入れてきた。

「どうした拓海?」

〔とりあえず、現状なら試合は続行ってことを、一応伝えておこうと思ってね〕

一応の報告として、拓海は修夜に試合継続の一報を伝える。

「……まぁ、この程度の雨で中止にされちゃあ、こっちも気が滅入るな」

思ってもいないことを口にすると、「どうせ止めても続けそうだ」と親友から的確なツッコミが入れられ、修夜は思わず閉口する。

〔とりあえず、調子は良さそうだね〕

「あぁ、今回も助かってるよ。ありがとうな」

〔蒼羽技研の名前を背負っている以上、一分(いちぶ)たりとも仕事に気は抜けないさ〕

顔はいつもの爽やかな笑みだが、その声は自信と責任感に満ちていた。

「さて、悪いけどおしゃべりもそろそろ打ち切るか、試合時間が惜しいしな」

〔一応、試合時間のタイマーは止めてあるから、そっちのタイミングに任せるよ〕

見れば、メインモニターのタイマーは時を止めており、試合再開の一瞬を待っている。

〔じゃあ、頑張って来てくれよ〕

「おう」

お互いに声を掛け合うと、拓海は通信を終了させ、修夜も戦うべき相手に焦点を合わせる。

「聞こえるか、鈴」

修夜は再び開放回線で、鈴にコンタクトを図る。

だが通信する画面の前の鈴は、俯き加減でだんまりを決め込んでいた。

それを見てため息をつく修夜だが、めげずに声をかけ続ける。

「聞いているとは思うけど、試合再開だ。そろそろお互いに、本格的にやろうじゃねぇか」

その呼びかけにも、やはり返答はない。

「……ひとつ訊くぞ、さっきからのチキンプレイは何のつもりだ?」

この一言で、わずかに鈴の口角がさらに下がった。

「最初はアレだけガンガン攻めて来ておいて、いざ自分に不利となったら今度はひたすら逃げ回るだけ……。最初の威勢はどうした?」

「……うるさい、人の戦い方に口出さないで」

ここに来て、鈴から反論が返ってくる。

「まぁ、戦術としては正解だよ。やり方は間違っちゃいない。でもな……」

前置きしながら一拍置いた後に、

 

「違うだろ、お前は。俺の知る凰鈴音はな、あの場面でも強気に前に出て剣を交えようとする、そういうヤツだ!」

 

はっきりと言い放った。

この言葉に、鈴は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、修夜ら睨んだ。

「……もう、いないのよ」

今度は鈴が呟いた。

「アンタの知っている、泣き虫で弱虫で意地っ張り“だけ”のあたしは、もういない……!」

その言葉には、自分に暗示をかけようと、自律の意思が隠れているように聞こえた。

「あたしは変わったの、もう誰にも負けない“強い存在”になったのよ!」

今度は強くはっきりと、少女は自分の意思を示す。

少年はただ、自分を睨みつける少女の視線を、正面から受け止めていた。

「……そうか、わかったよ」

修夜がまた口を開く。

「なら思い出させてやるさ、お前が向こうで忘れたもの、全部をな」

言い放つと、再び実体振動剣とレーザーブレードを構え、再戦の態勢入る。

鈴もまた、双天牙月を構え直して修夜と向かい合う。

 

『これより試合を再開します。五秒前、四、三、二、一……』

 

アナウンスとともに、雨が沈めた試合の熱が再び上昇しはじめる。

 

『試合、再開です!』

 

ブザーとともに、修夜は鈴に向かって突撃していった。

 




はい、本日の更新となります。
流れが決まったから、ある程度はやく更新できるようにはなったが、まだまだ終わりが見えない(汗
と言うか、話数的にセッシー編超えてるからなぁ……そろそろ終わりを目指さないと。

さて、今回から鈴の過去の一端が語られましたが、まだまだ彼女自身何かを隠している様子。
原作では語られない、中国にいた頃の鈴の過去……それが一体なんなのかは、こちらなりに精一杯書いて行きます。

ではでは、また次回に
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