ボッチだけがいない町 作:仁郎
第一話~再上映
―――ヒッキー、また明日ね!
―――比企谷君、また明日
あの夕暮れの日。遊園地からの帰宅中、彼女たちが涙を浮かべながら言った言葉。今も俺の脳裏に焼き付いている。先ほどの言葉だけではなく水族館などで話した会話も、一言一句。
俺も涙を浮かべていただろう。何故だかは分からなかったが手を目にやると涙を流していた。後になって考えて見るとあの時が奉仕部の本物が見えた気がしたからだと思う。だから俺はその日、彼女たちとの本物をもっとはっきり築いて行こうと決意した。また明日会おうと約束して後日、俺は待ち合わせの場所に最初に到着した。
それから数分後、前に見覚えのある車から陽乃さんがでてきた。何故彼女がここに、そんなことを言う前に彼女は複雑な顔をして俺にとって残酷な言葉を放った。
―――雪乃ちゃんとガハマちゃんが、攫われた
そこから先は覚えていない。いつの間にか家におり、そしてニュースで二人が亡くなったと分かったことぐらいしか。
―――うそだぁあああああああああああああ
「・・・夢、か」
布団から飛び起きて、夢のことに気付く。いつも見る夢なのにやはり慣れない。
「・・・ひとまず汗、ふくか」
汗をふいたのち、過去のことを考える。奉仕部のあの二人の事を。あの事件があったのは今から十八年も前だというのに情けないと思いながらもやめられない。
別にそれは後悔、というものではない。頭の中で浮かんでは消える、あの時こうしていればよかったのだろうかなどという甘い幻想への縋りつきである。そして彼女たちの事を忘れないことが今、俺にできる唯一の懺悔行為でもあるからだ。
そうして頭の中にグルグルと考えが浮かんでは消え、そんなことを何分か繰り返したうち、時間を見て頭を切り替える。
「・・・仕事、行くか」
仕事、なんて響きの悪い言葉だろうか。・・・行きたくねぇ。
朝食を済ませ、眼鏡、服を整え、玄関の扉を開ける。
「・・・行ってきます」
誰もいない部屋に一声かけて、今度こそアパートをでた。
「せんぱーーーーい!!」
一人仕事場までテクテク歩いていると声が聞こえた。・・・誰に対して言っているのだろうか、まぁ俺には関係ないのでそのまま歩いて行く。
「せんぱい、聞こえてますかーー!」
・・・うるさい。はやく先輩とやら返事してやれよ。
「無視しないでくださいよ!!」
「がはっ・・・!?」
突然背中に痛みが奔る。誰だよと思いながら見るとそこには顔を膨らませた一色がいた。
「何で無視するんですかっ!」
「いやだってもう俺お前の先輩じゃないし・・・。というか何で俺の名前呼ばないの? まさか忘れてる・・・?」
「まぁそんなことより、先輩も学校に向かってるんですよね? 一緒に行きましょうよ」
俺の名前がそんなことだと・・! 一色、恐ろしい子! そう思いながらも彼女の言葉に断る必要もないので素直に従う。適当に世間話をしながら歩いていると彼女が突然言った。
「先輩が教師になるなんて思いもしなかったです」
言葉が詰まった。確かに彼女、一色は高校時代の俺を知っている。だからこそ彼女は俺が教師になるとは思ってもいなかったのだろう。しかし彼女はあの時の事件は知らない、俺が教師になろうとしたきっかけを。そう知っていても思わずこの会話を続けるのは俺には苦だった。
「・・・お前も教師になるとは俺も驚きだったわ」
「ひどくないですかっ!?」
一瞬空いた時間を咳で誤魔化し、言葉は返しながら話をそらしていった。
そのまま話しながら歩いて行くと横断歩道前まで来て、信号が赤だったので一旦止まる。青になるまで一色の方を見ながら話していると隣の人が歩き出す音が聞こえたので信号の方へ顔を上げるとそこには青い蝶がそこにいた。
―――その瞬間世界の時間が巻き戻る
「ひどくないですかっ!?」
先ほどの彼女の言葉がまた俺の耳に届く。こいつ、とうとう頭狂ったかと一瞬思ったがそれは自分が慣れしんだ能力の力が発生しただけだと気付く。
―――
この力は直後に起こる事故、事件の原因が取り除かれるまでその直前の場面に何度もタイムスリップしてしまうというものだ。しかも自分の意思とは関係なく発動する上に能力が発動した結果、マイナスだったことがプラマイ0になるだけ、もしくは自分にとってマイナスになるだけなのでとても厄介な能力だ。
しかし無視をしても永遠と繰り返すことになるので自分から進んで動くことになってしまうのだがね。再上映の原因を見つけるため今度は一色の顔を見ずに適当に相槌をうちながら周りを見渡す。
さっき戻った時間的に横断歩道の辺りで何かがあったのだろう、そう仮定してまた横断歩道の前までやって来る。自分の近くには特に問題はない、ならば視野を遠くして見る。そうして原因に気付いた。
―――赤信号なのに横断歩道を渡っている少年の姿がそこに
「クソッたれ・・・!」
それを見てすぐさま走り出す。間に合うかなどは分からない、ただ走る。その行動に俺の中に眠る理性の化け物が目を覚まし、足が止まる。
何故自分と無関係なものを救う必要があるのだ―――
そんなこと俺も思っている。だがこれは仕方ない事なのだ。あの少年を助けなければ俺は永遠にさっきの時を彷徨わなければいけない。そんなのはご免だ。そうして自分を納得させ動くことを拒否していた足を強制的に動かせる。トラックが自分に衝突することを理解し、横断歩道の中心で顔を恐怖に染めて動けない少年の前まで。
「やっぱりこの能力はマイナスでしかない」
そんなことを呟き、俺は少年を抱いた瞬間圧倒的な衝撃により意識を失った。
―――目が覚めると知らない天井が視界に入った
「目、覚めましたか」
朝聞いた声が耳に届き、顔を声の方へ向ける。そこにはは少し目のあたりを赤くした一色がいた。目が覚めたばかりなので色々質問したいことがあったがひとまず当たり障りのない質問をする。
「・・・何でここに?」
「そりゃあ、目の前で轢かれたのを見たんですから。急に走り出したかと思ったら轢かれてびっくりしましたよ」
「そうか」
短く言葉を返し、そこからまた会話を始める。学校への連絡はどうしたのかやら何故お前も休んだとかやら。そんなことを話しているともう夕暮れになっていた。
「じゃあ、私もう帰りますね」
「おう、すまんな」
一色が席から立ち、出口の扉へと手を掛けた。俺は今の自分の身体の様子を教えてもらうべくナースコールを踏んだ。そして顔を上げると彼女がまだそこにいた。まだ立ち去らないのかと思い声を掛けようとする前に彼女が声を発した。
「もう、こんなこと止めてくださいね・・・」
そんな言葉を言い残し、彼女は立ち去った。その時の彼女の顔はこちらを見ておらず、うかがう事はできなかった。だがきっとその顔は彼女がいつも浮かべているような顔ではないことだけは分かった。
「・・・俺だって、こんなことしたくないさ」
彼女の言葉は本気だろう。俺にもうこんなことはしてほしくないという思いは声だけでも判断できた。しかし俺は自分の中にある能力が消えない限り危険な行動は繰り返さなければいけないのだろう。そして俺も辞める気は毛頭ない。これは誰に言われても絶対だ。俺は子供の頃から繰り返す能力を持っていた訳じゃなかった。この能力が目覚めたのは最悪の事件があった数日後。だからこの能力が発生するたびにあの日の事件を忘れるなと言われているようで、俺はその恐怖から逃げる様に自分を痛めつけ現実から逃げているのだ。
―――なんと情けないのだろう
俺はそんなことを思いながら看護師がくるまで待っていた。
「余計な出費してしまった・・・」
まさか治療費があんなかかるとは・・・。高校のとき親に払ってもらったからあまりかからないと無意識に油断してたぜ。唯一よかったのはすぐに退院できたことだろうか。そんなことを悶々と考えているとアパートについていた。ふと窓を見ると俺の部屋に電気が点いていた。点けっぱなしにしていたのだろうかと思い急いで中に入るとそこには―――
「おかえりー!」
愛しのマイシスター小町がいた。俺が事故に合ったと聞き、駆けつけてくれたようだ。
「あぁ、ただいま」
そんな妹の優しさに癒されながら小町が作ってくれたご飯を食べる。その時に色々今までの生活のことやらを話す。色々話し話題がつきると小町は何か思いついたように急に顔を上げて言った。
「お兄ちゃん、明日小町とデートしよっ!」
それは太陽も負けるようなまぶしい笑顔だった。こんな顔で言われて断れる兄貴なんているはずもないので俺は即答で了承した。
そこから明日の予定をたてて、風呂に入り寝ることにした。そして寝る前、寝間着に着替えた小町が夕方とは全く違う悲しげな笑みを俺に向けて口を動かした。
「怖かった」
そう一言。俺は黙って先を促した。
「お兄ちゃんまでいなくなっちゃうかと思った。事故にお兄ちゃんが合ったって聞いて高校のときのお兄ちゃんの顔が思い浮かんだの」
「そうしたらいてもたっても居られなかったよ。・・・こんな話したらお兄ちゃんを苦しめるだけなのにね。ごめん、わすれて」
それは小町の独白だった。それと同時に俺は嬉しさと不甲斐なさへの恥ずかしさの両方が心を支配した。小町が俺のことをこんなに大事に思ってくれているという嬉しさ。そして兄として妹にこんな情けない姿を見せてしまった事。なにより小町に寂しい気持ちにさせてしまったと思うと何より苦しかった。しかしこれ以上情けない姿を小町に見せるわけはいけない。小町の不安を取り除こうと俺は小町の頭をなでる。
「・・・明日、楽しもうな」
そう一言かけて―――
「楽しかったねーーー!」
「あぁ、そうだな」
デパートから出て小町と歩きながら話す。俺は荷物を持つ係だ。デパートの周りはたくさんの人で溢れかえっていた。彼氏彼女が腕を組み歩いている人、家族できているのであろうその娘が風船をウサギのぬいぐるみを着た人から受け取ろうとしているところ。しかし風船が受け渡されなく風船は宙に舞った。残念だな、と思いその風船を見上げた。
―――見た先に青い蝶が見えた
「楽しかったねーーー!」
・・・まただ。何故、繰り返した。全く分からなかった。ここで俺が原因を突き止めなければ永遠とこの時間を繰り返すことになってしまうので小町に協力を頼むことにした。
「・・・小町。何か変な感じしないか?」
「え? 別にしないと思うけどな~。・・・でもお兄ちゃんの悪い予感あの時からよく当たってたもんね」
そう言いつつ小町も周りを見てくれる。俺も周りを見渡すが全く原因が分からない。風船があの少女に渡せなかったこと? そんなことで再上映は起こらない。しかしそれ以外の原因が分からない。ひとまず行動を起こそうと風船を渡すぬいぐるみの近くまで寄ろうとすると小町が突然声を上げる。
「お兄ちゃん、分かったよ」
「・・・ほんとか!?」
小町が見つけたことに驚くが見つけてくれなら早く行動しなければ。そう思い小町に聞こうとしたが小町は俺の言いたいことは分かっていたのか首を振る。
「けど、もう解決されたよ。心配しないで」
そう言って小町は笑みを浮かべた。その笑顔が何だかいつもと違う気がしたが再上映が起こらず、安心した俺はそれを追及することはなかった。それから俺達はまた遊びまくりヘトヘトで家に帰ることになった。その帰り道、アパート近くの公園までくると小町は少し止まりスマホを開いた。
「あ、ちょっと電話が来たから公園で電話しとくね! お兄ちゃん先帰ってて~!」
「いや、そんくらいの時間なら待ってるけど」
「いーの、いーの! アパートもすぐそこだしね」
小町もそういう事だし俺は先に帰ることにした。そのとき、また小町の顔がいつもと違う何かが浮かべられている気がしたが小町は公園に走っていったのでまた俺は気の所為と思いアパートに戻った。
時間は進み今の時刻は夜になる―――
「お兄ちゃん~、プリン食べたい~」
「・・・こんな時間帯に食べると太るぞ~」
「いいじゃん~。買ってきてよ~」
「しゃあねぇな。ちょいと行ってくるわ」
そう言って上着を着て俺は外に出た。寒い夜風に吹かれ思わず身震いをしてしまう。だが可愛い妹のためだ。さったとコンビニで買って家に戻ろうとしよう。コンビニはすぐ近くだ。走って行くとすぐなので走り、コンビニの中へ駆け込む。
そうしてさむいさむいと言いながら俺は買ってきたプリンを手に持ちまた家に帰る。やっぱり小町と一緒にこればよかったか・・・? 深夜の一人歩きは情けないがとても心細い。恐怖を消し去る為俺は早歩きで家まで向かう。そうして家近くまでくるとマスクをつけ帽子を深くかぶったいかにも怪しい人とすれ違った。少し気になり目を見ると赤い目をしていた。・・・珍しい目の色だなと思うもすぐ目線を離して自分の部屋に向かう。自分の部屋の前に立つと不審なことに気付いた。
「・・・ドアが、開きっぱなしだ」
少し胸騒ぎがしてすぐ部屋に入る。ただいまと言っても返事はない。リビングへの扉を開き、俺は絶句した―――
「こまち・・・・?」
小町が血塗れで倒れている。ピクリとも動かずに倒れ伏している。
「・・・悪い冗談やめてくれよ小町―――」
小町の体を俺の方に向けると腹部にナイフが刺さっていた。そのナイフを見た俺は頭の中が真っ白に染まった。手が血塗れになっていることにも気付かず。その呆然としているときにドアがノックされる。
「小町さーん。お土産ありがと―――」
――――キャアアアアアアアアアアアアアア
扉が開けられお隣さんが見た光景は血塗れで倒れ伏している小町の前に手を真っ赤で染めた俺の姿だった。
―――運命の歯車が狂い始めた
読んでいただきありがとうございます!
僕だけがいない町にはまり俺ガイルとのクロス?を書かせてもらいました!
・・・俺ガイルと僕街のクロスが全然なかったので思わず勢いで書いてしまいました。
勢いだけなので色々可笑しいところがあるかもしれません。
なので感想など貰えると嬉しいです!