但し武器は全然揃っていない状況。
…いやステージ覚えてないんですよ。改修前のデカライン高架下とか。
ナワバリバトルに於いては変なのもよく湧く。塗ることしか頭にない奴、ひたすら跳ねる奴、飛び降り続ける奴、その他諸々。流石に毎回出てくるわけでもないが、まあそんな時には試合が終わったらさっさと帰るべし。下手に試合を続けたら絡まれたこともあったなあ…なんて。
タチウオパーキングエリアの特徴といえばなんといっても非常に高低差のあるステージ構成だろう。その形状は段状に低くなっていくV字に似た作りをしており、遮蔽物は少なく見晴らしがいい。前に進もうとすると低い場所に進まなければならないという絶妙な作りになっている為、迂闊に進もうとすると上からの攻撃の餌食になるので注意が必要だ。息を整えようとすると口の中が乾く程に吹き荒ぶ風は、ここが高所である事の証明のように思える。
「吹き飛べえええ!」
威勢のいい声と共にローラー使いが飛び降りながらインクをばらまいて行く。
吹きすさぶ風、飛び降りるイカ、降り注ぐインク、何処からともなく投げられてくるボム…。これこそタチウオパーキングエリアというべき光景だ。嫌すぎる。
そんな中僕はどこにいるのかというと、インク吹きすさぶ乱戦地帯、その隅の方でこそこそ隠れてボムを投げ続けていた。
「どうしてこうなったのかなあ…」
乱れている呼吸を誤魔化すよう小さく呟く。考えるまでもない。自分が悪い。
説明だけならとても簡単である。開始、ダッシュ、転落、潜伏、そして前線は魔境と化した。説明終了。いや、それに疑問を呈す奴もいるだろう。なぜボムを投げ続けてバレていないのか、そもそも魔境に例えられるほどの場所で潜れるインクはあるのか、説明が雑、その他色々ある。今もこそこそと隠れながら退路を潰すようにボムを投げているが、気にされている様子もない。なぜか。
「潰れろおおおおおお!」
「あはははははは!」
…あれが原因だ。
片や視界に入るもの全てが自分の敵だとでも言わんばかりにインクを飛ばし、豪腕を振り続ける味方ローラー。
片やインクで塗り潰すことが楽しくて楽しくて仕方が無いと言わんばかりに雨のようにインクを降らす敵シューター。
どちらも隠れるなんて思考はせず、真正面から突っ込んで当たり一帯に暴風雨のようにインクをばらまいて行く。狙撃したくてもインクのせいで照準は合わず、近距離型は近くに近寄ることさえ出来ない。おまけに潰そうが叩き落とそうが数秒で戻ってくる不死身っぷり。一体どうすればいいのか。又味方が1人突っ込んで行っては乱射された弾にぶち抜かれた。哀れなり。
状況を打開するために潜伏しているインクから出ることにした。右肩に掛けていたチャージャーを手に持ち正面に構える。充填されたインクが今か今かと発射されるのを手で直に感じながら照準を合わせ、銃口を中央から右上にずらして敵陣の一段高い場所を狙う。弾道を示すレーザーポインターが敵地と被さった瞬間、襲って来る寒気と殺気。
すぐさま真下に銃口を向け直し発射。反動を利用しながら真後ろに跳ぶ。体制を整える間もなくやって来る爆風とそれに乗りながら足元と体を染めるインクは間違いなく敵のそれ。インクに足を取られ足元を塗り直そうとしたその時、視界は影に覆われ、次に聞こえたのはボムの炸裂音だった。
投げられたボムによってスタート地点まで戻されてしまったが、味方のシューター(に加えて極めて誠に認めたくないがあの変態ローラー)の働きによって戦線は対して追いやられていないらしい。再び拮抗状態に陥った。ともあれ試合に動きが無いのも不味い。ナワバリバトルはスポーツなのだ。観客であるクラゲ達からブーイングが出たりしたら困るといえば困る。大分軽くなってしまった財布を思い浮かべ、再び気を見計らって動くことを決意した。
現在自分は俯瞰した図において長方形の床の右下に当たる位置にいた。変態共は未だ乱戦を繰り広げていて、未だ中央は混沌としている。
敵陣に至るルートの一つは中央を突っ切り左上に行く道のりであり、それはつまりあの暴風雨の中に突っ込む必要があるルートだということ。もう一つは右上から細い足場を通るルートだが、これは近くにフデを構えた敵がいることと足場の細さも相まって、バレると飛び降りるしか無くなるので却下。足場の左の壁を塗って駆け上がる方法は敵にバレやすい上他のルートより安全な時間が短い為に却下。
手詰まりに等しい状況だ。
…さてどうしたものか。
ボムを投げながら思考する。
味方が再び空の彼方へ散っていく。
牽制に高台にボムを投げる。
味方の位置を確認する。
……。
敵味方共に全員復帰したのを確認したところで、脳内に勝利への道筋を思い浮かべる。同時に視界は透明に澄み渡り、乱れた呼吸は規則正しいものとなる。
それなら後は。
「思うがままに、動かすだけ」