なかなか死なない男が異世界に来るそうですよ? 作:みっちみちり
森を抜け歩く事約20分。箱庭と呼ばれる都市の外壁に辿り着いた。十六夜はどっかに行ったが面倒なので放っておく事にした。
「ジン坊っちゃ~ん!!新しい方を連れて参りましたよ~!」
近づいて来る黒ウサギに笑顔を向ける少年は後ろにいる3人を見ると、恐らく長い間待っていたのだろう。待っていましたと言わんばかりに声を掛けた。
「お帰り黒ウサギ。そちらの女性二人と男性が?」
「はい!こちらの御四人様が……」
クルリと後ろを振り向いた黒ウサギはそこにいるはずの存在が見当たらず、カチンと固まった。
「………え……?あれ?私の記憶に間違いが無ければもう1人いませんでしたっけ?
ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から【俺問題児!】っ てオーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君の事? 彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”とか言って駆け出して行ったわよ?」
あっちの方にと指差す先は空に放り出された際、上空4000mから見えた断崖絶壁である。
「何で止めてくれなかったんですか!」
「止めてくれるなよ、と言われたもの」
「どうして黒ウサギに知らせてくれなかったんですか!」
「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」
「う、嘘です! 絶対嘘です! 実は面倒臭かっただけでしょう!」
「「うん」」
「俺も2人と同じく面倒だからほっといた」
ガクリと前のめりに倒れる黒ウサギ。するとジンと呼ばれた男の子は蒼白になって叫んだ。
「た、大変です!世界の果てには野放しにされている幻獣が……」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉 で、出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼らははゲームオーバーなの?」
「……ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」
「冗談を言っている場合ではありませんっ!!!」
「ハァ……ジン坊ちゃん。
申し訳ありませんが、御3方のご案内をお願いしても宜しいでしょうか?」
「分かったよ。黒ウサギはどうするの?」
「……問題児様方をを捕まえに参ります。
……事のついでに【箱庭の貴族】と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたことを骨の髄まで後悔させてやりますのでっ!!」
そう言った黒ウサギは怒りのオーラを全身から放ち水色の綺麗な長髪を緋色に染め、ウサギ耳をピンと立てた。
跳び上がった黒ウサギは外壁の傍にあった門柱に水平に張り付いた。
「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと素敵な箱庭ライフを御堪能ございませっ!!!」
黒ウサギは壁に亀裂が入るほどの力で跳びだして行った。その速度は一瞬で飛鳥たちの視界から消える程だった。
「……。箱庭の兎は随分早く跳べるのね……。素直に感心するわ……」
「黒ウサギは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限 も持ち合わせた貴種です。
彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
黒ウサギの跳んで行った方角を心配そうな様子で見詰めるジン。
(ふ~ん。意外とすごい奴なんだな。その割にはだいぶ遅いけど)
そんなことを漣がかんがえているとジンのほうに飛鳥は向き直り、
「……黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、お言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。
エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え……あっ!はい!僕はコミュニティのリーダーをしている【ジン=ラッセル】です。齢11になったばかりの若輩ですが宜しくお願いします。所でお3方の名前をうかがっても宜しいでしょうか……?」
ジンはその歳の割には幼さを感じさせない丁寧な口調で自己紹介をした。
「久遠 飛鳥よ。そして、そこで猫を抱えているのが」
「春日部 耀」
「俺は鳴海 漣だよろしく」
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取り箱庭の中に入って行った。
石造りの通路を通って箱庭の幕下に出ると天幕を上空から見たときには箱庭の町並みは見えていなかったが箱庭の上空には太陽が存在していた。
「箱庭を覆う天幕は内側から入ると不可視になるんです。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為に設置されていますから」
「あら、この箱庭には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」
「え? 居ますけど」
「……そう」
吸血鬼か…そりゃああんな痴女みたいな恰好をしたウサギ人間がいるんだからいても不思議ではないかと思いながら三人の後をついていく。目の前に広がる噴水広場に目を向けると近くにはいくつもの洒落たカフェテラスが幾つもあり、その中の”六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに一行は入ることにした。
席に座るとすぐさま注文を取りために店の奥から猫耳の少女が飛び出てきた。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうか?」
「えーと、紅茶を2つと緑茶を2つ。後はこれとこれと」
『ニャーニャー!』
「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね〜」
ん?と飛鳥とジンは不可解そうに首を傾げ、耀はそれ以上に驚くが漣はそれが当たり前であるかのように気にせずガイアメモリの手入れを始める。
「三毛猫の言葉が分かるの?」
「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから」
『ニャーニャーニャニャーニャー』
「やだもーお客さんったらお上手なんだから〜♪」
猫耳の店員は尻尾を揺らしながら店内へと戻る。
「……そこの三毛猫。がっつきすぎると痛い目見るぞ」
「漣もこの子の言葉わかるの?」
耀が興味津々な目で漣を見てきた。あまり会話をしようとしてなくかったので人間不信かと思ったが、人がそんなに嫌いってわけでもなさそうだなと思いながらも説明を始めた。
「さっぱりわからんが店員に猫耳がある時点であの店員は猫の言葉がわかるかもしれないと予想がつく。そして店員の反応から予想が確信に変わり更に三毛猫への返答から大体」何を言っているかが分かっただけだ。それと耀はその三毛猫の言葉がわかるんだな?」
「ちょ、ちょっと待って! 貴方まさか猫の言っている事が分かるの!?」
漣の耀が動物と話す事が出来るかの物言いに、飛鳥が身を乗り出して質問する。ジンも同じ様に興味深そうに質問した。
「もしかして猫以外の動物とも会話は可能ですか?」
「うん。生きているなら誰とでも会話出来る」
「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん、きっと出来……る? ええと、確か鳥で話した事があるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょ」
「「ペンギン!?」」
「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」
「た、確かにそれは心強いギフトですね。この箱庭では幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」
「そうなんだ」
「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」
意外と面倒なんだな。幻獣って人の言葉しゃべれると思ったのに。
「そう・・・春日部さんは素敵なギフトを持ってるのね。羨ましいわ」
飛鳥に笑いかけられ、困ったように頭を掻く耀。
対照的に、憂鬱そうな声と表情で飛鳥は呟く。
「久遠さんは…」
「飛鳥でいいわ」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
「私の力は酷いものよ。だって」
「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃ
ないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
突然、品のない上品ぶった声が飛鳥の言葉を遮った。振り向くとピチピチのタキシードを身に纏った2m超えの身長を持つ奇妙な男が現れた。ジンがその姿を見て顔を顰めた所を見るとどうやら好んで会いたいような人物ではないらしい。
また面倒なことが起きそうだと思い思わず天を仰ぐ。空は今の俺の心と真逆で雲一つない青空が広がっていた。