灰と幻想のグリムガルーレンジについていけば楽できる   作:魁鬼

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見切り発車。出発進行


目覚め

''ーーー目覚めよ(アウェイク)

 

 

誰かの声が聞こえたような気がして目を覚ました。

目を開けると暗い場所にいた。しかし、暗いと言っても真っ暗と言うほどではない。灯りがある。揺らめく小さな光。火だ。頭上に。火がついている。蠟燭(ろうそく)だ。小さな蠟燭が等間隔に壁に据え付けられている。どこだ、ここ。

俺は今、壁に寄り掛かり地べたに座っているらしいのだが壁も地面も硬くごつごつしている。先ほど壁と言ったが訂正しようこれはただの岩だ。どうりで尻と背中が痛いわけだ。もしかして、洞窟などだろうか。なぜ洞窟などに?。()()?洞窟にいることになぜ俺は疑問を抱いた。いや、当然か。しかし、何故当然の事だと思う。

 

俺は誰だ。俺の名前は……カイト。生年月日、わからない。職業、わからない。家族構成、住所……わからない。何一つ覚えていない。自分がいつからここに座っていたのか。ここはどこなのか。考えると記憶が何かに塞き止められているように。出てきそうになるが、すぐに消えてしまう。どういう事だ、意味が分からない。

 

思考を巡らしていると、

「もしかして、誰かいる……?」

弱々しい声が聞こえた。

聞こえてきたのは男の声で声のトーンから察するに自分と同じく現状を理解できていないのだろう。

その言葉を機に次々と反応していく。

「あ、うん。」

と返事があった。男の声だ。

「……います。」

と小さく答えた。

「ああ。」

と別の男が短く応じた。

「……やっぱり。」

と誰かが言った。

「何人いるんだ?」

「数えてみる?」

「……ていうか、どこなの?ここ。」

「さあ……」

「何だよ、これ。」

 

やはり全員現状を理解できず戸惑っているようだ。

 

(こんなところでじっとしていても仕方ないな。)

 

全員に注目得るために立ち上がり二回パンパンと手を叩く。

 

「とりあえず、灯りのある方向に進まないか?」

 

「ああ。」

と一人の男が立ち上がった。

 

「まあ、別に強制じゃないからここに残りたい奴は残っていいし、逆の灯りのない方向に行きたい奴は勝手にしていいからな。」

 

軽く突き放すような言動を取ると

 

「あたしも行く。」

「……俺も行こうかな。」

「ま、ま、待てって、じゃあ俺も!」

 

などと数人の同行を確認し、先に進んだ。

 

「おい。」

 

「おい、お前だよ。」

 

「あ?俺の事呼んでんの?」

 

振り返ると銀髪のヤクザのような男がいた。

 

「お前以外に誰がいんだよ。」

 

「いや、「おい」だけで反応する奴少ないと思うよ?」

 

「そんな事はどうでもいい、お前名前を教えろ。」

 

「あーうん、まあいいや。カイトだ。で、あんたは?」

 

「レンジだ。お前はどう思う?」

 

「どう思うって、今の状況?それともここはどこなのかって話?それとも……俺らの頭の話?」

 

「全部だ。」

 

「全部ね、とりあえず一つ目はこの洞窟には蠟燭と言う人工物が存在するため主催者(ホスト)がいるはずだ。てか、いないと困る。まあ、その主催者に会うために今行動中。二つ目は考える事自体無駄だろ。主催者に会えばわかる事だからな。三つ目は……まったく分からん。」

 

「そうか。」

 

「そうかって、レンジはどう考えてんだよ。」

 

「だいたい同じだ。」

 

「まあ、そうだよな。」

 

そこで会話は途切れ、蠟燭の小さな光を頼りに歩き続けた。蠟燭の列は果てが見えず距離や時間の感覚が麻痺していた。

 

 

「何かある。」

 

「ん?明るいな。……ランプか?」

 

「鉄格子だ。」

 

「で、出口じゃねえの……⁉︎」

 

レンジが鉄格子に手をかけ激しく揺さぶられると鉄格子が動いた。

 

「開くぞ。」

 

そう言いながら鉄格子を手前に引いた。軋む音を立てて、鉄格子の扉が開く。

 

「おお……!!」と何人かが一斉に声を上げた。

 

「出られるの⁉︎」

 

「ーーー階段だ、上に行ける。」

 

扉の先は狭苦しくカビ臭い通路になっており、その先に石の階段があった。灯りはないが階段の先から光が射し込んでいる。

一列になって階段を一段ずつあがっていった。

階段の上にはまた鉄格子が嵌められていた。レンジがまた鉄格子を激しく揺さぶるが今度は開かない様だ。

 

「レンジ、ぶっ壊すか?」

 

「いや、無理だ。くそっ!誰かいねぇのか!ここを開けろ!」

 

とレンジが怒鳴り、

 

「ねえ、いないの、誰か、開けて!」

 

と派手な女が声を張り上げ、

 

「おーい、開けてくれ!おーい!」

 

と天パが大きな声を出した。

 

それから程なくして金属製の鎧を着た男が来た。

 

「出ろ」

 

と一言だけ言った。

 

階段を上がるとそこには石造りの部屋があった。窓はないがランプがあるおかげで明るい。上がってきた階段の他にももう一つ上階への階段もあった。

全体的に古臭く、現代らしくない。扉を開けた男の出で立ちもおかしい。男が身につけている物はーーー鎧だ。そう、鎧。俺が住んでいたであろう現代にはかかわりのない代物であると思われるものだ。それに加え、頭には兜、腰には棒の様なもの。もしかして、剣……か?鎧兜に加え剣など時代錯誤も甚だしい。いや、時代の問題でもないな。

鎧の男が壁に据えられている黒っぽい器具を引っ張ると壁や床がわずかに振動して、重い音が響く。壁の一部がゆっくりと沈み込んで縦長の四角い穴が開いた。

鎧の男がまた「出ろ。」とだけ言って穴の外に向かって顎をしゃくった。

まずレンジが外に出て、その次に俺は外に足を踏み出した。ーーー()。今度は本当に、外だ。

夜明け前か黄昏どきか、太陽がかすかに青みがかっているから夜明け前だと思う。

夜明けの澄んだ空気が肺に染み込む。狭苦しくカビ臭い場所にいたのもあってか空気がより一層上手く感じる。

振り返り自分達がいた建物を見ると、高い塔がそそり立っていた。

人数を数えて見ると男はレンジ、天パ、チャラ男、メガネ、優男、丸刈り、デカイの、眠そうな奴、俺を含めて9人。女は派手女、お下げ、気弱、チビッコの4人。全部で13人。

暗いくてはっきりとは見えないが体格や服装、髪型、大まかな顔だちくらいは辛うじて見える。しかし、見覚えのあるのは一人もいない。

 

「街かな、あれは。」

 

優男が丘の向こうを指差している。

そちらに目を向けると建物がひしめいていた。

街。町という規模ではない。その街は高く、頑丈そうな壁で囲まれている。

 

「街と言うか、まるで城だな。」とメガネが。

 

「街……」と眠そうな奴が、

 

「……あの……ここって、どこなんでしょう。」と消え入りそうな声で気弱が、

 

「や、俺に聞かれても。」と眠そうな奴が返答し、

 

「……そう、なんですね。あの、だ、誰か……知りませんか?ここが、どこか……」

 

その返答に皆が沈黙する。

 

「マジかよ……」と天パが髪を引っかき回しながら呟いた。

 

「そうだ!あいつに聞けばよくね!?ほら!あの鎧とか着ちゃってる系のあいつにさ!」とチャラ男が手を打ち合わせた。

 

皆の視線が塔の出入り口に集中したその直後だった。

出入り口が狭まっていく。

下から壁がせり上がっていき塞がりつつある。

 

「ちょちょ、待っーーー」チャラ男が慌てふためいて駆け出したが間に合わず出入り口は最初から無かったかのように消えていた。

 

「おいおいそれはないでしょ、ちょっとちょっとやめてくれよおーい……」と言いながらあちこちを触ったり叩いたりしているが、何も起こらない。やがてチャラ男はへたり込んでしまった。

 

その様子に全員落胆を隠せずにいた。

 

「と、そこに絶好のタイミングでえ……!」

 

だしぬけに甲高い女の声が響き渡った。

 

4人の女たちとは別の声。

 

「現れちゃうんですねえ、参上しちゃうんですよねえ、どこだーっ⁉︎ここだーっ!」

 

「どこだよ⁉︎」とチャラ男が立ち上がってさけんだ。

 

「慌てなーい、騒がなーい、なおかつ気を抜かなーい、毛も抜かなーい。」

 

「ちゃらららららーん、ちゃらららららーんららーん。」と歌いながら塔の側面から一人の女が顔を出した。髪型は俗に言うツインテールと言う奴だろう。

 

「どーもー。元気ですかー。ようこそグリムガルへー。案内人を務めさせていただく、ひよむーですよー。初めましてー。よろしくねえ?きゃぴーっ。」

 

「むかつく喋り方だ。と丸刈りの男が奥歯をごりごり噛み合わせた。

 

「きゃっ。」

 

ひよむーは顔を引っ込めて、またすぐに出した。

 

「怖いですねえ。おっかないですねえ。そぉーんな怒らないでくださいよー、ね?ね?ね?ね?」

 

丸刈りの男が舌打ちをした。

 

「だったら怒らせるんじゃねえ。」

 

「わっかりましたぁーっ。」

 

ひよむーはぴょんと塔の脇から飛び出すと、敬礼のような仕種をしてみせた。

 

「ひよむー、これからは気をつけるでありますっ!ちゃーんと気をつけるでありますよー?これでよいです?よいですよね?きょへっ。」

 

「わざとやってんだろ、てめぇ。」

 

「まあ、まあ、落ち着けよ。こういう類の奴は聞き流した方がいいぞ、真面目に相手しても疲れるだけだから。」

 

「ああ、そうさせてもらう。」

 

「ああーっ、無視はいけませんよー、無視だけはいけませんよー、ひよむー傷ついてしまいますよー。」

 

「はいはい、わかったから話を進めてくれ。案内人なんだろ?」

 

「む、まあいいでしょー。それでは仕事しちゃいましょー。とりあえず、ついてきてくださーい。置いていきますよー。」

 

(こいつについていけば情報が手に入る。でも、思考を止めるな。情報をかき集めろ。流されるだけではいつか沈む。)

 

ひよむーは頭についている二つの尻尾を揺らしながら歩き出した。見れば、塔から丘の下へと向かう道がある。踏み固められた黒い土が剥き出しになっている。

 

 

 

 

 

「なあ、あれって……。」

 

と天パが指を指した方向には(おびただ)しい数の石が並んでいた。

 

「ひょっとして、墓……?」

 

よく見てみると石には文字のようなものが刻まれていたり、石の前に花が供えられていたり、酒瓶が並べられていたりもする。墓地、もしかしてこの丘は墓地なのか。

 

「ふっふふふー、どうですかねー。まあ、今のところは気にしない、気にしなーい。皆さんにはまだ早いですよん。まだ早いといいですよねー。うっふふふふ……。」

 

「まるで誰かが死ぬような物言いだな。」

 

「さあ?死ぬかもしれないし、死なないかもしれませんねー。」

 

「飽くまで情報を与えないつもりか?」

 

「うっふふふふ、どうでしょーねー?」

 

ひよむーの案内を受けつつ目に入る情報を集め、その情報を元にひよむーに鎌をかけるがことごとく全てはぐらかさられいた。

 

そうして歩き続けるとある建物にたどり着いた。

 

「ささっ、中に入って入って!」

 

とひよむーに促されるままに建物の中に入った。中に入るとそこは酒場のような広い部屋で奥にカウンターがあり、その向こうに男が一人、腕組みをして立っていた。

 

ひよむーは全員が入った事を確認すると「ひよむーはこのへんで!」と言って去って行った。

 

ひよむーが部屋を出ていってしまったので皆の視線が男の方に集まる。

 

「ふーん……」

 

と男は頷きつつ全員を舐めるように見回していく。

 

「いいわ、こちらにいらっしゃい、子猫ちゃんたち。歓迎するわ。アタシはブリトニー。当オルタナ辺境群義勇兵団レッドムーン事務所の所長兼ホストよ。所長って呼んでもいいけど、ブリちゃんでもオッケー。ただしその場合は、親愛の情をたっぷりこめて呼ぶのよ?いい?」

 

(やべえ所に連れてこられちまったよ。やっぱり流されるままについてきたから沈むんだ。俺の人生終わった。)

 

 

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