メルティーナは、廊下の掲示板に張り出された入学して最初の試験の結果を見ていた。そしてわが目を疑った。
「…二位とか、ありえないわ」
緑の瞳が前を睨む。自分の名前の前には何者も存在していないはずだった。しかし張り出された紙には、確かにメルティーナの名前よりも上位に、たった一人だけ名前が記されている。
「レザード・ヴァレス」
唸るように言ったこの名前が、後々まで自分の人生に関わってくるなどとは、この時のメルティーナは夢にも思っていなかった。
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「…嫌なこと、思い出した」
不機嫌な低い声を出したメルティーナは、レザードが存在次元をズラして隠した塔の一室にいる。彼の記した手記を手に取りながら楽しいとは決して言えない過去をついつい思い出していたのだった。
「しっかし、あいかわらずキッタない癖字ねぇ」
目に飛び込んできたのは、学園に在籍していた頃と何一つ変わっていないレザードの癖字。頁をめくりながらその癖字をじっくりと追う。
テーブルに読み終えた手記を置いた。そしてぐしゃりと頁を握りつぶす。紙が耳障りな音をたてるさまをメルティーナは凝視していた。
頁にびっちり書かれていた文章は、鏡文字や逆さ文字を駆使して一見読めない。読めたにしても難解なことは変わりない。まあこの辺りはメルティーナも同じ事をしているので問題ないのだが、レザードの場合は自分の癖字を利用してEやFまたはCとOといった似た文字を意図的に誤用する。そして読む人間を誤った解釈へと誘うからタチが悪いのだ。しかも間違えの先にそれなりの一つの(誤った)解を提示しているのだから性格が悪ことこの上ない。
今回もそうだ。注意して目を通さないと、メルティーナでさえも答えを誤る可能性が高いのだ。
「オリジナリティ溢れる『魔法言語』のつもりかしら?」
くしゃくしゃになった頁を見ながらメルティーナは視線と同様に挑発的な声を出す。
レザードが秘匿する塔へメルティーナが訪れたという証拠は残した。
お土産にホムンクスルも頂戴した。
さて、相手がどう出るのかしら。
にんまりと口角を上げてメルティーナは自室へと向かった。
「何度も受けた試験の結果は全部同じ」
自室に戻り、肉体に戻ったメルティーナ。琥珀色の酒が入ったグラスを見つめながらゆっくりと回すと、氷とグラスがぶつかる音がした。ついさっき見たレザードの手記の所為で思い出した過去が脳裏にへばりついていて、もうずっと引きはがせていない。無意識に眉間に皺が寄る。
レザードが学園に在籍していた期間、メルティーナは自分とレザードの差を正確に理解した。その差を埋め、レザードが更に進む分を推測し、そこから自分が相手を追いつけなくなるまで突き放すべく努力した。10の差が20になることもあったし、1や3まで肉迫した時もある。
でも、どれだけ頑張っても、死ぬほど努力しても、どうしてもメルティーナはレザードを越えて一位になることは決してなかった。レザードが除籍処分となって初めてメルティーナは一位となったのだ。
「みっともないったらありゃしない」
琥珀色の酒を口にした。何に対して誰に対してなのか、独り言とも愚痴ともつかない言葉をメルティーナは冷たくて熱いカタマリと共に嚥下する。飲み切れなかったものがグラスの中で液体と混ざり合った。
もうじきアイツが来る。さて、何から聞こうかしら?
くす、と笑うメルティーナはグラスの縁を指でそっとなぞった。
時間が溶け、カラン、と氷が音を立てて崩れる。
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メルティーナとレザードは、まずは言葉の応酬。に見せかけた探り合いから始まる。
「レザード。あんたいつから覗き屋になったわけ?」
こちらに向かう時から気配を察知していたメルティーナは、たった今気付いたと言わんばかりに非難めいた台詞を吐く。
「申し訳ありません。そんなつもりではなかったのですが」
詫びる、などといった殊勝な感情など欠片も持ち合わせていないレザードは、それでも表面上の謝罪を一応してみせた。
口火を切るのはいつもメルティーナで、それも前と何ら変わらない。
そしてメルティーナだけがレザードの本音もしくは心中の欠片を遠慮なく引き出すことが出来る。
「わかりました、答えます」
「変わらないといったのはあなたでしょ?焦らされるのはキライなの」
世界から見ればほんの僅かな場所にすぎないフレンスブルグ魔術学園の一室で、世界を相手に神界を向こうにまわしたメルティーナとレザードの掛け値なしの会話。
真剣勝負の幕は、今まさに上がろうとしている。