授業が終わった放課後、真鞘と綾斗は疲れ果てていた。
「お疲れだね、2人とも」
「俺もう明日から不登校になろうかな」
「さすがに、それは……ありかな?」
労いの言葉を言いながら、苦笑いを浮かべるアルフ。
2人がここまで疲れている理由は授業と授業の間の休憩時間にクラスメートから受けた質問攻めが原因であった。綾斗は編入早々に
「人気者は大変だな」
夜吹も会話に参加してくる。今現在は真鞘、綾斗、アルフ、夜吹の四人で教室から出て廊下を移動している。
「まぁおかげさまでいろいろと分かったよ」
「ほぉ、例えば?」
綾斗の言葉に一同は疑問を覚え、夜吹は聞き返した。
「まず、人気者は俺じゃなくてユリスのほうだ。みんな俺に興味があるんじゃなくて、『ユリスと決闘した誰か』に興味があるんだと思う」
「おや、ご明察」
夜吹はよくできましたと言いたげな顔で答えた。
「でもそれなら本人に聞けばいいと思うんだけど」
「馬鹿か綾斗、あんな雰囲気のユリスが答えてくれると思うか?」
「……確かに多少とっつきにくい感じはあるかな」
「まぁあのお姫様は他人と距離を取ってるのは間違いないからな。そもそも……」
「あのちょっと待って、そのお姫様っているのはあだ名か何か?」
綾斗が言ったことには、真鞘も確かに疑問を持っていた。
言われてみると、お姫様という言葉はユリスにはぴったりな気もするが、誰がそんなあだ名を考えたのだろうか?
「んー、あだ名っつーかなんつーか、正真正銘のお姫様なんだよ、ユリスは」
「……は?」
「あぁなるほどな」
綾斗は自分の耳を疑い聞き返すが、真鞘は納得した。
夜吹の言葉をアルフが説明する。
「
「あぁどっかで聞いたことがあると思ったけど、そんな国あったな」
世界各地を渡った経験を持つ真鞘はリーゼルタニアにも少し訪れたことがあった。
「ちなみにフルネームはユリス=アレクシア・マリー・フロレンティア・レナーテ・フォン・リースフェルト。ヨーロッパの王室名鑑にも載ってるぜ」
「へぇ……やけに詳しいね?」
「そいつが商売なもんでね、これでも一応新聞部なのさ」
夜吹は不敵に笑って見せた。
「あれだけ可愛いくて、強くて、しかもお姫様ときたら誰だってほっときやしない。彼女がうちに来たのは去年なんだが、それこそ今日のお前らなんて目じゃないくらいのフィーバーっぷりだったんだぜ?」
「目に浮かぶな」
「目に浮かぶようだよ」
「ところがだ。あのお姫様はそんな連中に向かって何て言ったと思う?『うるさい、黙れ。私は見世物ではない』だ」
「……目に浮かぶな」
「……目に浮かぶようだよ」
夜吹の言ったことに、2人は苦笑する。ちなみにアルフもこの話を聞いたときは同じように苦笑した。
「実力はあるから、面白く思わない連中が決闘を申し込んできても見事に返り討ち。あっという間に冒頭の十二人入りだ。その結果、誰もが一歩引いてしまう孤高のお姫様の出来上がりってわけだ」
「ふぅん、ってことは友達とかは……」
「いないんだろうな」
「まぁな……って悪い、ちょっと待った」
夜吹の携帯端末に着信が入ったらしく会話を止めて通話を始めた。
アルフはそれを見計らって、真鞘に話しかける。
「そういえば真鞘、今日はル・モーリスに行くの?」
「一応そのつもりだぜ、今日の夕方に俺の希望してた食材が届くって料理長から連絡があったからな」
「もうすっかり料理長と顔なじみだね」
「ほんとだよ」
料理は心をも繋ぐ、とはよく言ったものである。
会って一日しか経っていないにもかかわらず、すでに真鞘と料理長はかなり仲良くなっていた。
「他のスタッフが同情しそうだよ。ところで時間は大丈夫なの?」
「あぁそろそろ……」
そう言いながら、腕時計で現在の時刻を確認した真鞘の顔は真っ青になった。
「もうこんな時間かよ!?やべぇ約束の時間まであと少しかよ。悪いアルフ、綾斗、俺さき行くわ。夜吹にも伝えといてくれ」
「はいはーい。今日もご馳走になっていいの?」
「金取るぞ」
「うーん、まぁ仕方ないか。それでもいいよ」
「……お前まじかよ、まぁ了解」
真鞘としては有料と言えば引くと思ったが、アルフは料金を支払ってでも食べたいらしい。
「じゃあほんとやばいから、行くわ」
「はーい、また後でね」
「また明日、真鞘」
「おぉ」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
真鞘は校舎内を走って移動していた。アルフに案内してもらったおかげで学園内の地理はすでに頭に入っている。その中で今いる場所から最短でル・モーリスに行くルートを考え、到着時間を予測する。
(このままいけば、ギリギリ間に合うかな、こっちから頼んでおいて遅刻は申し訳ないからなぁ……!?)
真鞘が校舎を飛び出して外の通路を横切ろうとしたとき、ちょうど死角になっていた柱の陰から、1人の少女が飛び出してきた。慌てて減速するも間に合いそうになく、このままいけば正面衝突は免れない。
(クソッ!!)
一瞬遅れて相手の女の子も気づき、驚いた表情をこちらに向けている。
切羽詰まった真鞘は無理矢理に方向転換を試みた。電撃に似た痛みが身体中を走ったが、これで回避ができただろうと真鞘は思った、が。
身をかわしたその先に、かわしたはずの少女の顔があった。
「きゃっ!!」
「……え?」
今度こそかわしきれずに2人は激突した。
幸いにもある程度減速していたためにそれほど衝撃があったわけではないが、相手は女の子である。そして、真鞘が一番に驚いたのは、その女の子が自分の
真鞘はとっさに受け身を取るとすぐさま起き上がり、地面に座り込んでいるその少女に声をかけた。
「大丈夫か?……綺凛」
「え……真鞘さん!?」
目の前の銀髪の少女―
真鞘は久しぶりに再会した綺凛を見ていたが、そこで一つ、重大なことに気が付いた。
「綺凛、とりあえずスカート直せ」
膝を立ていることもあって、思い切りスカートがめくれてしまい、下着が見えてしまっていた。真鞘は顔を赤らめながら、目をそらした。
「はぅ……っ!」
綺凛はわたわたと焦った様子でスカートを直し、縮こまるように両手でぎゅっと自分の体を抱きしめた。そんな小動物を思わせる様子は、昔と変わらないなと真鞘は感じた。しかしその行動は、昔の綺凛には無かったはずの豊満な胸を強調させてしまい、真鞘は目のやり場に困った。
「と、とにかく、悪かったな綺凛、不注意だった」
真鞘が手を差し出すと、綺凛はしばらく戸惑ったがしばらくたっておずおずとその手を取った。
「い、いえ、私のほうこそごめんなさいです。音を立てずに歩く癖が抜けなくて。いつも伯父様に注意されてるんですけど……」
「相変わらずだな、お前は。あ、そこ何かついてる」
よく見ると、綺凛の綺麗な銀髪に、小指ほどの枯れ枝が一本絡まっていた。
「ふぇ……っ?ど、どこですか?」
真鞘が指摘すると綺凛は慌てた様子で髪に手をやったが、自分からは見えないらしく、見当違いのところばかりを探してしまっている。おろおろしながら探す綺凛の様子が妙に可愛いくて、しばらく眺めていたいと思った真鞘だが、同時に可哀想にもなった。
「ほら、取ってやるからじっとしてろ」
「は、はい」
真鞘は苦笑しながら手を伸ばして、髪を傷めないように小枝を取り除いた。
「あ…ありがとうです」
綺凛は顔を真っ赤にしながら真鞘にお礼を言った。そしてもじもじと俯き、それっきり黙ってしまった。時折チラッと視線を上げて何かを言おうとするが、真鞘と目が合うと、すぐにまた下を向いてしまう。そんな綺凛の様子を見かねた真鞘から綺凛に声をかけた。
「久しぶりだな、綺凛」
「は、はいっ!!お久しぶりです、真鞘さん」
真鞘に声をかけられて驚くも、言葉を返す綺凛だったが、すぐまた黙り込んでしまう。しかし、数秒俯いた後に意を決したように顔を上げて、真鞘に話しかけた。
「あ、あの、真鞘さんはどうしてここに?」
当然の疑問を持った綺凛は、そのことを真鞘に質問し、真鞘はそれに答えようとした時だった。
「綺凛!そんなところで何をやっている!!」
「は、はいっ!!ごめんなさいです、伯父様!!すぐに参ります」
中等部校舎の入り口に立つ壮年の男性が、綺凛に向けて大きな声を響かせる。綺凛はビクリと身をすくませ、焦った様子でおどおどし始めた。
「え、えっと、その……」
「いいよ、俺も今ちょっと急いでいるから。そうだな……」
久びりに再開した綺凛ともう少し話がしたいが、今はお互い時間が無いようだった。
「今日はこの後、時間は空いてる?」
「え、今日ですか?そうですね……今から少し用事があるのですが、それが終われば特に予定はありません」
「分かった。じゃあ時間が空いたら、ル・モーリスに来てくれ。多分俺はそこにいると思うから」
「は、はい!!分かりました。そ、それじゃあ……」
「あぁ、また後で」
綺凛はもう一度真鞘にお辞儀をして、小走りで去って行った。
真鞘はその姿を呆然と眺めていたが、ふと我に返って現在の時刻を確認した。
「遅刻は確定だな……」
真鞘も小走りで移動をはじめ、ル・モーリスに着くまでに遅刻の理由を考えることにした。
「道に迷ってたとかでいいかな。ここ、広いし」
真鞘の考えたそのテキトーな言い訳は、意外にも料理長にあっさりと認められた。曰く、”この学園は迷路みたいだから編入してきて間もないお前は仕方がない。でも次はないぞ”とのことだった。
料理長の優しさに感謝しながら、真鞘は自分とアルフ、そして綺凛の分の夕食を作り始めた。
我慢できずに綺凛ちゃん登場
原作よりかなり早い登場になったけど、そんなことは気にしない
おどおどしてる綺凛ちゃんの頭を撫でてあげたい
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