例のキャベツクエストの報酬が支払われた事で、めぐみんは新しいマナタイトなる希少な素材で出来た杖を購入。ダクネスも凹んだ鎧に変わるおニューのメイルを仕立てご満悦。
一方で、球磨川が仕留めたキャベツは何の因果かあまり高い値打ちがつかず。二人と比較すると収入が少なかった。
『ついてないなー。どうして僕のキャベツだけ微妙な買取金額だったんだろ。』
魔王討伐も、具体的に何から手をつければいいのかわからなかったお三方。どの道現時点では力量も足りないのだし、だったら取り敢えずクエストをこなせばレベルも上がり、ひいてはいずれ魔王にも辿り着くのではと、問題を未来へ羽ばたき先送りしていた。
「そればかりは不運としか。ミソギの活躍は目を見張るものがありましたから。どうしたらあそこまで的確に弱点をつけるのか知りたいです。」
杖に頬ずりして幸福の真っ只中にいるめぐみんが、適当に球磨川を励ます。
『不運か。なら仕方ないね。めぐみんちゃんが杖を買えただけでも僕は本望だぜ。』
「期待してて下さい!この杖があれば鬼に金棒。更なる爆裂の境地へ至って見せましょう!」
『そりゃ楽しみだ。んじゃ、今日のクエストでも選びに行こっか!』
よしよしと、めぐみんの頭を撫でる。
「待ってくれ!私の新調した鎧については触れないのか!?」
ダクネスの鎧は、前のと比べて装飾が施されており確かに立派なことは立派だ。球磨川が横目でチラリと一瞥すると
『似合ってる似合ってる。』
「なんか私の扱いが雑じゃないか!?防御力がアップしたんだぞ!」
『まー、ダクネスちゃんの長所だけを伸ばし短所からは目をそらす姿勢は大好きなんだけどね。』
球磨川禊としては短所を補わないダクネスを抱きしめてやりたい程だ。
そうはいっても。人生に目標なんて無いと言い続けてきた男が、魔王を倒すことを目標にしたのだ。過負荷としての贔屓目だけでは、もう評価してやれない。一応めぐみんは爆裂魔法の威力を高め、決定力を上げた。引き換えダクネスは既に十二分な防御力を上げただけで、戦力そのものには変化は無し。
「うう…。たまには私だって褒めてもらいたい。」
頭を垂れるダクネス。
『なら実戦で証明してくれよ。それまでお預けさ。』
ダクネスの肩を、二回ほど叩く球磨川。その動作に勢いよく顔を上げたダクネスは
「わかった。お前が絶対私を褒めたくなるくらい、必死で頑張ろう。」
『ん!がんばれ。』
めぐみんを甘やかす球磨川に不満があるらしいダクネスは、いつに無くやる気に満ち満ちていた。
………………
………
ところがぎっちょん。ダクネスのやる気が空回りに終わる事態が発生した。
「おやおや?今日のクエスト掲示板は、なんだかいつもと違うのです。」
掲示板の前で首をかしげるめぐみん。ジャイアントトードやグレート・チキンをはじめ弱めの魔物討伐依頼が無くなっていたからだ。
「なにがおこっているんだ?」
めぐみんの頭上から掲示板を覗いたダクネスも、顎に手を当て思案した。ある依頼はブラックファングやマッドドラゴンの討伐、捕獲。名前からして強そうなモンスターの羅列に、ダクネスだけはホクホクして球磨川に期待の眼差し。
『いやいやナイナイ。それはナイ。』
いくら上級職が二人いても、手にあまる。負け戦なら百戦錬磨の球磨川も、初めから勝ち目がない戦いは好まない。【大嘘憑き】でなかったことにすれば勝利と呼んでもいいが、今必要な経験値がそれでは手に入らない。
モンスターを『なかったこと』にするのだから、経験値もまた『なかったこと』になる。カードの処理は討伐達成扱いなのでお金は手に入るが、受注の魅力は半減だ。
『つーか、どうしてこんなことに?ダクネスちゃんがキャベツ収穫祭の時見た掲示板には、普通に雑魚モンスター討伐依頼がわんさかあったわけだろ?』
「ああ。」
ダクネスは収穫祭の日に記憶を遡る。
「それな。魔王の幹部が街の近くに住み着いたから、らしいぜ。」
『ん?』
声の主はたびたび見かける少年、カズマだ。球磨川達の背後から、話を聞いて割り込んできた。
「おはようございます、カズマ。」
「お、おはよう。めぐみん…だったか?」
「いかにも。めぐみんですが?」
例えめぐみんの名前が花子でも梅子でも、出会って数日しか経っていない相手の名前を呼ぶのに疑問符がつくことは誰しもある。
だがそこは名前を弄られまくっためぐみん。自分の名前がカズマの疑問を招いたのでは?と疑心暗鬼状態。
「別に名前が変だとかは思ってねーから!」
「本当でしょうか?では何故、私が何を聞くまでも無く名前について弁明したのですか??」
カズマにグイグイ近づき、買ったばかりの杖をチラつかせる。
めぐみんが対面早々フラストレーションを溜めつつあるのを敏感に察知したカズマが、球磨川に助けを求めた。
「く、球磨川ぁ〜。」
球磨川が危険人物なのはカズマもわかってる。しかしながら、蓋を開ければ無償でスキルを一つ貰った事実は、カズマの球磨川への評価をそこそこ上げた。こうして助けを期待するくらいには。
『それでカズマちゃん。今の話をもう少し聞かせてくれるかな?』
ササッ。
球磨川が会話に混ざった途端、めぐみんは素早く球磨川の側へと戻った。
(このロリ娘…!!)
「ああ、いいよ。どうやらここ最近、魔王の幹部とやらが街の北の外れにある、古城に住み着いたらしい。」
口を歪ませつつも、カズマは衝撃的な情報を教えてくれた。
「なんだと!?カズマ、お前はどこでそれを?」
魔王の幹部。そんな化け物が駆け出しの街付近に存在してるだなんて。街の治安を守るべきダクネスには、頭痛の種だ。
「いや!俺も又聞きなんだけどさ。てなもんで、弱いモンスターは隠れたり逃げたりしたってわけ。」
『なるほどね。』
討伐依頼が少ないのは、必要がないから。魔王軍幹部がどのような思考でアクセル近辺に来たのだろう。よしんば攻められでもしたら、駆け出し冒険者しかいないアクセルなどひとたまりもない。
『ありがとね、カズマちゃん。』
「うん。しばらくは遠出しないほうがいいぞ、球磨川。」
『なんで?僕はこれから、その幹部さんに会いに行こうとしてたのに。』
せっかくしたカズマの忠告は球磨川の耳を右から左に抜けた。
「はひ?ミソギ、いまなんと。」
めぐみんは、アレだけ大事そうに抱えていた杖を床に落としてしまった。
『なにめぐみんちゃん。もしかして耳掃除サボってない?僕は、これから、魔王軍幹部に、会いにいく。』
「なんでですかっ!!?それはそれとして耳掃除はしてます。」
『魔王を倒すんだし、幹部如きに手こずってるわけにいかないでしょ?』
「…っ!でも無謀というか…」
いい返しが浮かばず、めぐみんが黙る。お前からも言ってやれとダクネスに目をやるが、
「私はミソギと同意見だ。避けては通れない道だしな。」
球磨川に賛同してしまった。
「本気か?球磨川。」
同じ時期に転生してきたカズマと球磨川に、能力の違いは幾分もない。はず。
『愚問だね。魔王軍幹部が向こうから来てくれたんだ。探す手間が省けたというもんさ。』
「いかに我が爆裂魔法でも、魔王軍幹部を相手取るのは厳しいと思うのです。もう少し鍛えてからでも…」
めぐみんは意見を変えない。聡明な彼女であるからこそ。
加えて、彼女は恐怖で全身を震わせている。まだ14歳の女の子だ。死ぬことの恐怖を克服出来るほうが異常とも言える。
『なら、めぐみんちゃんはここで待っててよ。いこう、ダクネスちゃん。』
「わかった。」
拒むものを無理矢理連れて行く考えは持ち合わせてないようで、球磨川はダクネスと二人だけでも向かう。
「あ…。待って…」
『確かに幹部ともなれば強いんだろうね。けど僕は勝てる見込みが無い戦はしない。それとめぐみんちゃん。これだけは教えておくよ。』
めぐみんは置いていかれそうになったことで、やはり付いて行こうと考え直していた。しかし、球磨川は意図してそれを遮る。
『戦いから逃げてる限り、【負け犬】にすらなれない。まずは負けてもいいから戦うこと。賢く無い行動だと貶されようと、【部外者】の言うことなんてほおっておけばいい。』
スタートラインにすら立たず、指を咥えて見てるだけで満足か?球磨川は幼い魔法使いの少女に問うた。魔王討伐に付き合うと決めた、君の覚悟はそんなものかと。
「…いきますよ。いきますとも。パーティーメンバー2人がいくんです。私が行かねば始まりませんっ!」
正論に詭弁で返され、口車に乗せられた。そんなこと、めぐみんも重々承知の上。不思議と、球磨川の言葉を聞いていくうちに全身の震えは治まった。ここまで言われて逃げてしまえば、二度と紅魔族随一の魔法の使い手は名乗れまい。プライドが許さない。
「お前ら…いいパーティーだな。」
球磨川達の言い合いを見守ってたカズマは、どこか呆然としている。
『でしょ?なんせ僕の仲間だからね。』
「よし。俺も、アクアと合流してお前達を追いかけるよ。」
『え?おい!カズマちゃん!!』
熱気に当てられたカズマは、一方的に喋り終えると同時、アクアを探しにギルドを飛び出していった。
「カズマ、あれもまた熱血漢なようだな。」
微笑ましげに見送るダクネス。
魔王軍と戦うなら、女神は大きな戦力になる。
『ようし。いい感じにメンバーも揃ったし、僕らは先に出発しよう。』
「はい。さしずめ今日は幹部爆裂記念日となりましょう!」
「魔王の辱めがどの程度か。幹部を物差しにして見極めてやる!」
三人はギルドを出て、街の門からフィールドに。そこからは北の方角を徒歩で目指す。
『…教えてやるよ、魔王軍幹部。始まりの街付近にきた以上、君は冒険者の門出を祝うかませ犬になるのが関の山だ。てね』
カズマさんが熱い男に…。
全開パーカー先輩もちょっと熱いですな。
デュラハンの人逃げて!