ロストロギアの少女   作:幽々やよい

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第4話 初めての訓練なの

 どこか荒野を思わせるような場所、そこにソーフィヤはいる。ソーフィヤが今いるのは、アースラ内にある模擬戦などを行うための訓練室。その室内には、彼女以外にもなのは、クロノ、ユーノの3人がいた。また、魔力値の測定や緊急時の外部操作等の為、エイミィも通信の向こうにスタンバイしている。

 

 

「ソーフィヤ、艦長から言われた事わかっているな?」

 

 

「わかってるよ、クロノ。危険な状態になったら私も全力で止めるから。」

 

 

 クロノがソーフィヤに対して問いかける。それは、昨日の魔力検査の結果を知らされる際に、リンディから言われたある事が原因となっていた。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 話はソーフィヤの魔法訓練が決まった辺りまで遡る。

 

 

「それで、ソーフィヤが実際に魔法の訓練をすることが決まったところで、それにおいて注意しておいて欲しい事があるの。」

 

 

 リンディは、笑顔になっていたソーフィヤ達に対してそう話しかける。皆は「そう言えば、まだ二つ目の問題点が残っていた」と思い出し、表情を戻してリンディの方に向き直る。

 

 

 リンディは、先程机の上に置いた書類を1枚捲り、次のページを開いた状態で机の上に戻す。今度開かれたページには、幾つかの法則性の読み取りにくいグラフが示されていた。それを見せつつ、リンディが二点目を告げる。

 

 

「で、これが問題点の二つ目。どうやらソーフィヤのリンカーコアは出力が不安定らしいのよ。」

 

 

「出力が……不安定?」

 

 

「どういう事ですか……?」

 

 

「そんなこと有り得るんですか……?」

 

 

「「?」」

 

 

 リンカーコアから放出される魔力の量が不安定。こんなことは普通の人のリンカーコアでは考えられない。だからこそ、話をわかっていないなのはとソーフィヤを除く3人は、今一この事を受け入れにくいようだった。3人が挙げた疑問に対して、リンディは資料を見つつ事実を述べていく。

 

 

「確かに、普通だったら有り得ないわ。本来リンカーコアは常時一定量の魔力を放出し続ける物。それが不安定なんて、意味不明だと思うわよね。」

 

 

 でもね、と言いつつリンディは机に置かれた資料の中のある一つのグラフを指差しつつ言う。

 

 

「これは普通の人のリンカーコア出力とソーフィヤのリンカーコア出力の比較よ。普通だったら魔力出力は魔法を使うほど比例の式で進んでいって、ある程度、つまり自分が使えるギリギリまで行ったらほぼ横ばいになるの。」

 

 

 そう言いつつ、リンディはその隣にあるソーフィヤの魔力出力のグラフを指差す。それを見て、全員の顔が引きつり驚きを表す。特に本人であるソーフィヤの驚きはかなり大きなものだった。

 

 

「……えっ?」

 

 

「何で……。」

 

 

「どういう事だ……?」

 

 

「ちょっと、これって……。」

 

 

「えっ、あ、これ私の、あっ、えっ?」

 

 

「やっぱりそうなるわよね……。」

 

 

 五者五様の反応を見て、リンディが困ったような表情を顔に浮かべる。

 

 

「見ての通り、ソーフィヤは途中までは普通のリンカーコアと同じなんだけど、ある一点を越えると暴走し出して魔力が著しく不安定になるのよ……。」

 

 

「それにしてもこれ、おかしくないですか!?」

 

 

 ソーフィヤの魔力放出のグラフは途中までは普通のリンカーコアの物とほぼ変わらないものの、途中から上下に大きく針が振れてしまっている。明らかに異常だと理解できる程のグラフになっていた。

 

 

 普通では考えられないほどの魔力の不安定放出。堪えきれずエイミィは驚愕の声を上げる。この事について考えられる原因をクロノは考え、ある一つの仮説に辿り着いた。

 

 

「もしかして、リンカーコアに癒着したジュエルシードが原因に……?」

 

 

「確かに、それは可能性としてあるわね。」

 

 

 クロノの呟きに、リンディが頷く。そして、その上でこう続けた。

 

 

「恐らく、最初は普通にリンカーコアが魔力を放出するんだけど、ある一点を超えるとジュエルシードが反応し出して膨大な魔力を放出する。けどジュエルシードはリンカーコアに癒着している。それでジュエルシードからリンカーコアに一瞬で膨大な魔力を送られた結果、リンカーコアが処理落ちしちゃって上手く魔力を操作出来なくなるんだと思うわ。」

 

 

「なるほど……。」

 

 

「何となくだけど、わかりました。」

 

 

 リンディの言葉によって、全員が大体現状を理解する。状態が状態なだけに、皆が真剣な表情を崩せない。その上でリンディは、これからソーフィヤの魔力訓練に関わる全員ににこう伝える。

 

 

「皆、ソーフィヤの魔力放出の不安定は、下手すると発動中の魔法の暴走を引き起こす可能性があるわ。魔力が不安定にならないラインを見極めつつ、訓練するようにしてちょうだい。」

 

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 そんなわけで、万が一の際艦全体に被害を及ぼさないようにユーノが結界を張り、何かあった時の外部活動のためエイミィがスタンバイしていた。

 

 

 ソーフィヤの訓練を始めるために、全員が場所のセッティングをする。全ての準備が整った事を確認したクロノは、向かいに立つソーフィヤに声をかけた。

 

 

「ソーフィヤ、さっき渡した代理デバイスは持っているな?」

 

 

「うん、持ってるよ。」

 

 

 ソーフィヤは右手に持った杖を掲げる。ソーフィヤが一時的な訓練サポート用に渡された杖は、クロノの持つS2Uよりかなり短いもののS2Uと同じくミッド式に対応した杖である。杖と言うよりは、丈だけ見れば篠笛に近い形である。

 リンディ達としてはS2Uに近い物を渡したかったのだが、常時持ち歩くには不便だとしてこのサイズになった。しかし、この杖には一つ難点があった。

 

 

「クロノ、この杖って私に完全に適応してるデバイスじゃないんだよね?」

 

 

「ああ。ソーフィヤの魔法術式は、かなり特殊だからな……。オリジナルで作らないと、完全適応のデバイスは無いと思う。」

 

 

 検査によって判ったことだが、ソーフィヤの魔法術式は『ミッドチルダ主体古代ベルカ混合ハイブリッド』。この魔法術式は、他にほとんど例を見ないかなり特異なものである。その為どちらか片方しかサポート出来ない汎用デバイスでは、かなり不十分なのだ。

 

 

「だけど、今回は防御魔法や魔力弾作成等、ミッド式に近い魔法を訓練するから、そのデバイスで十分間に合う。それに、そのデバイスの役割は主に魔法発動の補佐的なものだしな。」

 

 

「なるほどー……。わかったわ。」

 

 

 クロノの説明にソーフィヤは納得し頷く。それを一通り見た上で、クロノは訓練を早く始めるためにソーフィヤにこう言った。

 

 

「とりあえず訓練を始めようか。ソーフィヤの安全確保の為にも、早くやるに越したことは無いからな。」

 

 

「わかった。じゃあ、クロノ。先ず何をすれば良いの?」

 

 

「先ずは防御魔法からだ。魔術構成の数式はさっき教えたな?それを頭の中で思い浮かべれば、デバイスが反応して出来ると思う。」

 

 

「了解!じゃあいくよ!」

 

 

 ソーフィヤは杖を構え、先程クロノから教わった防御魔法の数式を思い浮かべる。するとソーフィヤの足元に、紺青色のミッドチルダ式魔法陣が現れた。全身に魔力が流れている事を確認したソーフィヤは、魔法を発動させる。

 

 

「行けぇ!」

 《Protection.》

 

 

 デバイスから声が出ると同時に、ソーフィヤの目の前に魔法色と同じ紺青色のシールドが作られた。どうやら防御魔法の発動が無事に成功したようだ。

 

 

「やった!出たよ!」

 

 

「ああ、そうだな。防御魔法については、ほとんど問題が無さそうだ。」

 

 

 クロノはソーフィヤの作り出したシールドを見る。かなり上手い魔力の調整が出来ているのか、かなり質の高いシールドが出来上がっていた。

 

 

 クロノは紺青色のシールドからソーフィヤへと視線を移し、ソーフィヤを褒める。クロノに褒められたのが原因なのか、ソーフィヤのやる気がどんどん上がっていっていた。

 

 

「クロノ、次は何をやるの?」

 

 

「次は魔力弾の生成だ。これは魔力運用能力を鍛えられるし、完全に身に付けることが出来れば様々な応用に用いれる。」

 

 

「わかった。やってみるわ!」

 

 

 ソーフィヤはクロノに返事をし、再び杖を構え直す。ソーフィヤは全身の魔力の流れを意識しつつ、魔力弾作成訓練を始める。

 

 

 ソーフィヤは先程の防御魔法と同じように、魔力弾作成に必要な数式を思い浮かべる。すると、ソーフィヤの周囲に3つの紺青色の魔力弾が現れる。

 

 

「よしっ、出来た!」

 

 

「ああ。3つはとりあえず攻略(クリア)だな。」

 

 

 作られた魔力弾はソーフィヤの周りに浮き続けている。しかし、この魔力弾には普通の魔力弾とは少々異なる点があった。それに気が付いたなのはが、ふと呟く。

 

 

「何か魔力弾から、白い煙が出てるの……。」

 

 

「あれ?本当だね。」

 

 

 ソーフィヤが作った魔力弾からは、全て白い煙が上がっている。この現象に気が付いたなのはや

 なのはの近くで聞いていたユーノ、作ったソーフィヤと近くにいたクロノ、そしてモニター越しに見ていたエイミィは、この現象の起こる原因がわからず、揃って首を傾げた。

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 全員がこの原因について悩んでいると、このタイミングでモニタールームにリンディが入ってきた。

 

 

「どう、エイミィ。訓練はスムーズに進んでる?」

 

 

「はい。防御魔法も魔力弾作成も、とりあえずは何事もなく進んでいます。ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

 どうやってソーフィヤの魔力弾に起こっている現象を伝えるかと、エイミィは悩む。しかしどう考えても説明がおかしくなるため、実際に見てもらった方が早いと思いリンディにモニターを見るように促した。

 

 

「ちょっとソーフィヤちゃんの魔力弾によくわからない現象が起こってて……。実際に見てもらえますか?」

 

 

「よくわからない現象?わかったわ。見せてちょうだい。」

 

 

 リンディは訓練室の映像を映したモニターに近付き、ソーフィヤの白い煙の立ち上る魔力弾を見る。それを見て少し考えてから、リンディはこう言葉を漏らした。

 

 

「もしかして……魔力変換資質かしら?それもかなりレアな『氷結』の。」

 

 

『!?本当か、ソーフィヤ?』

 

 

『えっ?わ、わからないよ。そもそも魔力変換資質って何?』

 

 

 リンディから漏れた言葉に驚いたクロノは、何故このレアな変換資質を持っているのかをソーフィヤに訊ねようとする。しかし、まだ今日初めて魔力操作に触れたばかりのソーフィヤは、そもそも変換資質が判らずおどおどとする。

 

 

 こんな変換資質をそもそも理解していないソーフィヤに対して、リンディは軽く説明をした。

 

 

「魔力変換資質っていうのは、魔力を出すときに自然とそれに属性効果を付与するちょっと特殊な物なの。種類は、炎属性を付与する『炎熱』と雷属性を付与する『電気』、そして他の資質よりかなり数の少ない氷属性を付与する『氷結』の3つがあるの。」

 

 

『ソーフィヤの場合、白い煙は氷が水に戻ろうとするときに出る水蒸気に似ているから、恐らく『氷結』の変換資質だろう。』

 

 

『へー……。そんなのがあるんだ。』

 

 

 二人の説明に、ソーフィヤは納得する。その時、クロノ達から少し離れて立っていたユーノは、ふとこんなことを呟いた。

 

 

『ていうか、ソーフィヤってかなり特異だよね……。基がジュエルシード然り氷結変換持ち然り……。』

 

 

 こんなことを呟いているユーノに対して、クロノは少し意地悪をする。

 

 

『君も棚に上げて言っていられる程じゃない。だろう、使い魔君。』

 

 

『ちょ、クロノ、また……!』

 

 

 クロノから然り気無く使い魔扱いされたことに対し、ユーノが軽くキレる。そんないつもの風景を見て、なのははにゃははと苦笑した。

 

 

 ここで、ふとエイミィがあることを考えクロノに尋ねる。

 

 

「ねぇ、クロノ君。ソーフィヤちゃんの魔力弾って、3つが限界なのかな?」

 

 

『そんなことは無いと思うが……。ソーフィヤ、まだ魔力弾を出せる余裕があるか?』

 

 

『バリバリ大丈夫だよー。まだ余裕ある。』

 

 

 周囲に魔力弾を浮かせた状態で、ソーフィヤは笑顔でクロノの問いに答える。その状態を見て、クロノはソーフィヤにまだ余裕があると判断して、もう少しソーフィヤの限界を調べてみようと考え指示を出す。

 

 

『なら、もう少し魔力弾を出してみてくれ。あくまで今可能な限りでいいからな。』

 

 

『了解!いっくよー!』

 

 

 ソーフィヤが再び魔力を操作し始める。すぐに4つ目の魔力弾が現れるものの、クロノには球状の魔力弾にしては少々輪郭がボヤけて見えた。

 

 

(……?僕の見間違えか?)

 

 

 どうやら近くで見ているクロノ以外に気が付いている人はいないようである。クロノは、とりあえず今のは何かの見間違えだろうと結論付ける。

 

 

 しかし、クロノはこの判断をこの後すぐに後悔することとなる。

 

 

 ■□■□■□

 

 

 それはソーフィヤが5つ目の魔力弾を生成し終えた時だった。それまでほぼ安定していた5つの魔力弾が、突然暴走して膨張し出した。流石のクロノも、これには驚きを隠せず焦る。

 

 

「な、何なんだ一体!」

 

 

「うわ、うわわわわわ!」

 

 

 魔力弾を生成した本人である、ソーフィヤ自身も焦る。この状態になってから、魔力制御が全く効かなくなってしまったのだ。

 こんな、普通だったらパニックを起こしてもおかしくないくらいの状況でも、クロノは自身を強制的に冷静にして、周りに指示を出した。

 

 

「ソーフィヤ、魔力制御は効くか?」

 

 

「ダメ、全く効かない!このままだと破裂しちゃうかも!」

 

 

 この言葉を聞いたクロノは、この場で唯一強い結界魔法の使えるユーノに指示を出す。

 

 

「ユーノ、結界を張ってくれ!可能な限り強い封時結界を!」

 

 

「わかった!……張れたよ!」

 

 

「よし!ユーノはそのままなのはの後ろに回れ!なのは、防御魔法いけるな?」

 

 

「いけるよ!頑張るの!やるよ、レイジングハート!」

 《Yes,my master.》

 

 

 クロノの依頼に対して、なのははレイジングハートと元気に答え、杖を構え何時でも発動できるようにする。その間にユーノはなのはの後ろ側に回り込み、クロノはソーフィヤの元に行って周囲に防御魔法を発動させた。その間にも、5つの魔力弾は膨張を続けている。

 

 

「皆破裂に備えろ!かなり強い威力になるはずだ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「わかったの!レイジングハート!」

 《Protection.》

 

 

 なのはがシールドを張ると同時に、全員が魔力弾の破裂に備える。その数瞬後、5つの暴走した魔力弾が破裂した。

 

 

「ぐっ!?この衝撃は……っ!」

 

 

「レイジングハート、大変だけど耐えて!」

 《All right.》

 

 

 腕が痺れるほどの尋常ではない衝撃の中、クロノとなのははシールドを維持して耐える。1分ほど魔力弾の破裂による衝撃は続き、その間クロノとなのは、ユーノは結界やシールドを破壊されないように維持し続ける。1分後漸くそれが収まり、クロノとなのははシールドを、ユーノは結界を解除する。

 

 

「はぁ……はぁ……。とてつもない衝撃だったな……。」

 

 

「バリアを壊されそうだったの……。」

 

 

「結界もだよ……。危なかった……。」

 

 

 3人は息切れしつつ、顔を上げて前を見る。すると、先程の魔力弾破裂の威力の強大さを伝える光景がソーフィヤ達の目に入ってきた。

 

 

「うわ……。」

 

 

「こ、これは……。」

 

 

 その部屋にいた全員の顔が引きつる。先程の魔力弾の破裂によって作られたと思われる深く抉れた傷痕が5つ、4人の目に映る。また傷痕だけでなく、十数本以上の氷柱(ひょうちゅう)やそれとほぼ同数の氷塊、そして氷が纒わりついた地面が一面に広がっており、地獄絵図と言っても過言ではない様相になっていた。恐らく、モニターを通してこの光景(さんじょう)を見ているエイミィとリンディも、この光景に驚愕と恐怖を隠せていないだろう。

 

 

 そのような光景(さんじょう)を見た上で、クロノはソーフィヤにこう諭した。

 

 

「……ソーフィヤ、魔力が暴走したらこんなことになってしまう。十分に気を使って訓練するようにしてくれ。」

 

 

「わかった……。もう、安定するまで無茶な魔力の運用はしないわ……。」

 

 

 ソーフィヤは冷や汗を流し、恐怖を隠せない表情を浮かべつつクロノの言葉に返答をする。

 

 

 ……ソーフィヤはこれから暫く、魔力放出が安定するまでは、絶対に暴走領域までは魔力を出さないようにしようと肝に命じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




と言うわけで、問題点2は「リンカーコアの不安定」でした。ちょっと強引かもしれませんが……。

ソーフィヤが今持っているデバイスは一時的な仮の物であり、ソーフィヤの正式なデバイスではありません。
後の話でソーフィヤの正デバイスは出てきます。

あと、デバイスといっても「基礎魔法発動の補佐」の機能しか搭載していない、低スペックデバイスです。
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