やあ、球磨川君。またまた懲りずに死んでしまったようだね。まったく君という奴はつくづく命を軽く扱ってくれるぜ。それが自分の命だろうと、他人の命だろうとおかまいなしに。
え?僕は別に死にたくて死んだ訳でもないのだし、球磨川君と同類にしないで欲しいものだ。輪ゴムで真っ二つとは、我ながら情けないがね。
さて、積もる話もあるにはあるが、語り明かすのはまた次の機会にしようか。
ん?それなら早く生き返らせてくれないかだって?ははは。自殺したも同然のくせに随分と勝手だな。おいおい、無視するなよ。この教室から出ようとしても無駄だぜ。ここで一つ、残念なお知らせだよ。君はもう生き返ることが出来ないんだ。おっと、いつものニヤけが引っ込んでしまったね。スキルを使っても無駄だぜ。正確には、君は別世界に転生することになってしまったようでね。うん、こればかりは僕ごときでは如何ともしがたい。何せ神のご登場と来たもんだ。本来であれば君は死んだ瞬間、女神の待つ転生の間にいくはずだったんだが。ホラ、今生の別れなんだし、お別れくらいは言わせてくれよ。どうにか君をこの教室に呼ぶことが出来たんだ、いわばサービスだよこれは。
次に君は女神の待つ転生の間に行く。そこから先はファンタジーな異世界で大冒険のはじまりだ。ふむ。せっかくこうして会えたんだし、サービスに更にサービスしてもバチは当たらないだろう。君のスキルをそっくりそのまま異世界に持っていけるようにしてあげたよ。
『
再び会える日が来ることを祈ってるぜ!
…………
………
女神の待つ、転生の間。先ほど安心院さんから聞かされた話はにわかには信じ難いものだったが、転生する本人、球磨川禊にとってその程度の非常識は日常茶飯事だ。
「迷える子羊よ、よくぞ参りました。」
周囲を見渡しても、椅子が二つ向かい合わせに置いてあるだけの何もない空間。半径10メートル程度は視認可能だが、それより先は暗闇にのまれている。
『えっと、どちら様?あ!もしかして君が女神様ってやつ?凄い!女神なんて初めて見たよ!』
球磨川に語りかけてきたのは、水色に輝く長い髪を持つ乙女。透き通るような声と、慈愛に満ちた微笑み。開幕直後からハイテンションな球磨川に、若干笑みが引きつったのは気のせいだろうか。
「え、えー、コホン。汝、球磨川禊。落ち着いて聞いて下さい。貴方は残念ながら死んでしまいました。」
『みたいだね。それで、転生するんでしょ?ファンタジーな異世界だっけ?ドラ○エとか、そんな感じ?わー、楽しみだなー!!エルフとかいる?金髪で耳が尖ってるような。そういえばエルフってどんなパンツをはいているのかな?興味津々で、たまらないよ!女神様、早く転生してはくれないかな。』
「ちょっとヤバい人が来ちゃったんですけど…!日本における死因もよくわからないし、既に何故かスキルも持っちゃってるし…。まあいいわ!貴方の言う通りよ。異世界に行って、魔王を倒すのが貴方の役目。せいぜい頑張ってちょうだい!私が転生した人材が魔王を倒せたら、結構評価上がるし!」
球磨川の態度につられてか、女神も素に戻っている。球磨川としてはどちらでも関係ないのだが。
「ホントは転生時にチートな能力や武器を特典にあげるんだけど、なんでか既にスキルを持ってるようね。じゃあ、そのスキルで頑張ってちょうだい。よくわからないけど、結構強力なスキルみたいだし。」
『おいおい、スキルを持ってるからって、元々くれるはずの特典はくれないのかい?女神って意外とケチなんだね』
「な、なんですって!?高貴なこの私を、事もあろうにケチ呼ばわりとは、信じられない程愚かねあんた!」
『ま、いいさ。そういった扱いには慣れっこだ。』
女神が右手を球磨川に向けて突き出すと、球磨川の足元に転移の魔法陣が現れた。
「もう、ペース乱されまくってテンション下がってきちゃったんですけど!いい?魔王を倒せば特別な恩恵を受けられるわ。せいぜい頑張りなさい!魔王討伐のあかつきには、女神アクア様への感謝を忘れないこと!」
人差し指を立てて、アクアなる女神が念押ししてくる。
『わかった!女神アクア様。君のことは、忘れるまで忘れないよ!』
「ちょっと!それ結局忘れてるんですけど!?」
女神が声を荒げる様を尻目に、球磨川の視界は魔法陣から出る光によって包み込まれた。
球磨川の姿が完全に消えた後、空間に残されたアクアは次なる転生者を迎える。
「なんだか意味不明な奴の次は、ヒキニートとはね。あーあ、女神様も楽じゃないわー。」