やはり俺が初音島でラブコメするのはまちがっている。 作:sun-sea-go
俺は脱兎の如く我が1年F組の教室へ入ると、すぐに自分の席に座り突っ伏してしまった。
お、俺は何を言ったんだ!?
いくら俺がノンケアピールしたかったからって、エロい本やDVDの隠し場所をゲロっちまうなんて……。
しかも結衣と雪姉に……。
ホント馬鹿!ばーかばーか!アホ!マヌケ!ホントマジで死んじゃえよ俺!
ぐぬぁあああぁぁあああっ!
心の中で絶叫していると、ポケットの中に仕舞ってあるスマホがブルブル震えだした。
どうせ密林さんからのメールだろうと放っておく、2、3回震えた後止まった。
と思ったら、また震え出した。
なんだよ……。と思いつつスマホを取り出すと、雪姉と結衣から各々メールが届いていた。
雪姉のメールを開く。
『昼休みに生徒会室へ来なさい。来ないときは、年内いっぱい結衣の手作りごはんを毎日食べさせてあげるわ』
……マジですか?
やっぱ、あんた天使じゃなくて悪魔ですよね……。
続けて結衣からのメールも開いてみる。
『ヒッキーなんで先にいっちゃうし!(>д<)/
教室まで一緒に行こうと思ってたのに‼ばかっ!(>_<)
放課後は絶対に一緒に帰るからね!( ̄^ ̄)』
相変わらず顔文字が多いな。
アホみたいだから止めれば良いのに。
あ、アホだったか……。
結衣の席をチラッと見てみると、奴はニコニコしながら俺を見ていた。
俺の席は一番校庭側の窓際、後ろから二番目の席で、結衣は一番廊下側の前から二番目の席のため、俺の方からだと結衣の席はわりと見易い位置だ。
どうやら結衣は、俺が脳内で悶絶しているうちに教室に入ってきたらしい。
俺は、二人に返信する。
『了解。死にたくないから生徒会室行くわ』
雪姉には、こんな感じか?
結衣には簡潔に……。
『いやだ。めんどくさい』
よし、上出来だ。
俺が二人にメールを送り結衣を見ると丁度俺のメールが届いたらしく、いそいそとスマホを弄りだした。
メールを確認すると、結衣は頬を膨らませながら俺を睨んでいたが、俺は気にせず机に突っ伏してしまう。
一緒に帰れるわけないだろ……。
「くぁ~……」
口を大きく開け、欠伸が出てきた。
……なんだろう?
やけに眠い……。
いや、理由は分かってるんだ。
今朝見た夢みたいな、自分の意識がハッキリあるリアルな夢を見ると、翌日は決まって睡魔に襲われる……。
今日は朝から、いろはさんやら結衣やら雪姉やら杉並先輩やらで、眠気を感じなかったが、落ち着くとヤバイ……。
あ……。この席、陽当たりが良いんだった。
気持ちいい……。先生が来るまで少し寝よ……。
俺はそのまま眠りに入ってしまった。
「……ッキー…………てばっ!」
あ?誰だよ……。
今、すっげー眠いんだから起こすなよ……。
「……きなさい。……幡」
ったく、うるせーな……。
無視だ無視。
誰かが俺の眠りを妨げようとしているが、俺はそんなに甘くないんだよ。
むにゅっと、軽く頬をつねられる。
「むにゅ~……。やめりょよ……結衣……」
どうせ、こんな悪戯紛いな起こし方するのは結衣だろうと思い抗議するが、眠すぎて口が上手く回らない。
抗議したのが項を成したのか、周りが静かになる。
よし。これで安眠でき……。
「痛っ!ぐぁああああっ!!」
ゆっくり寝られると思った時だった。
俺のアホ毛を、思いっきり誰かが引っ張り上げたのだ。
「あら、おはよう。八幡」
「ゆ、雪姉?!なんで……」
俺のアホ毛を慈悲もなく引っ張り上げていたのは、我らが生徒会長で俺の姉的存在の雪ノ下雪乃が微笑んでいた。
雪姉の目は、南極のペンギンも驚いて心臓麻痺を起こしそうな、冷たい瞳だったが……。
口元だけ笑顔って怖すぎでしょ……。
雪姉が怖すぎて目線を反らす。
雪姉の隣には、何だか顔を赤くしている結衣が恥ずかしそうにモジモジしていた。
周りのクラスメイト……と言うか、男子は俺を睨んでいた。
え?なんで俺睨まれてんの?
目を反らされてイラッときたのか、雪姉はさらに強くアホ毛を引っ張ってきた。
「痛って!いいから手を離せ!痛い!痛い!マジで痛いから!禿げる!禿げちゃう!!」
「あらそう?じゃあ、禿げてしまいなさい。約束を守らない八幡が悪いのよ?」
「……は?や、約束?」
「ホームルームの前に、メールしたわよね?」
「お、おう……。ついさっきだろ?」
「はぁ……。あなた、いつから寝ていたのかしら?」
雪姉は溜め息を吐くと、やっと手を離してくれた。
ヒリヒリする頭皮を撫でながら、若干涙目で答えた。
「2、3分前から……って、雪姉授業はいいのかよ?」
「はぁ~~~……」
今度は、さっきよりも長くて重い溜め息を吐く雪姉。
おい、何だ?
その憐れんだ顔は……。
そして雪姉は、そのまま右手をこめかみに持っていく。
「あ、あはは……」
結衣は何故か乾いた笑いを洩らす。
あ?俺、変なこと言ったか?
「八幡。その腐りきった目で、よぉ~くそこの時計を見なさい」
雪姉は黒板の上にある壁時計を指す。
その指を追って時計を見れば、
12:33。
「………………………………………あれ?」
2、3分前に寝たばかりだと思ってたのに、いつの間にか昼休みになっていた。
「あれ?じゃないでしょう……。あなた、午前中いっぱい寝ていたって事じゃない」
「ヒッキー、先生に注意されても全然起きなかったんだよ?」
「マジか……」
二人の顔を見ながら茫然としてしまう。
「まぁいいわ。どうせ徹夜でゲームでもしていたのでしょ?とにかく生徒会室へ行くわよ。お昼ご飯が食べられなくなるわ。お説教は学校が終わってからよ」
「……は、はい」
「え?お、お姉ちゃん、ヒッキーと食べるの?」
雪姉が俺達から離れて教室を出ようとすると、結衣が少し驚いた様子で雪姉に聞いてきた。
「ええ。あ、丁度いいわ。結衣も一緒に来て欲しいの」
「え?あたしも?」
「ええ。結衣にも関係あることだしね」
「あたしも?って、ああ~、今朝のこと?」
「そうよ。時間があまり無いの。二人とも、お弁当持って早く来てちょうだい」
俺と結衣は、弁当を持って雪姉の後ろを着いていく。
人が殆んどいない生徒会室近くまで来たが、三人とも特に会話もなくテクテクと生徒会室まで歩いていると、結衣が俺の方にスス~っと寄ってきた。
なんぞ?と思って結衣を見ると、顔を膨らませながら顔を赤くして俺を睨んでいた。
「……何だよ?」
「ヒッキーのせで、あたし恥ずかしかったんだからね?」
「は?」
いや、今日の俺はずっと寝ていたのだから、俺のせいで結衣が何かされたとか、あり得ないと思うんだが……。
「ヒッキーが先生に注意……てか、体罰?的な起こされ方する度に変な事言うからだし……」
結衣はそう言うと、顔を赤くしたまま俯いてしまったが、まったく身に覚えが無かった。
つーか、体罰的な起こされ方ってなんだよ?
そっちの方が気になるんだが?
俺が寝ている間に鞭でひっぱたかれたりしたの?
それをやられた俺は「あん。もっとぉ~」とか言っちゃったりしたの?
って、いくらなんでも鞭なんかでひっぱたかれたら飛び起きるわな……。
「変な事ってなんだよ?」
「さっきみたいに『やめりょよ……結衣ぃ~…』とか言ってたんじゃないかしら?」
俺と結衣の前を歩く雪姉が話しに入ってくる。
「は?んな恥ずかしすぎる事、寝惚けていても俺が言うわけ無いだろ」
「…………言ってたし」
「あ?」
「だから!授業中、先生がヒッキー起こす度に『止めろよ結衣ぃ~……』とか『結衣もう少し寝かせろ……』とか『雪姉ホント怖いわー……』とか『いろはさんマジあざとい……』とか言ってて、超恥ずかしかったんだからね!おかげでクラスの皆から、どんな関係なの?とか色々聞かれて大変だったんだから!」
「お、おう……。悪かったよ。とりあえず落ち着け。な?」
一気に捲し立て「はぁはぁ」言っちゃってる幼馴染みを両手で肩を掴み、落ち着かせる。
すると、いつの間にか俺の側まで来ていた雪姉が笑顔で聞いてくる。
「へぇ……。八幡は私を怖がっていたのね?私の何が怖いのかしら?」
いや、それだよ、それ。
その笑顔の裏にダークなオーラを感じさせるトコだよ。
などと俺は言えいので、しどろもどろになりながらも何とか応える。
「い、いや……。こ、コワクアリマセンコトヨ……」
バッチリ雪姉から顔を反らしながらも、片言で返事をした。
若干、変な日本語になってしまったが、それは雪姉が怖いから仕方ないよね?
うん、俺は悪くない。
「そう……。あ、結衣」
雪姉は俺の変事を聞くと、これまた凄く良い笑顔で結衣の方に顔を向ける。
「なに?」
「八幡が今夜から毎日、結衣の手作り料理を食べたいとさっき聞いたの。どう?作りたいかしら?」
は?え、いや、ちょっ……。
何言っちゃってんの?この馬鹿姉貴。
「え?ほ、ほんと!?」
結衣は、いきなりパァーっと明るくなり満面の笑顔を振り撒き出した。
「ええ、本当よ。私が結衣に嘘を言う筈ないじゃない」
いえ、大嘘ですから……。
それこそ寝言でも絶対に言わないから!
「おい雪姉!俺はそんなこと一言も……」
「あら、今朝の約束を守らなかったの誰かしら?守らなかった場合の約束もちゃんとしたわよ」
当然の罰でしょ?とでも言いたげなドヤ顔をする雪姉。
うぜぇ……。
「ヒッキー、食べてくれないの?」
本気で不安そうに、上目遣いで言ってくる結衣。
これが、いろはさんだったら「あざとい」の一言でおわるんだが、こいつの場合は『可愛いアピール』なんて考えてない。
大体こんな時は本気も本気。超大マジで不安がっていたりする。
するんだが……。
食いたくねぇーーー!!
「まさか、食べたくない……なんて思ってないわよね?誕生日が数ヵ月しか違わなくても、10年以上一緒に暮らしていた結衣お姉ちゃんの手料理よ?」
「あたし、ヒッキーに美味しい!って言ってもらえるように頑張るから!」
雪姉と結衣は、グイグイ俺に言い寄ってくる。
それに合わせて俺も後ろに下がると、廊下の壁際まで二人の圧力で押されてしまう。
「ちょっ、ちょっと待て!結衣だって毎日作るの大変だろ?だから……」
「大丈夫!あたし、ヒッキーが好きな食べ物知ってるから!ちゃんと凄く甘くて美味しいの作るから!」
ご飯だよね!?スイーツと一緒に米食うのかよ!まったく大丈夫じゃねぇ!!
壁を背に冷や汗ダラダラな俺は、震える足のせいで軽く腰を落としてしまう。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!何とか回避しないと!回避回避回避回避!
俺が脳内でテンパっていると、突然俺の左耳を結衣の右手が掠める。
ドン!と結衣の右手が壁に当たる音がした。
至近距離に結衣の顔が見える。
ドン!と、今度は俺の右耳を雪姉の左手が掠める。
こちらも至近距離で雪姉の顔が見えた。
だ、ダブル壁ドン……だと?
「ヒッキー……いいよね?」
「八幡……覚悟なさい?」
他人が聞いたら、間違いなく誤解されそうなセリフを言わないで!
ここ、ホント人通りが無くて助かった……。
「八幡。返事は?」
「ヒッキー……」
雪姉はニヤニヤしながら、結衣は目尻に涙を溜めながら顔を近付けてくる。
近い近い近い良い香り可愛いやっぱ近すぎっ!
こ、これは食わないといけない空気だよな……。
いや、目の前の美少女たちじゃないよ?結衣の手料理な?
「はぁ~……。わかったよ。付き合う」
溜め息と共に覚悟を決め、ガクッと肩を下ろしてしまう。
「やったーーー!あたし頑張るね!」
「ええ、私も出来るだけ手伝うわ。」
結衣は両手を上げ、はしゃいでいる。
雪姉は、それを見て優しく微笑んでいた。
俺はそんな二人を見て、帰りに胃薬を大量購入することを固く誓ったのだった。
なんやかんやあって、ようやく生徒会室にたどり着いた。
生徒会室の中は、俺達が普段使っている教室の半分ぐらいの広さで、クリスマスパーティー用のポスターだったり、何かのスケジュール表だったり、ペタペタ色々な物が貼ってある。
部屋の真ん中には、長机を二つくっ付けて並べられていて、椅子が三つずつ両サイドに並べられている。
奥にはホワイトボードがあり、窓際には教室でも使っている勉強机がぽつんと置かれていて、その上には30cmぐらいの大きさのパンダのパンさんが「ここは俺の場所だ」と言わんばかりにデンと鎮座していた。
相変わらず、あの凶悪な目付きのキャラクター大好きなんだな……。
「適当に座って頂戴」
雪姉がそう言うと、いつもの定位置なのか、入口のドアから見て右奥の席に座る。
俺と結衣は、対面の席に並んで腰を下ろした。
雪姉の正面が結衣で、隣に俺が座った。
「お昼を食べながらでいいから聞いて頂戴」
雪姉は持ってきた弁当を広げながら言う。
俺と結衣も持ってきた弁当を広げ、蓋をパカッと開けて「いただきます」と手を合わせて箸を持った。
「あら?結衣また八幡に作ってもらったのかしら?」
俺達の弁当の中身が同じだったのを見て、雪姉は言ったのだろう。
「えへへ。ヒッキーのお弁当美味しいから好きなんだぁ♪」
あの、そんな嬉しそうに言わないでくれません?
恥ずかしいっつーの!
「ま、まぁ、夕べの残り物とか冷食ばっかだけどな……」
「うん。でも、この唐揚げとか食べやすいサイズにカットしてくれてたり、あたしの好きな物がさりげなく入ってたり、いつもお昼が楽しみなんだぁ♪」
「へぇ、良かったわね。結衣」
「うん!」
どこか嬉しそうに微笑みかける雪姉と、幸せそうに唐揚げを頬張る結衣を見て、素直に嬉しくもあるのだが、妙に胸の辺りがむず痒くて仕方がないので、強引に話題を変える事にした。
「と、ところで話しって何だよ?やっぱ杉並先輩と板橋先輩の事か?」
「そうよ。……八幡、あなた杉並くんと付き合ってあげなさい」
キッと鋭い目で、平然と雪姉は言ってのけた。
「絶対に嫌だ。俺にそんな趣味は無い!」
腕を組み、ふんぞり返って宣言してやると、結衣もそれに続いた。
「そ、そうだよ!男の子同士で……つ、付き合うとか無いよ!」
よしよし。よく言ったぞ結衣。後で好物の桃缶をやろう。
今朝の「ありかも……」発言は取り消してやろう。
「……あなた達は何を想像しているのかしら?付き合えと言ったのは、杉並くん達の仲間に入って情報を生徒会にリークしてほしいと頼んでいるのよ?」
呆れた顔で俺と結衣の顔を見る雪姉。
「今朝の杉並くんだって、そんな意味で八幡を欲しいなんて言ってない筈だわ」
「え、じゃあ『盲点だったわ』って、あたしに言ってたのは……」
「そうよ。スパイを送り込んで情報を手に入れること。それで何で八幡と杉並くんが恋人になるって発想になるのかが不思議だわ」
お前の言い方に問題があるって分からんのか?この会長さんは……。
あと、杉並先輩もな。
「いや。それ以前に俺スパイなんか出来ないぞ?」
ぼっちのコミュニケーション能力は、かなり低いんだぜ?
「あっ!そうだよ!ヒッキー、あの変態さんのスパイやってる場合じゃないよ!ヒッキー主人公じゃん!」
結衣が立ち上がって何かよく分からん事を言ってきた。
「おい結衣。主人公って、なんの事だよ?」
てか、変態さんって杉並先輩の事か?
「ああ。ヒッキー寝てたから知らないのか。ヒッキーが寝ている間にロングホームルームがあって、平塚先生がいくらヒッキーを起こしても起きないから、なかなか決まらなかったクリスマスパーティーの催し物の人形劇の主人公を先生が強引に決めちゃってたんだ」
「…………」
一瞬、思考が停止してしまった……。
は?クラスで仲間外れに される事に定評のある、この比企谷八幡に人形劇の主役を張れと?
「いやいや!それ絶対に無理だから!俺に演技なんて無理だから!大体、劇って何やるかも知らされてないんだぞ?!」
「え、えっと……。クリスマスっぽくしたいからって……。ら、ラブロマンス?」
何故そこでお前が赤くなる?
「ぼっちの俺が、ラブロマンスの主役……だと?」
「う、うん」
しん。と静まり返る生徒会室。
恋人どころか、友達すらいない俺にラブロマンスの主役?
「ち、因みにヒロインは……あたし……になりました……へへへ」
結衣は照れ臭そうに頬を染めながら、自分のお団子頭を撫でている。
「いや、なんでお前喜んでんの?普通は嫌がるだろう……。相手は俺だぞ?」
「ヒッキーのせいだし……」
「は?」
「だから!ヒッキーが寝言で、あたしの名前出すから、その流れで平塚先生に強引に決められたの!『幼馴染みだし、丁度いいだろう』って!」
箸を俺の顔の前に突き出し、真っ赤な顔で結衣は抗議してきた。
「わ、悪かったよ。つか、箸をどかせ。怖ぇよ……」
「成る程そういう理由があるのね……」
今まで黙って聞いてた雪姉が、ボソッと呟いた。
何か考えている時には、必ずに指を顎に持っていく雪姉の癖だ。
う~ん。普段から雪姉には世話になってるからな。
夕飯作ってもらったり、洗濯してもらったりしてるし……。
手伝えるなら手伝いたいが、主役ということは台詞も大いに決まっているし、何よりパーティーまで後10日もない。
その上で、杉並先輩たちのスパイって、かなりハードだよな……。
あ、人形劇の方を断れば行けんじゃね?
平塚先生に理由を話せば、分かってくれそうだよな。
何より、人形劇とはいえ主役なんてやりたくない!
杉並先輩を相手してる方が気は楽だ。
結衣も相手が俺じゃない方がいいだろう。
「よし、先生に理由を話して、主役を断ってくる。杉並先輩の名前出せば、たぶん行けるだろうしな」
「え……」
言った瞬間、結衣の表情が曇ったが雪姉が遮るように言う。
「八幡、やっぱり貴方は人形劇の方に出なさい。少しはクラスメイトとのコミュニケーションを取った方がいいわ」
「は?!何でそうなるんだよ?杉並先輩たちは良いのかよ?」
「そっちは何とかするわ。代案も有ることだし」
「代案?」
「副会長を使って杉並くんたちに接触させるのよ。彼だとどうかと思ったのだけど、仕方ないわね」
副会長って、葉山先輩か……。
葉山隼人。
雪姉と同じ二年生で生徒会副会長の先輩だ。
イケメンで、勉強が出来て、スポーツが得意で、皆からの信頼も厚い。
そんなリア充のリア充、リア王葉山隼人が俺は嫌いだった。
あの爽やかヤクザ、絶体に雪姉を狙ってるに決まっている。
雪姉は何でか知らないが、葉山先輩には嫌悪感を抱いてるようだしな。
「大丈夫よ結衣。本当は貴女にも八幡と一緒に杉並くんたちのスパイをして欲しかったのだけど、そんな事になってたなら話しは別ね。応援するわ」
「お姉ちゃん……へへへ」
「お前、そんなにヒロインやりたかったの?」
「う、うん……。だって、今まで小学校からずっとヒッキーと同じクラスだったのに、学校でこういうの一緒にやったことなかったから……。いいかなって……」
俺は小学校でも中学校でも、嫌われ者だったからな……。
結衣とは学校では距離を置いていたのは事実だ。
雪姉の事も気になるが、結衣にこう言われたら頷くしかない。
結衣にも恩が山ほどあるし……。
「まぁ、雪姉と結衣がそれでいいなら、劇の方に出てもいいけどさ……」
結衣と雪姉は、お互いに顔をみあわせるとクスッと笑っていた。
それを見た俺は、なんだか納得いかない気分になり、残りの弁当と一緒に飲み込んだ。
Vol.4へ続く。