ガルパン恋愛物短編集   作:あへん阿部

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島田家長男とかいうガルパン二次界隈において美味しすぎる設定


秋山優花里 2

 「へぇ、戦車道の科目復活すんのか」

 「そうなんですよぅ! なんでも、数年後に日本で戦車道の世界大会が開かれるみたいなんです!」

 「ああ、知ってるよ」

 「へ? そうなんですか? お詳しいんですね、()()殿()

 「…………まあな」

 「? それにしても、楽しみですねぇ……何の戦車に乗れるんでしょうか、ティーガーかなぁ、パンターかなぁ」

 

 秋山は既に自分が乗る戦車への想像を膨らませている。戦車道を履修しないという選択肢は無いようだ。

 学生のルーチンである授業も終わったころ、何故か女子だけ体育館に呼び出されたと思えば、それは女子選択科目のオリエンテーションであったが、どうにも様子を聞く限り、文字通り戦車道の独壇場だったようだ、オリエンテーションとは一体。

 あからさまな生徒会の一存に多少の不安を覚えながらも話を聞いていたが、俺は秋山が発した言葉に、思考が停止した。

 

 「それにそれに、A組にはあの西住みほ殿がいるんですよ!」

 「西住、みほ」

 「はいっ! 実家が天下の西住流車道家元で、去年まで黒森峰の副隊長を務めていたんですよ!」

 「へぇ、黒森峰って言ったら強豪校じゃないか」

 「はいっ! 私の憧れなんです」

 「憧れ?」

 「はい、決勝戦で仲間を助けに行った姿がカッコ良くて……その、試合には負けてしまいましたけど……」

 

 事の顛末は俺も知っている、仲間の危機に戦列を離れ、救助に向かう。心の優しい彼女らしい選択だ。だが、西住の名はそれによる敗北を許さなかった。そのことで、黒森峰で何かあったのだろう。

 そうか、みほちゃんは大洗にいたのか。風の噂に戦車道を辞めたと聞いてはいたが……お互いに、戦車に振り回される人生だなあ。

 

 ただ……

 

 「私は、西住殿の判断は間違っていなかったと思うんです」

 

 俺は思わず、その言葉に嬉しくなった。

 彼女が黒森峰にいるころには、俺は既に大洗に移住し、西住家との交流は無くなっていたので、実際には彼女がどういう扱いを受けて、どう感じたかは知らない。だが、容易に想像できる。10連覇を逃したことによる批判、自分は、自分が思う正しいことをした筈なのに、どうしてなのだろう、彼女は深く傷ついた筈だ。戦車道を辞め大洗にいる事こそ、その証拠だ。一年に数回会う程度の関係ではあったが、優しかった彼女がそんな扱いを受けていたという事実は、はっきり言って不愉快だ。

 だが、周りが何と言おうと、貴方は間違っていないと言ってくれる人、彼女の事をわかってくれる人はいるのだ。

 

 「その言葉、本人に伝えるといい、きっと喜ぶぞ」

 「ご、ご本人にでありますかぁ!? ……って西住殿のこと、ご存じだったんですか?」

 「…………お前ね、俺がどこでバイトしてると思ってんだ」

 「ああ、それはそうですね」

 

 我ながら苦しい誤魔化し方だ。

 

 「じゃあ、西住さんとは、是非ともお友達にならないとな」

 「お!? お、おおおおととととっとっと友達ですかあ!? そ、そんな恐れ多いです!」

 「……お前」

 「だってだって、あの西住殿ですよお!? 私なんて、一緒の場に居れるだけで嬉しいっていうか、たまに視界に入れてもらえるだけで光栄っていうか……」

 

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!?

 こうしてつるむようになってからも元ぼっち的なアトモスフィアを醸し出すことが稀にあった秋山だが、今回のは特にひどい。何故だ。

 俺が軽い戦慄を覚えていると、秋山は消え入りそうな声で続けた。

 

 「それに……友達になるなんて、どうしたらいいのか……」

 

 ……なるほど。

 俺という話し相手ができたとはいえ、秋山にとって友達を作るというのは、まだハードルの高いものだったらしい。

 

 だが、それは否である。秋山は一度そのハードルを越えている、一度越えられたものだ、もう二度と越えられないという道理もないだろう。実際には、ハードルが高いのではなく、本人がそう感じているだけである。

 だが、そのことを俺が言うのは、なんだか、その、とてもアレである。しかし目の前でしょぼくれている秋山をそのままにしておくわけにもいくまい。俺は意を決して口を開いた。

 

 「あのなあ秋山、俺等、こうやってクラスで話すようになって結構経つよな」

 「? はい、そうですね」

 「でもさ、今までに顔突き合わせて、『今日から友達です、よろしくね』なんて一回でもやったか?」

 「それは、なかったですけど……」

 「だろ? 様はさ、決まった友達の作り方なんて無いんだ。そりゃ、さっき言ったみたい手順で友達になる場合もあるけどさ、俺達はそうじゃなかった。共通の話題話してたらいつの間にやらだ。だからさ、てきとーにやったらいいんだよ」

 「でも……もしまた駄目だったら」

 「そんときゃ、またこうやって駄弁ればいいさ」

 「ふえ?」

 「秋山、勘違いしているようだから言っておく。良く聞け、仮に失敗したとしても、また一人になるわけじゃない」

 「!」

 「そう考えるとさ、多少気楽なもんだろ?」

 

 ああ、恥ずかしい。

 たった今俺が行ったことを要約すると「今すぐ友達できなくても、俺がいるだろ?」ということである。

 特に解決策にもなってないし、本当に恥ずかしい。

 

 「そう、ですね……不肖! 秋山優花里! 西住殿と戦友になってみせます!」

 

 秋山はびしっと見事な敬礼を決めた、どうやらもう大丈夫なようだ。

 

 「おう、その意気だ」

 「ええへ……ありがとうございます、元気付けようとしてくれたんですよね」

 

 こいつ! ただでさえ恥ずか死しそうな俺に、そんなセリフを吐くか!

 

 「ああもう! こやつめ! こやつめ!」

 「ふわわ! やめてくださいよぅ」

 

 照れ隠し……否、お返しに自慢のもふもふをわしゃわしゃしてもさもさにしてやった。

 

 

 ――――――――――

 

 いよいよ戦車道の授業が始まった。しかし、校庭にある車庫の前に集められたと思えば、あるのは錆びたⅣ号戦車が一つ。しかもこのままでは大会に出られないので戦車を探して来いとのお達しまでも受けた。すぐに戦車に乗れないということに若干の不満を覚えつつも、秋山はこれから始まるであろう戦車道に浮つく心を抑えられなかった。

 だが、秋山にはまずやらねばならないことがある。

 

 ―――憧れの西住殿と友達に!

 

 気合いを入れ、目当ての相手に目を向けると、そこには3人で楽しそうに話す憧れの相手が。

 

 ―――無理、あれは無理であります。

 

 一人でいるならともかく、すでにグループを組んでいる相手というのはそれだけで話しかけ辛いもの。そして、それがつい最近までぼっちをこじらせていたならなおさらだ。戦車への期待とは裏腹に既に心が折れそうになっていた。

 秋山は思わず俯いた。このままでは前と同じだ、折角友達ができて変われたと思ったのに―――

 

 そう、友達、友達だ。

 

 秋山はきっかけとなった友人のことを思い出していた。自分の趣味の話を聞いても引かない初めての友達だ。周りのことが見えなくなって戦車のことばっかり話していたら、笑いながらもしっかり聞いてくれて、話を合わせてくれる。あまりにも暴走しすぎることがあっても、やんわりと止めてくれたり、ついつい口をつをついて出る軍事ネタもこぼさず拾ってくれたり、スターリングラード三本連続上映会をした時も―――

 

 そこまで思い出した所で、今まで心を蝕んでいた不安感が消えていることに気付いた。彼の言葉が、思い出が、心に温かい『火』をくれたのかもしれない。

 そして少女は、新たな一歩を踏み出した。

 

 

 「あ、あのっ! 私、普通Ⅱ科2年3組の秋山優花里と申します! わたっ私もご一緒させていただいても宜しいでしょうか!?」

 

 ――――――――――

 

 「それでそれで、私たちはⅣ号戦車に乗るんですよ!」

 「Ⅳ号か、いいんじゃないか? 優等生って感じで」

 「あとはですね、Ⅲ号突撃砲も見つかってですねぇ」

 「ほうほう、Ⅲ突か、かなりの戦力になるんじゃないか?」

 「はい! それはもう! 他にはですね、38tに、M3リーに―――」

 

 「あと、八九式も見つかったんですよ!」

 

 …………

 

 「八九式かぁ……」

 「ああっ! 今八九式を馬鹿にしましたね!? 確かに、主砲が豆鉄砲だったり、装甲が無いに等しかったり、中戦車にしては速度が微妙だったりしますけど、それでも! 大和魂あふれる戦車なんですよ!」

 「お前が一番馬鹿にしてないか!?」

 

 歩兵支援用だからね、仕方ないね。

 

 ――――――――――

 

 「まあ良かったな、新しい友達ができて」

 「はい、部屋にお呼ばれなんて初めてですよ!」

 

 彼のおかげだ。

 彼が居てくれたからこそ、彼が言葉を掛けてくれたからこそ、勇気が持てた、新しい友達ができた。一緒に居て楽しい友達。明日も学校でお話ができる。そんな当たり前なことが、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。最近は学校に行くのが楽しみで、朝のテンションの高さを母親に心配されたものだ。毎日が充実している。

 

 だから、彼女には解らなかった―――

 

 「そうか、俺も()()()()()アドバスした甲斐があったよ」

 「っ!……はい、ありがとう、ございます」

 

 ―――何故、彼の言った『友達』という言葉が、胸の中に妙な痛みを掻き立てるのかを。


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