第二の嵐となりて   作:星月

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木虎隊③

「それでは改めまして。——木虎隊、B級3位! おめでとうございます!」

「おおー!」

「お疲れ様でした!」

「お疲れ様」

 

 ボーダー本部内ラウンジにて。

 B級ランク戦が今シーズンも無事に終わりを迎え、木虎隊の打ち上げの最中であった。

 三上の掛け声と同時に乾杯が行われる。三か月という長期にわたる戦いが終わったのだ。皆解放感にあふれ、笑顔が満ちている。

 

「まさか半年でここまで来るとは思わなかったわ」

「今シーズン途中まで中位を維持するのが精一杯でしたからね」

「でも木虎ちゃんのスパイダー登場から随分と流れが変わったよね」

「初めて上位入りしたのもあの頃のはずだったし」

 

 特に今回は目標となっていたB級3位という上位グループ入りを果たしたのだから余計に達成感が強かった。

 木虎隊が結成されてから半年。これ程のスピードでランク戦を駆け上がっていくことは誰にでもできる事ではない。過去の記録を見てもすでにA級に名を連ねるチームの幾つかが当てはまるくらいだろう。

 

「あわよくばA級挑戦権も得られたんですけどね。惜しかった」

「そうは言っても壁が厚いから仕方ないわ。聞いた話だと、弓場隊も生駒隊も今回の昇格は見送りになったそうよ」

「えっ。嘘」

「あの2チームでも駄目だったんだ」

「ビックリね。特に弓場隊は点差もあったから昇格すると思っていたのに」

 

 本当ですよと木虎が頷く。木虎隊は3位に終わったが、B級1位と2位にはA級への昇格試験を受ける資格が与えられるのだ。今回のシーズンでは一位の弓場隊ならびに二位の生駒隊に資格が認められたが両チームとも昇格を果たすことは出来なかった。やはりA級への道は長く険しいのだろう。ランク戦で戦い、二チームの実力を知っているだけあって、皆驚愕を隠せなかった。

 

「まあ私達だって決して負けているとは思っていないわ。近・中・遠距離全てに対応できるチーム編成だし、得点力だって上の二部隊にだって匹敵するはずよ」

「おお。さすが後半戦チームトップの得点源」

「発言が違うね」

「頼りになるわね」

「……別にそんなつもりじゃ」

 

 おだてられた木虎がそっぽを向くのを見て、3人が面白そうに笑う。

 そう。副が言ったようにシーズンの後半戦は木虎が隊内での最多得点を記録していた。副と連携しての銃撃戦は勿論、スコーピオンによる得点が伸びた点が非常に大きい。隊長としての指揮能力もあって、他の隊にとって最大の脅威となっていた。

 

「実際木虎先輩がスコーピオンで活躍できるようになって副の負担も減ったから助かったよ。スパイダーで副の得点も伸びたし」

「うん! 個人的な目標も達成できた!」

「そういえばそれもこの前のランク戦の時だったね。おめでとう」

「ありがとうございます!」

 

 副が笑顔で頭を下げた。

 彼の語る個人的な目標、すなわち『万能手(オールラウンダー)』になる事だ。ランク戦を終えて副の個人(ソロ)ポイントはアステロイド:6521、メテオラ:3848、スコーピオン:6102。ガンナー用トリガー(アステロイド)アタッカー用トリガー(スコーピオン)の両方が6000ポイントを超えた事で万能手(オールラウンダー)を名乗る事が可能になったのだ。

 

「上位入りを果たした時より喜んでいたもの。ひょっとして入隊した時からずっと目指していた?」

「——そうですね。ええ、最初から目標にしてた事でした」

「そうだったの。よかったわね」

「はい!」

 

 事実彼にとってはある意味チームの躍進と同じくらい嬉しいことだ。一つのスタートラインに立てたと言っても過言ではないのだから。攻撃手(アタッカー)として伸び続ける事は簡単ではなかったが、今となってはこれまでの道のりも思い出のようなもの。

 

「やっぱり自信がついた?」

「もちろん。今なら桐絵さんと戦っても勝ち越せそうだよ!」

 

 絵馬のフリにそう上機嫌で応える副。念願の称号を得た喜びがそれだけ大きなものという事なのだろうが。

 

「あらそうなの。じゃあ試しに今から()りましょうか?」

「へっ?」

 

 だからこそ彼は背後から近づいてくる影には気づけなかった。

 

「……き、桐、絵、さん?」

「ええ。久しぶりね」

「よう。上位入りおめでとう」

「鳥丸さんも!?」

 

 恐る恐る振り返る。そこには小南と鳥丸が立ち並んでいた。

 

「副に打ち上げやるから顔出ししてもらえないかって頼まれてな」

「えっ!?」

「……木虎さんがご指導を受けていたと聞いたので。だから鳥丸さんは呼んでいましたが、桐絵さんはどうして本部に?」

「ああ。俺が一緒に来てくださいって呼んだ」

(どうして!?)

 

 鳥丸の説明に木虎は感激し、副は頭を抱える。鳥丸は本部所属の隊員だ。玉狛支部の小南とは特に関係があるとは聞いていない。それなのになぜ、と理解が及ばなかった。

 

「直接見る事は出来なかったが随分と活躍したんだってな。話は聞いてるぞ」

「いえいえ。まだまだです!」

「あんたも随分と成長したみたいね。あんな事を言えるくらいになるなんて」

「……ええっと! どうしたんですか鳥丸先輩! 桐絵さんも一緒だなんて何かあったんですか!?」

 

 隣の椅子に腰かけると鳥丸は指導した木虎の健闘を称え、小南は皮肉交じりに副をいじり倒す。これには木虎は緊張し、副が逃げるように鳥丸に話を振った。

 

「ああ。小南先輩を呼んだのは、お前にも少し関係する事だからな。言っておこうと思った」

「え? 俺に?」

 

 鳥丸の説明を受けても話が読めない。どういうことですか、と問うと鳥丸は一つ息を吐いて話を続けた。

 

「実は来月から俺は玉狛支部に移る事になった。小南先輩と同じチームになる」

「ええっ!」

「ッ!!!!????」

「そうなの。今の防衛隊員二名態勢だと不便な時もあるし、迅は別枠だし」

「玉狛支部ならランク戦にも参加してないから俺のバイトの都合もつけやすい。渡りに船だった」

 

 二人の説明に副も木虎も衝撃を禁じ得ない。特に木虎は受け止めきれず硬直していた。

 

「玉狛支部。……そういえばオペレーターも変わるって話じゃなかった?」

「ええそうよ。風間隊の宇佐美ってオペレーターが技術部門にも通じているって事で異動になったわ」

「年末だからですか? かなり人事異動起きてますね」

 

 絵馬が思い出したように呟くと小南が補足する。本部から支部への異動とは珍しい話だった。新年に備えて、という事なのだろうか。副は首をかしげる。

 

「風間隊……」

「三上先輩? どうかした?」

「ううん。何でもない」

 

 すると絵馬の発言に三上が反応した。何かあったのか絵馬が問い返すが彼女は首を横に振り、話はそこで終わる。

 

「そういえばさっき話した弓場隊もチームが分裂するとか聞いたような……」

「ええっ!? 弓場隊が解散ですか!?」

「いいえ。弓場隊自体は残るわ。でも王子先輩が自分の隊を作ると噂になってるの」

「じゃあ王子隊として新たにB級チームが結成される?」

「王子先輩達がB級下位チームと戦うなんて想像できないな」

「元が現B級一位だものね」

 

 だが鳥丸達だけではなかった。木虎がボーダー隊員内で耳にした噂を思い返す。

 現在弓場隊は4人の防衛隊員のチームだが、そのうち王子・蔵内が脱退して新たな部隊を作るというのだ。これは下位チームにとっては嫌だろうなと皆表情を曇らせる。

 

(でもそっか。チームとは言えど完全に固定というわけではないもんな)

 

 様々な話を聞き、副は天井を見上げながら物思いにふけった。

 木虎隊は元々副が声をかけて隊員で構成された部隊。それがなければ別チームとして今一緒にいる事もなかったかもしれない。

 正直考えたことはなかった。しかし、皆それぞれの目標や考えがある。特に今回のランク戦で十分な結果を残す事が出来た。結成当初に木虎が語っていた活躍を示している。

ならば更なる飛躍を皆が、他の人が目指す可能性だって否定しきれない。自分たちにもそういう別れはあるのかもしれない、と一人考え込んでいた。

 

 ちなみにこの後小南とランク戦(個人ポイントの移動はなし)はしっかり行われた。一本も取れなかった。

 

 

————

 

 

「た、ただいまー」

 

 小南とのランク戦を終え、帰宅した副。

 倒れるように居間の椅子に横になった。

 

「よう副。おそかったな。打ち上げ楽しめたか?」

「兄ちゃん。うん。皆と楽しく話してきたよ」

 

 兄である嵐山が話しかけてくる。

 『最後、桐絵さんにボコボコにされたけど』とは言えなかった。

 返事を聞いた彼はそうかと短く呟くと、足元の方の椅子に腰かける。

 

「B級上位入りおめでとう。正直お前がここまで伸びるとは思っていなかった」

「……なんだ。信じてなかったの?」

「いやいや。ただ俺の予想以上より早かった、ってことさ」

 

 不機嫌そうに頬を膨らませた弟の姿を見て、嵐山は訂正するように両手を振った。

 そして複雑な笑みを浮かべる。

 本当は戦いの場に来てほしくはなかった。だが今こうして自分の、自分たちの力でここまで成長した弟ならば。兄としてではなく隊員として、隊長として話す事もできるのではないかと結論に至る。

 

「なあ、副」

「ん? どうしたの?」

「話がある。大切な話だ」

 

 普段よりも真面目な響きが感じられた。本当に大切な事なのだろう。副は起き上がり、兄の話に耳を傾けた。

 

 

————

 

 

 そしてここから数日後。

 ランク戦も終わった事で隊員たちは普段通りの任務に戻っていく。

 

「……ねえ副」

「ん?」

 

 そんな中、狙撃訓練を観察していた副に絵馬が。

 

「木虎ちゃん。少し相談があるの」

「え? どうしました?」

 

 お互い書類整理をしてる際に三上が木虎にある事を打ち明けた。

 

 

 同日、防衛任務を終えた後、木虎隊の面々が作戦室に集結する。

 

「どうしました、木虎先輩? 話があるって言っていましたけど」

 

 真っ先に副が呼び出し主である木虎に問いかけた。

 普段ならわざわざこのような招集をかける事はない彼女だ。きっと何かあったのだろうと判断して隊長の返事を待つ。

 

「ええ。実は三上先輩の事で少し話があるの」

「三上先輩?」

「うん。木虎ちゃん、ここからは私が話すね」

「わかりました」

 

 すると視線が三上へ向けられた。話題が自分へと移った事で三上が木虎の跡を引き継ぎ、話し始める。

 

「実はこの前、風間隊の隊長である風間さんから声をかけられたの。『オペレーターの宇佐美が玉狛へ異動になった事でオペレーターの隊員が空いた。うちに来る気はないか?』って」

「ッ!」

「風間隊」

「A級の部隊よ」

「前任の宇佐美先輩とは中央オペレーター時代に一緒に仕事をした事があったの。その宇佐美先輩からの推薦があったみたい」

 

 木虎の補足を受け、三上がさらに説明を付け加えた。

 風間隊は精鋭と呼ばれるA級部隊の一角。以前、木虎隊も戦ったランク戦で解説を務めていた歌川が所属する部隊でもある。

 おそらくは宇佐美だけではなく彼の推薦もあったのだろう。カメレオンを使う部隊を相手に一歩も引かずに補佐を続けたという実績が三上にはある。風間隊はカメレオンを多用する隠密行動が主流の部隊だ。こういった経験は貴重とされているはずである。

 

「なるほどね」

「わかりました。それで三上先輩のお考えは?」

「……ありがたい話だと思ってる。A級部隊からの紹介なんて滅多にあるものじゃない。皆と一緒で組んだ部隊は私にとっても初めての部隊。大切な関係だから悩んだんだけど」

 

 そこで三上は話を区切る。

 先を言わなくても副も絵馬も彼女の心境を悟った。先輩からの抜擢、精鋭部隊の隊長直々の誘いを受けたとなれば当然の事だろう。

 

「そうですか。なら、俺達の方も話した方が良いかな」

 

 だから、同じ悩みを抱いていたというのならばこちらも打ち明けた方が良い。そう考えて副は三上の話に割って入った。

 

「えっ?」

「副君?」

 

 思いがけぬ彼の言葉に二人が疑問を呈する。

 

「実は、俺達の方からも話しておかなければいけない事があるんです」

「……俺の事でね」

 

 そう口にして視線を絵馬に向けた。その仕草に小さく頷き、絵馬も一つ息を吐いて語り始める。

 

「実は俺も他の部隊から声をかけられていたんだ。相手は影浦隊のオペレーター。うちに来るなら歓迎するって」

「影浦隊って……」

「はい。俺がスコーピオンを教わった影浦先輩の部隊です」

「という事は絵馬君もA級の部隊から声をかけられたという事?」

 

 木虎の質問に絵馬が首を縦に振った。

 今度は三上たちが驚く番だ。三上が風間隊から指名されたと聞いただけでも大変な事と考えていたのに、さらに絵馬まで他の隊から名指しで呼ばれていた。

 B級の一部隊にここまで注目が集まる事は滅多にない。木虎隊が半年で上位入りしたという事がここまで他の部隊に影響を及ぼすとはさすがに想定していなかった。

 

「副にはもう話してあったんだけど、俺はこの話、受けようと思っている」

「……元々ユズルは師匠の力を認めさせたいという思いがあったんです。A級部隊入りを果たせたというのならそれも十分な成果のはず。だから俺からも受けるべきだって話しました」

「そうだったのね」

 

 同期のチームメイトが力を認められ、目標を達成しようとしている。複雑な感情はあったはずだ。だが副はそれを後押しした。

 年少のチームメイトたちが知らぬ所でここまで考え、そして悩んでいた事に気づけなかった事が少し悔しい。同時に自分よりも上へと行ってしまう事が少し羨ましくも思えた。

 

「——わかったわ」

 

 だが隊長という自覚がある。木虎は大きく息を吐き、二人の意志を尊重しようと考えた。

 

「私も同意見よ。三上先輩も絵馬君も、よりよい環境に行けるというのならそうするべきだと思うわ」

「……うん」

「ありがとう」

「部隊が変わったとしても同じ本部所属だし、会えなくなるという訳でもない。任務でまた一緒に戦う事もあるでしょう。それなら二人はA級に行ける機会を逃すべきじゃないわ」

 

 A級の部隊に行けるチャンスは限りなく少ない。そうでなくても弓場・生駒隊が昇格を果たせなかったという話を聞いたばかりだ。余計にその困難さを理解している。

 だから仲間が今それを果たそうとしているのなら応援したい。木虎は心の底から思えた。

 確かに三上と絵馬、優秀なオペレーターと狙撃手がいなくなってしまうのは戦力としても心境としても厳しいものがある。だがまだ隊長である自分とこの4人を集めてくれた副がいるのだ。ここからまたスタートを切る事もできるだろう。

 

「私たちの事は気にしないで。確かに寂しいけど、私と副君でまた——」

「あ、木虎先輩。すみません。実は俺からも同じ話題で言わなければならない事があります」

「————はっ?」

 

 非常に良い事を言おうとして、再び副が彼女の言葉を中断させた。

 待って。待って。本当に待って。

 木虎の中で時間が止まる。

 同じ話題。つまり副もまた他の部隊への異動に関する話、という事だろう。

 

(えっ。嘘でしょう?)

 

 信じたくはない。だがありえない話ではない。そうでなくても彼はあの有名な嵐山准の弟なのだ。話題性が最初からあった上にランク戦で上位に登り詰めた事でその力も示せた。他の部隊から声がかかってもおかしくない。

 しかし、待ってほしい。

 すでにこの時点で絵馬、三上が引き抜かれた状況だ。それでも連携ができる彼という存在がいればまだ何とかなると思っていたのに。

 B級上位にまで上り詰めた部隊が、隊長である自分を残して皆違う部隊へ? そんな事があるというのか。

 

「実はこの前兄ちゃんと話をしたんですけど」

「ちょっと待って!」

「はい?」

 

 やっぱり。予想通り。

 どうして嫌な予感ばかり的中してしまうのか。思わず木虎は声を大にして彼の話を無理やりやめさせた。

 兄ちゃん、つまり嵐山准。嵐山隊・隊長の誘いという事。

 いつかこの時が来るのではないかと思っていた。そもそも兄が率いる嵐山隊に彼が入らなかった事が驚きなのだ。当時は嵐山隊が戦闘員4人という状態だったために人員の都合か、と勝手に納得していた。だが今はそのうち柿崎隊員が脱退したため戦闘員3人と一人の枠が空いている。

 そんな中、弟の所属する部隊がB級上位入り。なるほど、非常に良いタイミングだろう。

 隊長を残して皆A級へ行ってしまうのか。いや、隊長である自分が今さら彼だけ引き留める事なんてできない。

 悩む事5秒。何とか泣かないように木虎は決意を固めた。

 

「……ごめんなさい。大丈夫よ。話を続けて」

 

 いつも通り笑えていると木虎は自負する。だが彼女は知らない事だが口元はヒクついていた。

 

「はい。じゃあ続けます。打ち上げの後に話をしたんですが。——木虎先輩、あなたに嵐山隊に入って欲しいとの事でした」

 

 しかし、副は嵐山隊が木虎の部隊入りを願っていると伝える。この説明に絵馬も三上も目を丸くした。

 

「えっ」

「木虎ちゃんに!」

「わかったわ。副君もお兄さんの部隊からの勧誘となれば余計に思いは強いでしょう。私の事は気にせず――」

「はっ?」

「あの、木虎ちゃん? 多分勘違いしてるよ」

「木虎先輩。副は木虎先輩が嵐山隊に誘われたって言ったんだよ」

「お兄さんと一緒の部隊でこれからは——えっ?」

 

 一方、もはや嵐山隊の話が副の事だとばかり決め込んでいる木虎は話をすぐに理解できない。心境を隠そうと早口でそう返答していた。

 三上と絵馬に諭される事でようやく話の主題が自分であると知る。

 

「嵐山隊にって、私が!?」

「はい」

「どうして。だって勧誘されるなら私よりもあなたの方じゃ?」

「どうやら嵐山隊はA級のランク戦で伸び悩んでいるようです。兄ちゃんが言うには点を取れるエースがいないって。だからスパイダーとスコーピオンを使う事で一気に得点が増えた木虎先輩を指名したんじゃないですか?」

「確かに。そういうチーム事情なら木虎先輩が理想的かもね」

「木虎ちゃんはサポートや部隊指揮、事務作業も上手にこなしているから嵐山隊でも上手くやっていけそう」

 

 副の説明に絵馬や三上まで納得し、視線を木虎へと向けた。

 間違ってはいない。確かに木虎はランク戦後半から戦い方を変えた事で活躍し、快進撃の原動力となった。彼女も自分の力に自信を持てるようになっている。

 しかし仲間の兄の部隊に、その弟ではなく自分が選ばれるという事にはどうしても抵抗があった。そうでなくても自分まで離れてしまえばこのチームを作ってくれた彼だけが残されてしまうというのに。

 

「……副君。あなたはそれでいいの?」

 

 恐る恐る木虎は副に問いかけた。

 

「木虎先輩なら何も文句はありません。それに……」

「それに?」

「実は俺にも根付室長から誘いがあったんです。今度新しく作るチームに参加する気はないかと」

「根付室長って、テレビに出てるあの人?」

「そう」

 

 根付とはメディア対策室長の事だ。嵐山隊を報道陣に対応させた人物でもある。この根付が今度入隊する隊員でチームを結成するにあたり、嵐山准の弟としての知名度が見込める副を勧誘していると彼は話した。

 

「そうだったのね」

「なるほど。それじゃあ皆別々の所から声がかかっていたんだ」

「そうなるね」

「ええ。だから——半年。俺達が木虎隊としてチームになって半年。あまり長いとは言えないかもしれないですけど。ここを新たなスタートとするべきかもしれませんね」

 

 副が絵馬に声をかけ、三上を誘い、木虎を隊長として迎え入れた事で結成された木虎隊。

 今4人がそれぞれ別々の道を歩もうとしている。皆より高い目標を叶えたいという思いも強い。

なら、一度道を分かつ事は必要な事なのかもしれない。

 

「そうかもね。……じゃあ、来月。もう来年ね。一月からは皆違う部隊として戦う。それでいいかしら?」

 

 だから木虎が確認の意味を篭めて3人に意見を求めた。3人は無言でうなずく。

 木虎にも向上心がある。もっと上を目指したいという考えがあり、その機会が目の前に迫っているならばつかみ取りたかった。

 

「それじゃ、この作戦室は一月が終わるまでに荷物整理する、という事でよろしいですか? B級ランク戦が始まるのも2月ですから」

「そうね。新しい部隊への荷物移動とかもあるからそれが良いかも」

「あっ。それじゃあ木虎先輩達は今から其々の部隊に異動を決めた事を話しに行った方がいいんじゃないですか? せっかく決めたのに、他の隊員にまで声をかけてたらヤバいですよ?」

「あ、確かに」

「返事は先延ばしにしていたからね」

 

 副の提案に皆頷く。A級の部隊が人員を探しているとなれば競争率は高い。他の隊員に先を越されてしまっては元も子もないのだからすぐ動くべきだろう。

 

「それじゃあ私と三上先輩、絵馬君は返事を伝えに行きましょうか。副君はどうするの?」

「俺の方はそもそも隊員も揃ってないですし問題ないですよ。早速片付けられる荷物を片付けておきます」

「そう? じゃあ行ってくるわね」

 

 こうして木虎、三上、絵馬の三人は作戦室を後にした。木虎は嵐山隊、三上は風間隊、絵馬は影浦隊の作戦室へと向かっていく。

 

「ふう」

 

 一人、静かになった作戦室で副が一息をついた。

 

「——すみません木虎先輩。ちょっと、嘘をつきました」

 

 部屋を去った木虎についた一つの嘘。本当の事を全て話せなかった事を謝罪する。

 

「でも本当の事を話したら木虎先輩も悩んだだろうから仕方ないですよね」

 

 ただ全ては木虎の為だった。だから許してほしいと笑みをこぼす。

 

「あーあ」

 

 副は木虎隊を結成してからの半年間を一人思い返していた。

 最終的には上位入りを果たしたとはいえ決して順風満帆だったという訳ではない。

 中位グループで大敗した時もあった。

 様々な師匠の教えを受けながら技を活かせない時もあった。

 次々と対策を打たれてどうすれば良いかわからず悩んだ時もあった。

 

「——楽しかったな」

 

 でも、半年間最後まで戦い抜く事が出来た。

 三上の支えがあって。

 絵馬のフォローがあって。

 木虎の連携があって。

 自分も、少しは力になれたと、思う。

 

『話がある。大切な話だ』

 

 突如脳裏に以前兄とかわした会話が浮かび上がった。

 

『——副。嵐山隊に入らないか。俺のチームで一緒に戦おう』

『嫌だよ』

 

 木虎が語っていた通り、嵐山は当初副に誘いをかけていたのだ。だがそれを副が即座に断っていた。

 

『俺が入ったら絶対兄ちゃんは俺を守ろうとする。それにそれじゃあ兄ちゃんとは戦えないじゃん』

『そうか。うん、そうだな』

『……兄ちゃん。人員の事、少し相談があるんだけど』

 

 嵐山の本質は家族を守る事にある。だから自分が入ればきっと弟を守ろうと躍起になると考えたのだ。そうなってはA級の隊長としての務めを果たしきれるかわからない。何より、副の目標である兄を超える事が叶わなくなるから。故に副の方から嵐山へ木虎を推薦したのだ。彼女ならばきっと自分よりも立派にA級の隊員として活躍できると思うから。

 

「兄ちゃんを頼みますよ、木虎先輩。ユズル、お前の狙撃の腕は本物だから鳩原先輩の腕を皆に認めさせてやれ。三上先輩、風間隊ならカメレオン関連で仕事増えるでしょうけど俺達をサポートしてくれた力があれば大丈夫です」

 

 誰もいない部屋で、先ほどチームメイトに言えなかった声援を送った。

 こうしてB級3位まで上り詰めた木虎隊はこれから別々の道をたどっていく事となる。




さらば、木虎隊。

今月のワートリを見終えた星月「——楽しかったな」
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