この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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十二話 主役を張れるって証明したい

  めぐみんの宣言通り、その日の晩餐はキャベツで彩られた。キャベツを追いかけて街までやってきた他のモンスターをめぐみんが爆裂魔法でキャベツごと一網打尽にしたり、ほとんどのキャベツが前方にしか飛ばない性質を持っていることに気がついた球磨川が螺子を投擲して意外にも次々仕留めていった。

 

  ダクネスは持ち前の固さでキャベツの攻撃を受け止め続けていたので、自慢のプレートは所々凹みが見られる。

 

『…すごく美味しいよ。空飛ぶキャベツ、僕の国にはなかった存在だ。』

「空飛ぶキャベツが無いだと?お前は一体どこの国出身なんだ。」

 

  ダクネスもキャベツの味に満足げで、笑顔でクリムゾンビアを豪快に流し込んでいる。

 

『僕は日本って国から来たんだよ。』

「にほん、ですか?授業でも聞いたことありませんね。凄く遠いんでしょうか。」

  めぐみんは紅魔の里にて学校へ通っていて地理も学んではいたものの、日本など聞いたことがない。

 

『そりゃそうだ。だって異世界なんだから。』

 

「はい?」

「……ん?」

 

  球磨川の出身国日本を二人が知らないのは当たり前だと球磨川は続ける。

 

『そもそも、この世界の地図には記載されてるわけがないんだから。僕は生前、こことは違う世界からやってきたんだよ。女神に転生させられて、ね。』

 

  あくまで雑談のつもりで話す球磨川とは裏腹に、めぐみんらは内心穏やかではいられない。異世界からやってきたと語る球磨川。冗談でしょ?と一笑にふすべき内容なのに、球磨川の服装は言われてみれば随分と変わってる。

  それから、空飛ぶキャベツも知らなかったこと。判断材料としては不十分だが、引っかかりにはなる。

 

「お前のそのヘンテコな格好、珍しいものだとは感じていたんだが…。いやいや、それでも!嘘だろう??」

  ダクネスが学ランに目をやりながらも、嘘であって欲しいと期待を込めて念押しした。

『やめてくれよダクネスちゃん。僕は生まれてこのかた、嘘をついたことなんて無いし、嘘をつくような奴は嫌いなんだからさ!』

「でもでも、ミソギの話をはいそうですかと受け止められるはず無いのです。異世界だなんて急に言われましても…」

「めぐみんに同じ。女神によって転生しただと?それは、女神エリス様のことなのか?」

 

  エリス教のダクネスには重要なポイント。球磨川の発言が事実ならば女神エリスと会ったことになる。嘘であれば、女神エリスの名を冗談に使用することを注意したい。

 

『エリスちゃんじゃない。僕を転生したのは、水の女神アクアさ!』

 

  水の女神アクア。【あの】アクシズ教徒に祀られている女神だ。そんな水の女神アクアなら、転生とかやってても不思議ではないと思えてしまう。アクアは悪く無いが、もうちょっと信者をどうにかしないと外聞は悪化の一途を辿る。

 

「ミソギの言葉が本当だとしたら、あなたは何の為にこの世界へ転生させられたのでしょう?」

  球磨川はどうにも、嘘をついてる感じがしない。鵜呑みにするわけでもないが…。水の女神が異世界からこの世界に人を転生させる意味とは。

 

  球磨川がテーブルに箸を置く。

 コップの中身を飲み干し喉を潤してから、目を細める。もったいぶられ、めぐみんはゴクリとのどを鳴らした。

 

  やがて球磨川が口を開け。

 

『…魔王討伐。これが、僕の最終目標だよ。めぐみんちゃん、ダクネスちゃん、だから魔王と戦う覚悟が無いのなら、僕には関わるべきじゃない。』

 

  魔王と戦う。大勢の冒険者を殺し、罪の無い人々を殺め、今も王都へ侵攻を繰り返す魔王軍。その頂点と戦うと。

  剣の一つも持たない男が、しかし目だけは本気で告げた。

 

「魔王ですか。大きく出ましたね。」

『そう?僕的には女神に言われて仕方なくって感じだよ。面倒で億劫でたまらない。でもさ、みんな魔王に困ってるでしょ?誰かが、やらなくちゃいけないんじゃないかな。』

 

  日本がどんな国かは想像も出来ないが、若くして命を落としたというのに、死後の安息は得られず。わざわざ異世界に転生させられて魔王討伐に向かわされるとは。あまりにも酷だ。

 

『僕は必ず目標を達成する。僕が例えやられ役でも。嫌われ者でも。魔王を倒せば、主役を張れるって証明になるでしょ?』

 

  …めぐみんは考えた。

  道のりは遥か遠く、険しい。

  一度肉体は滅び、精神は異世界を渡った。その先でもまた命をかけることが、果たして自分には可能なのか。

  わからない。仮定がそもそもぶっ飛んでるのだから。

  とはいえ。この少年は、命をかけた。女神など関係無い、己の意思で。女神に言われて仕方なくと言ったが、そんな人間に命をかけられるはずがないのだ。

 

「わかりました。私も付き合いましょう。我を差し置いて最強を名乗りしもの魔王。前々から気に入らなかったのです!」

  めぐみんが立ち上がり、いつものようにマントを翻した。どれだけの覚悟で決断したのか、脚は小刻みに震えている。

『めぐみんちゃん…』

「おっと、礼にはおよびません。私は私の為に魔王を倒すと決めたんですから。」

 

  ニヤリ。めぐみんの不敵な笑みは球磨川にさえ頼もしさを感じさせた。

 

『いや、キャベツ倒すのに爆裂魔法使ったでしょ?脚は大丈夫?』

「そうでした。」

  ベチャッと椅子に崩れ落ちた。

 

  「ミソギ。私もお前についていくぞ。魔王に辱めを受けるのは、女騎士の務めだからなっ!」

  ダクネスのブレないドM発言。球磨川に気を遣わせないよう敢えて狙ったらしく、ダクネスの額にひとすじの汗が垂れる。到底辱めを期待してるだけとは思えない。

 

『ダクネスちゃん…ありがとね。危なくなったら、僕の後ろにいればいいから。』

「馬鹿を言えっ!クルセイダーの私が隠れる真似出来るか!」

 

  ヘッポコでもドMでも、上級職につく二人だ。

『…頼もしいぜ。』

 

  カッコよくなくたって。強く正しくあれなくたって。不幸なままで魔王を倒したい。…球磨川の魔王討伐は、ここからがスタートだ。




括弧はついたままですが、球磨川くんは魔王討伐にやる気を出したようです。

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