The story of a certain ARCS   作:緑ノ狐

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【登場人物】

≪アデルカ・ジルバーク≫ 16・男・ヒューマン
ある事情によりエルシィと一緒に道場に住んでいる。小さい頃の記憶がなく、一番古い記憶では既に道場にいた。道場師範であるユリオンを師と仰いでいる。剣術の腕はユリオン曰く粗削りだが、素質はあるそうだ。ある剣の黒い魔物と戦う力に目覚める。

≪エルシィ・ジルバーク≫ 16・女・ヒューマン
ある事情によりアデルカと一緒に道場に住んでいる。以前は有名な商家の娘だったが、アデルカに気を使い昔のことは話に出さないようにしている。一時期アデルカと共に剣術や体術を学ぼうとしたものの、自分には合っていないとやめてしまったところにユリオンが魔法書を持ってきて薦めてくれたのを勉強し自らの魔法の素質に気付いた。

≪ユリオン・ジルバーク≫ 25・男・ヒューマン
ジルバーク道場の師範+エルシィとアデルカの保護者。剣術の腕は確かでアデルカには負けたことがない。しかし道場を開いている周りに人がいないため、弟子はアデルカ一人。アデルカとエルシィを引き取ったのは彼である。


第五話 Cowards regain a distant "memory"

「よう、アデルカ。無事で何よりだ」

 

 

アデルカが道場に着いてユリオンに声をかけるよりも早く、ユリオンはアデルカに話しかけてきた。

 

 

「え?あ、あぁ・・・俺が無事だってこと知ってたんだ」

 

「ああ、まあ・・・なんとなく、な。お前が運ばれてきた時、エルシィがすぐに治癒魔法かけ始めて、ほっとしたような顔してたからな」

 

「・・・本当、エルには頭が上がらないな」

 

「まったくだぜ。少しは言うこと聞いてやれよ?」

 

 

ハッハッハ、といつもの高笑いが響くと思ったらユリオンは黙って前を見つめていた。

 

 

「ねえ、師」

 

「聞きたいこと、あるんだろ?」

 

 

知っていたかのような口ぶりに、アデルカは驚きの表情を隠せなかった。

 

 

「ハッハッハ、わかるさ。どれだけお前らを見てきたと思ってる」

 

 

ユリオンはアデルカの方に向きなおし、その目を真っ直ぐに見つめる。

 

 

「で、何を聞きたいんだ?」

 

「・・・俺の、失くした記憶について」

 

「・・・そうか」

 

「意外。もっと驚くと思ったのに」

 

「ん?まあな。いつかはその時が来るだろうと覚悟はしてた。それが今だったってだけの話だ」

 

「そっか・・・いつかは聞かなきゃって思ってたんだ。ただ・・・」

 

 

つい、下を向いてしまう。

 

 

「恐かった・・・失ったものを取り戻すのが。それを思い出したら、ここにはもういられないって、そんな気がして」

 

「ああ・・・だが、今それを聞かせてほしいってことは」

 

「うん、覚悟はできたよ。正直まだ恐いけど、エルが言ってくれたんだ」

 

 

その言葉をもう一度、自分の中で反芻する。

 

 

「俺が頑張ってきたことをあいつは知ってる、って。だから、大丈夫」

 

 

根拠も何もない。ただ俺の心がそう思ったから、行動したまでだ。

 

 

「まったく・・・お前らみたいな年頃の奴は、知らない間に成長していくもんだな」

 

「へへ、まあね。その内師匠の身長も超えてやるぜ」

 

「そういうこと言ってんじゃねえよアホ弟子」

 

 

いつもの軽口を叩き、「さて」と一拍置いてユリオンは語りだす。

 

 

「そうだな・・・ちょうど今から7年前になるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――7年前、王都クレセンテはヒノクニ、シューティスタとの三国での資源協定により、また一つ大きな変化を遂げた。

 

中でも三国の中で最も資源的に余裕のないクレセンテでは、ちょっとしたお祭り状態にあった。

 

城下町には年に一度の建国祭でしか掲げない国旗が数多く掲げられていて、市民は町で騒ぎ、商人はここぞとばかりに物を売った。

 

その喧騒の中、城下町の上にそびえる王城の一室では、外とは打って変わっていつも通りの光景が繰り広げられていた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「おいおい、まだやるのか?」

 

「当たり前・・・じゃん・・・父さんに勝てるまで、やるんだ!」

 

「おっ!と。また動けなくなるまでやったら、母さんに怒られるぞ?」

 

「うっ・・・確かに・・・」

 

「隙あり!」

 

「いて!ちょっと父さん!母さんのこと出すのは卑怯だよ!」

 

「ハハハ、それで心を乱されるようじゃ、まだまだだな」

 

「むう・・・そんな卑怯な手使ってる人だから、母さんに飲んで遅くなった時裏口使って帰ってる事隠してるんだね」

 

「あぁ、そうだな・・・ん?お前、なんでその事知って!?」

 

「隙ありぃ!」

 

「あいて!おのれ我が息子ながら卑怯な手を!」

 

「お互い様だよ!」

 

 

もはや見慣れた光景を見ながら、修練終わりの騎士たちは帰り際に談笑する。

 

 

「しっかしあの二人もよくやるよなぁ」

 

「本当だよ。蛙の子は蛙。体力バカの子は体力バカだな」

 

 

遠巻きに話していたにも関わらず、「おいそこ!聞こえてるぞ!減給申請してやろうか!」と脅され、騎士たちはいつも通り「げぇ、勘弁してくれよ団長!」と笑いながら謝罪する。

 

 

「そこだあああああ」ズルッ「あああ!?」

 

 

少年が父と呼ぶ相手に向けて突きを放とうと前足を出した瞬間踏み出した足を滑らせて転倒してしまう。

 

 

「お前の踏ん張りも限界みたいだし、今日はここまでにするか」

 

「と、父さんがそう言うなら、仕方ないね」

 

「お前が譲ってやった感じなのが納得いかないが、まあよしとしてやろう。母さんも家で待ってるだろうしな」

 

「うん、そうだね」

 

 

二人が家へ帰ろうと戸を開けると、1人の少女がまさにドアを開けようとしていたところのように立ち尽くしていた。

 

 

「あら、やっぱりいたのねアル。こんにちは、ヴェレンさん!」

 

「こんにちは、エルシィちゃん。今日は・・・あぁ、ルッシュさんの付き添いか。いつも大変だね」

 

「大丈夫!あたしが自分からついてきてるから!ところで、今日はもう終わり?」

 

「うん、今さっき終わって家に帰るところだけど、どうかした?」

 

「お腹すいてるかなーと思ってサンドイッチ作ってきたんだけど・・・家に帰るならいら」

 

「サンドイッチ!?俺腹ペコペコだよ!ちょうだい!」

 

「あ、うん・・・もう、食いしん坊ね、ふふっ」

 

 

2人の仲睦まじい姿を眺めながらニヤニヤしていると、ハッとしたエルシィが睨んできた。

 

 

「ヴェレンさん、何をそんなに楽しそうにしているの?」

 

「いんやぁ~?別にぃ~?」

 

 

ヴェレンの顔からニヤニヤが取れないのをジト目で睨み続けるエルシィをまあまあとなだめてヴェレンはある提案をする。

 

 

「アルディがご馳走になったお礼に今日はうちで食っていったらどうだ?ユリオンもくるぞ?」

 

「ヴェレンさんとユリオンさんが揃うって、騒がしくなる予感しかしないんだけど・・・わかりました。お父様に伝えてからそちらに向かいます」

 

「じゃ、先に行って待ってるね」

 

「ええ。アル、ちゃんとミシェリアさんの手伝いするのよ。あと自分の部屋ぐらいちゃんと掃除しなさい」

 

「母さんの手伝いはするけど俺の部屋の掃除は余裕があったらかな~。じゃ、お先!」

 

「あ、ちょっと!もう・・・ヴェレンさん、お願いしますよ」

 

「お、おう・・・あいつも尻に敷かれるな、きっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~うまかった!やっぱり母さんの飯が一番だな!」

 

「本当!とってもおいしかった!・・・でも負けないんだから」

 

「あらあら二人とも、お粗末様でした。ふふ、エルシィちゃん。後でレシピ教えてあげるね」

 

「ほ、本当!?う・・・でもそれはそれで悔しい・・・」

 

「?」

 

 

エルシィからガンを飛ばされたアルディは頭の上に疑問符を浮かべ首をかしげていた。

 

と、そこに今日の晩餐最後の客人が来た。

 

 

「よお~ヴェレン団長!お呼び感謝するぜ~あ!ミシェリアさん!ご機嫌麗しゅうございます!」

 

「ユリオン・・・お前飲んできてないよな?」

 

「何言ってんだよ。これから飲むのに飲んでくるやつがあるか?」

 

「お前のテンションが飲んだくれのそれだから言ってるんだ。来てもらって早速で悪いんだが、向こうの部屋で飲もう・・・積もる話も、あるからな」

 

「!・・・そうか・・・ま、とりあえず一杯やろうや!ハッハッハ!」

 

 

ヴェレンから目配せを受けたミシェリアが子供2人に話しかける。

 

 

「アルディ、パパ達ちょっと大事なお話があるから、あなたの部屋にエルシィちゃんと一緒に戻ってくれると、ママ嬉しいわあ」

 

 

父が大事な話をする時、決まってアルディは自室に戻る流れになっている。

 

というのも、一度リビングで待っていろと言われたアルディが隠れて聞き耳を立てていたのがミシェリアにバレたのが原因なのだが。

 

 

「うっ、俺の部屋か・・・そうだ!エル、こないだ言ったいい所連れてってやるよ!」

 

「ああ、森を少し行ったところだっけ・・・でもいいの?あんたの部屋に行けって言われたのに」

 

「い、いいんだよ・・・いいよね?母さん」

 

「ええ。あんまり遅くなっちゃだめよ?」

 

「はーい。エル、行こうぜ!」

 

「あ!待てってのこの!ミシェリアさん、ご飯おいしかったです!ありがとうございました!」

 

「うん。エルシィちゃん、アルディのこと、よろしくね」

 

 

特に深い意味は無かったのだが、何故かエルシィが顔を赤くしながら笑顔でミシェリアに言う。

 

 

「はい!任せてください!あたしはあいつのお守り役だから!」

 

 

バタバタと出て行った2人を見届けたミシェリアはヴェレンとユリオンのいる卓へと向かう。

 

 

「ははは・・・あいつらも騒がしいな」

 

「いい子に育ってるじゃねえか。ま、あんたら2人の息子なら心配はいらないがな」

 

 

ふふ、とヴェレンは小さく笑いながら優しい表情を浮かべる。

 

 

「ミシェリアがしっかりしてるから助かってるよ・・・それより例の件なんだが」

 

「ああ、俺も聞いたぜ。黒い化け物の噂だろ?」

 

「そうだ。少し調べてみたんだが、この本を見てくれ」

 

「こいつは・・・」

 

 

それはこの国に古くからある絵本だった。

 

 

「驚くだろ?童話に出てきた化け物が現実で人を襲ったって話だ」

 

「なんだそりゃ・・・おとぎ話じゃねえんだぞ」

 

「だがそれが本当なら・・・」

 

「・・・」

 

「まあ、まだ噂の段階だ。一応警戒はしておいてくれ」

 

「ああ。だが・・・妙な胸騒ぎがするんだよな・・・」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔をするユリオン。

 

 

「お前の勘はよく当たるが、今だけは当たってほしくないものだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらエル!ここだよここ!早く!」

 

「ちょっと・・・待ってよ・・・あんた早いのよ・・・ぜえ・・・」

 

「これ見れば疲れ吹っ飛ぶって!ほら!」

 

「もう・・・・・・わあ・・・」

 

 

アルディがエルシィを連れてきたのはクレセンテが一望できる崖の上だった。

 

町は祭りの余韻で光に溢れ、そびえ立つ王城が淡く照らされていた。

 

 

「すごい・・・きれい・・・」

 

「だろ?ここ来た時、エルに絶対見せてやろうと思ってさ!すげえだろ!」

 

「うん・・・ありがとう、アル。すっごく嬉しい!」

 

「お、おう!まあな!へへ・・・」

 

 

自分で振っておいて、ここまで喜ばれるとは思ってなかったのでつい照れてしまう。

 

 

「俺さ、父さんに勝ちたいけど、父さんには負けてほしくないんだ」

 

「え?どういうこと?」

 

「俺が今まで見てきた父さんは、いつもみんなを引っ張ってて、優しくて、強くて・・・そんな父さんにずっと憧れてるんだ」

 

「王国騎士団の団長だもんね・・・」

 

「そう。俺の誇りだから、超えたいけど・・・いつまでも俺の憧れであってほしいんだ」

 

「ふふっ、ほんとに好きなのね。ヴェレンさんのこと」

 

「まあね、へへっ」

 

 

街は希望に溢れ、子供たちは将来を見据え笑いあう。

 

そんな平和で、この国は満たされいた。

 

しかしその平穏は――――――

 

 

 

 

 

    ドォオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

 

 

 

 

脆くも、崩れ去るのであった。

 

 




アデルカの過去話を一話に収めようとしたら長くなってしまったので二分化しました。次で過去話は終了となります。
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