この素晴らしい世界に道連れを!   作:ユアシアン

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3話 弱点がわかったからには 2

 街の門をくぐって開放感溢れる草原にきゅーちゃんを連れて出た私は、思いっきりその空気を吸い込みます。

 

「すぅ~…………………はぁ~…………………んー! やっぱりこういう場所での空気は美味しいねー!」

「おい」

「やっぱりさ、体力作りと言ったら走り込みだと思うんだよね!」

「おい準備体操始めるな聞け」

「わたしもさー、この世界に来てから運動はクエストくらいしかやってない気がするし、こういう機会を見つけられて良かったよ」

「おいって」

「じゃー、まずは街の城壁を一周しようか。 ここら辺なら殆どモンスターもいないらしいし、大丈夫だよね」

「いやだから人の話を……今なんて言った?」

「城壁をいっし」

「何キロあると思ってんの!? 10キロはくだらないよ!?」

「あ、そんなもんなの? じゃあ余裕余裕! 頑張ろー!!」

「…………帰りたい」

 

 もー、さっきからうるさいなー。

 私はやる気満々だと言うのにきゅーちゃんはやる気なさげです。

 

「きゅーちゃん! 私はきゅーちゃんのためにこうやってトレーニング方法を考えてきたんだよ? トレーニング好きじゃないのはわかるけど、もう少し感謝とかしてくれてもいいんじゃない?」

「別にトレーニングは嫌いじゃないよ。 剣の腕磨くのとか好きだし。 ……でも体力作りとかは……格好良くないし…………」

「はーい、選り好みしないの! とりあえず準備運動して、ゆっくりで良いから走ろっ!」

「………………」

 

 観念したのか、きゅーちゃんは黙々と準備体操を始めます。 うんうん! えらいえらい!

 

「そういえば、何時の間に着替えたの?」

 

 腕を伸ばすストレッチをしながら、きゅーちゃんは私にそんなことを聞いてきます。

 そう。 私は今きゅーちゃんと集合した時に見せたワンピースではなく、アンダーウェアにスパッツと言うスポーティーな格好になっています。

 

「普通に門出たらすぐに着替えたよ。 正確には着替えたんじゃなくて脱いだんだけどね。 ワンピースの下に着てたんだ~」

 

 ちなみに脱いだ装備一式は朝に買った荷物入れ(ナップサック)に詰めています。

 

「……最初から走る予定だったなら別に着て来なくても最初からその格好でよかったんじゃ?」

「……はぁ~」

「なっ!?」

 

 やっぱりこの子はお子ちゃまだなと再認識して、ため息を吐きます。

 まったく、解ってないなぁこの子は……

 

「そんなの、きゅーちゃんに見てもらいたかったからに決まってるでしょ」

「え!? あ、あぁそう…………そっか…………」

 

 きゅーちゃんはなんだか照れくさそうに頬を染めて(ギリギリ見えます)、仮面の先っぽをつまんで少し下げます。

 まったく、当たり前じゃないですか! パーティーメンバーにちゃんと装備揃えたよ~って報告するのは、パートナーとして当然の事です! 丸腰で不安なのは私だけじゃなくて、背中を預けるパートナーもそうでしょうしね。

 さーて、身体もほぐれて温まってきた事ですし、そろそろ走りましょうか!

 あ、その前に……

 

「走るのに邪魔でしょ。 仮面は預かるね」 

「え? あッ!! ちょ、こら、返せ!」

「欲しかったら捕まえてごら~ん!」

「ちょ、逃げんな! 返せ、いや返してください! ねお願い! 外でも見つかるかもしれないんだから! ね、待って! ま……待てコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 大切なものを奪われた怒りの咆哮轟かせ、きゅーちゃんきゅー加速!

 そんなわけで、きゅーちゃんのスタミナ不足解消のための特訓が始まったのでした。

 

 

 

 正直、侮っていました。 まさかこれ程とは思っていませんでした。

 始まって1分。 なんと1分。 たった1分できゅーちゃんはばててうつ伏せに倒れてしまいました。

 いや、確かにふざけてほぼ全力ダッシュで鬼ごっこなんて事をやってしまいましたが、いくらなんでも早すぎませんか!? ぶっちゃけこんなの小学生のお遊びレベルでしょ!?

 

「ちょ、きゅーちゃん大丈夫!?」

「きゅー…………」

「クッソ可愛い声出すなオイ! もうこれスタミナとかそんな問題じゃない気がしてきた……」

 

 とりあえず城壁の傍まできゅーちゃんを運んで寝かせます。

 仮面を外したその顔はやはり青白く、少なくとも健康そうには見えません。 ぶっちゃけると病院のベッドが凄く似合いそうな雰囲気があります。

 

「これもうもやしっこって言うか病人なんじゃ……」

「……はぁ、はぁ……失礼な事言うなし。 ……少し休めば大丈夫だし」

「わかったわかった。 んー、走り込みが難しそうなら、次は腕立てとかにしようか」

「えー…………」

「えー言わない! 少し休んだらやるよ!」

 

 文句を言うきゅーちゃんを黙らせ。 次の特訓を決めます。

 ネクストレッスン、腕立て伏せ!

 

 

 

 覚悟はしていたんです。 なんとなく解ってはいたんです。 1分走った程度で倒れるきゅーちゃんを見て、きっとこれもあまり出来ないんだろうなぁと。

 でもまさか10回で倒れるとは……

 

「次!」

 

 ネクストレッスン、腹筋!

 

 

 

 悟ってはいました。 でも目の当たりにすると頭を抱えたくなりました。

 出来た回数。 10。

 

「次ッ!!」

 

 ネクストレッスン、背筋!

 

 

 

 知ってた。

 出来た回数。 8。

 

「次……」

 

 ネクストレッスン、スクワット!

 

 

 

 うん。

 出来た回数。 20。

 ……褒めた方がいいんでしょうかこの回数は。

 

「………………」

 

 ネクストレッスン…………いやもう思い浮かばないです。 私運動部所属じゃないですし。 帰宅部でしたし。 健康と美容の為に運動はよくしていましたが、基本ランニングだったんですよねぇ。 田舎町は走りやすいので。

 さーてもうこれどうしたもんでしょうかねぇ……。 私はスクワットでばてたきゅーちゃんを見下ろします。 うーん、まさかここまでとは…………ていうか今までマント着ていたせいで解りづらかったんですけど、きゅーちゃんの身体の細さはやばいです。 瑞々しい張りのある肌なので枯れ枝なんて表現は浮かび上がりませんが、それでも触ったらポッキーしてしまいそうな程です。 ここまで華奢とは……ん? でも、アレ?

 

「こんなに非力で弱弱しいのになんでカエルをあんなバッサバッサと倒せたの?」

「……もうそれ完全に喧嘩売ってるよね? そろそろ本当に喧嘩しようか? ……僕の剣のおかげだよ」

「ん? あー、そのファルシオン……だよね? その剣がどうかしたの?」

 

 私が聞くと、きゅーちゃんは左手で腰に下げていた剣を抜き、右手でその刀身の腹を滑らかに撫でながら、その赤い瞳を輝かせ、

 

「我が剣の銘は『エクスマギカ』。 我が愛剣にして我の半身……その切れ味は山を裂き、天を割るとも言わ」

「そういうのはいいから普通に教えなさい」

「僕の魔力をそのまま物理的な攻撃力に変換してくれる僕専用のオーダーメイド剣」

 

 なにそれチートじゃないですか。 つまり魔術師の通常攻撃が前衛職レベルになるって事でしょ? えー……なんで私よりきゅーちゃんの方がチートなもの持ってるんですか……。

 ……わたしも魔力そこそこ高いし、今度ちょっと使わせてもらおうかな?

 

「言っておくけどこれ僕の魔力にしか反応しないようになってるからツミレが使っても意味ないよ」

「ホントチートだね……」

 

 ずっこいなー。 私もそういうの欲しーなー。 まぁ前衛を主にする気はないので、いいっちゃいいんですけどー。

 

「て言うかこの剣物凄く高そうに見えるんだけど。 全体的な装飾も結構煌びやかだし。 オーダーメイドって言ってたから伝説の剣ってわけじゃないのかもしれないけど、え、幾ら位するのこれ?」

「んーっと……だいたい300万くらい」

「さっ!? きゅーちゃんの実家って実は凄くお金持ち!?」

「いや、凄く貧乏だよ。 主に父のせいで……。 でも僕は自分で稼ぐ方法を知っていたから、武器とか身の回りの物を用意するお金は問題なかったよ」

 

 そっかー…………ん? 身体の弱いきゅーちゃんがお金を稼ぐ……? でもアルバイトなんで出来ないでしょうし…………え、ま、ま、まさか!?

 私は勢いよくきゅーちゃんの肩を掴みました!

 

「ダメだよきゅーちゃんそんなことしたら! 確かに一部の人には需要があるかもしれないけど、そんな事をしたらダメだよ!」

「ええっ!? 何急に!? や、まぁ、確かに微妙にグレーだったかもしれないけど、道具屋のおじさんも、希少だからって喜んでたし……」

「おじさん!? 希少!? 喜ぶ!? グレーどころか真っ黒だよ! ああぁぁ……なんてこと……きゅーちゃん、こんなにも純粋そうに見えて、既に汚されてしまっていたのね……そのおじさんの手によって!」

「ごめん何の話か全く見えてこないんだけど、そのおじさんとっても良い人なんだよ? 初めての時だって、優しく教えてくれて、色だって付けてくれたし」

「もういい! もういいのよきゅーちゃん! 辛かったでしょう? 痛かったでしょう? でも大丈夫だよ。 今は私がついているからね! 一緒に頑張っていこうね! でもよければその初めてのときの内容を詳しく!」

「学校で好成績を収めたらもらえるスキルアップポーションっていう高価なアイテムを道具屋さんに売ってたんだよ。 学校から貰ってる物だから、正直後ろめたかったけど、道具屋のおじさんは喜んで買い取ってくれて、どの位の価値があるのかも教えてくれたの」

 

 ………………………………………………。

 

「なぁーんだつまんないの! 心配して損しちゃったよ、もう!」

「ねぇ今の会話でそんなに心配になる要素ってあった? 確かに僕が大金を短期間で手に入れるなんておかしいとは思うかもしれな……おいちょっと待て。 ねぇ、まさか僕が身売りしたとか思ったのか? 僕がおじさんに自分の身体を売っているとか思ったのか!? なぁそう思ったのか!? おいどうなんだよそっぽ向いてないで答えろ! おい!!」

 

 赤い眼光を強くし(あれ、なんか物理的に光ってないこの子の眼?)、真っ青な顔で問い詰めてくるきゅーちゃんの頭を押さえて進行を阻みながら、私は思います。

 冒険をするためにそこまで苦労していたんですね。 あんなにも体が弱いというハンデを自分なりに補おうとして、身の回りのものを売って高い剣を購入したり。

 ……ん? あれ、というかそもそも……

 

「ねぇきゅーちゃん。 なんできゅーちゃんは魔剣士なんて前衛職を選んだの? きゅーちゃんがあそこまでの攻撃力を叩き出すって事は、きゅーちゃん相当魔力が高いんだよね? 後衛職じゃダメだったの?」

「え? ……ええっと、それは………………」

 

 私がふとした疑問をぶつけると、きゅーちゃんはそんなことを聞かれると思っていなかたっと言う様に面食らった顔を見せ、次に何故か気まずそうに目を逸らします。 うん? どうしたんだろ?

 私は怪訝に思い、きゅーちゃんにもう一度聞こうとします。 

 そんな時でした。

 

 

 

「きゃああああああああああああああああああああああああッ!!!」

「「ッ!!?」」

 

 

 

 どこからか突如、悲鳴が聞こえたのです。

 甲高い、女の子の声でした。

 

「こっちだ!」

 

 きゅーちゃんはそう言って悲鳴のした方角へ駆け出します。 あぁコラ! そんなに全力で走ったらすぐにばバテるでしょうに!

 

「もう! バカッ!」

 

 私は悪態つきならその後を追います。 ……いや、追いつけない! 速ッ! きゅーちゃんはっや!? カエルの時もそうでしたが、きゅーちゃんって凄く足が速いみたいです。 剣のおかげかと思ってましたが、冷静に考えると攻撃力は関係ないし、アレは恐らくきゅーちゃんの地力でしょう。

 私と追いかけっこした時は本気じゃなかったということか……。

 全力で走る事で何とか見失わないでついて行くとこと数十秒。 立ち止まったきゅーちゃんの目線の先には、ジャイアントトードがとても綺麗な金色の髪をした女の子を襲っていました。 巨大カエルは大口を空けて前かがみになり、今にも丸呑みしそうな体勢です。

 

「く……くるな! 来るなぁ!!」

 

 金髪の女の子は、服装から見てプリーストでしょうか。 手に持ったメイスを振り回しながら懸命に威嚇していますが、カエルは気にも留めずにそのまま女の子にさらに迫ります。

 ヤバイここからじゃもう間に合わない! いや、でもきゅーちゃんの魔法なら!

 そう思ってきゅーちゃんを見ようとした、その瞬間――――ドッ! というおおよそ地面を蹴ったとは思えない音と共に、きゅーちゃんは女の子目掛けて駆け出しました。

 

「ッ!? ちょ、きゅーちゃっぷっ!?」

 

 何今のスタートダッシュ!?

 きゅーちゃんの脚力で舞い上がった爆風と粉塵に反射的に腕で顔を覆います。

 風は5秒もなかったでしょう。 私が腕を下ろすと、そこには頭を失ったカエルと、その惨状に腰を抜かしたままの金髪の女の子。 そして、

 

「あぁ、やっぱり…………」

 

 まるで後ろから撲殺された死体みたいに格好悪く倒れている、仮面(未装備)の英雄様がおりました。

 ホントカッコつかない子だなぁ……

 私は苦笑しながら、英雄様を運ぶ為に近くに寄って顔色を伺います。

 ……うん。 やっぱり目を回りしてる。 まぁこの子はしばらく休ませればいいとして……

 

「あの、大丈夫? 怪我は無い?」

 

 私はへたり込んでいる女の子に大事はないかと声を掛けます。

 改めて見ると、年は私ときゅーちゃんの間くらいでしょうか。 とても綺麗な金色の髪をアップのツインテールにし、長い後ろの髪を一本に結った、スリーテールとでも言いましょうか、特徴的な髪型をしています。 服装は一見修道服に見えましたが、スカートはスリットの多いかなり動き安そうなデザインで、剣を持っていても違和感が無さそうです。 やや釣り上がった碧眼は、勝気な雰囲気がありなますが、それはむしろ何処かお姫様のような気品なものすら感じます。

 総じて、何処かの貴族のお嬢様に見えました。

 そして、そのお嬢様(仮)は私の声掛けで放心状態からハッと回復し、私の顔を見るやいなや、何故か恨めしそうな顔をして、

 

「……………………たのよ」

 

 何かをポツリとつぶやきました。

 

「え?」

「なんで……」

 

 お嬢様(仮)は立ち上がって、

 

 

 

「なんで邪魔したのよ!! 私がこれから倒すところだったのに!!!」

 

 

 

 私に向かっていきなり怒鳴りました。

 ええぇ何この娘…………助けたのに(私じゃないけど)何で怒ってるの。

 

「え、いや、でも明らかに食べられそうだったよね?」

「は、はぁ!? 誰がよ! 私が果敢にカエルに対峙しているところを見ていなかったわけ!?」

 

 果敢にって言う言葉を辞書で調べて来いと言いたくなりましたが、年下(おそらく)相手にそれは大人気ないのでぐっと言葉を飲み込みます。

 あれは誰がどう見ても追い回してくる犬を棒で牽制する子供っぽく見えたけど……まぁ当人がそう言うならそうなんでしょう。 その人の中では。

 というか、この娘はソロでやっているんでしょうか。 動きやすそうとは言え、格好からして明らかにプリースト系の後衛職。 さらにジャイアントトードにあれだけ恐れていたという事は、間違いなく駆け出し。 ……自殺志願者と思われても仕方がないレベルです。

 うーん、ソロでやってるなら、回復役は欲しいところですし、パーティーにお誘いしたいんですけど、どうやら相手は虫の居所が悪いみたいですし、今回のところはさっさときゅーちゃん連れて帰りましょうかね。 この状態じゃ今日はもう特訓は無理でしょうし。

 

「わかりました。 ごめんなさい、余計な真似をして。 それじゃあ、私たちはこれで失礼しますね」

「あ……」

「えっ?」

 

 機嫌を損ねないように私がきゅーちゃんの状態を起こしながら敬語でそう軽く謝ると、何か思い残したことあるように声を漏らすお嬢様。 目が合うとすぐに気まずそうに顔を逸らし、しかしすぐに腕を偉そうに組んで胸を張りました。

 

「……ふ、ふん! それでいいのよ! そうよ、私一人でもカエルなんて楽に片付けられるんだから……! 今後、私の邪魔はしない事! いいわね!!」

「は、はぁ……解りました。 じゃ、私たちはこれで……」

 

 怪訝に思いながらも、きゅーちゃんをおんぶし(メッチャ軽いです)、そのお嬢様の横を一瞥しながら通り過ぎます。

 ……どうでもいいけど、身長と胸の大きさあって無さ過ぎでしょ。 何食べてるんだろあのお嬢様。

 胸の大きさには別段コンプレックスを持っていない私ですが、それにしてもあの大きさはいただけません。 私より年下で小さいのに巨乳など! ぐぬぬ……!

 と、悔しさで心の中で歯噛みしていると、

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 お嬢様に背後から声を掛けられました。 なんでしょう。 早く帰りたいのに……。 しかし、無視をしてまた喚かれるのも嫌なので、振り返って話を聞く事にします。

 

「どうしました?」

「え……えっと…………」

 

 聞き返すと、お嬢様は顔を赤らめ、メイスを抱えてもじもじしながら、

 

「その……その子、大丈夫なの?」

 

 お嬢様は私の背中――つまり、きゅーちゃんを見て言いました。 どうやら倒れたきゅーちゃんの事を心配してくれているみたいです。

 ほう、これは…………ほほーん。 ちょっと試してみますか。

 

「大丈夫ですよ。 ちょっと無理してぐったりしてますけど、基本的には疲れただけです」

「そ、そう……そっか…………」

「はい。 ではこれで」

「あ、うん…………って、ちょっとコラ待ちなさいよ!!」

「もーなんですか。 早く帰りたいんですよ。 ……あなたを助けたこの子を休ませるために」

「う」

「本当はさっきまで特訓してたから体力の限界だったのに、それでもあなたの悲鳴を聞いて助けねばと、絞りカスの体力を使って倒れたこの子をね」

「うぐ……」

「……おい、誰の何が絞りカしゅぐっ!?」

 

 段々とお嬢様が揺らいで来ている中、私の後ろで何か余計な事を喋ろうとする声が聞こえたので、声の主のお尻を踵で蹴り上げて黙らせます。

 

「というわけで、私は早く帰ってこの子を診てあげなければならないので……失礼します」

 

 私はダメージを受けてオドオドしているお嬢様に一礼して踵を返し、歩を歩めます。

 さーて……

 

「ま、待ちなさ…………待って!!」

 

 おっと、後ろから聞こえる声にちょっと必死さが出てきましたね。

 止めとばかりに、私はちょっと強気に言います。

 

「もう! なんですか! 急がないとこの子がどんどん衰弱して言っちゃうじゃないですか! 今は一分一秒を争うんですよ! この子にもしものことがあったらあなた責任取れるんですか!?」

「えぇっ!? あ、その……ううぅ……あ、あれ? ねぇアンタさっき疲れただけ言ってたわよね? なんか勝手に様態を悪化させてない?」

「そんな事はどうでもいいんです! 用件があるなら早く! ほら! ライトナウ!」

「う……ううぅ……ぅううううううううううううううう!!」

 

 私が煽りに煽ると、お嬢様は何かと葛藤しているのか羞恥心からなのか顔を真っ赤にして唸り、そして口を開きました。

 

「わ……私にその子の治療をさせて!」

「はいどうぞ」

「えっ!?」

 

 私があっさり承諾してきゅーちゃんを降ろすと、驚いた声を上げるお嬢様。 ……ふっ。 思惑通り。

 当人にとって面白くないものではあったものの、私はともかく直接的に助けられたきゅーちゃんには恩義を感じていたのか、すごく心配そうでしたし、プリースト系という職業柄、助けてあげたそうな気持ちが見え見えでした。 でも素直になれない子なのか、煮え切らない態度を取っていたので発破をかけてあげたわけです。

 このお嬢様。 金髪でやや釣り眼な辺りからなんとなく読んでいましたが、相当なツンデレっ娘なようです。 かーわいー♪

 さて、当のお嬢様は何か言いたげに私を睨みながらも、きゅーちゃんの傍まで寄ると、彼の首筋辺りに手を添えます。 ふと、お嬢様の手に温かな光が灯りました。 そして、

 

「ヒール」

 

 そう唱えると、その優しい光がきゅーちゃんを包み込みました。

 するとどうでしょう。 きゅーちゃんはまるで悪夢から解放されたかのように顔の緊張がほぐれ、みるみる顔色がよくなっていきます。

 ほわぁ……すごい! 治癒魔法だ治癒魔法! というか私この世界にきて初めて魔法見た! わぁ~!

 きゅーちゃんは魔法を未だに見せてくれたことがないので、初めて見た魔法に体が震えるくらいに興奮します! やっぱりファンタジーな物を間近で見ると、なんて言うかこう、ワクワクしますね!

 そして、きゅーちゃんの治療が終わったのか、お嬢様はきゅーちゃんから手を離しました。 同時に、きゅーちゃんがむくりと身体を起こします。 自分身体の調子を確かめるように、胸元に手を置き、

 

「……すごい。 疲れも取れたし、なんかいつもより体が軽い」

「ホント!? あ、確かに今までの中で一番顔色がいいかも! 生きてる感じがするよ!」

「つまりいつもは死んでるような顔をしているってことだね。 おいちょっとその辺詳しく聞かせてもらおうか」

「そんなことより、回復してもらったんだからお礼言いなさいな、ホラ」

「この……ッ! ……ん……えっと、その…………ありがと」

「べ、別に、お礼言われるような事じゃないわよ……もともとは、不本意ながらも? 助けてもらったわけだし、こちらこそ…………ありがと」.

 

 お互いに顔を逸らしながら、気まずいというよりは気恥ずかしそうにそう言い合うきゅーちゃんとお嬢様。

 うーわ、なにこれあまずっぱぁーい……まるで小中学生の恋愛物語を見ている気分になってくる。 まぁ、きゅーちゃんは元々恥かしがり屋っぽいし、お嬢様はもう語るに及ばずって所だろうけど。

 ともあれ、これはチャンスです。 お互いに悪い気を抱いていないという事は仲間に誘っても問題ないはず!

 

「ねぇ……あなたってソロだよね? もし良かったら、私たちのパーティーに入らない?」

「えっ!?」

 

 私のお誘いに、目をまん丸にして驚くお嬢様。 さっきから驚いてばかりですねこの娘。

 その怯んだ隙に私は畳み掛けます!

 

「あのね、もう気付いてると思うんだけど、うちの子――きゅーかっぱって言うんだけど」

「え、きゅー……何?」

「名前の事は置いておいて! この子、すっごく強い代わりにすっごく体が弱いもやし体質なの。 だからね、一回の戦闘でもすぐにスタミナ切れですぐに倒れちゃうんだ」

「おい、スタミナに関しては認めるが、名前のスルーともやし体質とか言うのはやめてもらおうか」

 

 きゅーちゃんの抗議は無視して続けます。

 

「で、さっきの回復魔法! きゅーちゃんがこんなにも元気になるなんて、相当な実力だよね! きゅーちゃんの攻撃力を持続させるために、あなたの力が必要なの! お願い! 是非とも私たちのパーティーに入って!!」

「え、あ……う、ううううううううぅぅ………」

 

 私は手を差し伸べながら頭を下げ、お嬢様は唸りながら悩みます。 いろんなものが葛藤して悩んでいるようですが……

 

「い…………」

「い?」

 

 顔を上げると、そこには恥ずかしそうに顔を赤らめながら私の手を取ろうとするお嬢様がいました。

 私は微笑んでその手をこちらから握ろうとすると………………お嬢様は即座に手を引っ込め、

 

 

「嫌よ! 誰がアンタみたいな性悪女や、そんな名前が変でチビでガリで男か女か分からないくらい可愛いけど私を助ける時はすっごく格好良かった奴なんかがいるパーティーなんかに入るもんですか!! フンッ!」

 

 そう、怒鳴り散らし、そのまま肩とおっぱいを揺らしながら立ち去って行きました。

 

 あ、あれー……?

 

 予想外の出来事に立ち尽くす私に、きゅーちゃんの冷ややかな視線が突き刺さります。

 

「虐め過ぎ」

 

 ちょっと反省した今日この頃。

 というか…………

 

「私名前すら聞いてない!」

 

 反省点が増えました。

あとそれと…………

私はチラリと、きゅーちゃんに目線を向けます。

 

「…………?何?」

 

訝しげに首をかしげて聞いてきたきゅーちゃんに、私は「ん〜……」とちょっとだけ悩んだ末、

 

「んにゃ、なんでもない」

 

と片付けました。

勿論、何でもないなんてことはありませんでした。一つ、大きな疑問が私の頭の中には残っていました。

それは、カエルに食べられそうになってるお嬢様を発見した時の事です。あの時、きゅーちゃんは全速力の超スピードで駆けつけましたが、それを振り返って私はこう思ったのです。

 

なんで、魔法を使わなかったのかなあ……?

 

 




いつも読んでくださりありがとうございます。ユアシアンです。

そんなわけで新キャラ登場!
このキャラに関しては本当にモデルがないです……なので各自ご自由に!

髪型は艦これの伊19に近いですね。ポニーではなく下げて結ってますが。

それときゅーの剣ですが、あまりイメージありません。強いて言うならTOSのフランベルジェをちょっと豪奢に飾ったイメージでしょうか。参考までに↓
http://blog-imgs-78.fc2.com/t/a/l/talesmatomeria/91a4f635.jpg
これの赤いやつです。

それでは、皆様の感想、評価、アドバイス等を心からお待ちしております。気に入って頂けましたら、お気に入り登録していただきますと励みになります。
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