魔王様がお亡くなりになりました。   作:九呂巣

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町でこそこそと

 

部屋を出た三匹は見つからないように建物の隙間を移動している。

「盗むっつったってどうするのさ。」

ひっそり動きながらラオロンが聞いてみる。

「食べ物が置いてある所ってどう考えても人目がいっぱいあるだろ。本当に出来るのか?」

「分からん。」

クリットは人だかりの方を見ながら言った。

「食料庫とかあればいいんだけど、人が誰もいないだろうし。」

「ならさ。」

キューラは何か考えながら言う。

「とりあえず食料庫だけ探して持てるだけ持っていくか。」

「とりあえずね。」

「あれとかそうなんじゃない?」

ラオロンがそう言って指を指した方を見る。

そこには、

「あれ、酒場ってやつか?」

『バー トリプルオー』と書かれた看板が掛かった建物があった。

「酒場って言うと食べ物をいっぱい出すお店か?」

「そうそう。あそこなら食べ物を保管する倉庫もあるでしょ。」

「でも、人が多いぞあの酒場。」

そう言った酒場からは、騒ぎ声が四十メートル離れたここまで聞こえてきている。ていうかみんな目がいいな、そんな遠くから看板の文字を読むなんて。

「裏から入れば問題ないでしょ。」

「でも、あそこには従業員がいるし、裏方にも人はいるはずだろ。」

「でも、人は比較的少ないやろ。」

「ていってもねぇ、あんまり危険を冒したくないし‥‥‥‥ん?」

喋りながらキューラがすぐ目の前の建物の暗がりから見つけたのは蓋のない空の木箱だった。

それも三つ。

ラオロンとキューラもそれを見つけたらしい。

三匹、お互いに見合う。

「‥‥‥‥やることは、」

「‥‥‥‥ひとつ、」

「‥‥‥‥かな‥‥」

 

 

 

 

 

夜の酒場。

窓からは灯りが漏れて、中から常に騒ぎ声が聞こえてくる。

そんな酒場の近くに、不自然に設置された木箱が三つ。

「‥‥‥‥‥こちら蛇。」

「‥‥‥‥‥やめろ、いろいろ危ないから。」

「‥‥‥‥‥何無駄話してんだよ。真剣にやれよ。」

「すまんすまん。」

何やら木箱から声が聞こえてくる。

そして突然、木箱がゴソゴソ動き始めた。

ゆっくりゆっくり動いて行き、そして酒場の裏口の所で止まった。

「‥‥‥‥‥おい、本当に大丈夫なのか?これ。」

「‥‥‥‥‥ほぼ運任せじゃないか?」

「‥‥‥‥‥やるしかないだろ。」

すると、

 

ガチャン

 

酒場の裏口が開き、従業員が出てきた。どうやら休憩がてらに少し外の空気を吸いにきたらしい。

「ふぅーー。勇者様が魔王倒して来たんで大騒ぎしてるなぁー‥‥‥‥まあ、店は大繁盛で良いことなんだけど‥‥少し疲れるなぁ‥‥‥」

その従業員は外に出るなり店の壁にもたれてため息をつく。

「ん?これは‥‥‥」

すると、木箱が置かれているのに気づいた従業員。

「何でこんな所に置いてあるんだよ。」

そう言って木箱を一箱持ち上げる。

「まだ中身もいっぱい入ってるじゃん。」

そうして、中身も確認せずに店のなかに入れる。

他の二つも店のなかに入れ、全部を食料庫へと運んだ。

「ふぅ。あいつ仕事忘れてんじゃねぇっての。」

従業員は食料庫を出ていく。

そして無人になった食料庫。

「‥‥‥‥‥行ったか‥‥」

「‥‥‥‥‥だな。」

「‥‥‥‥‥もういいかな。」

すると、運び込まれた木箱三つがガタッと動き、

 

バキィ

 

中からラオロンとクリットとキューラが飛び出してきた。

「‥‥‥‥おお、ここは‥‥」

「いきなり食料庫とは‥‥‥」

「俺達ついてるな‥‥」

目の前にはいろんな種類の肉や野菜類、酒までが置かれている。

「酒は要らないよな!」

「なるべく肉が良い!」

「俺は血が欲しいなぁ。」

三匹は目の前に大量の食料があることに大興奮。ワーワーと大騒ぎをするもんだから‥‥‥

 

「何だ?誰かいるのか?」

 

ガチャンとドアを誰かが開けた。

 

「「「「あ‥‥‥‥‥」」」」

 

ピシャリと時間が止まった。

やって来た女の従業員と三匹、お互いに見合いながら固まった。

そして二分くらい時間が過ぎた後、

「「「見つかったーーー!!!」」」

三匹がやっと反応した。

「やべぇーーよぉーーー!!」

「いやぁーー!!まだ死にたくなぃぃーーー!!」

「ふぃぃいいーーーやぁーー!!」

「あーーー!!ダメだーー!!」

「煮るなり焼くなり好きにされちゃうぅーーー!!」

「美味しく食べられちゃうよーーー!!!」

「「「あーーー!!!」」」

三匹そろって大騒ぎしていると、

「‥‥‥‥‥‥か‥‥」

女の方がうつむきぴくぴくして何やら言っている。

ビクンと肩を震わせる三匹。

「‥‥‥‥何言われるんだ‥‥」

「‥‥‥‥ヤバイ‥‥」

「‥‥‥‥怖いぃ‥‥」

三匹がプルプル震えていると、女は

「‥‥‥‥‥か‥‥‥か‥‥‥」

バッと顔を上げ、

 

「可愛い!!!」

 

目をキラキラさせながら叫んだ。

 

「「「‥‥え?」」」

言葉の意味が分からずきょとんとしているようだが、三匹の容姿は愛玩動物といった感じなのだ。

「ねえねえ、どこから入ってきたの!!?」

「‥‥‥‥‥え‥‥裏口から‥‥‥」

「もしかしてモンスターなの!!?」

「‥‥‥‥あ、はい‥‥‥‥」

「ねえねえ!!」

「‥‥‥‥はい。」

 

「ペットに興味ない!!?」

 

「‥‥‥‥はい?」

「ペットにならない!!?」

「‥‥‥‥‥誰の?」

「私の!!」

「‥‥‥‥‥何で?」

「可愛いから!!!」

女はとても興奮してるのか、グーにした腕をブンブン振っている。

「‥‥‥‥‥え、どうする?」

「‥‥‥‥‥その方が安全に暮らせちゃう?」

「‥‥‥‥‥いや、そんなことになったら人目についてしまうだろ。」

三匹はひそひそ話を始めてしまう。

「‥‥‥‥‥確かに。」

「‥‥‥‥‥そしたら処刑される?」

「‥‥‥‥‥食べられる?」

「‥‥‥‥‥じゃあやっぱり、」

「‥‥‥‥‥逃げる?」

「‥‥‥‥‥だな。」

話がまとまったらしい。

「どう?私についてくれる?」

その様子が分かったのか、女は聞いてくる。

「あ、言い忘れてた。私、シャルルっていうの。」

シャルルは屈んで手を伸ばしてくる。

「さあさあ、私のペットになって!!」

これが人間相手ならかなり危ない人だ。

三匹ともドン引きである。

「‥‥‥‥あの、トイレ行っていいですか?」

「ちょっとさっきから我慢してて。」

「もう漏れそうなんです。」

「ふーん。いいよ。」

「あっありがとござまーす‥‥」

そそくさとシャルルの脇を通り抜け、出ていこうとする三匹。

 

「けど、まさかそのまま逃げる訳じゃないよね?」

 

「「「へ!!?」」」

「‥‥‥‥やっぱりそうなんだ。」

「逃げろーーー!!!」

「わーーー!!!」

「うひゃーーー!!!」

とっさに駆け出し店を飛び出る三匹。

「待ちなさーーい!!!」

それを追いかけるシャルル。

「とにかく建物の陰を逃げ回るぞ!」

店を出た三匹はすぐに曲がり、暗がりの方へと逃げていく。

そして、三匹は小さいもんだから、

「‥‥‥‥あれ?もういない?」

店を出た三匹をすぐに見失ってしまった。

「‥‥‥‥くそ‥‥‥逃したか‥‥」

シャルルは悔しそうに舌打ちし、中へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

「はぁ‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥」

「ふぅ‥‥‥‥ふぅ‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥逃げ切ったか‥‥‥」

三匹はあの後も全力で逃げ続け、結果として廃屋の部屋に戻ってきた。

「‥‥‥んで、成果は?」

ラオロンが手に持っているものをコトッとおいた。

「僕はベーコン一個。」

クリットもゴトンと置いた。

「オレはキャベツ。」

キューラは両手の物を置く。

「俺はリンゴとオレンジ一個ずつ。」

合計で四つ。

どう見ても二日以内に全部食べてしまう量である。

「はぁーー。」

「うわぁーー。」

「あーーあーー。」

力なく仰向けに寝そべる三匹。

「また探しに行かないとなー。」

「やなー。」

「大変だなーー。」

くたびれた木の天井を見ながら呟く。

「‥‥‥とりあえず、今日はこれだけでも食べて寝るか‥‥」

「‥‥‥そうするか‥‥‥」

「あ、俺はオレンジ食べられないから。」

「じゃあ何で取ってきたんや‥‥」

今日は取ってきた分を食べ、寝ることにした。

 

 

 

 

翌朝。

外が明るくなったのを感じ、目を覚ますラオロン。この中で一番規則正しい生活を送っているので、いつも同じ時間に起きることができる。

「んん‥‥‥‥」

起き上がり、大きくのびをしたラオロンはベットを降り、窓際に立つ。

窓の外からは向かいの建物の壁しか見えないのだが、そんな窓の枠に乗り、スルスルと外へ降りる。

建物と建物の狭い隙間を通り、表が見える場所まで動く。

「もう人がたくさんいる‥‥‥」

建物の陰から見えたのは、通りを多くの人々が行き交っている様子だった。農作業やら何やらで、人間の朝は早いのだ。

「‥‥‥今後のこと話し合わないと‥‥」

通りの様子をボーッと見ていたラオロンは思い出したように言い、とっとと帰っていく。

そして帰ってきた部屋では、クリットとキューラがまだ寝ていた。

「おーい、起きろー」

それをゆさゆさ揺すって起こすラオロン。

その時、

 

ヴーー!!!

 

サイレンが町に鳴り響いた。

 

「うわあ!!」

「なんだなんだ!!?」

びっくりして飛び起きる二匹とラオロン。

何が起きたのか分からず、ひたすらキョロキョロしてしまう。

すると、町中にスピーカーを通した音声が流れ始めた。

『緊急事態!!緊急事態!!ハンターの人は至急町の門に集まってください!!一般人の方は建物から一歩も出ないで下さい!!』

何やら町のハンター達を集めてどうにかしようとしているらしい、それもかなり危険な様子だ。

「え、なんなんだろ」

「見に行く?」

「バカやろう!危ないって聞こえてきただろう!俺たちじゃすぐに死んでしまうよ!」

「でも、もしかしたらお仲間かもしれないよ?」

「‥‥‥確かに」

「確認しに行ってみる?」

「‥‥‥まあ、一応見に行って見るか」

意見をまとめて、三匹で部屋を出ていく。

大通りの方を覗いてみても、人っ子一人いない。

その誰もいない大通りの端を三匹は走って門の所まで行く。

そして町を覆う外壁が見えてきた。

「門って何処だ?」

「向こうだ向こう」

「あった。あれか」

外へ出れる門を見つけて、その開かれた扉から顔を出して見てみる。

「なんか並んでるね」

「何かやって来るんだろ」

「これだけ集めるってことは相当強いやつなんだろうな」

そう話していると、地平線の方から、

 

ドドドドドドドド!!!!

 

何やら大群が押し寄せてくるのが見えてきた。空を飛んでやって来るやつもある。

「おい、あれって」

「何?」

「いや、あの先頭切って飛んでくるの」

「んー?」

クリットはラオロンとキューラに言われて、真ん中を先頭切って飛んできているシルエットにジーっと目を凝らして見る。

段々と姿がハッキリとしてきて、それが顔見知りであることが分かる。

「ソウルさんだ!!」

ソウルっていうのは、三匹がいつも魔王城でよくお世話になった、魔王四天王の一人、黒龍族のドラゴンだ。

魔王四天王の中で一番のやり手と言われ、また面倒見もとてもよいドラゴンだったので、モンスターの中ではとても尊敬される魔物であった。

「って、ヤベエ!他にも四天王いるじゃん!」

「あれで四天王全員そろってるんじゃないか?」

「本当だ!」

「それにあのモンスターの量って」

「ああ、おそらく残った全勢力だろう」

「マジか!!」

「すげえ!!すげえ!!」

いなくなった仲間達にまた会えた喜びと、それに大勢で人間達に反撃をするという事態に興奮してしまう三匹。

三匹の中では、この町がものの一瞬で更地になる様子が浮かんでいる。

三匹は目の前に並んでる人間達に気づかれないように脇を通って、攻撃の来ない安全な位置に行き、様子を一傍する。

そして三匹はこれから始まるであろう我らが魔王軍の無双劇をワクワクしながら待っていると、

「んげ!あれ勇者じゃないか!?」

「あの前に出てきたやつか?」

「ちらっとしか見てないから分からん」

門の前で立ち塞がるように並んでいた人間達の中から、青い装甲を身につけた青年が一人前へ出てきた。

「何をする気だあいつ」

「さあ?」

「みんなの盾になろうとかそこらへんじゃないか?」

じっくり観察していると、目前まで迫ってきているモンスター達へ、勇者はゆっくりと剣を抜刀し、それをモンスターの大群の方へ向け、

 

「どーん!」

 

キュイイイーーーーー!!!!

 

「「「えーーーー!!!」」」

 

町を覆う一呑みしそうなほどの極太の光線を発生させた。

その光に、三匹が大好きだった先輩モンスター達が、仲の良かったモンスター達がどんどんが呑まれていく。

しばらくして光が止んだ後には、そこに焼け野原があるだけだった。

余りの事態に呆然と見ることしか出来ない三匹。

「‥‥‥‥‥あれ?気のせいかな。今、先輩達が蒸発したように見えたけど‥‥」

「ハッハッハ。何言ってんだよクリットぉー!」

「全くクリットはーー。そんなわけ―――」

 

「「「あったのかーーー!!」」」

 

「え!?ヤバイよ勇者!!ヤバイ過ぎるよ!!」

「あれだけの大群を一撃で消すなんて‥‥‥」

「あれが人類の頂点なのか‥‥‥‥」

仲間をやられたショックよりも、勇者の保有する力に驚く方に忙しいようだ。

「たまんねぇなおい‥‥‥」

「オレ、その言葉を聞くと何故か丸ハゲのお兄さんを思い浮かべる‥‥‥」

「‥‥‥なんか、一気に希望が潰えたな‥‥‥」

「「「はぁ‥‥‥」」」

ため息をついて、三匹でトボトボと人のいなくなった門の方へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

目の前で仲間達が蒸発するのを見た三匹は部屋に戻ってきた。

ラオロンはベットの上に座り、クリットとキューラは窓の側で寝そべって、ひたすらボーッとしている。

「‥‥‥なんだかなぁ‥‥‥もう生きる気力が無くなって来るよなー‥‥」

「‥‥‥俺達、これからどうなるのかなぁ‥‥‥」

「何言ってんだよ。まだモンスターが全滅した訳じゃないんだし。大丈夫だろ」

ネガティブなクリットとキューラをラオロンが励ます。

といっても、説得力はないが。

「あー、それよりもー‥‥あれだ。明日のご飯何とかしないと‥‥」

「結局一回で全部食べちゃったしね‥‥‥‥」

「お前らは食べ過ぎだ」

昨日の晩。せっかく取ってきた一日分の食糧をクリットとキューラは一回の食事で全部平らげてしまった。

「オレ達には盗るの向いてないね」

「原因はうるさいだけで、それ以外は良かったと思うけど」

「でも、当分は忍び込むとかしたくないな。疲れるし」

「じゃあどうすんのさ。俺達にはもう食糧がない、つまり後がないんだぞ」

「お前らのせいだろ」

「まーま。そこは気にせずに」

「するわ!!昨日僕はほとんど食べてないんだぞ!」

「でもオレンジ食べてたじゃん」

「それだけだよ!!」

と、そこへひらめき顔のクリットが口を挟む。

「ねえ、お金稼げばいいんじゃない?」

「お金?」

「そうそう。そうすりゃ飯にもありつけるってもんよ」

自信満々にクリットが言うが、それをキューラが否定する。

「お前、俺達モンスターだぞ?モンスター相手に取引なんか出来るわけないだろ。そもそも、どうやってお金稼ぐんだよ」

「これだよ」

そう言ってクリットは部屋のクローゼットに近寄り、中にある服の中から一枚選び、それをジャンプで取った。

クリットが取った服は、少し低めの男ならすっぽりと全身が隠れるほどの外套だった。

「どうすんのこれ?」

ラオロン隠れる分からず聞くが、

「‥‥‥‥そういうことか」

キューラはわかった様子だ。

「人間界のギルドとやらに入って、ハンターの登録をすると、お店何かでは割引してもらえるらしいぞ」

「えっと‥‥‥‥どういう意味?」

「「こういう意味だ!!」」

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