時の庭園、その中にある一室。そこにプレシア・テスタロッサはいた。
「ゴホッ、グッゴホッ!」
彼女が咳き込む度、足元に血がこぼれる。
少し咳が落ち着いてから椅子に腰掛け、彼女は考えに耽る。彼女の回りには、9つのジュエルシードが浮かんでいる。
(次元跳躍魔法はもう身体がもたないわ……。それに、今のでこの場所も掴まれた……。)
プレシアは自身の右側を見る。そこには鏡のような物があり、そこになのはとフェイトの姿が映っていた。
(フェイト……あの娘を何とかしなければ……。)
プレシアは再び視線を前に向け、扉を見る。
(そろそろ潮時かもね……。)
彼女は周辺に浮いているジュエルシードをしまい、意識を扉の外へと向ける。プレシアと武装局員との闘いが戦いが、始まろうとしていた。
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戦闘場所から帰還したなのは達がアースラに戻って最初に見たのは、時の庭園に転移した武装局員が城の中に攻め込もうとしている映像だった。武装局員達が中に入っていくと、玉座の間に今回の黒幕であるプレシア・テスタロッサがいた。
プレシアは入ってきた武装局員に対して驚く気配はなく、椅子に座ったまま彼等の様子を見ているようだった。そんな状況下で、時の庭園に攻め込んだ武装局員の内の一人がプレシアに対して声をかけた。
『プレシア・テスタロッサ!貴女を、時空管理法違反、及び管理局管制への攻撃容疑で逮捕します!』
『武装を解除してこちらへ。』
そう言いつつ、杖を構えた一部の武装局員がプレシアの周囲に集まりプレシアを包囲し、残った局員は玉座の間に隣接した部屋へと向かっていく。その部屋に走っていく武装局員を見て、今まで動揺を見せなかったプレシアが、その表情を露にする。
局員が扉を開くと、そこには信じられない物が存在していた。
『なっ!?……こ、これは……!』
蔦の絡まった柱が並ぶ、細長い通路のような部屋。その部屋の奥が映されると、映像を見ていた誰もが驚愕した。
「えっ……?」
なのはが驚きの声をこぼす。その映像には、生体ポッドに入った培養液に浮かぶフェイトとそっくりな少女、そして、それにもたれ掛かって眠っているソーフィヤが映っていた。
「……!」
「ソーフィヤ!それにあれは……!?」
フェイトは予期せぬ状況に驚きを隠せない。様々な事件を経験しているクロノですら、その表情その表情に驚きが現れていた。一方部屋に局員が突入したのを見て、プレシアは即座に移動し部屋に入った局員を打ち倒した。
『私のアリシアに、近寄らないで!』
プレシアの迫力に、残っている局員が改めて杖を構え直す。そして一斉に魔力弾をプレシアへと放つ。しかし、プレシアに魔力弾は届かず途中で掻き消えてしまった。
『うるさい……!』
「!危ない、防いで!」
プレシアの前に魔力が集束し始める。リンディがその危険性に気付いて声をかけるが時既に遅し、玉座の間を含みプレシアの魔法が放たれ、局員達は倒されてしまった。
リンディとエイミィが倒された局員を送還している中、フェイトはポツリと言葉をこぼした。
「アリ……シア……?」
映像では、プレシアがアリシアの入った生体ポッドに寄り、もたれ掛かりながら声をかけていた。
『もうダメね……、時間がないわ……。たった10個のロストロギアでは、アルハザードに辿り着けるか分からないけど……。』
プレシアは恐らくカメラのあるであろう方向を見て、更に言葉を続ける。
『でもいいわ……。これで終わりにする。この娘を亡くしてからの、暗鬱な時間を……。この娘の身代わりである……人形を……、娘扱いするのも……。』
プレシアの声が一瞬だけ震える。しかし、それを気にせずプレシアは更に続ける。
『聞いていて……。貴女の事よ、フェイト。折角アリシアの記憶を上げたのに、そっくりなのは見た目だけ。……役立たずで、ちっとも使えない……。私の……お人形……。』
「……!」
プレシアの言葉に皆が衝撃を受ける。すると、どうしてプレシアがこの様になってしまったのか、エイミィが皆に説明し始めた。
「最初の事故の時にね、プレシア・テスタロッサは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる……使い魔を超える人造生命の生成。そして、死者蘇生の秘術。『フェイト』っていう名前は、当時彼女がしていた研究、『プロジェクトF.A.T.E』の研究コードなの。」
エイミィの説明を聞いていた全員が息を飲む。使い魔を超える人造生命、それが他でもないフェイトだということに驚いていた。アースラの中がそのような状況にあるにも関わらず、プレシアは画面越しに話しかけてきた。
『よく調べたわね……。その通りよ。私はあの事件の後、アリシアを生き返らせるために研究をした。でも、ダメだったわ。作り出せたモノは、アリシアとは全く違った。性格も、利き手も、そして魔力も。アリシアとは全く違う物しか作ることは出来なかった。』
プレシアの口から紡がれる言葉に、フェイトの心が砕かれていく。段々と身体の震えが大きくなっていく。そんなフェイトの様子を見ていられなくなったなのはは、プレシアに向かって叫んだ。
「もう止めて!これ以上は、フェイトちゃんが!」
なのはの痛烈な叫びが、アースラの艦内に響く。しかし、プレシアはなのはの叫びなど微塵も気にせず、更に言葉を紡いだ。
『よく聞きなさい、フェイト……。私はね、貴女の事が大嫌いだったのよ!』
狂気に染まった笑顔で、プレシアはフェイトに言葉を放つ。放たれた言葉を聞いたフェイトは、心が無意識に自己防衛をしたのか気を失って倒れてしまう。なのはが何とか床に倒れきる前に抱き抱えたものの、フェイトの眼は淀み光が失われていた。
倒れているフェイトを余所に、プレシアは生体ポッドから起き上がり生体ポッドの方を向いて両手を掲げた。すると、アリシアの入った容器とソーフィヤが浮かび上がり、宙に浮きだした。プレシアはそれらを従え、玉座の間へと移動する。玉座の間へと着いたプレシアは、持っていたジュエルシード9つを円形に展開し魔力を込めた。すると、それと同時にアースラの計器に反応が現れる。
「えっ!?時の庭園に魔力反応多数!どの個体もAランク位です!」
突然現れた反応に、エイミィは驚きながらも報告する。その個体反応はどんどんと増加し、時の庭園の多くの場所にまで広がっていった。
その様子を確認しつつ、プレシアは相変わらずの狂気を含んだ表情で大きく叫んだ。
『私達は旅立つのよ……。忘れられし古の都、アルハザードへ!!私達は全ての過去を取り戻すの!』
「なっ!?まさか!」
プレシアの動きを見てクロノがそれを止めようとするが、プレシアは言うことを聞かず更に魔力を込める。そして数瞬後、宙に浮かんだ9つのジュエルシードが光輝き、その力を解き放った。
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時を少し遡る。プレシアが武装局員の襲撃に備えていた時、ソーフィヤはポッドのある部屋で意識を取り戻していた。
(……?ここは……?)
ソーフィヤは周囲を確認しようと身体を動かそうとするが、先程の落雷による影響か上手く身体を動かすことが出来ない。仕方なく若干動く首だけを使って、周囲の状況を確認する。
部屋の全景を見る限り、どうやらソーフィヤは奥に長い部屋に閉じ込められたようだった。多くの柱によって出来ている壁には蔦が絡まり、この部屋のおぞましさをより強めている。そして、完全には見えなかったものの、どうやら液体の入ったポッドらしき機械に自分が寄り掛かっていることがわかった。
(この光景は今まで見たことがない。となると、ここは間違いなく敵方に関係する場所。なら早く脱出した方がいいんだけど……。うう、さっきの落雷のダメージがまだ残ってるのか、身体を動かせないのは辛い……。)
現在の居場所と自分の今回の件での立ち位置を考え、ソーフィヤは早い段階でここから出た方がいいと判断する。しかし、身体の状態からその考えは断念せざるを得なかった。
結果、ならばせめてと、ソーフィヤは部屋全体を見て更に情報を得られないかと再び観察することにした。先程よりも細かく部屋を観察してみるが、新しい情報を得ることは出来ず、現状からの進展を見ることは出来なかった。
(特に何もないか……。今の状況だと結構まずい。少しくらいは情報を得ないと……。)
一度目を閉じて息を整えると、ソーフィヤは再び観察をしようと目を開く。すると、ソーフィヤの目の前に金髪の少女がしゃがんで、顔を覗きこんでいた。ソーフィヤが驚きから目を剥いて声を出せないでいると、金髪の少女がソーフィヤに尋ねてきた。
〔ねえ、大丈夫?〕
「へ?あ、まあ……。」
〔そう。ならよかった!〕
金髪の少女は、満面の笑みを浮かべる。驚いて少し呆けていたソーフィヤは、はっと気を取り戻し少女に少し尋ねててみる。
「ねえ、貴女どうやってここに?さっきまで居なかった筈だけど……。」
〔私?私はこの部屋にずっといたよ?〕
「え?ずっといた?」
ソーフィヤは彼女の言葉を疑問に思った。先程ソーフィヤが見える範囲で部屋を観察した時、この部屋には誰も居なかった。だが少女は『ずっといた』と言っていた。ということは、ソーフィヤが『彼女の存在を見落としていた』か、『彼女を認識できなかった』の2つが考えられる。だが、
「私はさっきまで五感全てでも全く貴女に気が付けなかった。ということは、貴女は私達とは異なる存在、霊体みたいなものなの?」
〔そうだね、ご名答!私は霊だよ。〕
金髪の少女がソーフィヤの発言に肯定を示す。あまりにも明るい発言すぎて『こいつ本当に霊なのか?』とソーフィヤは一瞬感じたが、彼女の半透明の身体を見てどうやら嘘ではないということを理解した。と、ここで、ソーフィヤはある疑問を抱く。
「霊……ということは、貴女はここで死んだ人の霊なの?」
〔いや、ここじゃないよ。厳密に言えば、死んでるのかすらわからないけど。〕
「……どういうこと?」
〔感覚が残ってるんだよ。何か液体に包まれているような感覚がね。〕
「霊に感覚……?」
ソーフィヤは、少女の言葉に引っ掛かりを覚えた。霊に感覚があるはずが無いとソーフィヤは思っていたからだ。霊は人間と次元の異なる存在であり、基本的に周囲から影響を受けることは例外を除いて無い。まして、液体に包まれている感覚というのが更に理解できなかった。空気に触れている感覚なら兎も角、と。
そこで気が付く。ソーフィヤが今寄り掛かっているのは『液体の入ったポッド』。要するに、
「まさかこのポッドって……。」
〔うん。私の身体が入ってるよ。〕
少女はソーフィヤの言葉に返答する。問いと答えが噛み合ってない気もするが、気のせいだろう。しかし、この返答だったお陰でソーフィヤは考察を広げる上での重要なヒントを得ることが出来た。
(ということは、このポッドは恐らく身体の状態を維持する為の物。そしてこの場所は、フェイト・テスタロッサに関係あるであろう場所……。)
ここまで考えて、ソーフィヤは一つの結論に辿り着く。状態を維持する必要があるということは、それを何か物事を起こすために用いる予定があるという事。フェイト・テスタロッサに恐らく関連してるであろう唯一の人物がそのような事を考えているのであれば、それは一つしか考えられない。
その結論に思い当たったソーフィヤは、驚愕の表情を浮かべボソッと言葉を溢す。
「じゃあ、貴女はまさか……。」
ソーフィヤがそう言うと、少女はふっと微笑みソーフィヤから少し離れていく。ソーフィヤが彼女の全身を見る事が出来る位置まで下がった少女は、振り返り先程とは違う少し真面目な表情になって口を開いた。
〔そうだね。初めまして。私は、アリシア・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサの娘です。突然だけど、貴女に一つ協力して欲しい事があるの。〕
投稿遅かったわりに短い……。
もう少し話を充実させられるようにしたい……。