結果を手早く言おうと思う。
東門に転移した私が逃げ遅れた人々に障壁を張り巡らせ、盗賊たちには重力を押し付ける。そこに現れたのは死神ロゥリィ、空から降って来た彼女の登場に味方敵問わずに動きを止めた。当然その隙をロゥリィが逃すわけも無く、重力の檻に捉われた盗賊たちは回避する事すら許されず物言わぬ肉塊に成り果てた。
幾分か遅れてやって来た栗林と共に踊る様に盗賊を仕留めていくロゥリィ、見る者が見れば女神に映り、それを相手取る敵からすれば正に死神。
やる事の無い私は駐屯地からくすねて来たコーヒーを飲みながらその様子を観戦していた。その時に喧しい音と共にヘリが現れた。両脇に巨大なスピーカーをくっつけて、音楽を盛大に鳴り響かせ現れた。その登場の仕方に思わず手に持ったカップを落としそうになったが、それは置いておく。
さてさて機銃による盛大な銃撃により、残されていた盗賊も壊滅となった。だって機銃の掃射だけじゃなくミサイルも打ち込むなんて思わない、どう考えても市街地に被害が出ると思うのだが、私が頑張って破片や流れ弾、或いは肉片などを全て防いでこの戦いは終結となった。
◆
レレイを間に挟み、伊丹達自衛隊と皇女による条約の締結が定められていた。自衛隊側の要求は微々たるもので、捕虜を丁重に扱う事と自衛隊のフォルマル伯爵領内の無害通行を保証する事をはじめとした条約を結んだ。
レレイの会話を見ていて思ったのだが、確実に私イタリカに来る必要は無かった。レレイ、貴女いつの間にここまで会話出来るようになっていたの・・・?
条約の締結に伴い、自衛隊はアルヌスに戻る事となった。だがしかし、面倒ごとは何時だって唐突にやってくる。
「さよなら伊丹、貴方の事は忘れないわ」
「勝手に隊長を殺さんで下さい・・・」
富田に溜息を溢されてしまった。だけど仕方が無いだろう、なんたって伊丹は結んだ協定を早速破られ、薔薇騎士団の面々に連れ去られてしまった。しかも道中にぼっこぼこにされるおまけ付きで。
倉田なんかは大分羨ましそうにしていたが、そこは彼の性癖だろうし関わらないようにする。
とはいえ、騎士団の面々に連れていかれたとはいえ実際彼の命が失われる事にはならないだろう。なんたってピニャ皇女は自衛隊の力をはっきりと見てしまったのだ。それを見てしまった後で伊丹があのような姿で現れてしまったら気絶しても可笑しくない。
「取り合えず、日も落ちたし攻め入る?」
「攻めませんよ・・・。自分たちがすることは隊長の安否の確認と同時に連れ戻す事です」
ちっ、これを機にあの都市を滅ぼしてしまえば後腐れが無くなったというのに・・・。
冗談はここまでにしておこう、眠気覚ましとして振る舞っていたコーヒーをしまい伊丹を迎えに行く事とする。
富田や栗林自衛隊員は歩いて行こうとしていたがそれを留め、一か所に人を集めた。そうして集まった人達全員に一度触れていき解析を行っていく。
「さて、跳ぶわよ」
全員の解析を終わらせ、転移の準備を終わらせ伊丹の居場所にパスを繋ぎ跳ぶ。
「へぁ!?」
突如現れた私達に伊丹は驚き、同じように部屋の中にいた女中も動きを固めて
「誰だ!」
ふむ、中には場数を踏んでいた女中もいたみたいだ。女中の姿からするとヴォーリアバニーだろう。ただ、此方が誰かを確認しながら襲い掛かるのはどうかと思う。一足に距離を縮めて来た彼女の動きを止め、伊丹に声を掛ける。
「ロゥリィに化粧されて、更に騎士団に化粧されて、中々良い感じの面構えになったじゃない」
「パチュリーさん!?それに富田に倉田達まで!?」
私一人だけの転移なら見慣れていたから驚かなかったのだろうが、今回は集団の転移だ。流石に驚いた様子でこちらを指さす伊丹。顔に痣を増やし男前になった気がする。気のせいだろうけど。
「お久しぶりです、パチュリー様」
ふと、声を掛けられたのでそちらを見れば懐かしい顔がいた。
「あら、カイネじゃない。思わぬところで顔合わせとなったわね」
「御冗談を、先ほどの条約を決めるときにもいたじゃありませんか」
いたっけ・・・?駄目だ、あまりにも興味が無い話をしていたから記憶に留めていない。そしてそれを理解したのかカイネは溜息を溢し、私達は無害であると証明してくれた。
捕らえたままのヴォーリアバニーも解放し、手早くカイネが準備してくれた紅茶に口を付けながら休む。
「ごめんなさいね、行き成り襲い掛かって来たからついつい」
「ついついで殺そうとしないでください・・・。襲い掛かった私も悪かったですが・・・」
さて、伊丹の無事も確認できた私達であるが。このまま転移をして駐屯地に戻るわけにもいかない。先程集団で転移をしたばかりなのだ、せめてもう少し使用した魔力を回復させておきたい。
カイネが一先ず席を外し、ピニャに私達の滞在の許可を取りに向かった。
その間に皆が思い思いに寛ぎ始める。その中でも倉田のテンションが可笑しな事になっている、端的に言って気持ち悪い。誰が、何といおうと、気持ち悪い。彼の性癖故に口出しする事は無いが、気持ち悪い。
戻って来たカイネがピニャから了承を得てきて戻り、彼女はロゥリィと楽しく?会話を始めた。はて、私の記憶が正しければ彼女はエムロイ信徒だったはずなのだが・・・。まぁ気にしていても仕方が無いだろう。
お茶うけにと出されたクッキーを摘まみ、のんびりと部屋を見渡していると部屋の外に人の気配がした。
その気配の正体は伊丹をここに連れてくることになった薔薇騎士団のボーゼスであった。彼女は意を決したかのように部屋の中に入ってきており、固まったまま動かない。何をしているのだろうかと思っていると、何か憤慨したかのように伊丹に向かって歩き出し
「何をしようとしているのかしら」
手を振り上げた状態で固まった。
私が糸を操り彼女の動きを制限しているからだ。先程ヴォーリアバニーの動きを止めたのも同じ、人形遣いの技術を再現出来ないかと以前練習してみたのだがこれが結構便利なのだ。
「貴女は振り上げたその手で何をしようとしたのかしら。返答次第ではこれは戦争に発展する事になるのだけど、貴女はそれが理解出来ていて?」
触れた意図から意識を読み取ってみたが、要するに貴族としてのプライドを無下にされたことを怒っていたのだ。これだから貴族は面倒臭い。自分が上だと思っており、そのちっぽけなプライドが汚されてしまえば何も考えないで動き出す。
「伊丹、私が止めなければ貴方の頬に綺麗な花が咲く所だったのだけどどうする?やれと言うならこの場で潰すわ」
「え、いやいやそこまで物騒な真似はしなくていいですよパチュリーさん!何も無かったんだからそれで良いじゃないですか」
その言葉を受け、私は彼女の拘束をほどく。ほどいた直後、彼女は腰が抜けたのかその場にへたり込み、倒れそうになってしまう。そこを富田が支え、レレイと共にピニャの所へ向かって行った。
「相変わらずパチュリー様は人を脅すのがお上手ですね」
「脅してはいないわ、お願いしただけよ」
真摯に、丁寧に、何時でも私はそうやってきた。多分・・・。
◆
明けて翌朝、ボーゼスによる伊丹襲撃未遂をピニャに謝られ、ピニャは自身が率いている薔薇騎士団の面々が伊丹を傷つけた事を謝るために私達に同行する事を決めた。パチュリー何が何だか分かんない。
正装に着替えた皇女とボーゼスを乗せた車がアルヌスへと向かって発車する。相変わらず倉田は自分に正直で、気持ち悪かった。まぁ猫耳可愛いからね仕方が無いのも分かるが、公私を弁えよう。
同乗している二人の顔を見れば軽く青ざめており、今後の結果について考えているのだろう。しかしレレイは銃の構造について誰から聞いたのか、仮に独学で理解したというのならば、彼女はまだまだ伸びるだろう。
さて。さてさてさて、私は今大変テンションが可笑しな事になっている。何故かって?何故かって!?日本に公式に向かうことが出来るからだ!
皇女と狭間が対談している最中に伊丹からもたらされたその話を私は一も二も無く了承した。と言うか拒否するという選択肢は存在しない。これで誰に咎められることも無く日本を満喫できる。ちなみにその日本へ何しに行くのかと言われると、こちらの世界の代表として向こうで話をするだけとのこと。因みに私の主な仕事は通訳、レレイと共に話をスムーズに進めるために同行する事となった。二泊三日の旅となるのでその間に恐らく自由に動く時間も取れるだろう、無くても自由に動くのだが気にしたら負けである。
翌日の準備を終わらせ、とは言っても私は特に何かを用意する必要も無い。だが、翌日が楽しみで寝れなかった。遠足前の子供か私は・・・。
そういえば、レレイが部屋に戻ってきていない事に気が付く。こんな遅い時間に何処にいるのだろうかと探しに回って見れば、何と伊丹が服を脱がしていた。しかも眠っているレレイの服を勝手に。
「何時だって日本男児は夜這いをするのが習わしなのかしら」
「パッチェ!?」
「あぁ良いわね、パチュリーさんと呼ばれるのも堅苦しかったのよ。今後はパチェさんとでも親しみを込めて呼びなさい。で、レレイを脱がしてどうするつもりだったのかしら?」
答えは聞かなくても分かっているが、慌てる様子が面白いので敢えて触れないようにする。
「いやこれはですね、レレイが部屋に戻る前に眠ってしまったので、急遽こちらで寝かせておこうと思い・・・。ローブも着たままだと苦しいかと思ってですね、決して夜這いとかでは無く・・・」
「知っていたわ」
「おいパチェさん」
「良いじゃない、少しからかっただけよ」
私のそんなからかいに彼は頭を抱える。
少しした後に、真面目な顔を作り、今まで抱えて来たであろう疑問を私に投げかけて来た。
「パチェさん、この際だから教えて欲しい。どうしてパチェさんは日本について知っているんだ?」
「あら、私は賢者よ?知識を求めている内に貴方達の事を知ったとしても可笑しくは無いでしょう?」
「過去に同じように、日本に門が開き、その日本で知識を得たというのならまだわかる。でもロゥリィに聞いた限りだと門が開き、俺達と同じような、日本から来た人がいるというのは聞いていない」
「大正解、過去に私は日本人に出会ったことは無いわ。さて、では私はどうやって貴方達の情報を得たのでしょうか。そうね・・・三択にしましょう。
1、パチュリー・ノーレッジは元日本人の転生者である。
2、パチュリー・ノーレッジは日本に自由に行き来する事が出来る。
3、パチュリー・ノーレッジは貴方達の記憶を読むことが出来る。」
「・・・全部正解とか言いませんよね?」
「答えが有るとも言ってはいないけどね」
くすくすと笑いながら、月明りに照らされる私は、伊丹からすれば本当に魔女に見えただろう。
悩み、悩み、悩み抜いて伊丹は両手を挙げた。
「降参です。パチェさんには勝てる気がしない」
「あらそう。じゃあ話はこれでお終い。レレイは私が送るから、伊丹も明日に備えて寝る事ね」
そう告げ、私はレレイに触れる。
「そうそう、先ほどの答えは全部正解よ。二つ目に関しては条件付きだけどね」
最後に言い残し、私はその場から消え去った。
このパチェさん魔女である。
と言うか今更気が付きましたがロゥリィなんですね。ウが小文字だったとは・・・。
SERIOさんらぁ油さん報告感謝です