なかなか死なない男が異世界に来るそうですよ? 作:みっちみちり
2mを超える巨体を持つピチピチのタキシードで身を包む纏った奇妙な男が現れた。ジンはその姿を見て顔を顰め、その男に返事をする。
「僕らのコミュニティは”ノーネームです”。”フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」
「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいな。コミュニティの誇りである名も旗印も奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ――――そう思わないかい、御三人方」
ガルドと呼ばれたピチピチタキシードの男は4人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろし三人に愛想笑いを向ける。当然ながら二人は冷ややかな態度で返す。漣は全く興味がなく引き続きメモリの手入れを続ける。
「失礼ですけど、同席を求めるならまず指名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」
「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!!」
ジンに横やりを入れられたガルドの顔が怒鳴り声とともに変化していった。口は耳元まで大きく裂け、虎のような牙と瞳が激しい怒りとともにジンに向けられるがジンも負けずに言い返す。
「口を慎めや・・・紳士で通ってる俺にも聞き逃せない言葉もあるんだぜぇ。」
「森の守護者だったころの貴方なら少しは相応の礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの2105380外門付近を荒らす獣です。」
「そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらん。自分のコミュニティがどういう状況か理解できてんのかい?」
「おいジン」
漣がメモリの手入れの手を止めジンに対してガルドが向けた視線よりも冷たく、まるで本能が危険だと警告しているかのようにジンは感じた。
「お前と黒ウサギのコミュニティの状況を教えろ。リーダーを名乗る以上お前には俺たちにコミュニティの現状を説明する必要があるんじゃないのか?」
「いやでも…」
「はぁ…じゃあそこのあんた。こいつのコミュニティの事を教えてくれ」
「わかりました。ではこの私がジン=ラッセル率いる”ノーネーム”のコミュニティを説明させていただきます。コミュニティは活動する上で箱庭に”名”と”旗印”を申告しなくてはいけません。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事な物。ですがこのジン君のコミュニティは名も旗印も箱庭最大の天災、魔王とのギフトゲームによって奪われたのですよ。彼はコミュニティの再建を目指しているようですがその実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもらうだけの寄生虫。黒ウサギが不憫でなりません」
「ふ~ん。で?お前は俺たちを勧誘しに来たってわけ?」
「流石ですねその通りです。返事は直ぐにとは言いません。コミュニティに属さなくてもあなた達は箱庭で三十日間の自由が約束されます。一度彼のコミュニティと私のコミュニティを視察して検討してからでも」
「…二人はどうする?といっても多分俺と同じだろうけど」
「そうね。私はジン君のコミュニティで間に合っているもの」
は?とジンとガルドは固まった。そんなに驚くことか?
「春日部さんはどうするの?」
「……私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら意外。じゃあ私が友達1号に立候補してもいいかしら? 私達って正反対だけど、意外と仲良くやっていけそうな気がするの」
「……うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
「そう、よろしくね春日部さん。じゃあ漣君は友達2号ってことでいいかしら?」
「構わない。よろしくな2人とも」
「うん。よろしく漣」
ジンとガルドを放置しながらそんな話をしているとガルドが大きな咳払いをした。
「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
「私、久遠飛鳥は、裕福だった家庭も、約束された将来もおおよそ人が望みうる全てを支払って箱庭に来たのよ。
『小さな一区画を支配してる組織の末端に迎え入れてやる』と言われても魅力を感じないわ。せめて身の丈を知ったうえで出直してほしいものね」
「お、お言葉ですがレデ『黙りなさい。』
ガチンと音を立て口を閉じガルドは黙り込んだ。
「……!?…………!??」
「へぇ、面白いな」
少しばかり飛鳥に興味がわいてきた。言葉で相手の精神を縛り、言う事を実際に行わせるって所かな
「貴方にはいくつか聞きたいことがあるわ。『大人しくそこに座って私の質問に答え続けなさい』」
ガルドは椅子にひびが入るぐらいの勢いで座り込む。その様子に店の奥から猫耳店員が慌ててやってくる。
「お客さん!当店での揉め事は控えてくださ―――」
「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも一緒に聞いてくれないかしら?多分面白いことが聞けるわ。ねぇジン君。コミュニティそのものを賭けるゲームはそうそうあることなのかしら?」
「や、やむを得ない状況なら稀に。ですが、コミュニティの存続をかけたゲームですから滅多にありません」
「そうよね。此処に来た私達でもそれぐらい分かるもの。ギフトゲームに強制力を持たせる事によって“主催者権限”を持つ者は魔王として恐れられている筈。その魔王でもない貴方がどうして強制的にコミュニティを賭け合う様な大勝負を続けられるのかしら。『教えてくださる?』」
「各コミュニティから女子供を人質にとってある。」
「そう。それで、子供たちは今どこに幽閉されてるの?」
「もう殺した。」
空気が凍り付く。
ジンも、耀も、店員も、そして、飛鳥も一瞬耳を疑った。だがたった1人漣だけはまるでそれが当然であるかのようにこれといった反応を示さなかった。
「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、
父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食『黙れ』
≪Puppeteer!≫
『お前は食べたのか?』
「え?」
飛鳥は目の前で起こっていることが信じられなかった。どうしてだかはわからない。だが飛鳥のギフトが漣の力によって
「お、俺は食べてはいない…」
「じゃあいい」
ぷつんと糸が切れたようにガルドに力が戻る。解放されたガルドは散々自分のコミュニティの秘密をばらされた屈辱を晴らすために飛鳥へと殴り掛かった。
「ぐっ…こ……この小娘がァァァァァ!!」
『ほい』
またしてもガルドを操り攻撃と手を止め座らせガルドの耳元へと囁く。
「お前は俺の操り人形。そして俺はお前の
ガルドは悟った。「この男はヤバい。俺が今まだあった中で一番危険な奴だ」と。
「ほら、そいつはもう動けないから話を続けようか。飛鳥はこいつを完膚なきまでに叩き潰したいんだろ?だったらギフトゲームでけりをつけたらどうだ?”フォレスト・ガロ”の存続とノーネームの誇りを魂をかけて」
そう話す漣の顔はどこかつまらなそうな顔をしていた。
次回はいよいよ変身です。
…変身です。