高町兄妹と更に関わります。
高町家のリビングを出た私は、恭也さんと美由希さんに連れられて家の敷地内にある道場へと来た。
高町家の道場は予想以上に広く、子供を大勢集めて剣道教室とかを開いていてもおかしくない様子だ。というか、普通の家にこれだけ大きな道場があるのかって位大きい。
余りの広さに道場の中心で呆けている私を他所に、恭也さんは壁際まで歩いていき、置かれていた短木刀を手に取って私に投げてくる。危うく木刀を落としそうになり少し慌てるけど、何とかキャッチできた。私が木刀を受け取ったのを確認すると、恭也さんはその場所から声を掛けてきた。
「ソーフィヤちゃん、そこでちょっと振ってみてくれないか?」
「あ、はい。」
見せるといっても軽く木刀を振るくらいだろうと考え、私は恭也さんの誘いに対して返答する。私は左手に木刀を持って構え、呼吸や姿勢を整える。そして全てを整えた所で、木刀を振り始めた。
「フッ……フッ……。」
身体の軸を意識しつつ、身体全体で木刀を振る。力が身体の中を流れていくイメージで、1本1本を打っていく。3分ほど振った後、私は木刀を収めて恭也さん達の方を向いた。
恭也さん達を見てみると、高町兄妹2人が揃って驚愕の表情を浮かべている。なのはは特にそんな表情はしてないけど。私、何か変なことでもしたかな?その後、恭也さんは結構早い段階で正気に戻り、私にこう声を掛けてきた。
「いや、思った以上に確り鍛練されているようで、ビックリしたよ。身体の芯もぶれていないし、一打一打の鋭さもいい。誰かから教わったものなのか?」
「いえ、完全に自己流です。教えてもらえるような人がいなかったもので……。」
「そうなのか。だが、結構良い筋だったと思うよ。身の動かし方も、捌き方も。」
私が予想している以上に良い評価を貰えたみたいだ。今までアースラでかなり鍛練したから、こう褒めてもらえると嬉しい。こんな風に少し上機嫌になっていると、恭也さんがある提案をしてきた。
「なあ、少し俺と手合わせをしてくれないか?」
「「えっ!?」」
なのはと一緒にちょっと驚いてしまった。あまりに唐突な発言に、上機嫌だった私も一瞬で気分が戻ってしまった。まさか今日が初見の恭也さんに、こんなことを言われるとは思ってなかった。いや、わかっていたか。なのはから「絶対に手合わせしちゃダメなの!」って言われてるし。
アースラには一緒に手合わせ出来る人がいないから誘いは嬉しいんだけど、なのはから言われている手前止めた方が良いかもしれない。というか、なのはが「絶対にやっちゃダメなの!」っていうすごい意思の篭った目で見てくる。ううむ、どうしようか……。
こんな風にどう返答しようか悩んでいると、恭也さんが更にプッシュしてきた。
「ちょっとでもいいから、やってくれないか?ただ見るだけより、動きの中の方がどんな点が足りないか見つけやすいし教えやすいからな。」
「是非お願いします!」
反射的に答えてしまった。自分にとってかなり良い話だったから、ついやってしまった。なのはに忠告してもらったにも関わらず。なのはの方を見ると、案の定驚愕の表情をしている。けど、言ってしまったものは言ってしまったものだし、手合わせをしてもらえるんなら、精一杯頑張ってやってみよう。
そんな甘い考えで恭也さんに挑んだことを、私は後々本当に後悔するのだった。
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「はぁ……はぁ……。」
十数分後、私は道場の床に倒れ伏していた。恭也さんと手合わせをしている中でほとんど体力を使い果たしてしまい、かなりヘロヘロになって倒れてしまったのだ。
「もう、あれだけ止めといた方が良いって言ったのに……。」
「ご、ごめん。見てもらえると思ったら、つい言っちゃって……。」
私の近くになのはが寄ってきて、愚痴を言いながらもタオルや水を渡してくれたり等、世話をしてくれている。この世話のお陰で、何とか少し体力を回復できた。
というか、恭也さん強すぎる。明らかに手を抜いてくれていたのに、ほとんど有効打を打ち込むことが出来なかった。最後の恭也さんの打ち込みに関して言えば、私は全く軌道が見えず、気が付いたら打たれているような状態だった。倒れている私と比べ、恭也さんはまだピンピンして立っている。なのはが言っていたあの言葉の真意を、身をもって体験して理解した。
その後恭也さんは、床に倒れてしまった私の体力が回復するのを待ってからアドバイスをしてくれた。
「全体的にまだ拙さが抜けないけど、なのはと同い年にしてはかなり出来上がっている方だと思うぞ。」
「はい……。ありがとうございます……。」
「ただ、少し動きがぎこちないな。空いている右手が完全に手持ち無沙汰なんじゃないか?」
恭也さんに指摘され、私は少しビクッとする。確かに、私は普段木刀を振る時右手が空いてて何処に動かしておくか悩んだり、自己流でやっているはずなのに、何故か構えた時のこれじゃない感があったりするのだ。悩みを相談できる良い機会だと思い、思いきって恭也さんに打ち明けてみることにした。
「はい……。今まで鍛練をしててもそうだったんですけど、空いた右手をどうすればいいか自分でも分からないんです。」
「成程……。なら、右手にも小太刀を持ってみたらどうだ?あの動きからなら、いけると思うぞ。」
恭也さんは再び壁際に置かれている木刀を手に取り、私に向かって渡してくる。私は右手でそれを受け取り、いつものように構えて振ってみる。
「フッ……っ!」
振ってみて、明らかな違いに気が付いた。振っている途中でも、今まで感じていたような違和感を感じない。寧ろ、今までよりかなり振れるようになっている。振り下ろし、逆袈裟、横。様々な形で振って感触を掴んでから、私は恭也さんに声をかけた。
「恭也さん、凄く振りやすいです!今まで違和感を感じてたのが嘘だったみたいに!」
「そうか。この形はうちの流派の形なんだが、ソーフィヤちゃんには上手く合ったみたいだな。……よし、今度父さんに頼んで教練用のビデオを作ってもらおう。そしたら、それをあげるよ。」
「本当ですか!?」
「ああ。俺や美由希が言えば多分大丈夫だろうし、父さんも新しく流派を学んでくれる人は歓迎すると思うからさ。そう思うだろ?美由希。」
「そうだね、私もそう思うよ。私からもお願いしておくね。」
「恭也さん、美由希さん……。ありがとうございます!」
意図せずして恭也さんのお目にかかって、どうやら新しい技術を学べることになりそうだ。実際あれだけ強い恭也さんが修めている剣術に、私も少なからず興味があった。それを教えてもらえるなら、これはかなり良い話だ。認めてもらったからには、これから更に頑張っていかないと。
私は意識を一新し、恭也さんの期待にそぐえるように頑張っていこうと新たに決意した。
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side 高町恭也
目の前で、なのはが連れてきた友人、ソーフィヤちゃんが、凄く嬉しそうな表情で俺のことを見てくる。彼女がそんな状態になったのは、間違いなく俺が流派の技を教えると言ったことだろう。
俺が最初ソーフィヤちゃんの素振りを見た時、目が錯覚を起こしてるんじゃないかと思った。右手には何も持たずブラブラさせていたが、左手と身体の動きや重心の置き方は間違いなくうちの流派である御神流のものであったからだ。御神流を知らない少女が、御神流の基礎を無意識に会得してる。正直、驚きすぎて振り終わってから少しの間動くのを忘れてしまった位だ。
実際に手合わせしてみても、自分の想像よりも遥かに良い動きをしていたし、なのはと同学年だとは思えないレベルの実力だと感じた。最後の一打は、俺が無意識の状態で神速を出してしまったし。ただ、やはり部分的に、詳細に見れば拙い部分が多く、生かすも殺すも彼女自身というような状況になっていた。彼女はかなりの鍛練を積んで今の実力まで上げてきた様なので、可能な限り無為にその努力を潰したくない。
そう思い、俺は取りあえず空いている右手にも木刀を持って振ってみることを勧めてみた。すると、両手で振り始めた瞬間、明らかに先程の手合わせ迄とは違う動きになっており、何か引っ掛かりが外れたように滑らかに木刀を振れていた。俺はこれを見て、彼女、ソーフィヤちゃんが、御神流を修得するに値する人物であると判断した。
ソーフィヤちゃんから振り終わっての感想を聞いた後、俺はソーフィヤちゃんが御神流の技術を学べるようにしようと提案してみた。案の定彼女は嬉しそうな表情で、俺の意見に肯定を返してきた。そうして、冒頭に戻る。
まさか、こんな所で御神流を学ぶに相応しいものと巡り会うとは、俺もほんの少しも思っていなかった。だけど、巡り合い関わったからには、彼女の事を出来る限り支援してあげたい。恐らく、美由希も同じ事を考えているだろう。
俺は兄弟子になるかもしれない身として、妹弟子に助力してあげられるようにしていこうと決意し、その為にまず美由希と一緒に父を説得する事に全力を注ごうと考えるのであった。
一人の視点って書きにくいですね……。
書いてて思い知りました。
次話から物語も佳境に入っていきますよー。