「我と共に生きるは霊験なる勇者、出でよ」
レナスと召喚に応じて、三人のエインフェリアが現れる。レナスの背後に立つ者は、アリューゼ、ロウファ、メルティーナ。四対の視線が前方の敵を捕らえた。
レナス達の視線の先にいる魔物はマンドラゴラ。上半身が人間、下半身が植物という形態をしている。
「……」
「つーか、あれ女か?」
「違うでしょ。だって胸ないもの」
「ちょ、メルティーナさん、そんなこと言うものではないですよ」
無遠慮な会話がマンドラゴラの耳に入ってくる。あまりにもぶしつけな会話の中身にマンドラゴラの頭が徐々に沸騰し始める。
なんなの、コイツら。好みのメンズが二人いるからさあ、手加減してあげようかと思っていたのに。余りにも失礼じゃないの。てか、女の敵はやっぱり女ね。
心中穏やかでないマンドラゴラ。そんな相手にお構いなしでレナス様ご一行の会話は続く。
「とにかく、目の前の敵を倒さねば」
「こっから先には進めないんだろ。メンドクセーなあ。相手は男女かよ」
「女男だって。立体だか平面だかわからないここから先に行かなきゃいけないんでしょ?」
「だからメルティーナさん、アリューゼさんも、もっと言葉を選ん」
「アイツの胸が平面だからわかんねーんだよ」
「アリューゼ、いくら魔物とはいえ胸がないことを指摘するのはどうかと思うぞ」
「だから、男なんだから胸がなくって当たり前なのよ」
無遠慮な会話がどんどん加速する。マンドラゴラの怒りも坂道を転がるように頂点へと達した。
『カラダは男でも、心は女の子なのよ…!!』
レナス達をを睨みつけながら吐き捨てたマンドラゴラの言葉は残念ながら向こうには届かない。当たり前だ。魔物の声は人間の耳には聞こえない音域なのだから。
両手てふわっふわのスカートみたいな花びらを握りしめながら野太い声で低く呻く。
『ブッ殺す…!!』
とマンドラゴラが決意した瞬間、レナス達が連係プレイで攻撃を仕掛けた。一方的に攻撃されるマンドラゴラ。
『イキナリ、卑怯じゃないのよー!!』
ガンガンに攻撃をくらったマンドラゴラは、防御しきれずに転んでしまった。
「ちょっと待て」
「安心できない。穿いてない?!」
「なんだなんだ、ノーパンかぁ?そうは見えねーぞ」
「だから、アリューゼさん言葉を選んでください」
「パンイチですらないのぉ?」
「メルティーナさんも言葉を選ん…って、マッパでうろついているんですか!!」
「なんて破廉恥な…!」
レナスの一言は止めとばかりに乙女心に突き刺さる。転んでいたマンドラゴラは、とても恥ずかしくなった。
『サイズが合うパンツがないんだから、ほっといてよ!』
涙目で根っこをうごうごさせて何とか起き上がる。あの魔物顔負けの悪魔の様な四人が臨戦態勢をとっているのが見えたから、ふわっふわの花びらで上半身を、くるりんぱ、と包んで攻撃から身を守った。
「倒れない…だと…?」
「くっそ、ガードクラッシュできねえ」
「ああもう、みなさんが言いたい放題するから」
「ふん、ちょっとはできるようじゃない」
マンドラゴラから離れてレナス達はぜいぜいと息をする。四人から距離を置かれたマンドラゴラは、くるりんぱ、と広げた花びらから現れると怒りの全てをこめた。
『ヴァリエスインビテイション!!』
吹き付けた胞子がバチバチと音を立ててレナス達にダメージを与える。相手の顔色がすごく悪くなる様を見て、マンドラゴラは胸のすく思いだった。
『アタシだって、やれば出来るんだから』
ふふ、と自慢げにちょっぴり胸をはったマンドラゴラは、油断した瞬間に再び容赦ない攻撃を受け、またもや耐えきれずにころんと転んでしまった。
「よし!」
「ロウファ、お前もあれくらいしっかり根を張れよ」
「いえ、俺はゴツイ根っこは持ってないです」
「なくてもだ、風に吹かれっぱなしすぎて今や根無し草じゃねえか。卒業して少しは安定しろって」
「あんな重量のある下半身じゃないですから、無理ですよ」
「確かに、どっしりした安定感があるな」
「ああ、レナスさんもそう思いますか!」
『もう泣いていいかな…』
かっこいいメンズの内の一人、槍の彼は悪気があって言っているのではない。あの純粋な笑顔をみればわかる。…だから余計に質が悪いのよ、とマンドラゴラは独りごちた。
言われたい放題、やりたい放題されて黙っちゃいないんだからね。とばかりにキリッと顔を上げた。よっこらせと起き上がるやいなや、渾身の力を振り絞って胞子を再び吹きかけた。
『ヴァリエスインビテイション!!』
レナス達の阿鼻叫喚の叫び声を聞きながら、マンドラゴラは留飲を下げた。なにやら雲ひとつない晴れた早朝のような爽やかな気持ちだ。
『うふふ』
と微笑んだ瞬間、メルティーナの魔法がマンドラゴラに襲い掛かる。
「セレティアル・スター!!」
全身に何度も叩きつけられる魔法の衝撃。暴力的な痛みが襲い掛かりたまらず叫ぶ呪詛の声は、やはり相手には届かなかった。代りに相手の高飛車な声がマンドラゴラの耳を塞ぐ。
「しつっこいわねぇ、あんたらなんてマグロになってりゃいいのよ」
薄れゆく意識の中でマンドラゴラは思った。女の敵はやはり女なのだと。