この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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十六話 主役は遅れてやってくる

  魔王軍幹部ベルディア。その称号に恥じない強さを見せつけた首無し騎士は、【却本作り】と爆裂魔法のコンビネーションによってこの世から消え去った。肉体は朽ち果て、魔力によってどうにか現界していたのか、爆裂魔法で生じた黒煙の中に黒い粒子が溶けていく。デーモンが力尽きた際にも同様の現象を目にしたことから、彼も恐らくそうだったのだろう。

 

「ダクネス!…しっかりしてくださいダクネス!こんなお別れなんて、許しませんよ。」

 

  此度の功労者めぐみんが、球磨川の肩に担がれたままぐったりしているダクネスに涙ながら呼びかける。傷口は右肩から左足の付け根まであり、とっくに血は流れ尽くした。顔から生気は感じられず、もう手遅れなんだと無理矢理に理解させられてしまう。

『ダクネスちゃん。僕なんかを守ってくれて、本当にありがとう。』

  球磨川が優しく丁寧に、ダクネスを地面に寝かせ、死してなお美しい顔をゆっくりと撫でた。

「ミソギ…どうにかならないのですか?ダクネスはもう、私達に笑いかけたり、叱ったりしてくれないの…?」

  もっと早くに爆裂魔法を使用していたらダクネスが命を落とすことは無かったかもしれない。屋内での戦闘だったことを加味して、魔法は使えずともせめて囮役になったりは出来たはずだ。溢れ出る自責の念に精神的に不安定なめぐみん。無意識に敬語も取れ、悲しみで嗚咽を漏らす。

『泣くことはない。僕のスキルなら、ダクネスちゃんを治せるから。』

  心の中では、もうダクネスの生存を諦めきっていためぐみん。なので球磨川が治せると告げたことをすぐには理解出来ない。誰の目から見ても、もうダクネスは死んでるのだから。

「それは本気で言ってますか?」

  ひょっとすると慰めてくれているのだろうか。死者を蘇らせるスキルを使える冒険者など見た事も聞いた事もない。いたずらに期待を煽る発言は、いかに慰めでもやめて欲しかった。

『モチのロンさ。こと回復や蘇生に関しては、僕が世界一だと思うよ。何せ因果を操るんだから。せっかくエリスちゃんには口止めをお願いしたんだけれど…。つくづく僕も甘くなったもんだ。後で言及されるのが容易に想像できるってもんだぜ。』

 

  球磨川がダクネスの額に右手を置く。それだけで、ダクネスの身体が修復された。呪文を唱えたり、魔力を練ることもなく。およそ予備動作と呼べるものは存在せず、ダクネスが回復した結果だけがそこにあった。

 

「信じ…られません!!」

『君が信じようが信じまいが、これでもう大丈夫。ちょっとしたら目覚めるよ。』

「奇跡です…!」

 

 肉体の損傷も、鎧の傷も、流れ出た血の跡も。全てにおいて、ベルディアと戦う前のダクネスの姿に戻った。顔の血色も良くなって、これならいつ目覚めてもおかしくない。

  確実に命を終えていたダクネスを蘇らせたのだ。もう、治癒や蘇生魔法の域を余裕で超えている。これを奇跡と言わず何と言う。

 

「ん…。ここは?」

  太陽の光が眩しいようで、ダクネスは目を半分程度開いた。上体を起こし、眠そうに自分の居場所を確認する。

「ダクネスうううぅ!よくも心配かけさせてくれましたね!よかった…!よかったよぉ…!」

「わわっ!めぐみん!?どうしたというんだ。」

 

  めぐみんがダクネスに抱きついて泣き噦り、ダクネスはよくわからないままめぐみんを慰める。

「もう二度と会えないかと思って…私、私…!」

  すっかり鼻声なめぐみんは、普段大人びている分余計に幼く見えた。

「そうだ!私はあのデュラハンに斬られたんだ!」

 倒れた球磨川を庇い、ベルディアに斬殺されたことを思い出した。丸腰の状態で情け容赦無く袈裟斬りにされ、守るべき仲間を守れなかったところまで記憶が蘇る。

「ん?傷が無い?」

  鎧や身体を触ってみても、斬られた痕跡は見当たらない。

「ミソギが全部治してくれたんです!ダクネスの傷も、鎧の亀裂も!」

 

  前にグレート・チキンをクリスと三人で討伐しに行った日も、球磨川がスキルで鎧を修理してくれた。あのスキルが人体にも有効だったのか、また別のスキルを使用したのか。どちらにしても命を救ってもらったことにかわりはない。

 

「世話をかけたな、ミソギ。こうして二人が無事ということは。デュラハンは…」

『倒したよ。めぐみんちゃんの爆裂魔法でね。僕はサポートしただけさ。』

「それは良かった…。私は、役目を果たしたのだな。」

 

  変態でも、ドMでも、残念系でも。

 

  武装してなくとも、ベルディアから仲間を守り通そうとした勇姿は、まさに騎士の鑑。

 

「最高にカッコ良かったぜ、ダクネス。」

 

  格好つけず、括弧つけず。自分達を守る為に命をかけた高潔な騎士を褒めた言葉は、果たして誰のものか。

 

 ……………

 ………

『これにて一件落着!さ、二人とも。家に帰るまでがクエストだからね。我らが故郷に帰ろうじゃないかっ!』

  めぐみんが落ち着くのを待って、球磨川が腰を上げた。地べたに座ったことで付着したお尻の砂をパンパンと手で払う。

「ミソギには感謝とか、そんなレベルにはとどまらないぐらい感謝してますよ。しかし、それはそれ。…ずっと気になっていたあなたのスキル、教えてもらう訳にはいきませんか?」

  ガシッと球磨川の手を掴んだめぐみんは、もう爆裂魔法による疲労が回復し、立ち上がることは出来たようだ。このまま良い話風にしめて有耶無耶にしてしまおうという球磨川の目論見は阻止された。

 

  ダクネスが殺されたあの時。めぐみんは頭に血が上って、半ば自分でも気づかないうちに爆裂魔法を詠唱し始めていた。憤怒の中にほんの数ミクロ残った自制心が屋内であることを思い出させ、詠唱を中断しかけた時に。床に寝たままの球磨川がハンドシグナルでオッケーサインを出したのを捉えた。

  だからこそ詠唱は継続したのだが、城を消すことで危険を取り除くとは。今度は驚愕のあまり詠唱が途切れかけたくらい信じられない光景だ。

  あの城がデュラハンの作り出した幻影の類と説明されたほうがまだ理解出きる。まあ、デュラハンも城が消えたことに驚いていたので、その可能性は低いだろう。

 

『だよねー。予想はしてたさ。僕が異世界から来たってことも話したんだし、スキルの説明くらいはしてもいいか。』

 

(何のことだかよくわからんが、ここは神妙な顔つきで聞いておこう。)

  性癖はさておき顔はとびきり美人なダクネスが真面目な顔をすれば、とりあえず話の腰を折ることはない。

 

『…【大嘘憑き】。あらゆるものを、なかったことにする。それが僕のスキルだよ!』

 

「「へ?」」

 

  ざくっとした説明。球磨川的にはちゃんと説明しているものの、めぐみん達には言葉が足りないらしい。

 

『因果に干渉して、ありとあらゆる【現実】を【虚構】にする力。それが僕の【過負荷(スキル)】さ。ダクネスちゃんの死も。鎧の傷も。ベルディアちゃんのお城も。みんなみーんな、なかったことにした。』

 

「……はぁ?」

 

  球磨川が言葉を足したところで女子二人の反応は変わらなかった。

 

『ダメだこりゃ☆まー慌てて理解しなくてもいいから。傷を癒せる。物を直せる。物体を消失させる。そんなスキルってこと。それだけを頭に入れて置いてくれれば充分だ。』

「「?」」

『や、うん。もういいや。今度説明書でも作ってあげるから、今日のとこは帰ろうってば。』

 

  首をかしげ、キョトンとしたままのめぐみんをおんぶして、球磨川はアクセル方面に歩き出す。その後をダクネスが神妙な顔つきのまま追いかけた。

 

 …ところで。

 

「あれぇー!?球磨川じゃん!無事だったか!…間に合った??いやホラ、アクアがさ、魔王軍幹部となんて戦わないってダダをこねたもんだから。」

「カズマこそ!どうして急にやる気になったのよっ!それに、球磨川さん、見てこれ。」

 

  遅れに遅れてやってきた、カズマとアクア。アクアは自分の首元を指差して

「高貴なこの私に首輪をつけて強引に連れてきたのよっ!?ひどいでしょ?ひどいわよね!?」

 

  泣きながら首輪をガチャガチャ外そうと頑張る水の女神。球磨川はらしくなく不機嫌そうにアクアを見て、かと思えば一気に表情を綻ばせ

『わーっ!凄くパンクなチョーカーだねっ。カズマちゃんがせっかくくれたプレゼントなんだから、本人の前でケチつけるのは最低だぞ、人として!大丈夫。あつらえたように似合ってて可愛いよ!』

「そんなわけないでしょ!!どうしてアンタら転生者は私を崇め、敬ってくれないのっ!深く傷ついたわ。謝って!今なら不問にしてあげるから謝って!!」

 

「どうやら、間に合わなかったみたいだな。ゴメン球磨川。」

 

  アクセルまでそのまま引き返すこととなったカズマ達。道中、アクアの首輪が外れることは無かった。

 

 ーアクセル近郊ー

 

『ふぅ。戦闘の後のおんぶは結構くるね。めぐみんちゃん太った?』

「なんとっ!?今、乙女に言ってはならないことを言いましたね!?太ったのではなく、成長したのです!」

 

  体重が増えたことを否定はしなかっためぐみん。

  おぶられながら、球磨川の背中をポカポカ殴って抗議する。

 

「ははは。ミソギはデリカシーがないな。どれ、私がかわってやろう。」

『そ?じゃあお願い。』

 

  球磨川より間違いなく筋力ステータスが高いダクネスに、ここは任せることにした。

 

「あ、だったら球磨川。アクアのコレ持っててくれ。ちょっとトイレ行ってくるから!」

『わかった。ここで待ってるよ。』

 

  アクアの首輪から伸びるリードらしきものを、球磨川に手渡すカズマ。我慢してたようで、ダッシュで茂みの中へ消えていった。

「ゴメンなさいね?うちのカズマは緊張感がなくて困るわ。」

  なんでかマダムっぽい口調でため息をつくアクア。いや、リードの番は必要ないとか主張すべきことがあると思いますが…

 

  不運といえば球磨川。球磨川といえば不運。カズマからリードを受け取って、トイレ待ち休憩をしてた一同に、三人の冒険者が近寄ってきた。

  アクセルからクエストに向かう途中だろうか。男一人に女二人。みんな顔が整った華やかなパーティーだ。

  中でも男はかなりイケメンの部類で、装備してる鎧もなんだか高そう。

 

  球磨川達をスルーして道を抜けようとしていた男は、ふとアクアに視線をむけ、目を全開に見開いた。

 

  挨拶の一つでもしようかと球磨川が考えていると、先頭を歩く男が正面までやってきて。

 

「お前っ!!!女神様になにしているんだ!!?」

『ん!?』

 

  イケメンはリードを球磨川の手から奪い取り、華麗な動作で破壊した。

 

 

 

 

 

 

 




勘違いナルシスト、ミツルギ見参!!

無駄な努力さえすることなく、特典によって地位と名声を得たミツルギに、球磨川くんはどのような対応をするのだろう。ミツルギくんの運命やいかに!?

次回『ミツルギ死す』
よろしくお願いします!!
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