ヘロヘロさん、元気になる   作:ヘットズピカル

4 / 5
四苦八苦してたら遅くなってしまい申し訳っ・・・!!


又伸びに伸びてしまい中編に。後編は明日上げます。

※オリジナルキャラが出てきます


ラン・ソリュシャン・ラン(中編)

 ナザリック第六階層の中心部にある円形闘技場(コロッセウム)、その中の円形劇場(アンフィテアトルム)―――かつて地下大墳墓に侵入してきた者の大半を殺戮してきた闘いの場。

 

 その地に足を踏み入れた瞬間、ユリは自分を抑え付けるかの如き重圧を感じる。

それは闘技場中央に立つ主人、モモンガより発せられているもの。

この程度の重圧に耐えられぬ者、この地に立つ資格なし―――そう雄弁に自分達に語り掛けているかの様にさえ感じる圧倒的な力の奔流

 

 だが我らは戦闘メイド・プレアデス―――主人に仕え、主人の為に命を懸けて働く事を至上の命題とする者。そんな者達が膝を折るわけにはいかない。

 

 何より長女として後ろの妹達に恥ずかしい姿を見せる事は許されない。ユリは視線を主に保ったまま主の方へと歩みを進める。それに後ろの妹達も追随しプレアデスは一糸乱れぬ動きでモモンガの前に一列に並ぶと見事な呼吸で一斉に跪いた

 

「モモンガ様、戦闘メイド・プレアデス、御身の前に」

「うむ、御苦労。今後の方針を伝えるべく来て貰った。ナザリック内の探索の後ではあるが我が盟友の為にもうひと働きして貰いたい」

 

「「「ハッ!」」」

プレアデス全員、声を揃えて返答すると階層守護者達の列の後ろへと並ぶ

 

 そのプレアデスの後ろ、そこには多数のモニターが空中に設置され、そこに映る映像にはそれぞれにナザリックの主要な臣下達が一堂に集められた様子が映っていた。

その中には一般メイド達が集められた食堂の様子も映っており、中では同僚達が既に臣下の礼を取りながら待機している。そこにプレアデスの面々も加わり臣下の礼を取って待機するのを確認したモモンガは、簡易で備え付けられた玉座に座り直して一同を睥睨する

 

 ギルド仲間たちと共に心血を注いで育て上げた臣下達の中でも能力を突出させて作り上げたNPCの頂点ともいうべき存在達と全臣下。

その彼らが跪き臣下の礼を取る前でモモンガは威風堂々と王たる所作で臣下を見下ろしている。

 

勿論表面上のモノである

 

内心バクバクであり未だに不安は付きまとっている心中は見た目とは真逆。

だが一連の確認作業が概ね上手くいった―――その事実にモモンガは胸をなで下ろしていた

 

(良かったぁあ!!スキルや魔法はそのまま使用可能だし感覚的にははむしろ良くなってるじゃないか。守護者達の忠誠心がガチ過ぎるのと俺への評価が高過ぎたのは面食らったが・・・まぁ、マイナスではない・・・のかなぁ?)

 

 疑心暗鬼(チキン)、そんな思いを抱えていたモモンガは先程まで進行させていた今後の対応を思い返す。

既に終えていた警備網の刷新や新しい運営システムの構築、更には偵察に出したセバスの報告からのナザリック外周の改造の議題等、全て滞りなく進んでいた。

 

たった一つ、ヘロヘロが見つからなかった事を除いて―――

(クソッ!こまめに伝言(メッセージ)を飛ばしてはいるがまだ繋がらないのか。)

 

 この世界にヘロヘロがいる可能性が高いと考えているのは決して希望的憶測だけではなかった。

万感の思いを込めて『ユグドラシル』サービス終了の瞬間を目を閉じて迎えていたあの時、自分はある意味集中してサーバーダウンに備えており自分より先にヘロヘロがログアウトしたならメッセージ通知音に気付かない筈がない、それが一つ―――

 

 もう一つはヘロヘロがこの世界に来ているのだとして、何故他のナザリック地下大墳墓所属の者達と同じように中にいないのか、その理由だ。

それは現実社会でブラック企業戦士だったヘロヘロはよく回線を繋いだまま寝落ちをしている時がありそれが元となって問題になった事があった。

 

 新たな材料集めの為に単独で採掘場に行ったヘロヘロが帰ってこず、連絡もつながらないのを不審に思ったペロロンチーノがその場所に探しに行った時の事だ。

飛んで上空からヘロヘロの姿を探していた彼は、採掘場近くで予想だにしない光景を目にする

 

 

彼が見たモノ―――それは処刑される寸前の魔女の如く十字架に寝落ちしたまま張り付けられたヘロヘロの威厳溢れる姿だった

 

 

 実行犯はかつてヘロヘロに武器を劣化させられた正当な怒りに燃え上がったリベンジャー達であり、キャンプファイヤーよろしく下に薪を敷き詰め、燃やす準備をしながら円を描いて肩を組み合って取り囲んでいる様は実にシュールだったとのちに彼は語っている

 

(それ見てテンパったペロさんが上空からゲイ・ボウで弓矢乱射したら引火してヘロヘロさんが燃え上がったんだよなぁ。ギルドチャットに飛び込んできたヘロヘロさんの『グアアァァァァッッ!!?』って叫び声、未だに覚えてるよ。皆で助けに行った後、ペロさんが自分のせいじゃないって誤魔化そうとしたけど茶釜さんの執拗な現場検証で引火原因の弓矢見つけられて滅茶苦茶シバかれてたもんなぁ。そもそもその前の『あ、やべ』でバレてたのに変に嘘つくから)

 

 そんな経緯もあって以降、ヘロヘロは自分の意識が途切れた時に自らの体を隠れ家に瞬時に移動させる様な設定を施していた。ナザリックにしなかった理由は万が一それを知られて敵に一緒にひっ付いてこられない様にする為であった

 

(でもその設定、変更し忘れてギルド対抗の時いきなり目の前から消えていったんだよなぁ。てか寝落ちするかねあの局面で。戻ってきたたっち・みーさんに真っ二つにされてウルベルトさんに燃やされてたもんなぁ。それ見て『また燃えとる』って爆笑したペロさんの弓矢溶かして大喧嘩したししかも仲裁したの俺だったしそこらへんほんとウッカリというか―――)

 

 ふとした事にも思い出が溢れ出すのはさておき、設定を切らずにこの世界に飛んできたのだとしたらナザリック内にいない事にも納得がいく。そして座標的な位置取りがこの世界に切り替わった際にそのまま反映されているとしたならヘロヘロが飛ばされたのはナザリックからそう遠くない位置の筈なのだ

 

(確か寝袋と目覚まししかない山の洞窟とかだったよな・・・座標がそのまま反映されるのか分からないし何より今ヘロヘロさんは装備が一切ない状態なんだよなクソッ。あのブヨブヨ早く見つけないと)

 

 現状、外部のレベルが全く把握出来ていない状態でヘロヘロを野ざらしにしてしまっている事への苛立ち。それがモモンガの振る舞いを乱暴なものにしてしまう。

その焦りと苛立ちを跪きながら感じる階層守護者達―――彼らが抱える心中の思いも様々である

 

(はーすっごい重圧だ。でも優しいモモンガ様の事だからきっとヘロヘロ様の身を案じておられるんだ。よーし、アタシも早く外の捜索に加えて頂いて頑張らなきゃ)

(は、はぁもの凄いオーラだぁ。でもモ、モモンガ様の事だからヘロヘロ様の身をあ、案じておられるんだよねきっと。お姉ちゃんにま、任せてもらえないかなぁ探索)

正解を導き出している闇妖精(ダークエルフ)の第六階層守護者、金の髪に浅黒い肌を持つあべこべの服を着用したオッドアイの双子達、アウラとマーレもいれば

 

(何トイウ激シキ奔流。未ダヘロヘロ様ヲミツケラレヌ我ラノ力量不足ヲナゲイテオラレルノカ)

間違えている第五階層守護者、ライトブルーの外骨格に身を包んだ大柄の蟲王(ヴァーミン・ロード)、コキュートスの様なもの

 

(おぉ、盟友であられるヘロヘロ様の身を案じられておられるのですねモモンガ様。未だヘロヘロ様の居場所を掴めぬ卑小なる我ら如きの知恵が思慮深く、神にも等しきモモンガ様のお役に立とう等おこがましくも―――)

完璧に正解しているのに、ブッチギリの忠誠で過剰に飛んでいくスーツを着こなした悪魔、第七階層守護者のデミウルゴス

(はぁ焦られている姿も素敵ですモモンガ様。ヘロヘロ様を案じられている時の憂いを帯びた顎のライン。直ぐに発見なさいたいとお考えの時の添えられた指の動き。そのどれもが真に友の身を案じられている事を完璧に伝達する偉大な―――)

完璧に正解しているのに、ブッチギリの欲情で過剰に飛んでいくアルベド

 

 

(愛しき君、モモンガ様の凄いオーラ(御褒美)がわたしの体を溶かしていくでありんす・・・はぁあ、あぁ・・・下が、下着がまずぅい事に)

完璧に間違えている、漆黒のボールガウンに身を包み胸に嘘を詰め込んだ真祖(トゥルーヴァンパイア)、第一~第三階層守護者のシャルティアまで、本当に様々である

 

 

各階層守護者の様々な想いをよそにモモンガは今後のヘロヘロ捜索の手段をたぐり始める。

 

(本当は情報が揃ってからが望ましいがそうも言ってられない。探索範囲の拡大を始めるか。だがリスクは極力避けたい。特にここにいる者達は代わりが効かぬ者達、外のセバスとソリュシャンも呼び戻して失っても痛くない者に代えるべきか?)

 

モモンガは目の前の守護者、戦闘メイドと後ろのモニターを一瞥しながら選別を始める

(しかしそれでヘロヘロさんの捜索が遅れては意味がないんだよな―――)

 

しばし逡巡した後、意を決したモモンガは今後の対策を皆に伝えようと声を上げる

 

「皆、面を上げよ」

その言葉に全ての臣下達が一斉に顔を上げる

 

「知っての通り現在ナザリックは非常事態に突入している。偵察に出したセバスとソリュシャン・・・から聞くにナザリックは未知の土地に移動しているのは間違いない。更に現在一部、この世界の理が変更されているフシも見られる。そして何より!我が盟友であるヘロヘロさんが現在ナザリック外にいる可能性がほぼ確定となった」

 

 オーラを殊更強く放ちながら喋るモモンガの言葉に皆真剣に耳を傾ける。特に先程ヘロヘロの帰還と危機を伝えられた一般メイド達の気迫たるや凄まじいの一言に尽きる。何もできない設定なのに何でも解決してくれそうだ。そして

 

(何だ?あの黒髪の・・・ええとナーベラル、だったか?)

セバスとソリュシャンの下りで何とも言えない顔をしたナーベラルをジッとモモンガは凝視する。

 

(なんて悲しそうな顔なんだ・・・よく分からんが後で部屋付きにして労いでもしたら大丈夫だろ。主として部下の心情把握と管理は必須だからな!一応メイドだしね。何だ?今度は顔が赤くなってるな。)

他と比べ僅かに情緒不安定な気がするナーベラルを見つめながら偉大なる主としてのロールプレイをシミュレートするモモンガ

 

(ん、アルベド辺りからギリィッって聞こえたけどどうしたんだろう。あ、アルベドもナーベラルを見てるな。流石は守護者統括、部下の異常にすぐ気づくとか本当に優秀な奴だなぁ。お、今度は青くなった)

部下の体調を心配する完璧な主プレイに酔いしれるモモンガは少し鈍くなっている

 

「・・・ん、現時点をもってナザリックより外部へと捜索をする部隊を編成する。それについて指示を出したい。まずはアルベドよ!」

「ハッ!!!」

裂帛の気合が籠った声がこだまする。些か入れ込みすぎな気がしないでもないが守護者統括としての気迫の表れに違いない。頼もしいぞ

 

「これよりヘロヘロさんの捜索メンバーを選別する。警備レベルを下げずに探索に秀でた者を選出せよ」

「畏まりましたモモンガ様っ!必ずや期待にお応えする事をお約束致しますっっ!!」

(声でかすぎんだろアルベド。目も何かランランに輝いてるし。やる気のスイッチの入りどころが分かんないよこの子。あれ、ナーベラル凄い青くなってる。もしかして彼女も疲れてんのかなー大変だよねきっと。うんうん、部屋に呼んだら少し優しく接してやろう)

 

「うむ、頼もしいぞアルベドよ。ココに映っている二グレドにさせている外部探索の映像も利用するのでそのつもりでな」

「ハッ!!それでは賜った命令を遂行しに移りたいと思います!」

「うむ。行け」

 

立ち上がりキッ!とプレアデス辺りを見た後、指示を実行しに移動し始めるアルベドを見ながらモモンガは心の中で嘆息する。

(いちいち大げさなんだよなぁ皆。もうちょっと軽くというか、緩くなってくれないかな・・・)

原因である本人だけが無自覚なそんなモモンガの思考は飛び込んできた伝言(メッセージ)によって中断される

 

何か進展があったのかもしれない・・・!その思いにアルベドに呼びかけ、手ぶりで止める

 

「しばしその場で待て。・・・何だソリュシャンか、どうした?(お、ナーべラルの目が光った)・・・何?現地人だと!?」

その言葉に臣下達に緊張が走る。アルベドも近くへと戻ってくる

「うむ・・・その地点に二グレドの探索を飛ばす。お前は指示通り極力友好的に接するのだ。このまま繋いで向かえ。」

そう言葉を区切るとモモンガは急ぎ指示を飛ばす

 

 

「二グレドに今すぐソリュシャンの位置の映像を出すように言え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓の外1kmから広がる大森林。夜になり空の星々が照らす光届かぬ深き森の中をソリュシャンは走り続けていた。

ただ闇雲に駆けていたわけではない。自らの持つスキルを最大限発揮して周りの気配を感じながら森を調べていたのだ。間に上司セバスとのやり取りも頻繁に行いながら捜索範囲を拡大していった。が、得られる成果は芳しくなかった。

 

(大型の獣の気配はあれど知的生物の気配は無し・・・あぁ、そしてヘロヘロ様が気配が未だ感じられません)

敬愛する御方の気配であればどこにあっても捉えられる自信があった。だからこそこの任務をかってでたというのに何も成果を上げられない自らへの苛立ちと御方への焦燥が合わさりソリュシャンの心中は追い詰められていた。

 

 悪い方へと考えが向いていたそんな時、森の彼方に光る小さな光を捉える。

気配を殺し、急ぎその地へと向かい木の上から覗き見るとそこにはたき火を囲み、野営をする複数人の男女が見られた。

この地に来て初めての知的生物。その存在にソリュシャンは気配を消して詳細を掴みに近づいていく。

 

(男2、女1に・・・あれは少女、ですか。装備も・・・貧弱です、ね。レベルも大したことありません)

手に入る情報は自らの力でどうとでも処理できる、そう確信させるもの。それを吟味してからソリュシャンはセバスへと伝言(メッセージ)を繋ぐ。

 

『・・・はい。どうしましたソリュシャン?』

『セバス様、人間の集団を発見いたしました。レベル的にもかなり低い集団です。如何いたしましょう?』

『ほぅ、真ですか。それは慎重に事を運ばねばなりません。貴方からモモンガ様に伝言(メッセージ)で詳細を伝え、指示を仰ぐのです。このままお繋ぎしなさい』

 

指示に従い、モモンガに伝言(メッセージ)で事を伝えたソリュシャンは二グレドが自らを捉えるまでの間に与えられた任務を遂行すべく、再び気配を消して集団へと近づく―――

 

 

 

 その日、バハルス帝国にて主に活動をしているワーカーチーム〈フォーマンセル〉は非常に上機嫌だった。

 

定期的に出されるアンデッドが跋扈する平野、カッツェ平野におけるアンデッドの発生の抑止と駆除という依頼をつつがなく終え、更に期待のエースであり最年少でマジックキャスターでもあるヘックスの第三位階魔法の実戦使用が殊の外上手くいったからだ。

収穫したアンデッドも質が良く、今回の依頼の成果を考えると悩みの種であった装備の新調に手が届きそうなのも上機嫌の理由だった

 

「いやー、今回は言う事なしだったな!完璧に近い内容だったぜ」

リーダーのマッシュがそう言うと

 

「調子にのんないの。ヘックスの魔法が調子よすぎたせいで結局、一泊野宿になっちゃったんだから。リスクは出来る限り避けないといけないわ」

と弓兵のアマンダが窘める。しかし本気ではなく彼女も今回の経過に満足しているのが伝わる。

 

「しかしヘックスの魔法はどんどん向上していきますね。いずれはあのトライアドまで達するんじゃないですか?いや、素晴らしい」

メンバー最年長で神官のハップがそう話の主役であるヘックスを褒めたたえると

 

「――そんなに褒めないで欲しい。あんまり褒められると、ムズムズする」

と顔を赤らめながら金髪をいじくり、照れをごまかす少女ヘックスの姿があった。

 

 彼らの職業であるワーカーはいわゆる何でも屋であり、金銭によっては危険な仕事も汚れ仕事も行う職業だ。そんな彼らにとって定期的に依頼が来るカッツェ平野の仕事は自分達で滞在期間や難易度をある程度調節できるありがたい仕事でもある。

 

 特に今回の様に仲間の成長確認も兼ねて行えるのは自らのチーム戦力の把握にも役立つ為、比較的危険を冒さないプランにしていたのだ。

それが蓋を開けてみれば危険度は無くそれでいて討伐の報酬が高いいわゆる当たりを複数掴んだ為、予定していた分を超える収穫を一日で揚げる事が出来たのだ。

 

 その結果として野宿にはなったがカッツェ平野からはある程度離れており、近くに獣位しか確認されて無いスポットで野営を行えた今回の冒険は完璧に近いものであった

 

(ありがたい話だぜ。チームは強くなったし報酬は予定より大幅に上回った。これであのいけ好かないパクリ集団に水をあけられるだろう。何がフォーサイトだふざけやがって。)

最近帝国でも名が上がり始めているワーカーチームが構成から何から自分達と酷似しているのが気に入らなかったマッシュは報酬で新調する装備への期待に胸を膨らませていた。

(帰ったら一息ついて前から準備してた場所にアマンダを誘うか。頼んでた指輪も出来上がってる頃だろうし、な)

 

 そんな思いを胸に抱きながらアマンダを見つめるマッシュ。

見つめられ、少し照れながらそっぽを向いて食事をするアマンダとそんな二人を神官にあるまじき顔で見つめるハップ。

それを半眼で引きながら見つめるヘックス。

 

彼らのそんな日常は森の奥からゆっくりと出てきた影を視界に入れた瞬間、終わりを告げる

 

 

「何者だ!!」

 

 その姿を確認もせず飛び上がりながら腰の剣を引き抜き、構えながら前に出るマッシュ。彼が声を出す前に各々が迎撃の姿勢を取っている仲間達の頼れる所作にも気を緩めず、マッシュは気配の方向を睨み付ける。

 

「突然の闖入、失礼致しました。私、ナザリック地下大墳墓に所属しております戦闘メイド・プレアデスが一人ソリュシャン・イプシロンと申します。この度は皆様にお願いしたき事がございまして参上致しました」

 

 そこに現れたのは獣でも盗賊でもなくメイド服姿の女性、それもとびきりの美貌を携えた女性であった。豊かな金髪を縦のロール巻きに纏め上げ、服の上からでもわかるメリハリの効いた体からは匂い立つような色香が漂っている。

 

彼女は優雅な仕草で自分達の前で一礼をした後

 

「この度、私共の住居ナザリックにお越し頂きまして、皆様にこの付近の周辺地理の情報を頂きたく存じ上げます。もてなしの他、報酬も含め可能な限り皆様の希望を優先させて頂きますゆえ、何卒ご一考頂けませんでしょうか?」

 

 そう言って微笑みながら再び一礼するソリュシャンの姿。

そこには敵意はまるで無く礼をする姿も一流のメイドそのもの。彼女が身に着けているものも見た事がない程、精緻で上質な物でありそれ自体で一財産になる程の逸品であるのが見て取れる。

また彼女自身も気品に溢れた物腰と態度であり、これが町中であれば真偽はともかくまず話を聞いてみようと飛びつくものだ。だが

 

(怪しすぎるだろうどう考えても)

 

 此処は人里離れた深き森の中であり、死が渦巻くカッツェ平野からほど遠くない場所である。

そして彼らが警戒を向ける最大の理由―――マッシュはちらりと後ろのハップとヘックスを見る。彼らは首を横に軽く振る。

 

(周りに仕込んでた罠も鳴子も反応なしで警報(アラーム)も掻い潜ってるとかコイツ、普通じゃねぇな)

音を立てずにここに現れた時点で只者ではない。そんなマッシュの思考を読んだかのようにメイドが話しかけてくる

 

「周りを騒がしくして皆様を不快にさせない様、静かに近づかせて頂きました。お仕掛けになられたものは何一つ作動させておりませんのでご安心下さいませ」

 

逆だろこのメイド女、そう悪態をつきたくなる。

 

 警戒を保ちながらチームリーダーとしてマッシュは結論を伝える。

「悪いがその話には乗れそうもない。都合がよすぎる条件は信用されないんだぜメイドさんよ」

「それ程状況が逼迫しているという事です。我々が欲しているのは一般的な情報がほとんどです。もう一度ご再考願えませんでしょうか?」

「くどいわね。アンタの得体のしれない主人に会いにわけ分かんない家には行かないって言ってんのよ」

アマンダが強い口調でメイドに言葉を叩きつける

 

「・・・ナザリック地下大墳墓、でございます。いと尊き御方達が住む我らの住居をその様に表現するのはおやめ下さいませ」

 

先程と同じ様に微笑みながらメイドが近づいてきて言う。

本当によく出来たメイドだ。安い挑発にも乗らない

 

(どうしたもんかね・・・。こちらから仕掛けても無事に済むかわからんし周りにコイツの味方がいないとも限らんしな)

そう思慮するマッシュの前にゆっくりと近づいていたメイドが立ち止まり顔を向ける

 

「少々お待ちください。主人より指示を仰ぎます」

 

 

 

 

 

「何だ、こいつら?」

 

 そのワーカーチーム〈フォーマンセル〉とのやり取りの一部始終をモモンガ達は二グレドの探索とソリュシャンを通して見聞きしていた。

モモンガはまずこの人間達の装備の貧弱さとレベルの低さに驚いた。きっと冒険したてのチームなのだろう、と見当をつける。そして彼らを見ても抱く感情が何も無い自らにも驚いた。言うなれば犬や猫、あるいは虫を見てる様な感覚に近かった。本来であればなんら興味を抱かない存在だが情報を貰うまではこの者達を逃がすわけにはいかない。

 

「モモンガ様。脆弱かつ愚かな者達ですが手始めに情報を引き出すには宜しいかと」

「うむ、そうだな」

横からのアルベドの言葉に鷹揚に頷きながらモモンガは考えを張り巡らせる

 

(ふーん、このレベルならソリュシャン一人でも余裕だな。友好的ではないが最悪ふんじばってでも連れてこさせるか。セバスは継続してソリュシャンとは反対側を捜索させているし、二グレドにも継続して探索させている。時間もかけたくはないし―――)

 

「ソリュシャンよ。その者達は貴重な情報源だ。穏便に済ませたかったが致し方ない、捕らえてでも連れて帰る」

その言葉を受け目の前の者達にソリュシャンは意識を向ける

 

『畏まりましたモモンガ様。方法はお任せ頂いても宜しいでしょうか』

「うむ、任せる。殺しさえしなければ何でもよかろう」

『承りましてございます』

 

 

「お待たせいたしました」

 

 

そう言いながら一礼すると再びマッシュ達に近づき始めるソリュシャン、その歩みは変わらず姿にも変化はない。顔には微笑みすら湛えている

 

 だがマッシュは全身から汗が噴き出すのを抑えられず、自分の体は金縛りにあった様に動かなくなっているのを感じていた。

先程こちらを見つめてきた瞬間から相手が出してきた得体のしれない威圧感、その正体をはっきりと相手が伝えてきている

 

殺意などでは無い。それは対等の存在に向けられるものである。

 

 今、彼女がこちらに向けているのは完全なる捕食者―――絶対的な強者が出す、餌に対して向ける効率的な仕留め方を探る視線でありそれを伴った嗜虐の笑み。

後ろから聞こえる仲間達も同じ様に感じているのだろう。途切れがちの声が戸惑いをもって聞こえてくる。

 

(何だよ・・・何なんだよコイツ!無事に済むどころじゃねぇ。別次元のバケモンだ。感じてたのは敵意じゃない、コイツからしたら俺達なんぞ相手にもしてなかったんだ。どうにかして皆を逃がさないと―――)

 

 マッシュの思考はそこまでだった。

目にも止まらぬ速度で飛び込んでくる金髪のメイド姿と共に自らの意識が途切れるのを何処か他人事のように感じながら崩れ落ちるマッシュ。

その視界に入る崩れ落ちる仲間達、そして最後の一人である愛する女を捉えた化物が放った言葉

 

 

「貴方は他の皆様とは少し違いますよ?我らの主を侮辱したその罪、しっかり清算して頂きます」

 

 

(俺だよ!馬鹿・・・・や・・・ろ)

身代わりになろうと心で絶叫を上げたマッシュの意識はそこで途切れた―――

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

『つつがなく完了致しましたモモンガ様。全員気絶させております』

『御苦労ソリュシャン。今捜索隊の一部をそちらに送り込むのでその者達に引き渡して、再び捜索を継続せよ』

『ハッ!ありがとうございますモモンガ様、全力でヘロヘロ様を探索致します』

『そのまま待機しろ。周りのモンスターや獣にそいつらを食い散らかされては堪らんからな』

 

モモンガは指示を出しながらアルベドへと顔を向け経過を尋ねる

 

「捜索隊の選抜の手筈は整っているか、アルベド?」

「ハッ。既に終えて現在第一階層付近に集結させ、待機させております。あとは此方にいますアウラをリーダーと致しましてシャルティアと共に向かわせれば完了でございます」

「うむ、ではその前に二グレドに今後の探索範囲の絞り込みを頼みたい。二グレドよ聞こえているか?」

 

 守護者達の後ろに控える多数のモニターの一つに顔を向けるとモモンガはそこに映る、筋肉がむき出しの顔をした女性に尋ねる。

 

「勿論でございますモモンガ様。先程より継続的に探索の方は進めているのですが・・・申し訳ありません。未だにヘロヘロ様を発見いたしておりません」

「・・・そうか」

 

 その言葉にモモンガは心中の焦りを大きくする。

二グレドは情報収集に特化したタイプの魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、彼女の索敵能力を考えればヘロヘロが未だ発見出来ていないのは些か不自然なレベルなのだ

 

(まさか・・・いや、きっと来ている筈。そうですよねヘロヘロさん。俺は・・・俺は・・・)

心に渦巻く疑念、想像したくない可能性を払拭するかの如くブンブンと顔を振りながらモモンガは二グレドに問い直す

 

「二グレドよ、今捜索している範囲の映像をモニターに見せてくれ。皆も見よ。」

 

 その言葉に正面の多数あるモニターの中心のモニターに上空から覗き込んだ森林が映し出される。その映像は鮮明であり、音も夜の静寂を携えた森の木々の揺れる音以外は何も聞こえない。

画面の片隅にはソリュシャンが待機する、先程の人間達の野営の火の光が映っている。

 

「今現在の捜索範囲がココからになっております。付近はほぼ全範囲捜索を終えております。従いまして―――」

 

二グレドがこれからの探索を説明し始めた時、突如モニターに猛然と飛びつく者達がいた。アウラとマーレの双子である。

 

「ちょっとアウラにマーレ?今、姉さんが今後の捜索の―――」「ちょっと黙って!!!!」

 

 その行いを窘めようとしたアルベドを凄まじい形相で睨み付けると画面に食い入るように目を向けるアウラ。おとなしく引っ込み思案なはずのマーレもそれに続いている。

至高の御方であるモモンガの前での許し難い行い―――他の者達、特にアルベドを始めとした守護者達が殺伐とした気配を出す中、気にも留めずアウラが二グレドに叫ぶ

 

「二グレド!画面の拾う音量を上げて!!」

「え?出来なくはないけれど何故―――」「いいから早く上げて!聞こえるの!!!」

その気迫に気圧されしたのか不満そうにしながらも二グレドは画面を操作する。

 

 徐々に木々のざわめきが大きくなる中混じるノイズ、それは繰り返される何者かの声。

僅かに聞こえ始めるその声にモモンガは目を丸くし、アウラとマーレは歓喜を携えながら画面を見つめる

 

そこから微かに聞こえる音。それは―――

 

 

 

「ヘロヘロお兄ちゃぁん!早く起きてー!!皆が心配してるよぉー」

 

 

 

第六階層守護者、双子のダークエルフであるアウラとマーレの生みの親、至高の41人の一人であるぶくぶく茶釜の何処か作ったかのような甘ったるい声であった

 

 

「これは・・・!?茶釜さん!?・・・いや、目覚まし時計か!ニ、二グレド!!この声の地点を特定して映像に映し出せ!急げ!!」

「ハ、ハッ!!」

 

 

 モモンガの指示に二グレドが慌てて操作を開始する。

守護者を始めとしたナザリック全臣下の視線を一身に受けながら二グレドが画面を動かし探索を進める。固唾を飲んで見守る一同の耳に聞こえる、繰り返される偉大なる御方の声が徐々に大きくなっていく―――

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 4人の気絶した人間の傍らで待機していたソリュシャンも繋いでいたその伝言(メッセージ)から聞こえる懐かしき至高の御方の声に耳を傾けていた。

(ぶくぶく茶釜様!?何故あの御方の声が。いいえ、それよりもヘロヘロ様を起こそうとなさっておられるこの声、近くにヘロヘロ様がいらっしゃるという事ですね!?)

 

 伝えられた内容からそこまで遠い範囲では無い。間違いなく一番近くにいるのは自分である。

(今すぐ指示を賜ってその地点に赴かねば!あぁ、しかしこの人間達が邪魔です!)

罠や鳴子を仕掛けているとはいえこの地点は深き森の中。周りには猛獣がいる中で気絶した人間達を置いていくのは殺すのと同義となる。

 

(いっそのこと全員殺してしまい―――いいえ、この者達は貴重な情報源。モモンガ様からも厳命されています。身の安全を確保してからでないとこの場を離れる事は許さ―――あぁ、でも近くでヘロヘロ様が私を待って―――ヘロヘロ様が迎えを待っているはずです。やっぱり殺して、いえ駄目いけません)

 

 普段では考えられない程の動揺から思考が混乱するソリュシャン。

もはやゴミと同義と化した自らが成果を上げたこの収穫物(邪魔者達)を苛立ちながら見つめる彼女の思考は伝言(メッセージ)に飛び込んできた音声によってシンプルに、そしてバッサリと決断される―――

 

 

 

 

 

 




死亡フラグは古典であろうと大事にしたい。
早くヘロヘロさんを起こしたい・・・!(人類が大変だから)

ソリュシャンは本当によく出来たメイドです(この話まで)




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