ロストロギアの少女   作:幽々やよい

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お待たせしました。

無印編最終話です。


第17話 さよならは始まりの言葉

 時の庭園での事件が終息してからから数日後。

 元々民間協力者であったなのはは、ユーノと共にアースラを降り、実家へと戻っていた。

 

 

 事件の最中の、あの慌ただしかった周囲の環境は既に鳴りを潜め、平凡に、穏やかに時間が流れていく。

 

 

 未だ手元にあるレイジングハート、暫くの間、またなのはの家に居候することになったユーノ。

 この二つ…1人と1つを除いて、魔法やアースラに関連する人達との繋がりは、ほとんど薄れていた。

 

 

「ふあぁ…。」

 

 

 ベッドから起き上がったなのはは、欠伸をしてから伸びをする。

 それからベッドを降りて、カーテンを開ける。

 

 

「うん。今日も良い天気!」

 

 

 なのはは私服に着替えて、洗面所に向かう。

 顔を洗ってから、リビングに向かう途中に今日の予定を考える。

 いつもの桜台に向かって、まずはディバインシューターの練習からしようか。この前75回は安定して出来るようになったから、今回は80回が目標かな。

 その後は、アリサちゃんとすずかちゃんと一緒に遊ぶ予定が入っている。

 何かお菓子とか持っていこうかなぁ…。

 

 

 そんな事を考えながら歩いていると、道場の方から竹刀を打ち合う音が聞こえてくる。

 ああ、今日も来てたのか。そういえば、今日は彼女が来る日だった。

 少し見に行ってみようかな。

 

 

 そう考えると、なのはは一旦洗面所に戻ってタオルを取り、道場の方に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

 

「とやぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 なのはが道場に着くと、ちょうどソーフィヤと美由希が打ち合いをしている途中だった。

 

 

 ソーフィヤが攻め入り、右手の小太刀竹刀で右下から斬り上げを狙い、美由希はそれを左手の竹刀で防ぎ、軽く押し返す。

 その反動を利用してソーフィヤは右回転し、左上段から振り下ろしを行う。それを美由希は最小限の動作で右手で払い、左手で横薙ぎを狙う。ソーフィヤはすぐに右手の竹刀を逆手に持ち直し、美由希の攻撃を抑えつつ押し返した反動で美由希から距離をとる。

 

 

 そこからは、速い速度での攻撃の応酬だった。なのはが以前、恭也と美由希に見せてもらった稽古よりはかなり遅いが。

 

 

 ソーフィヤが攻めればすぐに美由希が返し技を打ち、攻守が逆転してソーフィヤが技を受ける。十数合打ち合った所で美由希がソーフィヤの首元に竹刀を突き付け、士郎から「そこまで」と声がかかった。

 

 

「お疲れ様、ソーフィヤちゃん。移動のスピード、大分速くなってきたね。」

 

 

 なのはは、互いに礼を終えたソーフィヤと美由希、見ていた士郎と恭也にタオルを渡しつつ、ソーフィヤに話しかける。

 

 

「いやー、まだまだだよ。士郎さんや恭也さん、美由希さんの10分の1にも満たないし…。技も練習がもっと必要だしね。」

 

 

「でも、毎日ちょっとずつ動きは良くなってきてるよ!無駄な動きが減ってきているし。」

 

 

「ああ、覚えるのが早いし、変な癖がつく前に動きを直せてる。やっぱり御神流が合ってたみたいだな。」

 

 

「最初に恭也と美由希から頼まれたときは何事かと思ったが…。ソーフィヤちゃんも楽しそうに練習しているし、合っていたのなら、それは良かった。こうして武術に興味を持って、それを受け継いでくれる子は貴重だからね。」

 

 

 そう和気藹々と話す士郎達を見ながらなのはは微笑んだ後、はっと思い出したような表情をして、ソーフィヤに顔を近付けてきた。

 

 

「そう言えば、この前聞きそびれちゃってたんだけど…。フェイトちゃんって、今どんな感じなの?」

 

 

「フェイト?検査や取り調べも終わったから、艦内ならある程度自由に動いて良いって事で、最近は色々動いてるみたいだよ。プレシアさんやアリシアとご飯食べたり、私とアリシアのトレーニングに協力してくれたり。でも、状況が状況だし、流石に外には出せないってクロノが言ってたよ。」

 

 

「そうなんだ…。でも、フェイトちゃんが元気って聞いて安心したの。」

 

 

 どうやらフェイトも元気にやっているようで、なのはは安心する。嬉しい気持ちが溢れてくる。でも、そんなフェイトに会えない事に、少し悲しみを感じた。

 

 

 外に出せない、というのは、恐らくアースラ職員が交代でリフレッシュのために艦外に出ている事関係だろう。

 いつミッドチルダに戻れるか分からない状況で、ずっと艦内にいるのもクルーには苦痛だろう、とリンディが考え、クルーを半分に分けて交代で外に出てリフレッシュをするようにしているのだ。

 ちなみに、ソーフィヤがなのはの家の道場にいるのは、それに合わせて少し特殊な事情がある。

 

 

 ある日ユーノを介して、なのはの家からある相談がかかってきた。

 その内容はどうやら、父と兄、姉が、ソーフィヤの剣術の指導をしたい、との話だった。

 ソーフィヤに聞いたところ3人はかなり強いらしく、前になのはの家にお邪魔したときに、なのはの兄からその流派について指導をお願いしてみる、との話があったそう。

 ちょうどそのリフレッシュ活動を始めようとしてたし、ソーフィヤの自衛能力を高めるためならば、となのはの家に週3回、朝に行くことになったのである。

 

 

 そんな事を考えていると、そういえばもう一つ聞きたいことがあった、となのはは思い出し、ソーフィヤに尋ねた。

 

 

「そう言えば、アースラってあとどれくらいこっちにいるの?」

 

 

「うーん、何か航路が大分安定してきたから、もうそろそろ地球を発つかもしれないって。まだ正確な日時は決まってないけどね。そんな感じだから、ここで色々指導してもらうのは今日が最後だったの。」

 

 

「え、そうだったの!?知らなかったの…。」

 

 

「伝えたときは、なのははいなかったしねぇ。」

 

 

「…もうそろそろ行っちゃうんだ…。ちょっと寂しいかな。」

 

 

 アースラが出港すれば、ここ1ヶ月くらい自分が関わってきたものが、ほぼ全て離れていった事になる。

 その事を考えると、なのはは少し悲しい表情になる。

 

 

「…まあ、一生会えないって訳じゃないし。時が来れば、きっと会えるよ。」

 

 

「…そうだよね。きっと、また会えるよね。」

 

 

 なのはは、自分にそう言い聞かせる。

 別に、これが今生の別れになる訳じゃない。

 フェイト達の裁判が終われば、また会える可能性があるのだ。

 今はまだ、悲しむ時じゃない。でも、「出来るなら、もう一度フェイトちゃんに会いたいな」と、なのはは思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

「そうだ、これを渡さないと。」

 

 

 稽古後の着替えも終わり、ソーフィヤが帰る用意をしている時に、士郎が渡し物の事を思い出し、ソーフィヤに二枚組のDVDを差し出す。

 

 

「これは…?」

 

 

「恭也と美由希と一緒に作った、教導用の映像だよ。直接指導することは出来なくなってしまうけれど、これなら映像から見て学ぶことも出来るし、ソーフィヤちゃんなら自分で間違えている所を確認して直せるだろうから。」

 

 

「わあ…!ありがとうございます!あ、そうだ。この胴着も頂くことは出来ますか?今までの練習でずっと使ってきたので 、親しみが湧いて…。帰った先でも、この胴着で練習したいんです。」

 

 

「ああ、大丈夫だよ。それは今家で使う人はいないし、ソーフィヤちゃんが使ってくれた方が、胴着も嬉しいだろうからね。」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 ソーフィヤは満面の笑みで、士郎にお礼を言う。喜びが満ち溢れている様なソーフィヤの様子に、周囲にいる全員の顔がほころぶ。

 

 

「にしても、今日で一旦最後かー…。ちょっと寂しくなるね…。」

 

 

「そうだな。でも、次に会ったとき、ソーフィヤちゃんがどれだけ成長しているかを考えると、少し楽しみでもあるな。」

 

 

 恭也と美由希は、一時の別れの寂しさと、それ以上に次にソーフィヤと会った時への期待を感じていた。

 士郎もそれを聞いてうんうんと頷く。その後、何かを考えたのか真剣な表情に戻り、ソーフィヤの目線の高さに合わせてくる。

 

 

「ソーフィヤちゃん、改めて聞いておきたい。君が今学んでいる御神の流派は、とてつもなく強大な力だ。力の使い方によっては、誰かを守ることも出来るし、誰かを傷付けてしまう可能性もある。勿論、自分も同じだ。それは分かっているね?」

 

 

「はい。武器を使うから、ではなく、純然な力として、御神の力は凶器になる事は理解しています。」

 

 

「だから、次に会う時まで、いくつか約束をしてほしいんだ。」

 

 

「約束…ですか?」

 

 

「ああ。約束。」

 

 

 そう言って、士郎は顔の脇に右手を持ってくる。

 

 

「1つ目、身体を壊さないようにする為に、今出せる全力の神速は使わない事。」

「2つ目、自分や仲間を守る為であっても、心臓、脳、首の致死の急所3ヶ所には絶対に御神流の技を打たない事。」

「3つ目、自分達が教えた以外の御神流の練習はしない事。自分を追い詰めて、身体に大きな負担をかけるような練習は、特に厳禁だ。」

 

 

 3本の指を立て、士郎はソーフィヤと視線を合わせる。

 

 

「これは、ソーフィヤちゃんや友達、家族、仲間の心や身体を守る為に、破らないでほしい事だ。これらをちゃんと守れるかい?」

 

 

「はい。必ず守り抜きます。」

 

 

「よし。なら大丈夫だな。これからも頑張ってくれ。」

 

 

「はい!」

 

 

 士郎の言葉にソーフィヤは大きな声で返答する。

 その後、「ありがとうございました!」とお辞儀をしてから、ソーフィヤは公園の方に走り去っていく。

 

 

(どういう訳かは分からないが…あの娘はどんなに無理をして、傷を負ってでも、誰かを傷付けてしまっても、物事をやり通してしまう。そんな雰囲気がしていた。)

 

 

 その雰囲気に、士郎は覚えがあった。子供達がまだ幼かった頃、無茶をして大怪我を負い、家族全員の心を傷付けてしまった、あの時の自分。

 なのはが誰にも悩みを打ち明けることが無くなってしまった、その原因となった自分。

 

 

(ソーフィヤちゃんに伝えたのは、自分の後悔から来る言葉だ。彼女や、その回りの人達には、この苦しみは味わって欲しくない。ソーフィヤちゃんに、しっかりとその思いが届いていればいいが…)

 

 

 既にソーフィヤは遠く離れ、視界からいなくなっている。それでも、士郎はそのまま彼女が去った方向を、不安を隠した目でしばらく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

「クロノ、ただいま。今帰ったよ。」

 

 

 転送ポートから帰ってきたソーフィヤは、アースラのメインルームで作業中のクロノを見つけ、声をかける。

 

 

「お帰り、ソーフィヤ。今日も頑張ってたみたいだな。」

 

 

「うん。あ、これ士郎さん達から貰ったDVDなんだけど、後で資料室のオーディオ借りても良い?」

 

 

「ああ。それは、これから先練習するための動画か?」

 

 

「そんな感じ。…って、クロノは何してるの?」

 

 

 クロノの目の前には複数のポップアップが表示されており、どれも長文と画像で占められている。長時間見ていると、眩暈がしてきそうな光景が広がっていた。

 

 

「今回の事件関連の裁判の準備だよ。プレシア、アリシア、フェイト、ソーフィヤの分だけじゃなくて、26年前の再審用の資料も用意しなくちゃいけないからな。」

 

 

「うわぁ…色々と迷惑かけてごめんね…。」

 

 

「まあ、これが仕事だから大丈夫。それに、これが上手くいけばフェイト達が離れないで済むし、ソーフィヤもこのままアースラにいられる可能性が高くなる。その為なら、これくらい苦じゃないさ。」

 

 

 そう言って、クロノはソーフィヤの方に振り返る。その顔には、笑みが浮かんでいた。

 

 

「それに、4日後にはミッドに戻る事になるからな。それまでにある程度はまとめておきたい。」

 

 

「4日後?それ聞いてないけど。」

 

 

「さっき航路の分析結果が出たばかりだからな。まだ、一部のメンバーにしか情報がいっていないんだ。」

 

 

「なるほど。でも、あまり根詰めすぎないようにね?休めるときはしっかり休んでね?」

 

 

「分かってる。僕は、明日リフレッシュだからね。その時はしっかり休むよ。」

 

 

「今回は釣りでもしてくるの?前回はエイミィと散歩とか行ってたみたいだけど。」

 

 

「今回は一緒の休みじゃないからな。ソーフィヤの言うとおり、釣りでもしながら時間を潰そうと思ってる。」

 

 

 そんな話をしていると、ソーフィヤの背後にある扉が開いて、金髪の少女が現れた。

 

 

「あ、クロノ、ソーフィヤ、おはよう。ここにいたんだね。」

 

 

「おはよう、フェイト。」

 

 

「ああ、おはよう。その感じだと、僕に用か?」

 

 

「うん。ちょっとお願いしたいことがあって。」

 

 

 そう言って、フェイトは扉から離れて二人の近くに移動する。そして、一呼吸置いてから、フェイトは意を決して話し始める。

 

 

「クロノ、確か4日後に地球から離れて、ミッドチルダに向かうんだよね?」

 

 

「ああ。エイミィから聞いたのか?」

 

 

「うん。早く起きたから艦内を歩いてたら、偶然会って。その時に聞いたの。」

 

 

「なるほど。それで、お願いはそれについての事か?」

 

 

「うん。短い時間でもいい、ここから離れる前に、もう一度彼女に会いたいんだ。」

 

 

「彼女…なのはの事か?」

 

 

「うん。まだ、私はあの子としっかり話せてない。このまま地球を離れたら、私は絶対に後悔すると思う。一度だけ、お話をさせてくれないかな?」

 

 

「…うむ…」

 

 

 クロノは考える素振りを見せる。

 不安そうな表情を見せるフェイトを見て、ソーフィヤはフォローを入れる。

 

 

「さっきなのはに会った時、なのはからフェイトについて聞かれたの。あの事件以来全く会えてないし、かなり不安に思ってるみたい。何とかしてあげられないかな?」

 

 

 ソーフィヤの言葉を聞き、クロノは目を閉じて更に考える素振りを続ける。

 1分ほど経って、クロノは考える素振りを止め、目を開いた。

 

 

「…本当は許可は出せない。けど、君達2人の場合は、事情が少し特殊だ。ミッドへの出発前に、少しだけれど会える機会を作るよう努力しよう。」

 

 

「本当!?」

 

 

「ただ、艦長にも相談しなきゃいけないし、それ以外にも色々と動かなきゃいけない。なのはに連絡するのは当日になってしまうかもしれないけど、それでも大丈夫か?」

 

 

「うん!会えるようにしてくれるだけでも嬉しいよ!ありがとう!」

 

 

 フェイトは満面の笑みで、クロノにお礼を伝える。それを見て、クロノとソーフィヤも笑みを溢す。

 

 

「さて、ソーフィヤ。艦長への説得、ソーフィヤにも協力してもらうよ。君も一枚噛んだんだしね。」

 

 

「OK。フェイトの為だもん、出来ることなら協力するよ。」

 

 

「期待してるぞ。さて、二人とも、まだ朝御飯を食べてないだろう?食堂で食べながら、今回の件について少し打ち合わせしよう。」

 

 

「うん。」「了解!」

 

 

 クロノは展開していたデータを保存し、ウィンドウを閉じる。

 そして3人で他愛ない話をしながら、食堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 時は流れ、出立の日。

 海鳴公園には、クロノ、フェイト、アリシア、アルフ、ソーフィヤが降り立ち、なのはの到着を待っていた。

 

 

 あの後3人がかりでリンディを説得し、フェイトはもう一度なのはと会えるように約束を取り付けた。

 なのはもフェイトの事がとても気になっており、先程電話で用件を伝えたときにはとても嬉しそうな声で返事が帰ってきた。

 その約束を果たすため、フェイト達は海鳴公園の海岸近くで待っていたのだった。

 

 

「……」

 

 

 当事者であるフェイトは、期待しているような、不安なような、何とも言えない表情をしていた。

 その様子に一早く気づいたアリシアが、フェイトに話しかける。

 

 

「どしたのフェイト?もしかして、緊張してる?」

 

 

「…うん、そうだね。とても、緊張してる。」

 

 

 アリシアの問いに、若干ぎこちない動きでフェイトは頷く。

 なのはと、2人で初めて言葉を交わす。フェイトにとって、初めての経験。寧ろ、緊張しない方がおかしい。

 それを百も承知で、アリシアはフェイトを励ます。

 

 

「まあ、そこまで固くならなくても大丈夫だよ。もうちょっと余裕を持ちなって。ほら、深呼吸深呼吸。」

 

 

「う、うん。すーはー…」

 

 

 アリシアのアドバイスに従い、フェイトは深呼吸をする。心なしか、漠然とした不安があった先程よりも、若干心が軽くなった気がした。

 

 

「さて、そろそろなのはが来てもいい頃だが…」

 

 

「フェイトちゃーん!」

 

 

 クロノが呟くと、なのはが嬉しそうな表情で遠くから走ってきた。それを見て、フェイトも笑顔になる。

 なのはが皆の近くまで来たところで、なのはの肩に乗っていたユーノは、肩から飛び降りてアルフの方に移っていった。

 

 

「あんまり時間は無いんだが、しばらく2人で話すと良い。僕達は、離れたところにいるから。」

 

 

 クロノが2人にそう伝えると、「ありがとう」となのはとフェイトが返す。

 そして、クロノと一緒にその他の面々は、少し離れたところにあるベンチに座った。

 

 

 先程の場所では、なのはとフェイト、2人が、互いに向き合って、笑顔で言葉を交わしている。『なのはと友達になりたい』、フェイトはここに向かう途中で、そう呟いていた。

 

 

 2人は本当の友達になるため、自分の想いをぶつけ、お互いに受け入れている。

「名前を呼んで」。フェイトは、友達に対して初めて、自分の意思で名前を呼び掛ける。ようやく繋がり合えた。分かり合えた。その想いが2人の胸の中で大きく積もり、抱き合いながら涙を流した。

 

 

「…なのは、あの子は本当に良い子だよ。フェイトが、あんなに笑ってる…!良かった、本当に良かった…!」

 

 

 その光景を見ていたアルフは、フェイトが再び笑ってくれたこと、その事実に感動し、涙を流していた。

 その左隣で同じく2人を見ていたアリシアは、複雑な感情を抱きながら隣のソーフィヤの方を向き、問いかけた。

 

 

「…ねぇ、ソーフィヤ。ソーフィヤから見て、なのはってどんな娘なの?」

 

 

「ん?私もなのはとはあまり長い付き合いじゃないから、そこまで詳しくは分からないけど…。一言で言えば『諦めない娘』かな。」

 

 

「諦めない娘?」

 

 

「うん。なのはは、自分がこれをやらなきゃ!って思ったことは、絶対にやり遂げようとするの。ジュエルシード集めもそう、フェイトの事もそう。」

 

 

 ソーフィヤは、アリシアの方から顔の向きを変えて、2人の方を向き直す。

 

 

「どれだけ想いが伝わらなくても、どれだけ相手から拒絶されても、なのはは何度も、必死にフェイトに関わろうとした。だからこそ今、ああして手を取り合って、涙を流せるんだと思う。」

 

 

「…ふーん、そうなんだ。何か、妬けちゃうなぁ。」

 

 

「それはどっちに?」

 

 

「2人とも。無論、なのはにはフェイトを助けてもらった感謝の気持ちはあるけれど。状況が状況だから仕方なかったけど、私はあんな風に誰かと関わり合うことなんて、今まで出来なかった。だから、ああいうのを見ると、どうしても羨ましくなっちゃう。」

 

 

 アリシアは、離れた2人に羨望の眼差しを向ける。

 今まで誰とも話すことが出来ない状態で20年以上過ごしてきたのだ。やはり誰かと関わり合うこと、繋がることを欲しているのだろう。

 

 

「…これからやっていけるよ。私やフェイト、クロノ、エイミィが近くにいる。海鳴に来れば、なのはもいる。これからもっと、繋がりを広げていける。私も、まだ生まれたばかりなんだ。一緒に、やっていこう。」

 

 

「ソーフィヤ…うん、そうだね。始めよう、ここから。」

 

 

 ソーフィヤとアリシアは、互いに目を合わせ、頷き合う。フェイトが新しい1歩を踏み出したように、自分達もここから始めていこう。その意思を、お互いに交わし合った。

 

 

 

 少しして、クロノが席を立ち二人に近付いていく。

 

 

「時間だ。そろそろ大丈夫か?」

 

 

「うん、大丈夫。」

 

 

「…っ!フェイトちゃん!」

 

 

 そう言うと、なのはは自分がつけていたリボンを外し、フェイトに差し出す。

 

 

「思い出に出来るもの、こんなのしかないんだけど…」

 

 

「!じゃあ、私も…」

 

 

 フェイトも同じく髪紐を解き、なのはに差し出す。2人はゆっくりと、互いに相手の髪留めを手に取る。

 

 

「ありがとう、なのは。」

 

 

「うん、フェイトちゃん。」

 

 

「「きっとまた…」」

 

 

 互いに微笑み、髪留めを受けとる。

 すると、アルフがなのはの肩にユーノを置いた。

 

 

「ありがとう。アルフさんも元気でね。」

 

 

「ああ。色々ありがとうね。なのは、ユーノ。」

 

 

 アルフは、なのはの言葉に笑顔で応じる。なのはのお陰で、フェイトが変わることが出来た。その感謝の想いが伝わってくるような笑みがこぼれる。

 

 

「なのは。」

 

 

「ソーフィヤちゃん!」

 

 

 アルフの後ろから、ソーフィヤとアリシアがひょっこり出てくる。身長差的にそのように見えてしまっているだけなのだが。

 

 

「初めて会ったときから、色々迷惑をかけて…。本当にありがとうね、なのは。」

 

 

「ううん、あの時は仕方なかったもん。でも、ソーフィヤちゃんとも会えて良かった。ソーフィヤちゃんも協力してくれたから、こうしてフェイトちゃんとしっかり話す事が出来たし、アリシアさんとも会うことが出来た。こちらこそありがとうだよ。」

 

 

「そうだね。でも、なのは。貴女が動いてくれたお掛けで、今フェイトがこうして笑っていられる。テスタロッサ家の者として、フェイトの姉として。ありがとう。」

 

 

 アリシアは、なのはに笑顔で感謝を伝える。一人の姉として、妹を救ってくれたなのはには、本当に感謝しかなかった。

 

 

「でも、これでソーフィヤちゃん達もさよならなんだよね…。」

 

 

「うん。でも、私も、フェイトも、アリシアも。ここから、皆の物語がスタートするんだ。私達にとって、さよならは始まりの言葉。この前も言ったように、また会えるよ。」

 

 

「…うん、そうだよね。またいつか、皆巡り合える。また、その日まで。またね、ソーフィヤちゃん、アリシアさん。」

 

 

「うん。またね。」

 

 

「またね、なのは。」

 

 

 ソーフィヤとアリシアの二人も、なのはに笑顔で別れを告げる。

 そして、なのはの後ろにいたクロノも、なのはに声をかける。

 

 

「それじゃあ、僕も。」

 

 

「うん。クロノくんもまたね。」

 

 

「ああ。」

 

 

 そう言って、5人は1ヶ所に集まる。

 5人の足元に黄色の転送陣が現れ、光に包んでいく。

 一際大きな光が放たれた後、5人の姿はそこから無くなっていた。

 

 

 穏やかな風が吹き抜ける海岸線。

 なのはは、快晴の空を見上げ想いを馳せる。

 

 

(バイバイ、またね。クロノくん、アルフさん、アリシアさん、ソーフィヤちゃん、フェイトちゃん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

「…お帰りなさい。フェイト、やりたかったことは、しっかりと出来たようね。」

 

 

 アースラに戻ると、転送ポートの前でリンディとプレシアが待っていた。

 

 

「はい…。私の思い、ちゃんとなのはに伝えられました。」

 

 

 フェイトは、手に握りしめているピンクのリボンを見る。

 この手に残る、友達の証。あの時間は嘘じゃないんだと、確かに教えてくれている。

 フェイトのその様子を見て、リンディとプレシアは軽く笑みを溢す。

 

 

「それじゃ、またなのはさんに会えるように、まずは目先の事を頑張りましょうか。」

 

 

 リンディは転送ポートの近くから艦長席に移動し、表情を引き締めて指示を出す。

 

 

「総員、待機状態から巡航状態へ移行。機関の稼働が確認出来次第、ミッドチルダ方面への巡航を開始します!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 リンディの指揮で、アースラが稼働しミッドチルダへの帰投を始める。

 

 

 およそ2ヶ月にも渡って巻き起こされたジュエルシード事件は幕を閉じ、また新たな幕が開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作の13話が、時系列が話中で結構飛ぶので、どう書くかすごく悩みました…。

この後は、幕間(という名の本編)を経て、A'sに続く予定です。

デバイスとか早く出せるよう、執筆速度を早めなければ…!
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